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次に流行るお店

地域に根ざし、地元文化を大切にする、人情味溢れる居酒屋を目指す
「福徳茶屋」
(東京・日本橋/和風居酒屋)

第167回 2007年2月24日

「福徳茶屋」外観
 東京は日本橋では、古きよき文化を「残しながら、蘇らせながら、創っていく」という官民一体のプロジェクト、「日本橋再生計画」が進行中。その一環として06年12月、三井六号館ビル内に日本橋文化の発信拠点となる施設「室町 福徳塾」がオープンした。福徳塾は「平成の寺子屋」として機能し、定期的に開かれる文化・伝統を題材にしたセミナーの会場となる。

 この福徳塾に併設された飲食スペースが「福徳茶屋」だ。グランドオープンは07年の1月24日。名古屋、東京を中心に30店舗近い飲食店を展開する株式会社ゼットンが「日本橋再生計画」の趣旨に共感し、出店した。


店内


店内

 シンプルだが温かみのある、和テイスト満載の店内の一角には、1000年を超える歴史を持つ日本橋のシンボル、「福徳神社」が祀られた。店を訪れる人のみならず、神社の参拝だけが目的の人も気軽に立ち寄ることができる。席数はおよそ60席。約半数を占める座敷席は、福徳塾のセミナー会場にも流用される。厨房はオープンキッチンになっており、きびきびと動く料理人の熱気が伝わってくる。客層はオフィス街という場所柄を反映し、30〜40代のビジネスマンが中心。ただ、福徳神社の存在もあってか、ふらりと訪れる地元住民の姿も少なくない。

 早くも人気メニューとなりつつなる「福徳のおでん」は、元禄元年から続く日本橋の老舗、「日本橋神茂(にほんばしかんも)から仕入れる。玉子(180円)、さつま揚げ(200円)、焼きちくわ(210円)、がんも(230円)、大根(230円)など、おなじみの一品がリーズナブルな価格で楽しめる。神茂はかつて明治天皇、大正天皇、昭和天皇即位の際に「御蒲鉾」を納めたという名店。日本橋の住人ならば知らぬ者のない老舗のおでんを扱うあたり、地元の文化を大切にしようとする福徳茶屋の心意気が感じられる。


福徳のおでん(単品70円〜)


串かつ(2本・360円)

 福徳茶屋を運営する株式会社ゼットンの本拠地と言えば、きしめん、天むす、手羽先など、個性的な名物で知られる名古屋。ご当地の逸品を日本橋で大々的に紹介する思惑もあるのかと思えば、福徳茶屋のメニューの「名古屋色」は極端に抑え目。店長の福原照仁氏は、「あくまで日本橋の文化をベースに展開するお店ですから。地元の方々、日本橋を愛する方々に納得していただくのが大前提。奇をてらうのでなく、昔ながらの和の味を楽しんでいただきたいと思っています」と語る。

「板わさ」(380円)、「湯葉わさび」(620円)、築地・丸武から取り寄せる「厚焼き玉子」(600円)など、懐かしく心に染みるメニューの数々。江戸情緒を感じさせる一品料理の中に、あえて「名古屋的なもの」を探すとすれば、「串かつ」(360円)だろう。オリジナルの味噌、またはソースで食す逸品は、店長のおすすめメニューのひとつでもある。

 万人に愛される「シンプルでおいしいもの」(福原店長)を目指し、斬新な創作料理に走ることはないが、かけるひと手間、ひと工夫を惜しむことはない。その思想が反映された代表的なメニューが、人気デザートのひとつである「珈琲ゼリー」(500円)。一見、どこが珈琲なのかわからない真っ白なひと皿だが、昔ながらのビターなコーヒーゼリーの上に生クリームを敷き、その上にバニラアイスを載せ、さらに珈琲パウダーをまぶしたという手の込んだつくりになっている。


珈琲ゼリー(500円)

 ドリンク類については和風にとらわれず、多種多様なメニューがそろう。ビール、焼酎、日本酒のほか、20種類を超えるワイン、5種類のウイスキーも用意。また、厳選された5種の梅酒は、女性客に絶大な人気を誇る。ワインリストにはそれぞれのワインがどのような味わいなのかを示す表が添付され、客が自分の好みの一杯を探しやすくなるような工夫もなされている。今後はスタッフ教育を充実させ、料理に合う酒、酒に合う料理の提案をできるような体制作りを目標にするという。

 実はこの福徳茶屋、期間限定の店舗でもある。「日本橋再生計画」のプラン上、この地で店舗を展開するのは3年間の予定となっている。短い期間にどれだけ人々の印象に残り、気に入られる店舗に成長させられるか。福原店長をはじめとするスタッフは、常に試行錯誤を迫られる。「地元密着というスタンスを崩さず、あらゆる層のお客様に『居心地がいい』と思っていただけるよう、努力を続けます。良い雰囲気を作るには、ホールとキッチンのテンションが乖離しないようにすること、お客様とのコミュニケーションを円滑にすることが大切。スタッフ一同、もっとこの町の文化を知り、地元のみなさんとの付き合い方を考えて生きたいと思っています。また、飽きられないようにメニューを工夫したりすることも必要です。やるべきことは山ほどありますが、最終的には3年後、地元の方々に『ここだけは残して欲しい』と言っていただけるような店になっていければいいですね」。


日本橋のシンボル、「福徳神社」


【福徳茶屋】
住所 東京都中央区日本橋室町2-3-16 三井六号館1F
電話番号 03-6202-0599
営業時間 11:00〜23:00(LO)
定休日 日・祝
客席数 60席
客単価 4000円
経営母体 株式会社ゼットン
長浜淳之介 2007年2月15日取材

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