今回訪れたのは「CHANTO NEW YORK」店名でお分かりの通り「美食酒家 ちゃんと」。「橙々家」「Ken’s
Dining」など、幅広い業態展開で知られる株式会社ちゃんと(代表取締役社長
岡田賢一郎氏)が今年4月、同社50店舗目、しかも海外初進出となる店舗としてニューヨークにオープンしたレストランだ。
日本では“居酒屋”というイメージも強い「ちゃんと。」であるが、これまでとは全く違う新しい店にしたかったと岡田氏が語る通り、料理・インテリア・サービスにいたるまで日本の店舗とは異なるコンセプトで、カジュアルな雰囲気を残しつつもエレガントなダイニングになっている。
立地は、ヨーロッパスタイルのカフェやレストラン、ジャズクラブが多く、落ち着いた中にもお洒落な雰囲気が漂う、NYでも人気のエリア、ウェスト・ビレッジ。「出店地として、マンハッタンの中心で一番の繁華街であるミッド・タウンも候補にあがっていたのですが、地元に根ざした店にしたいという思いからこの街を選びました。」とエグゼクティブ・シェフの篠木清高氏。その狙い通り、店のコンセプトと街の雰囲気はマッチしているように感じられた。
客層も20代後半〜30代くらい。訪れたのは土曜の夜だったので、夫婦や恋人、親しい友達同士でディナーを楽しんでいた。夜9時過だったがメインダイニイングは8割程埋まっていただろうか、「半分くらいが日本人の方、残り半分が外国人の方ですね。」(マネージャー寺本氏)とのこと。早くも地元のニューヨーカーに受け入れられている様子が伺えた。
店は、中1階を含む3階建ての路面店。外から覗くと、ガラス張りのエントランスの奥に、スポットライトを効果的に使った店内が浮かび上がって、ふと足を止めたくなるような店構えになっている。
「ちゃんと・ニューヨーク」外観
中へ入るとまず、目に飛び込んでくるのが、野菜や果物が色鮮やかに並べられたオープンキッチン風のカウンター。そして、向かい側にはBARカウンター。その中ではスタッフが手際良く動いていて活気が感じられる。店内のインテリアは、黒と赤を基調にまとめられており、全体的には非常にシックで大人の雰囲気。
1階には、BARスペースの他、テーブル席も用意。
中1階は、小さなパーティースペースとしても使えそうな、20席強のテーブル席。
2階のダイニングルームには、アンティークの大きなクリスタルのシャンデリアが吊り下がり、天井も高く、その迫力に圧倒される。雰囲気も何ともゴージャス。
3階には、吹き抜けから2階のダイニングルームを見渡せる、奥まった隠れ家的スペースのテーブル席も。各フロアには、日本から持ち込んだという陶器のタイルがはめ込まれ、ジャパニーズ・テイストが随所に感じられる。
料理もジャパニーズ・テイストをうまく取り入れた、インターナショナル・キュージーヌ。「New
Yorkの日本のレストランにしては珍しく、食材は日本から取り寄せず全て地元で仕入れた食材を使い、オーガニックベジタブルなどにこだわっています。」と寺本氏。その食材にもこだわった料理は、$45のプリフィクスコース、または、アラカルトから選べる。
プリフィクスコースは、前菜(12品のうちから)1品、メイン(9品のうちから)1品、デザート(5品のうちから)1品の計3品。アラカルトは、前菜が$15前後、メインが$25前後、デザート$7前後と、価格的にはコースがお値打ちだが、アラカルトの大部分はプリフィクスコースのメニューと同じなので、アラカルトで自由に組み合わせを楽しむこともできる。
まず、驚かされたのはパンの代わりか、アミューズなのか、最初に出された野菜スティック。バーニャカウダ風に味噌ベースのオイルに付けていただく。
野菜スティック:ズッキーニ、セロリ、ラディッシュ、ニンジンと野菜は西洋風なのに、味噌風味というのがミスマッチで面白い。
前菜では、今やちゃんとを代表するシグニチャー料理、“King Of Kimchee(キムチの王様)”や鶏の手場先の骨を抜いた後に餃子のタネを詰めた、その名も“Tebagyo(テバギョー)”などユニークな料理が並ぶ。この日本色の強い2品は、意外にもニューヨーカーに人気とのこと。
“King Of Kimchee(キムチの王様)”:日本と同様、スタッフがその場でハサミを使って切り分けるサービスも。
“Tebagyo(テバギョー)”
メインは、ヒレカツやテンプラ、和歌山ラーメンといった日本料理をアレンジしたものから、サーロインステーキ、銀だらのソテー、フォアグラのテリヤキまで幅広いラインナップ。
