・横浜駅東口に豪華客船がモチーフの「横浜ベイクォーター」
1日の乗降客数約200万人。横浜駅は、JR、東急東横線、みなとみらい線、京急本線、相模鉄道線、横浜市営地下鉄が集積する巨大ターミナルだ。全国的にも、新宿、池袋、渋谷、大阪に次ぐ第5位の乗降客数を持つ。
西口には「高島屋」、「岡田屋モアーズ」、「相鉄ジョイナス」、「CIAL」、「ザ・ダイヤモンド」地下街など、東口には「そごう」、「ルミネ」、「マルイシティ」、「ポルタ」地下街などの商業施設が集積し、横浜市内最大の商業規模を誇っている。飲食も市内最大の集積があり、商業施設の入る各ビルには百花繚乱のグルメの店が名を連ねている。
そして、膨大な乗降客数を考えれば、まだまだダイニング需要は伸びると、昨年あたりから新しいレストラン・コンプレックスが続々と生まれてきている。
昨年6月に、「そごう」10階の飲食店街がリニューアルされ、32店を集積する「ダイニングパーク横浜」がオープン。
昨年11月には西口「三越」跡に、「ヨドバシマルチメディア横浜」がオープン。地下2階と8階が、19店を集積したダイニングゾーンとなっている。また、それとは別に、西口の相鉄口には携帯電話専門の「ワンセグ館」があり、そちらにもダイニングゾーンが設けてある。
さらに、今年8月24日、横浜駅周辺では久々の新しい大規模商業施設「横浜ベイクォーター」が駅東口にオープン。全75店のうち約3分の1の26店が、カフェまたはダイニング(物販との併設を含む)と充実しており、この施設の売りの1つになっている。
安藤忠雄氏の双子の弟、北山孝雄氏がプロデュースした、豪華客船をモチーフにした目を引く建築デザインのインパクトもあり、テレビの情報番組に取り上げられた店が行列をつくるなど、好調な滑り出しを見せている。
北山氏は「サンストリート亀戸」(東京都江東区)、「ビナウォーク海老名」(神奈川県海老名市)、「アスナル金山」(名古屋市中区)などといった商業施設を、過去にプロデュースしてきている実績を持っている。
延床面積5万8640平方メートルある、地下2階・地上7階の建物で、そのうち2〜7階に店舗が入居する。駐車場は730台を収容する。
「横浜ベイクォーター」は三菱倉庫の所有する敷地内にあり、「そごう」の2階から、かもめ橋という新田間川に架かる歩道橋を渡って、3階エントランスから入るのが一番の近道だ。施設には、みなとみらい21地区や山下公園方面へと連絡する、水上バス「シーバス」の乗り場もあり、観光の新ルートとしても、確立できそうである。
・海側にレストランが集中。行列店も現れる好調な滑り出し
「横浜ベイクォーター」を管理する三菱倉庫の100%子会社、横浜ダイヤビルマネジメントによれば、初日の来街者数は4万5000人、2日目3万5000人、3日目8万2000人、4日目7万人。3日目と4日目は、初めての土日になるが、4日間はいずれも予想以上の賑わいぶりとのことだ。30代から50代の大人の女性をメインターゲットに、売上高約100億円、年間来街者数約1000万人を想定している。
施設の特徴としては、伊豆の駿河湾沖でくみあげた海水を、35度前後に温めた海水プールを擁する、世界でも初めての都市型タラソテラピー(海洋療法)・スパ、「テルムマラン・ヨコハマベイ」があることや、新宿に本店がある「アクタス」をはじめとする、高感度なインテリアショップが充実していることが挙げられる。
タラソテラピー・スパ「テルムマラン・ヨコハマベイ」
また、この種の商業施設でおそらく初めて、犬を連れて行くことが可能になっており、2階にはドッグ・ホテルや、「フレッシュネスバーガー」と提携したドッグカフェ「フレッシュネス・ドッグカフェ」がある。その他、犬の服やアクセサリーを販売する店もあり、テラス席のあるカフェなど飲食店の多くは犬を連れて入れる。
