フードリンクレポート

お客の行きたいロードサイド店を作りたい。
株式会社まいど 代表取締役 井戸 実 

08.25
 老舗ステーキハウス「いわたき」の再生を引き受けた。ロードサイド物件に活路を見出し、ロードサイドのスターを目指す。弱冠28才の井戸氏にその足跡と夢を語ってもらった。外食企業家を目指す若者のお手本だ。


株式会社まいど 代表取締役 井戸実氏

昨年11月にステーキチェーン「いわたき」を引き受けた。

 埼玉・千葉・神奈川で展開しているステーキチェーン「いわたき」を経営していたある流通企業が破綻。店舗流通ネット株式会社が買い取りました。店の業績は良かったので運営を引き受けたんです。

 1029円のステーキが売りです。
「どん」や「フォルクス」では客単価は1000円台の後半になると思います。

 うちは、牛挽肉100%のハンバーグや、トップサーロインで、サラダバー、カレー、スープ、デザートが付いて1029円です。

「いわたき」は30年前に作られた業態で、地元の方々から愛され続けており価格を変えられません。昔から安いステーキの店なんです。

 親子3代で利用いただいているご家族も多数です。子供の頃に親に連れてこられた若い夫婦が、今度は自分の子供を連れてきてくれた場面に先日、出会いました。子供が「マンガで見たステーキだ」と言って喜んでくれたのがとても印象に残っています。

 歴史を守る、思い出を残すことがミッションなんです。何十年も続く店を作りたい。古くていいものを残して行きたい。

「いわたき」

ステーキメニュー



ロードサイドは競合が少ない。

 初期投資が1億円程度もかかり、資本がないと出来ない。だから、同じ屋号の店ばかり。ということは、競合が少ない。街場のビルインの店では投資が少なく個人でもできますが、競合が多い。

 ロードサイドの店舗は、行きたくて行っているお客はいません。私は、ロードサイドで行きたい店を作りたい。

 個人的にはサイゼリアが好き。あの価格で、あの内容は素晴らしい。圧倒的な差別化は価格です。それでも利益が出せているのが凄い。

 

小学校の卒業アルバムに「寿司屋の板前になりたい」

「ど根性カエル」のウメさんにあこがれてました。中卒で寿司屋の丁稚になりたかったんですが、親に反対され、高校を卒業してから「築地すし好」に入りました。

 当時「築地すし好」はまだ3店ほどでしたが、築地の交差点から電通の方にまで行列ができる人気店でした。20坪で月に2500万〜2700万円売ってました。もちろん、「美登里寿司」がコリドー街に進出する前です。

 人手が足りず他店から板前を集めており、2年でカウンターの中に入れました。結局3年働かせてもらいました。

 自分で寿司屋をやりたかったんですが、給料が16万円しかなく、お金がたまらず、とても独立できるような状況ではなかったです。

 

レインズで店舗開発。物件を求めて地下鉄の全部の駅で降りた。

スーツで仕事がしてみたかった。独立できそうにないんで、他の仕事もしてみようと株式会社レインズインターナショナルに入社。

 当時は、年に250店「牛角」などを出店していた時代。店舗開発担当として物件を探して、昼間に歩き回りました。夜は夜で出店候補の周辺の飲食店を視察です。

 プチ自慢は、営団地下鉄の全部の駅を降りたことがあることです。お陰さまで、今、物件情報が来ても場所を目に浮かべることができます。家賃の相場も分るようになりました。また、パソコンでエクセルが使えるようになり、事業計画書も得意になりました。


小林事務所で「こあん」を立ち上げ。

 加盟店開発セミナーに参加したところ、小林敬社長と出会い入社する事に。店舗開発をレインズで学んだので、次は商品開発・業態開発をしてみたいと思っていたんで入社。

 神田で立ち飲み居酒屋「こあん」を直営で立ち上げました。FCで2店展開していたんですが、直営がなかったんです。20坪の2フロアで、月商600万円とそこそこの実績。当った訳ではありませんが、失敗でも成功でもない感じですか。でも、開発のプロセスは大きな経験になりました。



自分の店を探すために、店舗流通ネットへ。

 そろそろ自分の店を持とうと思い、収入を得ながら探せる職と思い、店舗流通ネット株式会社(当時は、フューチャークリエイト)に入社しました。当時の社長、江藤さんに感銘を受けましたね。

