2000.2.5 |
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今月の特集『有機農産物が市場から消えるとき』(1/3)面
--大混乱女性に人気のオーガニックが消滅!?--
--有機栽培新基準スタート直前の動向と対策講座--
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1990年代に入り徐々に人気の盛り上がりを見せてきた有機食品。特に近年は第3次オーガニック・ブームといわれるほど、めざましい勢いでそのマーケットが膨らんできた。そして、「有機」は飲食店にとっても売れるブランドとなった。だが、この4月からの新表示基準制定により、その人気の「有機」ブランドが激減してしまうという。いったい「有機」市場はこれからどうなるのか? 新春第2弾の今回の特集では、21世紀の食として世界的に注目を集める「有機栽培農産物」の動向にスポットを当ててみた。
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売れる人気ブランド「有機」食品が市場から消える?
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「有機栽培」や「オーガニック」「無農薬」「減農薬」などの表示をスーパーや青果店で見かけることも、もう珍しくなくなった。東京都生活文化局の調べによると、有機農産物等を「日常的に」あるいは「ときどき」「たまに」購入している消費者を合わせると、すでに1993年の段階で半数以上にものぼっている。長年有機食品の流通に携わってきた業界大手の『大地を守る会』でも、この5年間で宅配の会員数が1万8百件も増加(98年度現在)。前年度と比較しても約3千5百件増というめざましい伸びを示している。そんな消費者の動向を受けて、ここ2〜3年でレストランや居酒屋など飲食業界でも有機食品を取り入れる店が急増。もはや、「有機」が人気ブランドとして市民権を勝ち得たことは誰の目にも明らかだろう。
ところが、その人気の有機食品の姿が今春から消えてしまう、という驚くべき噂が流れている。原因は、農水省の有機食品の表示に関する新基準制度。罰則あるこの制度がいよいよこの4月からスタートするのだ。いったい、新基準とはどんなものなのか? 本当に有機農産物は姿を消すのか?であれば、すでに有機農産物を導入している店、これから導入を予定している店々はどうすればいいのか?……新基準制度スタート直前の市場動向と、今後の対策について探っていこう。 |
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新基準制度スタート!「有機」の表示が4月から狭き門に
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同社の農業研修では、米、野菜、果物などさまざまな有機農産物の、田植えから収穫までいろいろな行程を体験できる。有機野菜等の宅配を依頼し会員になれば参加可能。詳細については下記事務局へ問い合わせを。 |
農水省が最初に「有機農産物等に係わる青果物等特別表示ガイドライン」を定めたのは93年。その後96年に改訂されたが、いずれもチェック機関がなく、表示は客観性・信頼性に欠けているとして効力を発揮しなかった。民間団体や地方自治体も独自の基準づくりを進めてはきたものの、消費者への認知度はいまひとつ。そんななか、日本の有機食品市場に参入したい欧米からの圧力が強まっていった。農水省は97年に慌ただしく「検査・認証」の検討を開始。99年のJAS(日本農林規格)法改正案に認証制度を盛り込み、通常国会に提出。この4月から施行されることとなった。
4月からは、農水省が認定する第三機関の検査・認証を受けたものでなければ「有機」とは表示できなくなる。また、それに背けば改善命令や罰金などの罰則が与えられる。
新基準は、国連のコーデックス委員会(合同食品規格委員会)が進める有機の国際基準に準じられた。その柱は以下の3つだ。
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有機農産物とは、3年間農薬や化学肥料を使わない土地で栽培したものに限る。 |
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加工食品は、有機農産物を95%以上含むものに限る。 |
3 |
遺伝子組み換え食品は含まれない。 |
これで、今まで混同されてきた減農薬や減化学肥料など「特別栽培農産物」は「有機」とは表示できなくなる。また、流通段階で化学合成資材が使われたり、輸入段階で化学薬などの薫蒸が行われたものも除外。同じ箱に入れられて有機農産物と通常の農産物との区別がつかなくなった場合は「有機」表示を取り消さなければならない。「有機」は、狭き門となったのだ。
ちなみに、減農薬や減科学肥料の特別栽培農産物に関しての表示基準はまだ決まっていない。『大地を守る会』の野田事務局長の予想では「制定にはまだ3年くらいはかかる」らしい。