横浜ダイヤビルマネジメントでは、「特に犬と行けることを宣伝していませんが、実際に来られた人のブログで、事情が知られるようになってきています。犬を連れて来られる方には、遠くからもお出でいただいています」(広報の田中智枝さん)とのことだ。
広場など共用部のファニチャーは、東京・青山と自由ケ丘のインテリアショップ「シボネ」がセレクトし、ヨーロッパの新しい感覚の椅子などが置かれている。あるいは、壁、天井、床などの共用部のデザインには、スウェーデンの代表的デザイナーのニーナ・ヨブス氏によって、鳥や木、葉、雲が優しい色使いとタッチで描かれている。
「シボネ」がセレクトした共用部分の椅子
「そごう」とのバッティングを避けて、百貨店の主力をなす、アパレルをはじめとするファッション、食品の店はあまり入っておらず、相乗効果が生まれるようなリーシングを行っている。
さて、カフェやダイニングは、各階の海・川側の眺望の良い立地に集められており、地元・横浜に本社があるコロワイドと柿安本店が3店、クリエイト・レストランツが2店を出店していることが目立つ。あとは、ゼットンのハワイアンの店「アロハテーブル」、地元・横浜のファミール製菓が展開する「ケーキマニア 上海カフェ&ダイニング」といったところが面白い。このあたりの個々の飲食企業がなぜ横浜駅周辺部に注目するのかは、後ほど詳述する。
そのほかでは、ヨーロッパのコンテスト優勝者・勲章受賞者のパンを取り扱う高級ベーカリーカフェ「ヴィクトワール」、東京・錦糸町の新しい商業施設「オリナス」にも出店する韓国家庭料理「ノルブネ」、比内地鶏や石臼蕎麦と素材にこだわった「平戸庵」、ハワイ本店のハンバーガー「クアアイナ」あたりは、行列必至の人気店だ。
新業態で出してきたのは、鹿児島ラーメン「我流風」で、黒豚しゃぶしゃぶ、薩摩揚げ、芋焼酎などをそろえ、ラーメン居酒屋に挑戦している。また、オイスターバーの「キンカウーカ・グリル・アンド・オイスターバー」は、「横浜そごう」にも出店する「ガンボ・アンド・オイスターバー」の新業態で、運営会社のヒューマンウェブによれば、グリル料理やワイン、カクテルにこだわった店だそうだ。
京都の商業施設「新風館」や東京都国立市の路面店などで人気のインテリアショップ、「ジョージズ」に併設した「アスク・ア・ジラフ」、カリスマ主婦の栗原はるみさんによる、東京・恵比寿が本店のカフェを併設した生活雑貨の店「ゆとりの空間」といった名も見える。なお、「アスク・ア・ジラフ」と、表参道のカフェ「ロータス」のオーナー、山本宇一氏はすでに提携を解消しており、今回もかかわっていない。
ドッグカフェ「フレッシュネス・ドッグカフェ」
行列必至「ヴィクトワール」のパン
カフェ「アスク・ア・ジラフ」
カフェ風のラーメン居酒屋「我流風」
「クアアイナ」
カリスマ主婦・栗原はるみさんの「ゆとりの空間」
・コロワイドは横浜色を出す地域密着への第一歩と位置づける
コロワイドは周知のように、手作り居酒屋「甘太郎」をはじめ、和・洋・中の多彩な業態を全国展開する外食企業であるが、元々は1977年に逗子市内にオープンした、居酒屋を発展の足掛かりにしている。
今回、「横浜ベイクォーター」では、主力業態の地酒とそば・釜めし処「三間堂」、フーディアンバー「一瑳」、及びデザイナーズカフェのカリフォルニア料理「ウルフギャング・パック・カフェ」の3店を出店した。
同社はエリアごとに地域特性を生かした営業戦略を取っており、横浜地区はコロワイド東日本が管轄している。
