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本邦初、蒸気調理器「ケトル」で表現するアメリカンスープ
「ケトルキッチン」
(東京・麻布十番/スチーム料理)

第279回 2009年8月11日

100%ベジタブルの“美”がテーマのスープ、「EMERALD」。
「Kettle Kitchen(ケトルキッチン)」は、日本初の蒸気調理器「ケトル」を使ってスチーム調理をして、アメリカンテイストの具だくさんのスープをメインに提供する、個性的なレストランである。

 オープンは3月24日。オーナーシェフ川井太郎氏による初めての店だ。


入口。


入口直ぐにシャンデリア。


店内。

 川井氏はアメリカ西海岸、ロサンゼルス郊外オレンジ郡の生まれ。大阪でパティシエとして料理界のキャリアをスタートし、さらにバー、カフェ、ハンバーガーショップの立ち上げを経験。独立に際して、アメリカのレストランで食べたケトルで調理したスープの味が忘れられず、これをメインにしたスチーム料理専門店で勝負をかけた。麻布十番に出店したのは落ち着いた大人の顧客を狙いたかったことと、アメリカ人が食べて懐かしいと感じるような味なので、外国人の居住者が多い地区であることを考慮したという。

「ケトル」を日本語に直訳すると「やかん」だが、「ケトルキッチン」に導入されているものは、高圧をかけた150℃〜170℃のスチームを循環させて過熱する調理器具。アメリカ西海岸では主にシーフード専門店にあり、カキなどの海産物を蒸かすために置いてある。だからいわゆる「やかん」ではない。


蒸気調理器「ケトル」


調理風景。

 スープ調理にケトルを使う店はアメリカでもユニークであり、川井氏も独立する前に母に連れられて、とあるレストランに行くまでは、このやり方を知らなかったそうだ。

 ケトルを研究してみると、火がやわらかくて焦げない、1Lの水がわずか40秒で沸騰する迅速さ、といった調理器具としての素晴らしさが分かってきて、川井氏はますますケトルに惚れ込んでいったとのことだ。

 メニューは宝石の名前を付けた赤、透明、緑、茶色の4つのスープ(オール2900円)を中心に組み立てられている。本格的なスープを、注文を受けてからつくって提供するのが、この店のスタイルである。

「RUBY」はトマトベースの海鮮スープで、“海をまるごと食す”がコンセプト。アメリカの猟師町はイタリアからの移民が支配しているが、彼らの漁師料理「チョッピーノ」である。魚、貝などの海の幸を豪快にトマト味で野菜とともに煮込む、ブイヤベース風のスープだ。


「RUBY」

「CRYSTAL」は自家製コンビーフでダシを取ったあっさり塩味のスープで、“大地の恵みをまるごと食す”がコンセプト。野菜がたっぷり入った、透き通った感じのスープの家庭料理。


「CRYSTAL」

「EMERALD」は100%ベジタブルの“美”がテーマのスープ。ホウレンソウをベースとして豆の裏ごしを入れた、エメラルドグリーンの色はインパクトが抜群。いかにも体に良さそうな趣があり女性に人気が高い。


「EMERALD」

「GOLD」はアメリカ南部ルイジアナ州のケイジャン料理「ガンボ」であり、茶色い辛いスープだ。“アメリカの魂をそのまま届ける”がコンセプト。チキン、エビ、アンドゥイユという燻製のソーセージが味のベースになっている。


「GOLD」

 客単価は4000円ほど。顧客層は狙い通り30代〜40代の女性が中心となっている。また、外国人の来店も多い。

 スープが出来上がるまで20分ほどかかるので、その間顧客はビール「プレミアムモルツ」(650円)やグラスワイン(850円〜)を飲みながら、一品料理の前菜1、2品を、つまんで待つことになる。

 前菜は「トマトの香草びたし」、「アサリの酒蒸し」、「スペアリブ」などが人気で、価格帯は600円〜700円が中心だ。


「トマトの香草びたし」


「アサリの酒蒸し」


「スペアリブ」

 なお、ランチはスープをベースにしたリゾット3種が、サラダとドリンク付きで提供される(各1200円)。

「ケトル料理の起源は蒸気機関船で、過酷な仕事を強いられた労働者たちの料理です。彼らは燃料を炉に運ぶために雇われていました。船員が食糧確保のために釣りをして客室に魚を運んだ後で、甲板にこぼれ落ちた魚を拾ってきたり、お客さんの残飯をステンレスの板に乗せて、蒸気で温めてごった煮にして食べて鋭気を養っていました。アメリカの歴史を感じるソウルフードを、味わってもらいたいと思っています」と川井氏は気合十分だ。


オーナーシェフの川井太郎氏。

「ケトルキッチン」で提供されるスープは、基本的にアメリカの家庭料理であり、素朴で豪快である。それだけに、ニューヨークスタイルやカルフォルニア・キュイジーヌのような洗練されたものを想像すると裏切られるが、アメリカの郷土料理を表現する1つの方法として、新しい調理法と業態を開発したと言えるだろう。

 前例のない業態だけに、大衆に認知させるのが大変だが、大人の女性や在日アメリカ人、幼少期をアメリカで過ごした帰国子女から浸透を目指し、業態を確立してほしい。現にトレンドに強い情報誌からの取材も来るようになっており、ブレイクも近いかもしれない。


【ケトルキッチン】
住所 東京都港区元麻布3-11-3 パティオ麻布十番Ⅱ6階
電話番号 03-3746-6038
営業時間 ランチ  11:30〜14:00
ディナー 17:00〜23:00(L.O.22:30)
定休日 水曜
客席数 22席
客単価 4000円
目標月商 450万円
開店日 2009年3月24日
経営母体 川井太郎
※取材当時の情報です。変更されている可能性がありますので訪問される場合は、店舗にご確認下さい。
長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ)   2009年7月21日取材

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