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フードリンクレポート


車がマニュアルからオートマに切り替わったように、
電化厨房、外食でも浸透中。

2009.10.8
新店の厨房を、従来のガスか、新しい電気かで迷っている外食企業が多い。今回は、涼しくて、汚れが少なく、温度・時間管理がしやすいとされる、電気を使った電化厨房について、東京電力に聞いた。


業務用電化厨房が体験できる施設「Switch! Station Pro.有明」

衛生への関心の高まりから生まれた

 1996年7月、大阪府堺市で学校給食から、O157が子供達に集団感染する事件が起きた。患者数約8千人、死者も3名出した。カイワレが原因だと厚生省が発表し、カイワレ生産者が風評被害を受けたことを記憶している方も多いだろう。

 これを契機に、米国で開発されたHACCPが脚光を浴びた。製造工程から危害を起こす要因を管理する手法。時を同じくして、IH調理器の製品化が進み、しかも、バブル崩壊後の電気余りという事情も後押しして、各電力会社が電化厨房に力を入れ始めた。

 電化厨房の良さは、クール、クリーン、コントロールの3C。暑さ知らずの快適で安全・衛生的な厨房環境を実現でき、厨房スタッフの定着率を上げることができる。そして、水蒸気やCO2、ススなどの発生がなく、汚れが少ないため清掃が簡単。さらに、温度・時間を数値で管理でき、調理のマニュアル化を進めやすい。

 この3Cが食中毒防止にも繋がる。厨房内が涼しく快適なため菌が増えない、汚れが少ないので菌を付けない、温度・時間管理、芯温管理で菌を殺す。

 但し、シンプルなガス器具に比べて複雑なため、機器自体の価格が高い。メーカーにもよるが、約2〜5倍の高額となり、初期投資がかかる。その分、ランニング費用は、電力会社の用意する割引メニューを活用することで電気の方が割安となり、およそ3年以内で初期投資を回収できるようだ。


従来厨房での調理時の放射熱(チキンフリカッセ調理の最大負荷発生時)
(出展:厨房温熱環境の評価研究報告書・広島大学大学院工学研究科)


電化厨房調理時の放射熱(チキンフリカッセ調理の最大負荷発生時)
(出展:厨房温熱環境の評価研究報告書・広島大学大学院工学研究科)


大手外食、給食施設で導入

 地球温暖化が深刻化しCO2削減への関心が高まる中、厨房だけではなく、給湯・冷暖房も含めて使用するすべてのエネルギーを電気でまかないCO2排出量を減らそうという、オール電化が始まっている。特に、空気中の熱を利用するヒートポンプを活用した給湯システム「エコキュート」は、従来のプロパンガス給湯器に比べて、CO2排出量が6割近く減るという。

 O157食中毒の発生した学校給食で、まずオール電化が始まった。98年に岩手県水沢市(現・奥州市)で第1号が生まれた後、CO2削減の意識も高まり、2008年には日本全国で136施設がオール電化となった。オール電化ではなく、一部ガスの施設も含めると、大半が電化厨房を取り入れていると推測される。

 大手外食では、「松屋」「ジョナサン」「リンガーハット」などがオール電化を既に導入。デニーズは、消費電力やCO2排出量、水の使用量を徹底的に抑えたエコ・トライアル店として、09年7月に検見川店(千葉市)を開店させた。エコなだけでなく、外食チェーンのマニュアル調理にも向いている。

 東京電力では業務用電化厨房が体験できる施設「Switch! Station Pro.有明」をお台場に持つ。また、実際に電化厨房で施工された施設を顕彰するコンテスト「快適厨房コンテスト」を03年から毎年開催するなど普及活動にも力を入れている。


「Switch! Station Pro.有明」施設内。


「Switch! Station Pro.有明」には実演スペースもある。

「車がマニュアルからオートマに切り替わったように、厨房も調理が楽なオール電化に自然に切り替わっていく」と東京電力の宮島悟氏(法人営業部 都市エネルギーソリューション部 電化厨房推進グループ 課長)は断言する。

 様々なメリットが感じられる電気だが、初期投資の重さなどからその普及はまだ途上である。しかし、IH調理器(3kWタイプ)も、以前は定価で50万円したものが最近では定価20万円を下回る商品も販売されるなど電化厨房機器の価格ダウンは確実に進んでおり、今後の普及の鍵も価格ダウンにあるようだ。


「電化厨房ドットコム」

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年9月8日執筆


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