・1店舗を繁盛させたばかりのオーナーでも活用ができる
テレウェイヴグループのテレウェイヴリンクス(本社・東京都新宿区)では、「TEMPO NEXT(テンポネクスト)」という、飲食店向けの店舗出店支援システムを開発。昨年の4月より、本格的なサービスを開始している。
すでに20店を超える実績を積んでいるが、業態も、カフェ、居酒屋、もつ焼、焼肉店、無国籍料理、インド料理、イタリアン、バイキング等々とバラエティに富んでいる。類似のサービスと比べても、自由度が高いのが特徴であるようだ。
さて、この「TEMPO NEXT」とは、飲食店のオーナーとして店舗を成功させている人が、2店目以降の店を新しく出す場合に活用してもらって、多店舗化を支援するというものだ。
特に起業して1期の決算しかなく、1店舗を繁盛させたばかりのオーナーは、銀行からみれば信用がまだついておらず、新規融資を申し込んでも、まず相手にしてもらえない。しかし、「TEMPO NEXT」では、1店目が成功していれば、利用することができ、迅速な成長が可能なのである。
また、融資枠を持っているオーナーでも、それを使わずして出店できる。つまり、融資枠を温存したまま、新しく店が持てるメリットがあるのだ。
具体的にどのようなサービスになるのかというと、物件選定(立地診断・商圏調査)、内装デザイン(図面チェック・見積チェック)、内装・造作工事(現場立会い・見積チェック)、設備導入(機能チェック・見積チェック)、開店準備(設備類テストラン)、レセプション(オープン前販促)、IT支援(ホームページ作成管理・ASP売上管理)といった、出店に関するすべてが、パッケージになっている。
テレウェイヴリンクスのスタッフはオーナーの意向に沿って、立地選びから、投資、ハードまでを全てサポートし、全額を負担して、オーナーに貸す形になる。
オーナーは基本的に6年間、総投資額に料率を掛けた金額を、毎月72回の均等割りで、支払う。料率は、銀行で借りた場合の利率から見れば高いものの、同業他社に比べれば、安めに設定されている。
現状の総投資額は、平均で2500万円ほど、広さにして25坪〜30坪の店が多いという。
「物件契約する際の保証金や、内装・設備の業者に支払う金額は、すべて当社が立て替え、飲食店は6年で分割返済していくしくみということです」と、同社・開業支援サービス室課長代理の白鳥麻耶さん。
現在は、50社ほどがウェイティングしている状況で、反響は上々であるようだ。
・投機目的ではなく、飲食の好きな人に向けたパッケージ
テレウェイヴ本社
テレウェイヴは、1997年に設立した中小事業者向けにITインフラを提供する会社で、2003年にはジャスダックに上場している。2006年3月期連結ベースの売上高は203億2900万円、経常利益43億100万円、従業員1285人となっている。
小売業、工務店、飲食業、美容業など、業界ごとのソリューションを行っており、テレウェイヴリンクスという子会社は、そのうちの飲食業部門を担当している。
テレウェイヴリンクスの元々の主たるサービスは、販売促進用のホームページ作成で、個店、5店舗未満の小さな企業体向けに、月々3万円からというリーズナブルな価格設定で提供している。
ホームページ作成においては、検索エンジンの上位に表示されるように、SEO対策を取り、更新のフォローも行う。
そうした中で、飲食店の売り上げは、どうしても店の席数で決まってしまう面があるので、さらに個店、小企業が成長していくには、新店を出していく必要がある。そこで、既存店のオーナーが、新店を出店する時に、ITも含めて支援できないかと考え、「TEMPO NEXT」を考案したといった経緯がある。
「TEMPO NEXT」では、設計・施工の会社をオーナーが選べ、業態も指定していないので、こだわった店をつくりやすいと言える。
「オーナーシェフとか、板前だった方とか、生粋の料理人で独立された人たちにも、多く使っていただいています。個性のある面白い店を出したい人は、大歓迎ですね」と、同社・開業支援サービス室マネージャーの小田明さんは語る。
担当する小田さん(左)、白鳥さん
投資金額を抑えるために、極力、居抜きで出店することを勧めているが、オーナーの創意工夫で、思いも寄らなかったユニークな店で、集客も好調な店ができるケースも出てきたそうだ。
小田さんは、「投機を目的とするのでなく、実力があって、飲食が好きな人に使ってもらいたいです」と、同社の希望するターゲット像を持っている。
今後は、新店を出店するリスクを軽減するだけでなく、開業後のサポートにも注力していく方針。
POSでの売り上げデータをもとに、不振に陥った時の対策を考えたり、人的な支援、販促の支援、さらに店舗数が増えれば、共同の仕入れ、研修までを視野に入れている。
そればかりでなく、地方店が東京に進出する際の支援も行っていくほか、実力ある人の1店目を立ち上げる際の支援も手掛けたい意向がある。
また、業種的にも、飲食の枠を超えて、美容、クリニックなど、さまざまな業界パッケージをつくっていくのだという。
・おじいちゃんからモデルまで幅広く愛される、もつ焼店登場
実際に「TEMPO NEXT」を活用して、出店した例として、世田谷区三宿のもつ焼店「えびすさん」を訪問してみた。
「もつ焼 えびすさん」店頭