コロワイド東日本の竹下和順社長によれば、「横浜駅周辺部というのは商業地域が意外に狭く、電車と車で行ける施設があまりないんです。見せ方も面白い施設ですし、おとなをターゲットにしていますから、確実な立地だと思いました。本当は、もっと店舗を出してもいいとすら考えていました」と、自信をのぞかせている。
東京・お台場の「アクアシティ」に3店(「一瑳」、創作和食「麟」、イタリアン「ラ・パウザ」)を出店し、非常に順調に推移していることも、今回の積極的な出店を後押ししたという。
コロワイド東日本には329店があるが、「三間堂」は20店目、「一瑳」は21店目、「ウルフギャング・パック・カフェ」は6店目だ。
それぞれの狙いとしては、「三間堂」は従来は40代のサラリーマンに強いブランドだったが、女性向けに釜めしを導入。名物の板そばや京風おでんとともに、楽しんでもらいたいとしている。
「一瑳」は30代女性に強い和食と洋食の店であるが、結婚式の2次会などにも対応できるように、ハイビジョン映像を導入している。飛騨牛を使ったサーロインステーキやたたき寿司、バーテンダーが常駐したカクテルの提供など、本物志向の店である。
「ウルフギャング・パック・カフェ」は、ハリウッドのスターシェフ、ウルフギャング・パック氏がプロデュースする店で、六本木「ロアビル」などにあるが、横浜は初出店。海のイメージを出すために、店内に大きな鯨をモチーフにしたオブジェが、天井に吊るされている。
いずれも、予想を上回るペースの売り上げで、スタートしているそうだ。
これで、コロワイドは横浜駅周辺に西口の7店と合わせて、10店を持つことになるが、竹下氏は「新宿に23店、藤沢に14店あるのだから、もっと本当はほしいんです。蔵人会長の夢は、横浜で商売することでしたし、これからのウチの店の展開としてはもっと地魚を使ったり、牛鍋のような横浜らしい料理を取り入れていくなど、内装を含めて横浜色を出していきたいですね」と、地域密着の観点から、横浜への足場固めを考えている。
JR石川町駅前に新しく、イタリアン、とんかつ、居酒屋、カラオケの4業態を出店することがすでに決まっている。
「三間堂」
「三間堂」店内
「ウルフギャング・パック・カフェ」
「ウルフギャング・パック・カフェ」鯨をモチーフにしたオブジェ
「一瑳」
・新しい中華と2毛作店の検証の場にする柿安本店の狙い
柿安本店は、「横浜ベイクォーター」3階の入口近くに、ダイニングの主力業態「三尺三寸箸」と、中華の新業態の「ホンコンカフェ」、「ヌーベルシノワ瑠璃」の計3店を集中出店している。そもそもは、「三尺三寸箸」にオファーが来たものだが、スペースが広過ぎたので、以前から出店したかった中華ダイニングを新しく試みたとのことだ。
「三尺三寸箸」は、西洋料理、日本料理、中華料理、それぞれのシェフを各店ごとに置き、あらゆる世界の料理を融合させた、ビュッフェスタイルの店で、創作料理、デトックスメニュー、免疫力アップメニュー、デザートなどが、平日ランチなら大人1680円、平日ディナーなら大人2480円で、食べ放題である。
2003年に大阪・梅田「HEPナビオ」に出店し、行列店になって以来、これまで出店したほぼすべての店で成功を収めている。この9月も、東京・世田谷区の「二子玉川S・C」と、川崎の「ラゾーナ川崎プラザ」に出店と、引く手あまたの状況だ。
中高年の女性には強い店で、ターゲットが合う「横浜ベイクォーター」でも平日昼間でも行列ができている。その日、その時間で、大皿に盛った料理も刻々と変わるバラエティ豊かな料理も、飽きられない秘訣のように感じられる。114席あるが、現状4〜6回転する盛況ぶりである。
新業態ながら、飲茶をカジュアルに楽しめる「ホンコンカフェ」も、行列ができる好調なスタートだ。オープンキッチンで、小籠包、スープ餃子、肉まんなどを点心師がつくっているところが見えるのも、人気の要因であろう。56席あるが、休みの日は7回転するという。
