フードリンクレポート

東京出身の外食企業は、食い倒れの町で勝負できるのか。

09.08
 高くておいしいのは当たり前。安くておいしく、量もあるのが大阪の食。と、食い倒れの町と呼ばれる大阪へ住む人は、胸を張って自慢する。確かに、大阪で繁盛している飲食店のメニューは、どれも安くてボリュームも十分である。東京進出を狙う関西飲食店オーナーの中には、「東京の店は高くてまずいし、量も少ない。サービスも気取っている。東京進出しても十分に勝算がある」と、自信をみせる人も多い。
 こうした状況の中、東京から関西へ進出してきた外食企業は、厳しい競争に勝ち抜くことはできるのであろうか。東京から大阪へ出店した外食企業でも、サービスレベルの高さに定評のある、スティルフーズとグローバルダイニングにスポットを当ててレポートした。


食い倒れの町で勝負できるか。

梅田への1号店出店で勝負する東京外食企業

 関西の飲食店は、確かに安くて旨い。肉の流通が発達しているだけあって、牛肉と鶏肉は特に良い。庶民的な価格の居酒屋であっても、全く臭みがない生肉が、手頃な値段で食べられる。

 加えてお酒の値段も安い。一般的な会社員が日常的に利用する飲食店で、生ビール中ジョッキで500円を超える店など滅多におめにかからない。どの飲食店でも必ずあるのは、生ビールであるが、関西のお客は、生ビール中ジョッキ1杯の価格で、その店のコストパフォーマンスを図るという。このため、生ビールに関しては、ある程度原価率が高くても仕方がないが、焼酎等で原価を合わせるという飲食店は多い。しかし、東京の飲食店ならば、生ビールがグラスで700〜800円という価格は珍しくない。大阪で生ビール中ジョッキがこの価格であったら、「このお店は高いお店だ」と、強く印象づけてしまう。

 東京の外食企業が大阪へ来店するメリットのひとつは、知名度の高さが上げられる。全国誌で飲食店が紹介される際は、東京の飲食店情報でほぼ占められるからだ。また、ビジネス上でも大阪と東京を往復する人は多く、学生時代を東京で過ごした人など、東京との繋がりを持つ人は数多い。

 現在はフロア拡張のために閉鎖されているが、2002年4月、梅田の阪急百貨店に開店した阪急ダイニングステージは、ピアノピアーノ、ポンテベッキオといった関西の人気店のほかに、クイーンアリスやユソーシ、アルポルトといった東京の人気店も出店し、大変な話題を集めたという。

 東京の外食企業は、1号店を梅田界隈の商業施設等に出店することが多く、施設そのものが注目されてメディアの掲載も多く、まずは開業景気で一気に認知度が高くなる。梅田界隈は百貨店での買い物、映画、観劇等の施設もあるので、こうしたレジャー目的のお客も取り込める。加えて、近くのクラブ街である北新地や、ビジネス街である堂島エリアは、軒並み飲食店は定休日で、土曜日、日曜日に、食事が取れないことも多い。しかし、商業施設であれば確実に空いているため、少々価格が高くてもゆっくりと食事が取れる店は貴重である。こうしたことからも、まずは梅田への出店という戦略は正しいと言える。

 関東人が、関西の飲食店で馴染みにくいのは、関西の常連を過剰に大切にするサービスだろう。常連客を大事にするのは確かに大切であるが、あまりにも差をつけられると、フリ客で訪問した際に非常に居心地が悪く感じることがある。飲食店では、一見客でも変わらないサービスが受けられ、つかず離れずのサービスであることが望まれる。こうしたサービスは、東京出身の外食企業がお得意とするジャンルだ。では、実際に東京出身の外食企業の料理やサービスは、関西で受け入れられているのだろうか。

 サービスレベルの高さで定評ある、スティルフーズのイル・ピノーロ、そして満を期して関西に登場した、グローバルダイニングのラ・ボエムの2店を取材した。



銀座店とほぼ同じ客層と利用動機の取り込みに成功したイルピノーロ

「イルピノーロ」店頭


「イルピノーロ」店内

 2004年10月のヒルトンプラザ・ウエストの開業と共に、イルピノーロを構えたスティルフーズ。実は、同社の関西進出の1号店は、イルピノーロ梅田店ではない。01年3月にグランドオープンしたユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)前のショッピングセンター、ユニバーサル・シティウォーク手前のビル内にカフェクラブを開店した経緯がある。

