・「SUSHI SAMBA7」スシサンバセブン
1号店がオープンした10年近く前には一大センセーションを巻き起こし、今尚ニューヨーカーに人気の「SUSHI
SAMBA」。スシサンバと聞いて、日本食としての寿司をイメージする人も多いと思うが、実はブラジル・ペルー・日本の料理がMixされたフュージョンレストラン。日本からの移民を多く受け入れた両国で、日本食の影響を受けて生まれた料理というわけだ。ニューヨークに1号店、2号店をオープンした後、勢いは留まらず、いまやシカゴ、マイアミ、イスラエルのテルアビブまで広がっている。今回は2000年のオープン以来、1号店の人気を凌ぐほどの2号店、「SUSHI
SAMBA7」(スシサンバセブン)の人気の秘密を探った。
・予約を取っても、45分待ち?
とにかく、いつ行っても混んでいるこの「SUSHI
SAMBA7」。特にディナータイムの一番混みあう時間帯、8時頃ともなれば、平日でもウェイティングの列ができる。予約を取っても、すぐには席にたどり着けず、ひどい時は30分以上待たされることもあるとか。もちろんオペレーションが悪い店の責任もあるが、これが人気の裏付けとも言え、ウェイティングバーで飲みながら待つことを楽しんでしまうニューヨーカーも多い。
常に賑わっているエントランス奥のバースペース。
店内は、1階がメインダインニングとカクテルラウンジ&バー、2階がルーフトップダイニング&バーという構成になっていて、総席数は200席近い。しかし、それが満席になり、かつウェイティングスペースも人で溢れかえるのだから、驚きだ。しかも、そのほとんどが20〜30代のニューヨーカーたち。日本人らしき人は私たち以外に見当たらず、アジア系の人も少なかった。事前にリサーチしたときも、来店したことの無いニューヨーカーにも認知度はかなり高かった。
9時頃のごった返す店内。活気があり、いるだけで楽しい気分になる。
なぜそれほどまでにニューヨーカーを惹きつけるのか、その理由をいくつかの角度から探ってみた。
・“スシ=ヘルシー”という概念の浸透
肥満大国アメリカにおいて、いかに食事をローファット、ローカロリーに抑えるかというのは、今や日常生活において重要な課題の一つ。特にヘルシー志向が強いニューヨーカーにとっては、最大の関心事である。そんなニューヨーカーに、“スシ”は非常に受け入れられやすく、皆、口を揃えてヘルシーだから好きと言う。
この日隣のテーブルでスシの盛り合わせを食べていたニューヨーカーも、昼はヘビーなアメリカンランチを食べたから、夜はヘルシーにスシにしたとのこと。テーブルを覗くと、ツナロールやカリフォルニアロール、穴子の握りが結構な量盛られており、特に穴子はとろけるようで、とても美味しいと喜んでいた。日本人から見れば、決してローファットでもローカロリーでもない気がするのだが、比較する対象のアメリカ料理から考えると確かにヘルシーと言えるのかもしれない。
味の方はというと、はっきり言って日本的な“寿司”としては美味しくない。ニューヨーカーに人気があると聞いて、今回頼んだロブスターのフライのロールは、全体的にパサついていて、ネタも味付けも特別美味しいと思わなかった。そして、ソースとしてかけてあったワサビクリームソースもわさびが辛過ぎた。しかし、“スシ”という南米料理がMixされた新しいジャンルの料理としてみれば、スパイシーでロブスターとクリームの相性も悪くは無かった。
「SAMBA7 ROLL」($16.5)
ロブスターのフライがキュウリと共に巻かれている。
“スシ=ヘルシー”という概念の浸透に助けられて、純粋な日本食の寿司の美味しさは求められず、ヘルシーでそれなりに美味しいので尚良い、という評価がスシブームを定着させているのではないかと思う。
スシはともかく、他にもニューヨーカーに人気のメニューをオーダーしてみたところ、美味しいものあり、それなりに納得感はあった。
「Yellowtail Sashimi Seviche」($12)
ハマチの刺身をしょうがとニンニクが入った醤油ベースのソースでマリネし、セビーチェ風に。刺身自体も美味しく、しょうがが効いてさっぱりといただける。
「Sea Bass & Miso」($9)
シーバスが串焼きにされ、味噌のソ−スがかかっていた。ソースの味はかなり日本的で美味しかった。
「Chicken Teriyaki Samba Style」($21)
照り焼きされたチキンの下に盛り付けられているのは、ペルー産紫イモで作ったマッシュポテト。紫イモの驚き以外は特に特筆すべき点はなかった。
「Sorvete」($6)
抹茶、ゴマ、ココナッツのアイスクリーム盛り合わせ。
・夜遊び前にスシで腹ごしらえという新スタイル