それに対して、「ヌーベルシノワ瑠璃」は「ホンコンカフェ」の奥にある立地のために、やや出遅れていたが、徐々に人気が高まってきた。
おしゃれで新しい感覚の上海料理を目指しており、フレンチ、イタリアン、和食などの要素を取り入れ、コース料理は昼には1500円と2000円の2種類、夜には2580円と3580円、5000円の3種類を提供している。
従来、同社は惣菜で「シャンハイデリ」という、“スタイリッシュチャイニーズ”をコンセプトとした創作中華のブランドを展開しており、根にある考え方は同様のものだ。
フレンチを思わせる盛りつけ、和のダシを隠し味に使った味付けなど、なかなか楽しい。「15品目のヴェジタブルパルフェ」は、透明な筒に15種の野菜が入っていて、筒を抜くと、上に掛かっていた土佐酢を使ったジュレが広がる。そのまま食べてもいいし、ドレッシングを掛けるのもいいという、見せ方も凝ったサラダ。
食後のデザートが、いろいろ選べるシステムになっているのも好評だ。内装も、従来の中華のイメージを払拭し、スタイリッシュなデザインになっている。
さらに、同社は西口の「相鉄ジョイナス」地下2階のレストランフロアー「グランダイニング」に、新業態「蓮の食卓」を7月28日にオープンしている。これは、「三尺三寸箸」が夜にあまり強くないので、その対策として、昼はビュッフェスタイルを保ちながら、夜はダイニングとして営業する、一種の2毛作店を展開したものだ。
4時〜5時の休憩時間に、カウンターの大皿を片付けて座席に変え、昼と夜では従業員の制服も変わるユニークな店である。
昼と夜で顧客層も異なり、昼は中高年の女性が多く、夜は20代後半から30代の女性の2、3人のグループが多いという。
この店も行列ができるなど好調に推移しているが、柿安本店の横浜駅周辺の展開は、手堅い店で売り上げを確保しつつ、大胆な実験店を出店する検証の場にもなっている。
「ヌーベルシノワ瑠璃」
「ヌーベルシノワ瑠璃」:「15品目のヴェジタブルパルフェ」は、席でウェイターが筒を取ってくれる
「ヌーベルシノワ瑠璃」:「彩り野菜と海老のさっぱり炒め」
「ヌーベルシノワ瑠璃」:2000円のランチのデザート、好きな3品を選べる
「三尺三寸箸」
「ホンコンカフェ」
「蓮の食卓」は夜になると、カウンターの上の料理は片付けられて、座席になる
・クリエイト・レストランツは横浜駅両口に一挙6店出店
クリエイト・レストランツは、ここに来て横浜駅周辺への進出に、とりわけ熱心に見える企業である。
まず、「横浜ベイクォーター」にシーフード&グリルの「アトランティック」と、スペインバル「バル・デ・カンテ」の2店を出店している。
5階の海が一望できる立地にある「アトランティック」は、施設が豪華客船をモチーフにしたクルーズの解放感を楽しんでもらう趣旨であることから、海をテーマに、豪華クルーズ内での食事を再現するというコンセプトで出店した。
上質なサービスと、新鮮な魚介類の素材を使用した料理で、日常を忘れさせてくれる極上のひと時の演出を目指している。
一方、3階の「バル・デ・カンテ」は施設のエントランスからも近いので、一人でも仲間同士でも、気軽に入店できるバルを出店したという。
また、同社は西口のヨドバシカメラ「ワンセグ館」のダイニングゾーン、「ヨドバシ・ザ・ダイニング」にも、8月22日に4店を同時にオープンしている。
こちらのターゲットは、「横浜ベイクォーター」の30代〜50代の女性と異なり、仕事帰りのサラリーマン、OL。付近には居酒屋系の飲食店が多く、行き交う客層の幅も広いことから、焼肉、沖縄料理、寿司、炉ばた焼と異なった顔の店舗を出店して、多くの顧客のニーズにこたえようと考えた。