“Sauteed Black kod served with Sake Kasu sauce (銀だらのソテー 酒粕ソース)
”
「アメリカでも定番な銀だらの西京焼きですが、ちゃんとでは非常に珍しく酒粕をソースとして使っています。酒粕を使うことによって、ヘビークリーム等を使わなくてもクリーミーに仕上がっているヘルシーなディッシュです。」と寺本氏。これがヘルシー志向の強いニューヨーカーに人気の秘密かもしれない。
「この他、“TERIYAKI FOIE GRAS(フォアグラのソテーレンコン饅頭添え) ”も人気があり、濃厚なフォアグラに蓮根を卸してこした饅頭(蓮根のみ使用)を添えています。レンコン饅頭の食感とクリーミーなフォアグラベストマッチング、ほんのり甘い照り焼きソースが人気の秘訣です。」とのこと。レンコンはこちらではまだ珍しい食材だけに、人気があるというのは興味深い。
デザートも柚子や胡麻、豆腐を使いながらも、チーズケーキやティラミスに仕上げるなど、うまく工夫されている。
“White Sesame Tiramisu(白胡麻のティラミス)”
ドリンクも多種多様。ワインはライト・ミディアム・フル・スパークリングと各10本前後用意されており、価格も$30〜240と幅広い。SAKE(日本酒)は、純米酒・吟醸・大吟醸・濁り・ユニークとカテゴリーごとにそれぞれ5〜6本ずつ。わかりやすく分類されているのが外国人にも選びやすいのではないか。もちろん、焼酎もあった。
注目すべきは、カクテル。日本酒や焼酎などを使ったオリジナルカクテルが多数あり、人気だ。
“Shiso Mojito(しそモヒート)”:ミントの代わりにしそを使用。
“Kome Kome”
デザート酒として楽しめる、甘く爽やかな日本酒。日本酒は、シャンパングラスでサーブされていた。
この他にも、「CHANTO NEW YORK」ならではの演出も見受けられた。
最初にテーブルにセッティングされているプレートには、味のある手書きで四字熟語が書かれており、それぞれ「千客万来」、「一心不乱」、「一生青春」など、NYにいる日本人なら思わず懐かしさと表現の面白さに微笑んでしまいそうな文字が躍っていた。日本人でなくても、この意味を思わず尋ねたくなるような見せ方で、スタッフとの話のきっかけにもなりそうだ。これらのプレートを始め、お皿は九谷焼や信楽焼を使っているところも演出が行き届いている。
プレートに書かれた手書き文字
また、メインの前、デザートの前にはそれぞれ、「シェフからのプレゼントです」と紹介される小さな1品が出てくるのも、ほっと和める嬉しいサービスだった。
“シェフからのプレゼント① しそロール”
“シェフからのプレゼント② ミルクのソルベとみかんのフォーム”
こういった演出や地元のニューヨーカーに人気のメニューを見てみると、決して「純日本風」ではなく、オリジナルは大切にしながらも、ジャパニーズ・テイストとして部分的にうまく取り入れたことが受け入れられている要因ではないかと思う。
料理にしても、インテリアにしても、洗練されたニューヨークスタイルに近いと言っても過言ではない中、それに日本ならでは繊細さや気配りや工夫が加わることで、日米融合の「ちゃんと」らしさが生まれている。
これだけ日本料理店が増え、SUSHI、SAKEが共通語になったニューヨークで、日本料理というだけでは、ニューヨーカーの注目を引くことはできない。これは、日本料理に限らず全ての国の料理に言えることかもしれない。あらゆる国の料理が集まるニューヨークだからこそ、ただその国の料理と言うだけではもはやブランドにはならず、ニューヨーカーのニーズに合っていることはもちろん、如何にその店らしさをアピールできるかがポイントになってくるはずだ。
立地といい、メニューやサービスの内容といい、ただのミーハーな日本料理レストランではないこだわりが伝わってきた「CHANTO
NEW YORK」 これから更にニューヨーカーに受け入れられ、浸透していくのかどうか、期待と共に注目したい。
取材に協力してくださった、マネージャーの寺本拓氏(右)、エグゼクティブ・
シェフの篠木清高氏(左)
【店舗情報】
「CHANTO NEW YORK」
住所:133 7th Avenue South(bet W10th & Charles St.)
New York,NY 10014
HP:http://www.chantonyc.com
TEL:212-(463)-8686