・飲食の世界に入ったきっかけは「デニーズ」のアルバイト。
男ばかりの3人兄弟で、私は末っ子。真ん中の兄と一緒に「デニーズ」で働いたのが飲食との出会いです。実は、母親が「デニーズ」でパートをしており、楽しそうだったんで同じ店でアルバイトとして働かせてもらいました。
当時、ファミレスが出始めの頃で人気だった。日本人がレストランに行ったことのない時代で、ナイフとフォークを使って食べられる店がファミレス以外になかった。
服部学園で調理の勉強をしました。真ん中の兄が先に入学していたので、後を追いかけた。今、その兄は洗足池にあるイタリアンの料理長をしています。
卒業後、横浜そごう「サファイア」、大田区御嶽山の戸建レストラン(今はない)恵比寿のフレンチ「あたごおる」、西麻布のイタリアン「ダノイ」、五反田のフレンチ「ヌキテバ」と有名シェフの店で働らかせていただきました。
「ダノイ」の小野シェフにはイタリアンの見せ方を、「ヌキテバ」の田辺シェフには魚の扱い方を学びました。
「房's」を展開する丸山商事に入社。ここでも兄が先に入社してました。
・「房's」は4店舗しかやらないと最初から決めていた。
初めて料理長になったのが「うまか房」2号店です。売上が上ったんで、社長から「ワインダイニングを作りたい。それに合うリーズナブルなメニューを作れないか」と言われました。誕生したのが、「房's」。渋谷の1号店の料理長になりました。
取材が凄かったですね。客単価3500円の中間価格帯の洋風居酒屋で、ワインの品揃えが100種類。他に無かった業態でしたから。新宿東口に2号店、銀座グリーンビルに3号店、西新宿に4号店と拡大していきました。
仕込みに手間を掛けよう、フレンチのクオリティーを出したいと。フォンドボーも店で作ってました。営業は夜だけなんですが、午前中から仕込み。多店舗化できないし、よそにも真似されない。差別化をポイントに置きました。
4号店の後、「路地」という「やきとん」の業態も作りました。豚肉と焼酎ブームの走りです。取材も多数受け、「東京カレンダー」の表紙にもなりました。
・プロデュースの仕事に目覚めた。
「房's」の総料理長までなって、この先どんな生き方があるのか考えました。食にはいつまでも携わっていたい。
総料理長はメニューを書くだけで終わっていた。枠を超えたかった。より多くの人に自分が考えた料理を食べてもらいたい。独立しようか悩んでいた時に、フーディーズの久保田社長からラブコールをもらいました。
フーディーズは、時の居酒屋「刻」などを直営、ライセンスで展開する店舗マネージメント事業と、業態開発や設計施工などを行うコンサルティング事業を行っています。
私は、業態開発でメニュー開発やオペレーションを担当しています。メニューの総合プロデューサーとして、レシピの精度を上げたり、他店と差別化するメニュー作りに取り組んでいます。
「フォアグラの串焼き カシスソース」 今回の食材の組み合わせは、有機食材仕入れ業者「なちゅらるあーと」より仕入れた北海道産の有機ジャガイモの食材の持つ旨みを、最大限に引き出すことがテーマで考案しました。 フランス料理で使用するフォアグラの調理を、東京でも数店でしか出されない炭焼きにして、その焼油がジャガイモの旨みと絶妙にマッチすることでこの料理を奏でることができました。 |
「とろーり炙りレバー刺し」 牛レバーは、やはり鮮度が命! 今回は、その新鮮なレバーを安定仕入れのルートが獲得できたことで実現しました。 レバーを炭で炙ることでより風味と旨みを出すことが出来ました。 塩には肉料理に相性が良いアンデスの秘宝といわれるピンク色の「ローズソルト」を使用し、有機栽培の玉ねぎと長ネギをあわせました。 口に入れるととろーりとした食感と口の中一杯に広がる癖のないやさしい甘さを堪能できます。 |
・「創作料理」や「オリジナル」はイカサマ。
1皿300円でも5000円でも、メニューの中に自分らしさを出す。フライドポテトや枝豆でも出し方にちょっとヒネリを加えます。
フレンチの技法とフレンチの考え方を使って作れば、どんなものでもフレンチです。例えば、マリネ。使うものが豆腐でもいい。醤油や味噌でマリネしてもいい。仕上げをヌーベル・キュイジーヌのようにすれば和テイストでもそれはフレンチです。