すなわち、七輪焼肉「はらみや」、沖縄家庭料理と泡盛「島ぬ風」、高級寿司食べ放題「雛鮨」、炉ばた魚炭(炭火焼と焼酎)である。
ただし、同社の場合、立地の持つ特性や客層を見極めて、それに最適なブランドを形成していくマルチブランド戦略を取っており、立地の商況を鑑みて、可能性があれば積極的に出店しているのであって、たまたまタイミングが横浜駅の両側に同時に合った、といったニュアンスではある。それにしても、同じ月内に間髪を容れず、一挙6店なのだから、攻勢をかけている印象はある。
しかし、今後も第2弾の横浜駅周辺への集中攻略作戦があるかどうかは、あくまで条件次第のようだ。メニューなどに「横浜ならでは」ということに特に重きも置いていないが、注文の傾向として、立地条件から「ワンセグ館」において、アルコールの出数が多いと言えるとのことだ。
顧客層については、今のところ予想通りという。想定の範囲内のスタートであることがうかがわれる。
「アトランティック」
「アトランティック」テラス席
スペインバル「バル・デ・カンテ」
スペインバル「バル・デ・カンテ」店内
「はらみや」(ヨドバシ・ザ・ダイニング)
「雛鮨」(ヨドバシ・ザ・ダイニング)
「島ぬ風」(ヨドバシ・ザ・ダイニング)
「炉ばた魚炭」(ヨドバシ・ザ・ダイニング)
・空前のフラダンスブームでハワイアンがブレイクするか
「横浜ベイクォーター」の特徴として、ハワイをテーマにした店が4店あることが挙げられる。
ダイニングでは、ゼットンの「アロハテーブル」、ハワイアンハンバーガー「クアアイナ」。物販では、鎌倉の七里ガ浜が本店のハワイアングッズの店「フラハワイ」、サングラスの新ブランド「マカアニアニ」である。
これらは相乗効果で好調な推移を示しており、女性の間で空前のフラダンスブームが盛り上がっていることもあり、顧客の絶えないヒット業態になっている。
ゼットンはすでに、ハワイアンのカフェ&ダイニングでは名古屋3店、東京1店の実績を持っており、今回は4階の海の眺望が開ける立地で、東京・丸の内「丸ビル」でも人気の「クアアイナ」の隣と、手堅く狙ってきた印象だ。商業施設で昼夜を通して、アイドルタイムを極力出さずに営業するには、カフェという業態は向いているが、「アロハテーブル」には、ハワイアン・コナコーヒー専門店「ムウムウコーヒー」と提携したコナコーヒー、ロコモコなどのハワイアンフード、トロピカルカクテルといった、施設内の他店と差別化できるメニューがあるのも強みである。
また、「アロハテーブル」は「アスナル金山」で商業施設への出店も経験済みの業態でもあり、順調にスタートした模様だ。
角地で、三方がシースルーとなっているので、内装でハワイの雰囲気が出しにくい面もあるが、テラスでたいまつを焚き、サーフボードを壁に立てかけて飾るなどで、演出をはかっている。今後は、店内でフラダンスのショーなども行っていく予定で、ハワイ熱が特に高そうな横浜の土地柄だけに、面白い展開が生まれそうだ。
「日本人はハワイが好きですし、若い人だけでなく、年を取った人も安心して入っていただける店として、認知していただけるのではないかと自負しています。ファミリーのお客さんも多いですね」と、広報担当の取締役・梶田知嗣氏。
同社にとって、ハワイアンは十八番のヒット業態に成長する可能性までありそうだ。
「アロハ・テーブル」
「アロハ・テーブル」店内
「アロハ・テーブル」テラス
・一流シェフにプロデュースを仰いだ地場のアジアンフレンチ
横浜の地場の企業、ファミール製菓は、アジアンフレンチの店「ケーキマニア 上海カフェ&ダイニング」を出店してきた。
