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野菜の豊かな食べ方を提案する農家直送の健康派レストラン
「農家の台所 くにたちファーム」
(東京・国立/野菜レストラン)

第172回 2007年4月13日

「農家の台所 くにたちファーム」エントランス

「農家の台所 くにたちファーム」は、「マネーの虎」こと元ソフト・オン・デマンド代表取締役社長の高橋がなり氏が同社を退職後、“農業改革”を理念に打ち出して立ち上げた新会社、国立ファームによる初の野菜レストラン。氏は東京郊外の国立市内にある農業体験学校、NPO法人畦道で農業に触れたのをきっかけに2006年より農業に参入している。

 オープンは今年1月30日。国立市中心部のJR国立駅と一橋大学の間に立地し、駅からも大学からも徒歩5分とかからずに行ける、交通至便な大学通り沿いのビルの3階にある。経営は国立ファームのレストラン部門子会社、株式会社天麺雅。

 なぜ、農業者がレストランなのかと違和感を持つ人もいるだろうが、高橋氏は日本の農業が発展しない原因は、「良いものづくりをしている人が、良い生活ができない仕組み」にあると考え、生産、流通、販売を一貫した企業体を構築することで、ものづくりをする人が正当な評価をされる会社にしたいと考えている。

 その第一歩として、良質な農作物がダイレクトに消費者に届けられる場所、あるいは消費者の声をダイレクトに吸い上げる場所として、レストランが設置された。近々、八百屋も立ち上げるべく準備が進んでいる。既にレストラン内でも野菜をはじめとする農作物や農産加工品が販売されている。

 同店を訪れて最初に驚くのは、エントランスに選挙ポスター風で張り出された、契約農家の方々の顔写真だ。消費者に対して誇りを持って、顔の見える野菜が提供されていることが、示されている。


選挙ポスターのように張り出された契約農家のポスター


座敷席


座敷席(個室)


農産品販売コーナー

 従来の農業では、生産物はJAを通して共同出荷され、何段階もの流通過程を経て消費者に届けられるので、自分のつくったものがどこでどのように最終的に使われているのかが、全く見えなくなっている。しかも流通サイドの都合で、同じ大きさの野菜を工業製品のように大量につくらなければならない。利幅も薄く、豊作になりすぎると市場価格が崩れ、せっかくつくったものを大量に廃棄するような構造になっている。

 国立ファームでは、農産物の流通を簡素化し、付加価値のあるものがきちんと、高く売れるような、新しい流通の仕組みを目指している。流通が必要以上に儲けてはいけないと、高橋氏は考えている。

 店内は昔の農家をイメージして古民家風になっており、中央に井戸サラダバーと、トロ箱と呼ばれる発泡スチロールの箱で育てた野菜が畑のように並べて展示されている。裏庭で取った野菜を、水場で洗ってそのまま食べるイメージが演出されている。

 奥には天ぷら専用のカウンターや、個室もあり、全部で85席ある。

 また、天ぷらカウンターと個室コーナーを分ける通路脇には、ベビーリーフが水耕栽培されており、年間1万500円を払えば、消費者がオーナーになれる。年に10回収穫できるが、目下このオーナー制度は完売と好調だ。

 店舗のデザインはベイリーフの前田太郎氏によるもので、盛りだくさんの内容を持つ実験的な店を、限られたスペースの中で巧くまとめており、同店の見所の1つだ。


ロト箱


オーナー制度を設けたベビーリーフの栽培

 シェフは、和食、洋食、中華とジャンルが異なる料理人がそろっており、季節の野菜を中心にしたさまざまな料理に対応できる体制になっている。メニューは、肉や魚を使ったものもあるが、どれも野菜を引き立たせる組み合わせになっている。

 野菜は、近隣の国立市、立川市、国分寺市の契約農家からのものもあれば、宅急便で遠方から取り寄せているものもある。全てが有機農法というわけではなく、無肥料栽培や無農薬・減農薬など栽培方法も様々だ。

 ランチは、前日の残った野菜を炒め物や煮物などにする「余り野菜の日替わりランチ」(880円)など7種類のセット及びコースがあり、プラス180円でコーヒーか紅茶が付くなど、リーズナブルに食事を楽しむことができる。