オーナーは、カレーうどんのチェーン「中川屋カレーうどん」7店を展開する、ダイネットの中川将法さん。「中川屋カレーうどん」は展開して5年目に入っているが、もつ焼きの店ははじめてである。
芸能人が多数住んでいて、おしゃれなレストランも多い三宿であるが、「えびすさん」はスタイリッシュとは正反対のベタな店。周辺では異彩を放っているが、同店の立地は、三宿といっても三宿交差点からは、かなり住宅街に入ったところにある。駅からも離れていて、会社帰りにちょっと一杯という店でもないように見える。
オーナーの中川さん
しかし、開店して1カ月が経って、特に宣伝しているわけでもないのに、1日平均で2回転するほど、人気が出ている。席は、1階がカウンター、2階が座敷になっていて、席数は30席くらいとなっている。
客単価が2700円〜2800円ほどと安く、もつ焼自体の味が良いという点が大きいのだが、立地に関しても中川さんは確信があったそうだ。
「僕はこのあたりで育ったんで、土地勘があるんですよ。地元の友達には、『いい所に店を出したな』と何人もにほめられましたし、よそに住んでる人にはわからないポイントがあるんです」と、集客が上がって当然との弁だ。
元は八百屋だった物件で、1階で商売をして、2階は住居になっていた。築50年くらいになる風呂無しの一軒家だが、壁や床を耐震補強して、飲食向けに改造した。経費は全部で1500万円〜1600万円くらいかかったという。
昭和20年代、30年代を思わせる、懐かしいポスターが張られ、特に2階は元の八百屋から譲り受けた柱時計やレジ、あるいはちゃぶ台が、タイムトリップしたような落ちついた空間をつくり出している。
1階
2階
新業態を新しく立ち上げようと、社内で会議をしていた時に、その時々の流行の業態や、いかにもおしゃれな店は、顧客も入っているのだが、5年後にも繁盛しているのか、疑問がわいてきた。
償却が終わった頃には内装を変えて、業態も変更して、ということを繰り返していると、労多くして儲けが少ない。
それなら、40年、50年、リニューアルしなくていい、昔ながらのベタな店をつくったほうがいいとなった。1階の内装も、ボードなどはいちばん安いものを使い、経費を抑えると同時に、敷居を低くして、顧客が入りやすいようにした。
「世の中は高齢化しているのに、年寄りが行けるような店は減っています。飲食は時代に逆行しているんですよ。ところが、ね。こういう店を出してみると、たまにモデルやってるようないい女が来るんですよ。車椅子に乗っている、よく来るおじいちゃんもいますし、顧客層は広いです」と、中川さんは自信を深めている。
顧客は、サラリーマン、学生、モデル、家族連れ、リタイアした高齢者等々、非常に幅が広く、大衆受けするのが強みである。
・金融テクを使わずとも新しいことにチャレンジができる
「えびすさん」の売りは毎朝、芝浦の食肉市場から直接仕入れてくる、新鮮なもつである。それをていねいな仕事で臭みをなくして提供している。
「ホルモン」は油が乗ってとろけるようなおいしさ、「もつ煮込み」は上品な塩味、「ガツ刺し」は豚の内臓を刺身で出せるのは素材が新鮮だからこそである。このあたりのメニューは、わざわざこの店に食べにいく価値が十分ある。
串焼きは1本130円くらいの値段で、毎日でも通えそうな設定である。「今後は焼き台を増やしたり、新しいメニューを開発したりして、店のブラッシュアップをはかっていきたい」と、中川さんは意欲的だ。
ガツ刺し
もつ煮込み
ホルモン焼き
ドミナント的に「えびすさん」を三宿周辺に数店つくり、「えびすさん」のあるあたりが将来“えびすさん通り”と呼ばれるようにないたいとの、壮大な構想まであるという。
ところで、中川さんが「TEMPO NEXT」と接点ができたのは、上野にあった「中川屋カレーうどん」の店を売りに出し、その時にテレウェイヴリンクスが買ったのが切っ掛けだったという。
その時に「TEMPO NEXT」のしくみを知った。これまではFCビジネスを指向してきたが、増資などの金融のテクニックを駆使せずとも、新しいことにチャレンジできるので、使ってみることにしたそうだ。
しかし、立地を見たときに、最初担当者は渋ったが、中川さんが尊敬してやまない、下北沢の串焼きの店「秀」に連れて行った。小さな店の外まで顧客があふれかえっているところから、路地を入った立地の悪い場所にあっても、強い商品力があれば繁盛店になるのだと納得させたといったエピソードもある。
カレーうどんの店とは似ても似つかない、新業態のもつ焼の店を、地元民ならともかく、一般的にはいい立地とは言えない場所にオープンさせるというようなチャレンジに、資金を注ぎ込んでオープンさせてしまうのが、「TEMPO NEXT」の面白さだ。
もちろん、背景には中川さんのキャリアと、事業計画の合理性があったわけだが、あり余るようなお金はなくても、アイデアがあって自信もある人は、このしくみを使ってみる手もあるのではないだろうか。
なお、「TEMPO NEXT」の商品名には、“次の店”に加えて、“テンポよく次
に進もう”といったニューアンスが込められている。
今まで店舗の支援というと、FCのような均一性を追求するものが主流だったが、個店の発想を大事にするシステムが現れたところに、時代の変化の兆しが見える。
取材・執筆 長浜淳之介 2006年7月7日