同社はケーキ製造などの製菓事業のほかに、飲食部門を持っており、横浜市金沢区でホテル「横浜テクノタワーホテルファミール」を経営。そのホテル内で鉄板焼、寿司などの飲食を出店するなど、5店ほどの直営の飲食店を持っている。
また、みなとみらい21の「横浜ワールドポーターズ」1階には、ケーキカフェ「ケーキマニア」を出店し、40種類のバラエティ豊かなケーキ、デザートのほか、パスタ、野菜カレーなど軽食も取れることで、女性に人気となっている。
今回の「ケーキマニア 上海カフェ&ダイニング」は、フレンチの達人で、箱根「オーベルジュ オー・ミラドー」によって、日本にオーベルジュを根づかせた勝又登氏を監修者に迎え、コロニアル風のカジュアルフレンチを展開している。
内装の空間プロデュースも勝又氏が行っており、同社にとっては、勝負レストランである。
野菜は伊豆・三島の契約農家から直送、レトロな上海式のサイフォンコーヒーが楽しめる、リーズナブルな30種類以上のシャンパンのベビーボトルが置いてある、同店でしか飲めないオリジナル生ビールを開発、「ケーキマニア」からセレクトしたケーキを提供など、この店ならではのサービスが数多くある。そのうえ、カジュアルレスランであるにもかかわらず、ソムリエもいるという、力の入れようだ。ビールもマイナス3度まで冷やす、日本で3、4台しかない特殊な機械で冷却しており、よりおいしくいただけるという。
「横浜の人はお金にシビアですから、5000円の単価に対して、我々が8000円の価値のあることをしないとお客さんは納得しません」と副支配人の宇高基彦氏。
同店は「横浜ベイクォーター」の中では、横浜流のダイニングのスタイルが最も色濃く出た店である。東京発祥や、地方発祥でも東京で成功した勢いに乗って出店しているのが大半のこの施設のダイニングにあって、存在感が際立つだけに今後の動向に注目したい。
「上海カフェ」
「上海カフェ」内装
「ケーキマニア」で人気のケーキ、残念ながらテークアウトはできない
レトロな上海式サイフォンでコーヒーが飲める
「箱根豚と海老のマンゴーサラダ」
「絶品!海、山、大地のクレープ包み」は、7種の食材をクレープで包んで食べる
・そごう「ダイニングパーク横浜」が与えた鮮烈な衝撃
ところで、今回の「横浜ベイクォーター」の前哨戦のように、横浜のダイニングシーンに大きな衝撃を与えた、昨年6月にリニューアルオープンした「そごう横浜店」10階の「ダイニングパーク横浜」は、屋内のレストラン・コンプレックスながら、緑豊かな庭園やアートなオブジェを要所に配する大胆なデザインで話題をさらった。
内装デザインを担当したのは、名古屋「ラシック」、「阪神百貨店西宮店」などで実績のある乃村工藝社。
「そごう横浜店」がレストランフロアーを改装するのは、1985年のオープン以来、初めてであった。
32店の店舗数は、百貨店内のダイニングとしては最大規模である。従来は17店のラインナップであったが、フロアーをシックで落ち着きのある「名店・老舗ゾーン」、庭園や海が見える「庭園・シーサイドゾーン」、カジュアルに楽しめる「グルメゾーン」と3つのシーンに分け、1つの街のような有機的な構成で、全方位の集客を狙った。
1487坪の面積のうち、庭園スペースは約5分の1の287坪を占め、全座席数は1939席に及ぶ。投資額は約18億円となっている。
この効果で、リニューアル後1年の成果として、従来よりも、客数2.5倍、売り上げ3倍を達成。初年度目標の60億円をクリアーした模様だ。
主なテナントでは、「名店・老舗ゾーン」には、オーベルジュの先駆け那須「二期倶楽部」によるダイニング「にき亭」、大阪の名料亭「南地大和屋」の系譜を引く日本料理「大和屋」、「ホテルオークラ」の広東料理「桃源」など、グルメの醍醐味が堪能できる10店がある。