 東京ディズニーランド前では、待ち合わせ等でカフェをよく利用する。こうした需要が多いと想定して、カフェを開店したのであるが、この出店は大失敗であった。まずは、予想よりも車での来店が多かった。また、待ち合わせ等でのんびりお茶を飲んでから遊ぶ、というスタイルの利用客がほとんどおらず、お客は一目散にユニバーサル・シティウォークを通り抜けて、USJへ来園する。あまりにも来客が少ないために、店頭でクーポン等も配布して様子を見ることにした。コーヒー1杯50円引き、100円引き、150円・・・と少しずつ値引き率を大きくしていったが、効果があったのはコーヒー1杯無料チケットのみ。同社は早々に撤退を決めたという。「関西進出は2度と行わないと考えていました」と、同社代表取締役の鈴木成和氏は当時を振り返る。


( 株) スティルフーズ 代表取締役 鈴木成和氏

 ほどなくして、ヒルトンプラザ・ウエストの開業に当たり、鈴木氏はヒルトンプラザの建築主である吉本ビルディングの社長より出店依頼を受けた。過去の失敗から、出店を見合わせていたという鈴木氏であるが、1年がかりで説得されて出店を決意。ヒルトンプラザ・ウエストはファッションもイタリアの一流ブランドの出店が確定しており、吉本ビルディング側でも東京のスタイリッシュなイタリアンの出店を強く望んでいた。出店に当たっては、東京から数人のスタッフを配属する予定であったため、ある程度の規模の店で年間2億程度の売り上げが見込めることが条件であった。

 吉本ビルディングからの1年間に渡る説得により、鈴木氏は出店を決意。店舗は、あくまでも東京出身のイタリアンであることを全面に打ち出し、内装もシンプルでシックなものとし、開店にあたっては、東京から5人のスタッフを送り込んだ。

 鈴木氏は、数多くの商業施設への出店から、半年間は開業景気で行列ができるが、それ以降に安定した売り上げを保つのが、本来の勝負だと考えたという。ヒルトンウエストへの出店は、予想以上の売り上げであり、開店当時は連日長打の列。90坪の店舗規模で月商4000万円を売った。

「開店当初は、まずは客席回転率を上げるために、メニュー数は抑えました。メニューが選べない不満よりも、提供時間が遅いほうが、お客が離れてしまうと感じました」(鈴木氏)

 やがて、開業景気が落ち着き始めてから、リピート客を飽きさせないように、少しずつメニュー数を増やしていった。その後、一時期は月商2000万円程度に落ち込んだ時期もあったが、現在は月商2500〜2700万円と売り上げが安定してきたという。

「開店当初の夜の客単価が6000〜7000円くらいだったのですが、現在は1万円くらいに安定してきました。そもそもイルピノーロは、男性ビジネス利用や外国人に向けた業態で、客層も弊社の狙い通りに推移したためだと思います」と鈴木氏。

 前菜とパスタでお酒をほとんど飲まないお客から、メインディッシュまでオーダーし、ワインもしっかりと頂くという本来のイルピノーロの利用の仕方が増えたためだ、鈴木氏は語る。現在の客層は、昼は贅沢なランチを食べる婦人層、夜は梅田界隈のビジネス利用をメインとして、周辺ホテルの宿泊客。また、海外の一流ブランドを備えたヒルトンプラザには、本国からのスタッフが訪れることもある。こうした外国人利用客も少しずつ増えている。東京からの出張、転勤族の利用も多く、イルピノーロブランドの安心感で利用するお客も多いようだ。もちろん、同伴客も来店する。イルピノーロ銀座店とほぼ同じ客層と利用動機を取り込んでいる。

「ビジネス利用客には、家族連れや女性客のみのテーブル近くの席では、非常に居心地が悪い。このために、サービスは、最初にお客様を通す席を考慮するところから始まるのです」という鈴木氏。

 同店は、その日の予約状況によって、パーティーションなどを利用したり、半個室に仕立てたり、分煙スペースの大小にも気を使う。また、カップルの場合は、男性があまり他のカップルの女性客に目が行かないようにするなど、細かく気を使っているのだ。ちなみに、接待ではなく同伴需要の際は、8時までに食事を終了できるように食事のスピードを早めに提供している。なるほど、こうした細かい配慮がビジネス利用においては快適である。

