・土、日のみの営業、業界素人を集めた昼キャバが好調
「昼キャバ」というのは、文字通り、昼間から営業するキャバクラのこと。
昨年の秋頃から、首都圏に登場しはじめ、東京とその近郊に10店ほどはあると目され、熱心なファンが少しずつ付いてきている。 昨年11月より銀座6丁目、コリドー街の近くにオープンしているのは、「カフェラウンジ ラベンダー」。“カフェラウンジ”と銘打っているところなど、お酒を飲まなくてもコーヒー1杯ででも、といったニュアンスが感じ取れる。
土日に営業すろ昼キャバ「カフェラウンジ ラベンダー」 平日の夜はクラブ
営業は土、日のみで、2時から8時まで。ラストオーダーは7時となっている。平日は祝祭日も含めて営業していない。
この店は、平日の夜は同名の「ラベンダー」というクラブを営業しており、空いている時間を有効に活用して、昼キャバがオープンしているわけである。
店長の岩上俊哉氏は、普段はサラリーマンとして勤めていて、サイドビジネスで昼キャバを経営している。
「お客さんとしてクラブとか、キャバクラに行っているうちに、自分でやってみたくなりました。この場所は縁あって土、日に貸してもらっています」と、岩上氏は同店を始めた切っ掛けを語る。これまではナイトビジネス、水商売の経験は全くないのだという。
最初の頃はお客さんがほとんど来ず苦戦したが、キャバクラ専門誌に広告を掲載し、週刊誌の取材を受けるなどして、徐々に認知度が高まってきたのだそうだ。
女性キャストは18歳から35歳までのOL、学生のアルバイトが中心で、常時7、8人が出勤している。ほとんどが、ナイトビジネスの経験がない人ばかりだそうだ。
制服はなく、全員が私服で勤務しているので、余計に素人色が強く見える。
システムはキャバクラに準じ、1時間初回4000円、2回目以降が6000円、但しホームページよりメール会員の登録をすれば4000円となる。延長料金は20分ごとに2000円、指名料金は20分1000円、同伴料金は3000円などとなっている。
ドリンクはコーヒーなどのソフトドリンクは無料だが、ビール、ウィスキー、焼酎といったお酒は、1時間飲み放題で2000円、単品で1000円。また、女性キャストのお酒(ビール、ウィスキー、焼酎、ワイン)は1杯500円である。お酒を飲む人と飲まない人は半々で、ソフトドリンクで済ます人が意外に多いのは、昼からお酒はどうかという気分的な問題もあるようだ。
ユニークなのは、「銀ブラプラン」なる、1時間につき1万5000円で、女性キャストと銀座の街で食事などを楽しめるコースがあることで、65歳以上の人は1時間につき1万2000円と割引になる。岩上氏によれば「銀座にはいい店がたくさんありますし、1時間は短いので、2時間くらい食事をしたり、カラオケに行ったりする人が多い」とのことで、いわば料金体系化されたアフターであり、利用した人の満足度は高いようだ。
顧客層は35歳から70歳くらいまでで、遠くからわざわざ来る人だという。職業は断定できないが、週刊誌に記事が掲載されて、行列ができたことからも、サラリーマン中心であることが推測される。
7卓ほどの小さな店であるが、混む時と空いている時があるものの、平均すれば半分くらいが埋まるような状態で、安定した人気を保っているようだ。
・二毛作店舗が続々、素人専門を強調するキャバクラ群
昼キャバの特徴は、夜に営業する店が昼間のスペース活用として、始めるケースが多いことだ。
千葉県市川市のJR市川駅前に、1年ほど前にオープンした「ラファエル」は、夜はホストクラブになるという。ホストクラブのダーツやビリーヤードは、そのまま昼キャバで活用されている模様だ。
千葉県松戸市のJR松戸駅前の「ジャスティー」は、夜はドレスで接客するキャバクラであるが、「昼キャバ」ではメイド服で接客するメイドキャバクラの形態を取っている。
「ジャスティー」は昼はメイド服、夜はドレスで営業
横浜・関内の「エルドラド」のように、昼も夜も同じようにドレスで営業するが、昼は40分3000円からと、夜の料金60分5000円からと比べて、リーズナブルな料金を打ち出している店もある。昼と夜では、女性キャストは入れ替わる。
概して昼キャバの女性キャストは、夜には勤められない、あるいは夜が苦手なフリーターや主婦、門限のある女子大生、短大生、専門学校生、休みの日のOLなど、従来ナイトビジネスには入ってこなかった未経験か、それに近い素人、素人っぽい子が多い。なので一部のキャバクラファンから見れば、新鮮に感じると好評である。一方で、夜に働いてたキャバ嬢が、昼に転向するケースもあるし、昼と夜を掛け持ちする猛者もいる。
10月2日に歌舞伎町にオープンしたばかりの「クラブ花心」は、なんと朝の10時から営業している。さすがに午前中から満席になるということはあまりないようで、12時くらいまでにパラパラと女性キャストが集まってくる状況らしい。
朝10時オープンの「クラブ花心」は、18時に閉店