「庭園・シーサイドゾーン」では、横浜の老舗ホテル「ホテルニューグランド」による英国調正統派のバー「シーガーディアンⅢ」、フレンチ「シェ松尾」による庭園に面したカフェ「キャフェ&ヴァン・シェ松尾」、生牡蠣と世界のシーフードを味わえるオイスターバー「ガンボ&オイスターバー」など、おしゃれな8店を集積。
「グルメゾーン」には、行列の絶えない北海道旭川市発祥の「らーめん山頭火」、神奈川県三崎の鈴木水産が経営する寿司「豊魚」、池袋の焼鳥の名店「母家」など、バラエティ豊かな13店が出店している。
また、レストランコンシェルジュが常駐し、その時々のケース、料理の好み、予算に合わせたレストランはどこかをアドバイスしてくれる制度も新しく、注目されるものだ。
ダイニングパーク横浜 夜の庭園
ダイニングパーク横浜 昼の庭園
ダイニングパーク横浜 吹き抜け
・個店の路面店も充実一途。成長目ざましい“裏横浜”の雄
このように、「横浜ベイクォーター」に集約されるように、大型商業施設のダイニングの充実が著しい、横浜駅周辺部であるが、ユニークな個性を持った路面の個店の一群も育ってきている。
駅東口から徒歩数分ながら、人通りの少ない駅裏の万里橋・平沼・高島地区や、駅西口の新横浜通りを超えた、徒歩10〜15分圏の奥まった岡野・浅間下・鶴屋町地区に、例えば東京の恵比寿のような、20代後半から30代の高感度の女性が多く集まるダイニングの集積が、2000年前後から始まっているのだ。駅東口側は“裏横浜”、駅西口側は“奥横浜”と呼ばれるケースが多いが、一括りにして“裏横浜”と言われることもある。
この“裏横浜”は創作イタリアンの業態が強く、その中でダイニングバー(万里橋「ビストロ・フレッシュ」など)、カジュアルダイニング(万里橋「リストランテ・リアル」など)、居心地のいいカフェ(万里橋「ダイナーマイト」など)、犬と行ける店(浅間下「ルーズカフェ」)、三浦半島の野菜や手作りパスタにこだわった店(岡野「フレッシュネス・ランド・フルーツ」)などが、しのぎを削っている。
そうした中で、1999年4月にオープンした「ビストロ・フレッシュ」は、カウンター中心の20席ほどの小さな店ながら、エーゲ海ミノコス島をモチーフにしたデザイン、小さな水槽をカウンター中央に組み込んで本物の小さな熱帯魚を泳がせる、アバンギャルドなアートを置くなど、従来の横浜になかったタイプのダイニングバーとして、大きな反響を呼び、瞬く間に週末はウエイティングができる店になった。
料理も京都の市場から毎日直送される新鮮な魚介類を使った、イタリアン中心の創作メ
ニューで、季節のフルーツを使ったオリジナルカクテルも充実。
夜の早い横浜駅周辺で深夜4時まで営業し、近所のデパート、ファッションビルに勤務するブティック店員、徒歩圏のワンルームに住む独身者、同業の飲食店店員、朝の始発を待つ人などが集まってきたのと、気軽に立ち寄れるアットホームな雰囲気をつくったことが、成功の要因だった。
“裏横浜”、“奥横浜”が今日のような賑わいを見せるようになったのも、同店の周囲に高感度のカフェ、ダイニングが続々と立ち上がり、横浜駅周辺の商業地の外縁を取り囲むように増殖していったからだ。
同店を立ち上げたフードコミュニケーションの入交功社長は、近未来の洞窟のような雰囲気が漂ったイタリアンダイニング「リストランテ・リアル」、究極のサービス提供を目指す高級店「イル・エノトリア」を駅東口の近隣にオープン。駅西口にも、ジャズライブや大型スクリーンでのスポーツ観戦が楽しめるアイリッシュパブ「グリーン・シープ」をオープンし、昨年実績で年商5億円をクリアーしている。
9月28日にオープンする「ラゾーナ川崎プラザ」に、4重奏などが楽しめるイタリアンのオーケストラレストランを出店。大型商業施設への進出で、さらなる発展が期待される。