ニューヨーカーのオーダーを見ていると、いきなり最初からスシのロールや握りの盛り合わせを頼んでいるテーブルが目立った。日本では考えられないような順番だが、盛り合わせだけをペロリと食べて、さっさと出て行く。なぜかというと、彼らはその後クラブやライブなどナイトライフを楽しみに出かけるというのだ。実際に、あるカップルはこの後8時過ぎからのエリック・クラプトンのライブに出かけると話していた。
プレシアターディナーならぬ、プレナイトライフディナーにスシというわけである。ここでも、スシのライトさがものを言い、これから遊びに行くのに重過ぎない食事としてうけているのだ。 価格帯もプレナイトライフにはありがたく、手頃に抑えられている。ディナーに寿司と言えば、かなり高級なイメージがあるが、ここではスシロールの1プレートが12ドル程度で、軽めのディナーであれば食べて飲んでも1人30〜40ドルで済む。
1階中央のスシバーで軽く済ませる人も多い。
スシバーはエントランスの正面に位置し、丸いカウンターの中で職人がスシを握るスタイル。
しかも、このスタイルは店側にとってありがたい一面もある。店の回転が早まるからだ。もちろん、ちゃんとしたディナーとして楽しむ客も多いので、その組み合わせがうまくいけば、非常に効率が良い営業になるはずである。
・トレンディスポットとしてのブランディングの成功
「とにかくオシャレな雰囲気で、都会的で素敵だった。」というのは、マンハッタン在住の29歳男性のこの店への感想。「統一感のあるカラフルな内装やモチーフが印象的だったし、DJのプレイも良かった。」と細かく語る彼だが、料理は特に印象に残らなかったと言う。
実際、店の内装や演出はカラフルでオシャレにまとめてある。日本でも大人気となったアメリカのドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」のロケ地にも使われただけあって、トレンディなスポットとしてのイメージはかなり浸透しており、この店を“cosmopolitan”“trendy”と形容するニューヨーカーは多い。
そして、ニューヨーカーが大好きなオープンエアーという要素も見事に抑えられている。1階のダイニングも道に面して一部開け放たれており、2階のテラス席にいたっては、この時期は屋根が無く、大きなパラソルが並んでリゾート気分が味わえる開放的な空間だった。夏が短く、空も狭いニューヨークにおいて、そんな場所でディナーができるのは最高に贅沢である。
赤いパラソルが並ぶ、ルーフトップの席は一番の人気。
1階席も開け放たれ、夜風が入って気持ちが良い。
ちょうど訪れた日は、スペシャルイベント「SAKE
WEEK」の最終日。日本酒に合う料理で構成されたスペシャルコースが用意され、それぞれの料理に合うSAKEがカップリングされていた。名前もお任せコースならぬ、「OMASAKE」コースとユニーク。SUSHI
SAMBAでは、スシと共にニューヨーカーに人気のあるSAKEを常時約50種類も揃え、ニューヨークで一番と、品揃えを誇る。
小さいグラスでサーブされるSAKE。食前酒として、乾杯用として、楽しむニューヨーカーもいて、日本酒の新しいスタイルとして興味深かった。
レストランの立地も、若者が多く集まり、人気のレストランも多く集まるウェストビレッジ。ウェストビレッジのレストランというだけで、ちょっとオシャレなイメージがわくから不思議だ。
こうしたニューヨーカーの好むポイントを抑える演出で、行くこと自体がオシャレというブランディングに成功している。その結果、料理の評価を超える人気を得ているのではないだろうか。
こうして見てみるとブームにうまく乗ったと見えるかもしれないが、これだけニューヨーカーのライフスタイルに合ったニーズを抑えて、人気が確立していることから考えると、むしろブームを作り出した側なのではないだろうか。しかし、次から次へとブームが起こるニューヨーク。もう既にこの店がトレンディではないと言う人もいる。常に一歩先いくライフスタイルを提案し続けるのは至難の業だ。これからも新しいスタイルを創り出すことができれば、人気はさらに続くだろう。
住所:87 Seventh Avenue South New York, NY 10014(bet Christopher St. &
Barrow St.)
早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社リクルートにて人材ビジネス領域で商品企画を担当。2006年7月から夫の転勤に伴い、NY在住。趣味は、レストラン巡りと料理。英語の特訓のかたわら、おいしくエキサイティングな街NYを満喫中。