「創作料理」や「オリジナル」はイカサマっぽいイメージです。「無国籍」は何の技法も知らない人が無責任に作るもの。
フレンチ、イタリアン、和食を勉強し、その知識を持った上でメニューを作ります。
・パイの専門店をプロデュース。
「POP」といいます。渋谷区桜丘のグランドベルホテルの1、2階です。
ライスパイやサラダパイなど、パイのバリエーションを考えました。フレンチの技法を使っています。パイを器に見立てて使っています。
大田区御嶽山の戸建レストランの時に一緒に働いた遠藤さんは今、千葉で「アンファンルミエール」というケーキショップを経営しています。デザートを教わった方の中ではピカイチです。大きな影響を受けました。それが、パイに生きています。
・作った料理が自分らしくないと厭。
ありきたりが厭なんです。僕っぽさを出すんです。「こんな煮込みって荒井さんっぽいよね」、肉を焼いただけの料理でも、「荒井さんっぽいよね」と言われたい。
古い固定概念は捨てた方がいい。科学的に根拠のあるもの調理法以外は進化していけばいい。
新しい食材に興味があります。料理を作るのには2つの方法がある。1つは料理が先にありきで、そのために食材を探す。もう1つは、いい食材に出会って、それを生かす料理を探す。僕の場合は、8割がた後者。
新鮮な食材はいじらない。その中で自分を出すのは難しいですが。
有機野菜を生で出す店が多いですが、加工してもっと美味しいと言わせたい。
北海道のじゃがいもにフォアグラの串焼きを乗せた。炭でカリッと焼いたフォアグラの脂とホクホクのメイクイン、ピカイチの組合せです。
・メインは1皿の中に物語を。
全部の味が決まっているのは面白くない。濃い、しょっぱい、薄いが1つの皿の中にあった方が面白い。全部同じ味だと舌が続かない。味に差を付けると舌がバカにならず、飽きずにずっと食べられる。食感もそう。カリッ、パリッ、やわらかい、とろける。
1つの皿が同じ味だと「あれ、何食べたんだっけ」と素通りしてしまう。物語があると料理に気付いてくれる。先に食べたものと味が違うから。糖度、温度を変えていく。温かいものの中に、急に冷たいものが入っている。最後まで飽きずに食べさせることができる。
「黒ゴマラーメン」というのを作りました。見た目は、白のトンコツ。食べていくうちに中に仕込んだ黒ゴマのペーストが溶けていって、だんだん味が変わってくる。また、フォーの中に揚げワンタンを入れる。つるつる食べている時に、突然カリッとサプライズ。いい意味で裏切ってあげるとすごく印象に残る。
・メニュー名はシンプルに。
有機野菜とメニューにうたわずに「当たり前に使ってますよ」というのがスマート。逆に秘密みたいな感じで差別化できる。今さら有機ではない。
どこどこ産の豚は当たり前。「2000円の角煮」とシンプルに書いた方がいい。「何で2000円なの」と聞かれたら、「どこどこ産の豚を使っています」と答えた方がスマート。もし、書かなきゃいけない場合には、キャプションに小さく書く。
長いメニューの時代は終わった。スタッフとお客が話せる機会が作れ、コミュニケーションのきっかけになる。メニュー名に懲りすぎて、逆にチープになったり、本質からずれてくる。
・5年後に飲食の塾を作りたい。
現場で直ぐに使える料理人を作りたい。例えば、調理師専門学校では原価計算は素通り。また、働き出して初めて出会った食材がすごく多かった。学校では教えてくれなかった。
即戦力を育てる塾を作り、卒業生を自社にも他社にも紹介していきたい。
今はホールとキッチンが分かれており、うまく連携できていない。トータルで考えられる人材を育てたい。無愛想な料理人ではなく、接客できる料理人を生み出したい。
フーディーズ上場後に塾を作ります。そのために名前を売っとかないと生徒が来ない(笑)。
荒井 秀樹(あらい ひでき)
1968年1月14日生まれ。「あたごおる」「ダノイ」「ヌキテバ」など有名シェフの下で修行。ワインダイニング「房's」のスーパーバイザー兼 総料理長を経て、現在、株式会社フーディーズにて執行役員 業態開発部長の肩書きで、フードプロデューサーとして活躍中。
株式会社フーディーズ http://www.foodys.co.jp/
取材 安田正明 2006年7月20日