“裏横浜”の仕掛け人、フードコミュニケーション代表・入交功氏
「ビストロ・フレッシュ」
「ビストロ・フレッシュ」店内
「ビストロ・フレッシュ」店内
人気メニュー「渡りガニのトマトクリームパスタ」
「リストランテ・リアル」のアバンギャルドなデザイン
アイリッシュパブ「グリーン・シープ」
・横浜に渋谷や青山のはやりを持ち込む戦略は成功するか
以上、見てきたように、横浜駅周辺のレストラン事情は、東京でもおなじみのおしゃれなカジュアルダイニングを得意とする企業、全国に知れ渡った名店、地元で育ったダイニングが入り乱れ、急速に充実度を増している。
その象徴が、「横浜ベイクォーター」であり、「ダイニングパーク横浜」であり、“裏横浜”なのである。
特に「横浜ベイクォーター」は、これまで横浜の飲食は東京をはじめ、よその土地から進出してきたものは定着しにくいと言われてきただけに、ストレートに東京の渋谷、青山、恵比寿あたりのテイストの店が多いので、オープン景気が終わったあとも、飽きられずに受け入れられるのか、注目されるところだ。
柿安本店・広報の戸谷氏は、「『横浜ベイクォーター』のあるベイサイド地区は、かつてはそごうの駐車場や倉庫があるくらいで、殺風景なところというイメージがありました。みなとみらい線ができて、横浜駅周辺に来るお客さんも、以前とは少し変わってきたのではないでしょうか」と感想を漏らした。
たとえば、クリエイト・レストランツなどは、顧客ターゲットの特性は重視しても、特に横浜だからという地域特性には、こだわらない姿勢を見せている。
「横浜ベイクォーター」の全体のリーシングも、基本的には同様の考え方で、みなといみらい21の「横浜赤レンガ倉庫」のように、横浜色をことさら強調したものでなく、むしろ東京の渋谷、青山あたりのセンスでまとめられた印象が強い。
一方で、「横浜とか湘南のような、神奈川県に住んでいる人は、あえてその場所を選んでいる傾向が強いので、カッコいい流行が一番の東京の住民とは違うのです。流行に流されずに自分の好きなものを追う人が多い横浜では、奇をてらわず、カッコよくても、値段はあくまで大衆店でないと、難しいでしょう」と、コロワイド東日本・竹下社長は指摘する。
「横浜ベイクォーター」は、ファーストフードをあえて入れてないことはともかく、インド料理、懐かしの洋食、お好み焼など、あってもらいたかったような業態がなぜか欠落している。近隣に高層マンションが建設中であることから、あればよかったと思われる高級スーパーや書店、レンタルビデオなども施設内にない。また、横浜駅から「そごう」の敷地内を通らないと行きにくい、立地はわかりづらく、不利な面は否めない。
しかし、デザインのインパクトは絶大であり、雨が降ればエスカレーターでも傘をささないといけない構造上、天気の悪い日や真冬には弱そうだが、イベントの打ち方次第では、目標の来街者数は十分クリアーできるのではないだろうか。
顧客は、昼間は確かに30代〜50代の女性が中心になるだろうが、夜はカップルやOL、サラリーマンを意識的に集めないと、オープン景気が落ちつけば苦しくなってくる懸念もある。柿安本店の「蓮の食卓」のような割り切り方が、必要なケースも出てくるかもしれない。
ただし、すでに顧客が入っている店と、そうでない店に分かれてきている感もあり、「横浜はあくまで横浜」なのか、「横浜も東京と同じ」なのか、どちらの仮説が正しいのか、横浜の市場の特性を考える上でも、動向を見守っていきたい。
横浜駅東口には多くのダイニングがあり、誘惑を振り切って、さらに先の「横浜ベイクォーター」まで、客足を向けさせるのは容易でない
取材・執筆 長浜淳之介 2006年9月23日