 しばらくすると、良い物件が出ちゃった。在職しながら、個人でこっそり店を経営したりしてました。

 店舗流通ネットのコンサル部門が独立した株式会社ワイズフードシステムに移りました。沖縄居酒屋「ちんとんしゃん」を直営で横浜・関内に開店。「てっぺん」の大島さんに朝礼のしくみなどの人材育成オペレーションを作ってもらいました。

 ワイズ社と取引していた食肉卸のオオタニという会社があります。そこが、魚・野菜の卸として株式会社まいど という会社を立ち上げ、生鮮3品を一括で納入するビジネスを開始。ワイズ社は提携して、物件を紹介した店に一括して食材を納入。そのために私が、「まいど」の役員になりました。

 埼玉・千葉・神奈川で展開しているステーキチェーン「いわたき」を経営していたある流通企業が破綻。店舗流通ネットが買い取りました。店の業績は良かったので運営を引き受けたんです。

 6店舗で月の売上が、何と5千万円。今まで、卸として僅かながら機能していたまいどの売上が一気に増えたんです。当時私はワイズ社の役員も務めていたのですが、兼ねてより独立志向が強かった私は同社の吉川社長の支援もあり、まいどの経営権を持ち独立する事となりました。まいどは今期12月決算で売上高10億円の会社になります。


「いわたき」の新店は「けん」。

  実は「いわたき」の商標は肉のハナマサが持っています。私達としては地域で長く慕われている名前なだけに新店も「いわたき」のブランドを使いたいのですが、そう言った事情の為「いわたき」は残っている4店舗だけで、新店は全て店名を「けん」とすることに決めました。この「けん」の由来はハナマサの時代からステーキ業態をを引き継いでいる料理長の名前をいただきました。


「けん」改装前


「けん」改装後

 1号店は千葉県の南柏。40坪。元ジョリーパスタの居抜き物件です。改装費は1200万円程で出店出来ました。7月1日オープンで初月の売上は950万円を売上ました。当初600万円売れば充分収益が出る予算計画だったのですが、期待を大きく上回ってくれました。8月も800万円は超えるペースです。

 売値が安いんで原価率は40%を超えてしまいます。大手ファミレスは、30%を切ってますが。40%で利益が出る店作りをします。まずは、居抜き物件で初期投資を抑えることです。

 今年は「けん」をあと2店出店し、来期は6店の出店計画です。私のようなアーリーステージの飲食企業に出店のチャンスを与えてくれる、店舗流通ネットの仕組みはありがたいです。


一生勤められる外食企業を作る。

 外食業界の中で給与水準が最も高い会社を作りたい。店長が年収で7〜8百万貰え、一生勤められる会社を作りたい。


「博多水炊 ふくのかみ」(東京・五反田)を本年5月にオープン。

 営業利益率20%を確保しなければならない飲食店を作る気はありません。美味しくて、お値打ち価格である。その商品設定、価格訴求力を追求する為には原価は掛けなければなりません。だからといっていたずらに人件費の削減を要求する事もありません。お客様が満足する物を提供する。その結果が利益となって還ってくる。それだけを愚直に願っております。

 近年『飲食業』が『フードビジネス』となり産業としての地位が向上しているのを実感しています。でも敢えて当社は『食い物屋』で存在したいのです。その為にも貪欲に顧客満足度と従業員満足度の両方の向上に全力を尽くしたいと思います。

 10代の頃から起業本を読み漁り、会社を転々としてキャリアアップを続けてきました。ずっと、経営者だったらどうするという視点で仕事をしていました。

 5年で50億円の企業を目指します。若いから、失敗して自己破産してもサラリーマンに戻れる。35才まではリスクを取りに行きます。

 40才になったら、銀座に寿司屋を趣味で作りたいですね。10坪でカウンター8席。お世話になった方々を招待したい。いい店とは自分にとっていい店なんで、趣味でないと出来ないです。それが許される資産を40才までに作っておきたいです。




井戸 実(いど みのる)

1978年生まれ。レインズ、小林事務所、店舗流通ネットと渡り歩いて物件、メニュー開発、業態開発のノウハウを身に付け、28才で年商10億円の外食企業、株式会社まいどの代表取締役に。お客の行きたいロードサイド店で大手外食企業に挑んでいる。

株式会社まいど http://www.maido.bz/

取材 安田正明 2006年8月10日