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漁師直送、食材商社が直営する通を唸らせる本格派炉端専門店
「ぼうずこんにゃく」
(東京・中目黒/漁師炉端)

第168回 2007年3月9日

なんといってもマンボウの腸(1串280円)
「ぼうずこんにゃく」は、今年1月12日にオープンした、全国の厳選した漁港、漁師より直送した新鮮な旬の魚介類を、東京に居ながらにして味わうことができる、魚好きな人のための“漁師炉端”の店だ。

 同店は系列に飲食店向けの食材総合商社、HBエージェントを有しており、そのHB社は全国49カ所の腕利きの漁師と直接交渉し、朝に港へ水揚げされた魚介類を、航空便にて直送し、その日のうちにメニューに並ぶシステムを整えている。

 HB社の市場を通さない独自の卸流通が確立しているため、漁師の目利きに適った良質の魚介類や、その地域でしか獲れないものを仕入れることができ、地元の人しか知らないような食べ方を研究して、メニューに採用するようなことも行えるのだという。

「きちんと血抜きをし、氷を直接当てないで冷やすなどというような、最高の鮮度を保てるように、漁師が船上で、瞬間的に処理した魚介類を仕入れています。当店では調理の担当者を“デザイナー”と呼んでいますが、“デザイナー”は鮨職人か、または割烹出身の職人を採用しています。最高の漁師が海で獲った天然の食材を、一流の“デザイナー”がその食材にふさわしい調理を施して、食に変わる。そういった店でありたいと思っています」と、同店を展開するヘンリーブロス コーポレーションの江嶋力社長は、決して気取った店ではないが、玄人好みの通の店を目標に、スタートした店であることを強調した。

 大衆的な炉端の店では、アルバイトが調理を行っているケースも多い。しかし、同店では客単価4500円とカジュアルダイニングの価格帯ながら、実績のある調理人を配して、火の使い方、刺身の切り方が難しい炉端の料理としての本質を追求し、顧客満足度の高い店づくりを目指している。

 フードのメニューは、90種類近くあって豊富だが、大半のメニューは週替わりまたは日替わりである。その日の潮の流れ、地方での呼び名、食べ方、産卵時期、天候などを加味した仕入れ状況によって、どんどん変わっていく。


ぼうず地魚盛り合わせ5点盛り(1380円)


大アナゴ白焼き(1280円)


クロソイ(1280円)

 炉端に使う魚介類は、刺身用しか使わないというように鮮度にこだわっているが、値段は全般に、「活タコ刺し」(680円)などと、品の値打ちにしては安めに設定されている。

 しかも、同店では板長をはじめとする“デザイナー”も漁港に赴き、漁師と仕入れに関する打ち合わせをするので、メニューの着想を漁師から得ることも多い。たとえば、「真ホッケの刺身」などは、函館まで“デザイナー”が行って、漁師と話をしなければ、思いもつかないようなメニューだったそうだ。

 ドリンクは魚料理に合う日本酒を中心にしているが、自家製の10数種類の果実酒(630円)にも力を入れている。

 内装は、エントランスで漁港の裏市場のような雰囲気を醸し出し、カウンターでは魚介類をずらりと並べて漁港のイメージを訴求、天井から釣り下がったライトは漁火をイメージするといったように、漁港を訪れたような感覚に浸れるように、空間を構成している。


エレベーター前


カウンターアイスベッド

 現状、1回転をやや切るくらいの入りだが、30歳以上の魚通の顧客が口コミで集まっており、リピーターが多い。漁業関係者が東京での会合に出席した際に立ち寄ることも多く、通好みの店としての認知度は高まりつつある。

 同店は派手な宣伝は控えており、じわじわと人気が上昇して、末永く繁盛店となっていければいいと考えている。まずは、無難なスタートと言えるだろう。

 江嶋社長は、起業を目指していた株式会社ちゃんと取締役だった兄を4年前に事故で失い、その遺志を継いで、大手広告代理店を脱サラして飲食業を起業。高輪に資金800万円で、フランス料理の店「ビストロ・ランジス」を開いた。そして半年後、銀座に寿司料亭「銀座・黒尊」をオープンと、順調に店舗を展開し始めていた。

 しかし、「銀座・黒尊」とほぼ同時期に、神田に出店したカレー専門店が失敗。2200万円の赤字を出し、10カ月で閉店。ついには、夜中にアルバイトをしながら社長業を続ける苦境に陥った。

 そうした時に、旅行でしばしば訪れていた高知県四万十川流域の方々から、「四万十川の幸の業務用卸販売をしないか?」とのお声を頂き、それを機に、3年前、全国の産地の魚介類を直接仕入れて卸販売という、魚の流通の新しい形を追求する、食材商社の立ち上げを決意した。

 その後、広告代理店時代の人脈を生かして、各地の漁協の青年部などに取引先を広げ、「ぼうずこんにゃく」の企画へとつながってきている。

「仕入、メニュー構成、サービス、“デザイナー”の生かし方、すべてにおいてこの店は過去の集大成です」と、江嶋社長はこの店にかける意気込みを語った。

 なお、店名の「ぼうずこんにゃく」はスズキ目エボシダイ科のボウズコンニャクという名称の魚に由来し、地引網でたまにしか水揚げされない希少な種である。一般の知名度は低いが、干物にして食べれば絶品で、魚通には知られている。


廣瀬浩一店長・市川哲久板長


【ぼうずこんにゃく】
住所 東京都目黒区上目黒1-22-4 中目黒勧業ビル5F
電話番号 03-3719-3225
営業時間 平日 18:00〜翌3:00(L.O.翌2:00、ドリンク翌2:30)
金土 18:00〜翌4:00(L.O.翌3:00、ドリンク翌3:30)
日曜 18:00〜23:00(L.O.22:00、ドリンク22:30)
定休日 無休
客席数 56席
客単価 3500〜4000円
経営母体 ヘンリーブロス コーポレーション
長浜淳之介 2007年2月21日取材

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