「今後は、常連客を逃さないように、よりきめの細かいサービスや料理においても
ブラッシュアップしていきたいと考えています」と、鈴木氏は語る。現在、同社は
天満橋にカジュアルレストラン業態のOLI、そごう心斎橋にイルピノーロ レヴィータ
を出店。これまでつちかったノウハウを最大限に活かして、店舗を運営していく予定だ。


<DATA>
イルピノーロ 梅田店
住所:大阪市北区梅田2-2-2 ヒルトンプラザウエスト5階
TEL:06-6342-0080
営業時間: ランチタイム  11:00〜15:00(L.O)
      ディナータイム 17:00〜22:00(L.O)
土日祝日のみティータイム  15:00〜17:00
店舗規模:99坪103席
開店日:2004年10月5日
月商:2700万円
客単価:昼3500円 夜10,000円
経営母体:( 株) スティルフーズ 
http://www.stillfoods.com/


 

関西ホスピタリティ精神を存分に活かしたサービスを提供する、カフェ ラ・ボエム


「ラ・ボエム」店内


「ラ・ボエム」オープンキッチン

 数多くのラブコールがあったと噂されながら、満を期して大阪進出を果たしたのが、グローバルダイニング。06年7月、茶屋町にカフェ ラ・ボエムと、モンスーンカフェを同時オープンした。取材前、筆者はこっそりと開店したばかりのラ・ボエムに来店。

 まずは場所がわかりにくかったので、店に電話で確認したところ、スタッフはまず名前を名乗り、丁寧にわかりやすく説明して頂いたので、無事に到着することができた。関西ではファミリーレストラン以外で、分煙されている店はまだまだ少ないが、同店ではきちんと分煙されていた。テーブルへの案内では、段差のある場所では、声かけがあったため、危なげなく着席。料理も熱いものは取り皿も熱くして、冷たい料理は取り皿も冷たいものが提供される。ディナータイムで客単価2500円という価格帯のレストランでは珍しいサービスである。グローバル精神は健在といったところだ。

「以前から主要都市での出店を考えておりまして、物件を探しておりました。今回、回遊性を持つ梅田・大阪駅からも近く、線路からも店内の灯りが見えるロケーションと条件に合う物件が見つかりましたので、開店に至りました」と、語るのはカフェ ラ・ボエム店長の宮澤康一氏。


ラ・ボエム店長の宮澤康一氏

 開店にあたって6月終わりにアルバイトスタッフの求人広告を出稿したが、採用人数の6〜7倍の応募があったという。スタッフの中には、東京へ遊びに行った際にラ・ボエムやモンスーンカフェを利用したことがある人や、別の外食企業で勤務していたが、グローバルダイニングで成長したいと考える人など様々であるが、非常にモチベーションが高く、ホスピタリティ精神が溢れるスタッフが集まったという。現在、店を開店して約1カ月という短い期間であるが、「スタッフがとても気持ちが良い」と、お客にほめられることが多いという。
 
 現在は、開店直後のため、少しずつブラッシュアップを重ねて同店らしさを打ち出しているようだ。例えば、開店当初は、前菜、パスタ、ピザ、サラダ、デザートといった構成で、メインディッシュを提供していなかったが、8月18日よりローストチキンやポークケチャップなどのメイン料理をオンメニューした。また、ドリンクメニューの見直しを図り、一部は価格を値下げ。8月25日からは深夜時間帯の営業をスタートさせた現在のところ、夜お茶目的や同業者の視察など、東京でラ・ボエムを利用していた人の来店が多いという。

「大阪のお客様は、東京のお客様に比べると、シビアに店に対する意見を伝える人が多いですね。それから、例えばわからないメニューは頼みません。今後は、メニューに関しても写真を掲載してわかりやすくするなどの工夫が必要でしょう。ポーションに関しては、サラダやピザなどの分量が多いといわれました。タパスのように単価が安く、いろいろ食べられる方がいいのかもしれません。今後は、こうした点も少しずつ改善していく予定です」と、宮澤氏。今後は、カフェ ラ・ボエムの知名度アップを図り、より魅力的な店舗としたいとしめくくった。今後の関西での躍進が楽しみである。


<DATA>
カフェ ラ・ボエム 茶屋町
大阪府大阪市北区茶屋町15-22
アーバンテラス茶屋町A棟3F
TEL:06-6292-1555
店舗規模:140坪130席
営業時間:11:30〜翌4:00 無休
開店日:2006月7月29日
月商:非公開
客単価:昼850円 夜2500円
経営母体:(株)グローバルダイニング
http://www.global-dining.com/



取材・執筆 石田 千代 2006年9月8日


このページの上へ