 全てのランチには、525円分の「井戸サラダバー」が付いており、約15種類の生野菜がバイキング形式で楽しめる。大きめのガラスのコップにスティック状に切った根菜や、ちぎった葉野菜などを盛っていくのだが、バーの前でスタッフが珍しい野菜について、どこで取れたどんな野菜かを解説してくれるので、何度も通ううちにうんちくが広がっていくのもうれしい。国分寺産の朝獲りウドや、ユキウルイという山菜の一種などの人気が高い。

 ちょっとぜいたくをしたい人は、2800円の天ぷらランチコース(コーヒーまたは紅茶付き)もある。

 同店に来れば、1回のランチで1日の野菜の必要量350グラムが摂取できるので、野菜不足になりがちな現代人にとって、ありがたい店である。

 ディナーは、1554円の焼きカレー御膳から、6804円のしゃぶしゃぶのコースまで、予算に応じて楽しめる。全ての御膳とコースには、「井戸サラダバー」が付いている。人気は「料理長直伝!ちゃんこ鍋コース」(3654円)、「和洋中のコラボ!世界の味わいコース」(5019円)の順という。

 また、ディナーでは、トロ箱の畑から収穫した野菜を、おひたしや蒸し物などにして食べることができ、“活魚”ならぬ、“活野菜”という、レストラン向けの新しい野菜流通までも視野に入れた、斬新な食べ方を提唱している(105円〜315円)。

 8種類の野菜と豆腐とくずきりからなる、「野菜のしゃぶしゃぶ」(1人前714円、2人前より)という温野菜メニューも名物の1つだ。
 ドリンクも、同店でしか飲めない、トマトコンソメ(トマトをジューサーにかけ、一晩かけて漉した透明部分)にルッコラジュースを加えた「新グリーンビタCジュース」(603円)のようなオリジナルの野菜ジュース、セロリとはっさくのジュースを焼酎で割った「香りサワー」(609円)のようなユニークなカクテルが各種ある。


アスパラのひらめ春巻き風(3個880円)


カップに取り分けた井戸サラダバー(525円)


中華風のうどと帆立のソテー青梅ソース(780円)


5種類の利きジュース

 現状の集客は昼1.5回転、夜1回転といったところだが、近隣の主婦を中心にかなり込み合っている印象だ。平日でも予約を入れたほうが無難なほどである。
 男女比は2対8で女性が多く、年齢層は20代から60代まで幅広く集客している。

 高橋氏はテレビ制作から実業界に入り、2つの事業を起こすが失敗。しかし、95年にソフト・オン・デマンドを設立して、参入したアダルトビデオ業界では、持ち前の企画力で数々のヒットを飛ばし、瞬く間に業界トップクラスの大手メーカーに育て上げた実績を持つ。

 その際、高橋氏は周囲と同じようなものをつくろうとする業界の体質を否定。かつさらに新しい流通ルートを構築することで成功した。自社で明るくて入りやすい直営店を出店して、セルビデオ店のモデルを提案まで行った。

 そして、国立ファームの試みは、アダルトビデオで行った、クリエーター重視の考え方と製販一貫体制の流通構築とを農業に応用しようとしたもので、ビジネスモデルとしては非常に練られたものだ。

 農業改革の一環として川下に位置する、「農家の台所 くにたちファーム」であるが、所得が比較的高めの割には財布の紐がかたい、国立界隈のマダムの心をつかんでいることからも、レストラン単独として考えても面白い存在だ。

 少し人件費がかかりすぎている面など、問題点はあるものの、地産地消のスローフードの流れや、都会の良さと田舎の良さを同時に満喫する“とかいなか”のライフスタイルといった提案が店づくりから読み取れ、高橋氏の意気込みが十分に伝わってくる。アンテナショップとしては上々の店である。


【農家の台所 くにたちファーム】
住所 東京都国立市東1-16-17 ポポロビル南館3F
電話番号 042-571-4831
営業時間 ランチ 平日  11:00〜15:00(L.O.14:00)
     土日祝 11:30〜15:00(L.O.14:00)
ディナー 17:00〜22:00(L.O.21:00)
定休日 不定休
客席数 85席
客単価 ランチ 1000円
ディナー5000円
経営母体 株式会社天麺雅(国立ファームグループ)
長浜淳之介 2007年3月28日取材

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