さて、門が狭くなれば当然、くぐり抜ける食品の数は減るだろう。現在、「有機」と表示のある食品市場は千億〜2千億円程度に達するといわれている。だが、それが4月以降に80億〜百億円程度にダウンするのは必至。特に、有機農産物に関しては0・1%以下にまで激減してしまうというのが大方の予測だ。そうなれば「有機」の人気にもますます拍車がかかり、価格高騰を招く恐れもある。
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飲食店のスタンスは今までと変わらず新基準には対応しない
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都築正人店長。
インド料理出身なので、味付けもしっかり。「薄味の自然食のイメージで来られるお客様は最初はびっくりされますが、好評ですよ」 |
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細い階段を登った2階にある。立地はあまりよくないが、1階入り口の看板や料理写真でしっかりとアピール! |
しかし、意外にも現在、有機栽培農産物飲食店を導入している飲食店の反応はいたって冷静だ。
主に『大地を守る会』から食材を仕入れている自然食レストラン『TAO』のオーナー秋葉さんは、「大地さんの基準を信頼していますから、これまで通りのスタンスでいきます」と、坦々とした様子。ベジタリアン無国籍料理の店『ばしょう』の都築店長も、「店のスタンスは変わりませんが、有機の基準が厳しくなることでまがいものがなくなって、まじめに有機食材に取り組んでいる飲食店の評価が高まればいいですね」と、新基準制定にむしろ好意的だ。オーガニックレストラン『すみれ家
Sun Fare Masayo』の田村奈緒子店長も、ヒューマックスグループの富士汽船(株)が経営する『ベリーニトラットリア 渋谷店』の今川支配人も同様の意見。
「有機の認証を取る動きで進みます。ですがそれまでは、現在採用している日本フードサービス協会の、より現実的な基準に則っていくことになるでしょう」(広報/伊藤さん)と、新基準制度に対応する構えを示したのは、今回取材したなかでは、すかいらーくグループの『ジョナサン』だけだった。
ここで気になってくるのが、市場の有機農産物が激減してもビクともしないですむ、各店の、その「これまでのスタンス」というやつだ。具体的に見ていこう。
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「芭蕉幕の内・1800円」。中身は、野菜コロッケ、グルテンの唐揚げ、生春巻き、生野菜サラダ、煮物、漬物、味噌汁、ご飯(白米or玄米)。見た目もよく味もしっかりとしていて、地味な自然食のイメージをうれしく裏切ってくれる。ランチタイムは980円 |
東京都杉並区荻窪5-29-11
03-3392-3024
営業時間/11時30分〜14時30分
17時30分〜23時30分
定休日/日曜・祝日 客席数/24席
客単価/昼900円・夜2,000円 |
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自家農園で収穫した有機野菜を使うこともアンテナショップとしてのお客様へのメッセージ
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姉妹店のインド料理店『ナタラジ』。ランチタイムには、この看板に引かれてカレーバイキング目当てのサラリーマンや主婦らが行列。外国人客も多い |
『ばしょう』の場合、山梨県明野村にある自家農園で、無農薬・有機野菜を栽培している。そこで採れるのは店で使う野菜の約3割。残りは市場に出回る有機や慣行栽培の野菜で補う。「多いときは地元の生協に卸したりするくらい収穫できます。でも、天候に左右されたり、人手不足でちょっと収穫が遅れただけでもすぐダメになりますからね。まだまだ自家農園だけではまかないきれません」
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26席の店内はアジアンテイストの落ち着いた雰囲気。客層は20〜70代までと幅広い |
しかし、この自家農園のメリットは大きいという。「まず、自分たちが作るのだから本物の有機かどうかと疑う心配がいらない。それにコスト面で見ても、直接店へ運べば市場を介さない分、通常のルートで仕入れるよりも安く上げられます。そのうえ、よくできたときの本当においしい野菜の味をお客様やスタッフみんなで味わえるんですから」
同店では、野菜以外にも安全でおいしい食へのこだわりは強く、米は完全無農薬・有機栽培米を知人の農家から直接仕入れ。食用油は通常の3倍もする100%国産なたね油を、2倍の値段にまで値引いてもらい使用。こういった姿勢はお客様からの支持も高く、近隣の主婦やビジネスマン、外国人など、多くのリピーターを呼んでいるようだ。
「うちのような店はアンテナショップ的な役割も果たしていく必要がありますから、食に対するこうした姿勢を、メッセージとして発していきたいですね」 |
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