フードリンクレポート

アントレスト有村社長インタビュー
「『熱さと行動力』だけが私の強み」(後編)

03.10
「人の思い」を大切にする雰囲気が社内に充満していた。
有村社長

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1年間というのは修業期間としては短いように思いますが、どのように毎日を送ったんでしょうか。

有村
ワタミの渡辺社長の影響で、私も夢に日付を入れてるんですが、お世話になる前から「修業は1年間」と決めていました。1番早く成長できるのは、社長のそばにいることだと思って、社長の家に一緒に住んで、寝食を共にさせていただきました。当時は飲食のことは何も知りませんでしたが、とにかく店長になりたかったので、誰よりもチラシを配って、お店にお客様を呼ぶことから始めたんですが、最年少23才、入社から2ヶ月という社内最短記録で店長にして頂きました。それから10ヶ月、120席の店を売上などの数字も目標をクリアしながら運営することは、本当に勉強になりました。私の強みは、熱さと行動力しかなかったので、ただがむしゃらにやったというのが本音ですね。戦略とかはありません(笑)。

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「生意気な素人が入ってきた」というようなベテランとの軋轢はなかったんですか。

有村
全然ありませんでした。むしろ応援していただいた位です。面接の時にすでに会社の熱さをひしひしと感じたんですね、「人の思い」を大切にする雰囲気が社内に充満しているんです。この人のためだったら何でもやろう、というカリスマ性を持った社長でしたから、まわりの方達もみんな熱い方ばかり。私もみなさんに応援していただきました。たぶん、私は相当生意気だったと思うんですよ(笑)。入ったばかりなのに朝礼で店長よりも先に、「昨日は売上が○○円目標に足りなかったので、今日は▲人お客様をお連れします」とか具体的に言っちゃう(笑)。それでも、フォローしていただける会社というのはなかなかないと思います。

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そして1年経って独立起業された。

有村
京都から2人を呼んで起業しました。1店舗目の「さくらさく」は、資金も潤沢にあったわけではないので手作りの部分が多いんです。什器はかっぱ橋を歩いて値段も交渉も私たちが直接やりましたし、仕入れに関してもヒッチハイクで全国を回って仕入れ先を探しました。今でも車に乗せていただいた方が東京に来るとお店に寄っていただくなど、おつき合いが続いています。

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店長経験があるとは言え、スタートはスムーズでしたか。

有村
開店後一週間は厳しかったんですが、その後は順調でした。PRができなかったので、私たちは徹底的に街でチラシ配りをしました。オープン直後の三日間は大きな台風が来ていて誰もチラシを受け取ってくれなかったんですけど、晴れた四日目に5組みのお客様が「台風の中、一生懸命配ってたから」と来て頂きました。「さくらさく」は虎ノ門にあるんですが、新橋まで行ってお客様をタクシーで店までお連れしたりまでしました(笑)。「深夜にチラシ持って走り回ってるアイツらは誰だ?」っておかしな口コミが伝わる位に徹底してやりましたね。これまで、赤字を一度も出すことなくやってこれています。

レストラン業界のアントレプレナーをたくさん育てていきたい。

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虎ノ門はサラリーマンの街で味にも値段にも厳しい場所です。

有村
当初は料理人なしで、私たち3人でスタートする予定だったので、料理人がいなくても提供できるだけの厳選素材を用意していたんですが、もっと上を目指そうということで、一六堂で一緒だった料理人に急遽参加してもらいました。料理のクオリティーはかなり高くなっています。
それに「若いのにがんばってるね」とお客様が応援してくださったのは大きいですね。「若いのにクオリティーが高い」というのが支持された理由だと分析しています。

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2店目の「つみき」が神楽坂、3店目「いちりん」は新宿です。

有村
料理にもお酒にもこだわりをもった方が多い神楽坂では、「さくらさく」とは違った店づくりをしなければいけません。客単価4000円でどれだけ満足していただけるものを提供するかを試行錯誤しています。「いちりん」は新宿とはいっても繁華街からかなり離れた2等立地ですが、より上質で大人のお客様にしっかり支えられています。看板も出してないのでPRに関しては口コミだけですが、すでに採算ラインに乗ってます。

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3店舗とも業態は違いますね。

有村
物件ありきで、そこに業態を当てはめていくのが弊社のやり方です。先程も申し上げたように、弊社はレストラン業界のアントレプレナーを排出することを目的としていますから、「独立しやすい店づくり」が基本。まず償却が早いこと。例えば「いちりん」は保証金も含めた総開業費は700万円以下なので、早い回収が可能です。そういった物件を取得して、その立地に合った業態を当てて、独立したいという人材に任せて、将来的には独立してもらうというのが理想なんです。

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ほとんどの飲食店が深刻な人材不足ですが、志の高い人材となるとさらに少ないのでは。

有村
弊社では、1店目オープンの時に一度求人広告を出したきりなんです。アルバイトさんでも社員でも人にご紹介いただいたり、「働かせてください」とたくさん問合せをいただきますので、今は待っていただくような状況です。人に関しては本当に恵まれていると思います。

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2010年以降の人材ビジネスの基盤がすでにできてますね。

有村
例えば、弊社からスタッフを派遣するにしても、飲食店なら何でもいいという訳ではありません。レベルの高い飲食店から「レベルの高いスタッフを派遣して欲しい」と求められ、弊社は「レベルの高い飲食店で勉強させていただく」という図式が理想です。お互いに上を目指せるような関係でいたい。その他にも、経営的に行き詰まってしまった個人店の建て直しの相談も頂いてますが、業態開発のノウハウと、経験を積んだ店長を派遣するようなソリューションの提供が可能です。本当にやれること、やりたいことがたくさんあります。
ただ、2010年までは外食だけです。弊社の柱となる事業として、外食に集中します。そして日本を元気にしたいですね。

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ありがとうございました。これからの活躍に期待しています。

有村社長

有村 壮央(ありむらもりひさ)
1980年生まれ 京都府出身。
立教大学を中退後、株式会社一六堂での1年間の修業を経て、2004年11月に居酒屋「さくらさく」をオープンし起業、有限会社アントレストを立ち上げる。
2005年11月に神楽坂に居酒屋「つみき」を、2006年2月には新宿に「いちりん」を続けてオープンする。2006年は年商2億5000万円を目標にする。

インタビュアー 構成 横田茂 2006年3月10日