オープン間もない「ディアレスト」は、市川「ラファエル」の系列。夜はホストクラブ
しかし、東京では、昼と夜が逆転した生活を送っている人もたくさんいる。
もちろん平日ならば、外回りのサラリーマンが時間潰しに行くこともあるだろう。昼キャバは夜に比べて相対的に安いので、男子大学生やフリーターも、顧客に取り込んでいる模様だ。
昼キャバの店内で、ランチが食べられる店も出現している。千葉県の津田沼にある「ディアレスト」では、平日の1時から4時までは、セット料金4000円の中で、ご飯と味噌汁のついたランチを提供している。コック経験のあるスタッフがいるので、このようなサービスを思いついたらしい。
また、通常の夜に営業するキャバクラでも、女性キャストの素人っぽさを強調した店が増えてきた。
上野の「ハイスクールマーヤ」は、18歳から21歳までの業界未経験の女性キャストを雇用するだけでなく、3カ月後には必ず卒業させる独特のシステムを取っている。そのため、常に業界慣れしていない新鮮な女性キャストがそろい、店の制服であるお嬢様風の学生服が似合う子が多いという。卒業後、希望者は系列店に入店できるようだ。
また、同じビルにある「シュシュ」は、大学生、短大生、大学院生に募集を限定し、17時半と早めにオープンし、23時半には閉店となる。そのため、門限厳守の今まで出会えなかったタイプのお嬢さんに、接客してもらえるというのが売りだ。12月には秋葉原に2号店がオープン予定である。
「ハイスクールマーヤ」と「シュシュ」を経営するプラザエンタープライズは、浅草と上野に集中して9店を持っており、狭いエリアでの競合を避けるために、さまざまなタイプの店を開発しているそうだ。
素人の接客をうたうキャバクラ「ハイスクールマーヤ」と「シュシュ」
さらに、渋谷の「ビットスタイル」は、キャバクラの常識を覆す、シフトをつくらない自由出勤制の店。女性キャストは登録だけをして、あとは好きな時に店に出ればいいシステムを取っているという。服装も自由な私服である。登録人数は業界最大の2000人以上だそうで、営業トークができないような、渋谷を普通に歩いている素人との出会いの場であることが、ホームページ等でうたわれている。
・低料金で気軽に女の子と話せるガールズバーが出現
さて、今年の夏頃から、東京とその近郊では、大阪でブレイク中のガールズバーが続々とオープンし、すでに15店〜20店くらいあるのではないかと推測される。
ガールズバーとは、若い女性バーテンダーと会話ができることを売りとする、ショットバーと、キャバクラあるいはスナックとの中間のような業態の店。同伴やアフターはできないし、横の席や対面の席に、女の子が座ってくれるわけでもなく、指名制度もないが、ショットバー並みの料金で、楽しく話せるということで、実質主義の気質の強い大阪のキタやミナミなどの歓楽街では、キャバクラに迫るほどの勢いがあるという。
新宿駅東口、「オカダヤ本店」のすぐ裏で、8月4日にオープンしたのは「Diva TOKYO」。12席ほどのカウンター主体の店で、カウンターの中に20代前半を中心とする女性バーテンダーが入って、お酒をつくったり、顧客の話し相手になったりする。女性バーテンダーは14人ほどが在籍しており、常時5人〜6人が出勤している。
ガールズバー「Diva TOKYO」 シックな大人の雰囲気の店内
女性バーテンダーとの会話が楽しめる
料金は1500円のチャージと、お酒1杯800円からで、2杯〜3杯飲んで5000円くらいまでにおさまるような料金設定になっている。
「大阪のガールズバーを参考にしながら、東京でもこれからはやるのではないかと感じて、出店しました。最初の頃は新宿でビラをまいても、ガールズバーって何という反応でしたが、最近はどんな店かを理解して受け取ってくださる人が増えてきました」と、運営会社のトラップネクストムーブメント常務で、同店の店長を務める長田嘉之氏は、2カ月を経過して、業態の認知度が上がってきた手応えを持っている。
女性の採用に関しては、アルバイト情報誌などの募集広告で告知し、ナイトビジネスや接客業の経験よりも、性格の明るさや、テンションを上げて会話ができるノリの良さがあるかどうかを基準に選んだそうだ。
顧客層は幅広いが、いちばんコアになっているのは、30代前半のスーツ姿で来店するサラリーマン。女性客は1割くらいと少ないが、男性に連れられて来る人や、女性バーテンダーの知人が訪れる。
全員がシェーカー振るが、「営業しながら覚えている段階で、お客さんも基本的なカクテルしか注文しません。ずっと、焼酎を飲んでいる人もいます」(長田氏)とのことだ。
2軒目に行く店なので、10時頃から12時頃に混んでいることが多いが、開店とともに混む日もある。営業は夜8時から翌5時までで、現状は1.5回転〜2回転するくらいの顧客の入りとなっており、今後はさらに集客力を高めていきたいとしている。
同店の系列に「ナデシコワークス」というコスプレ・ダイニングバーが、「紀伊国屋書店新宿本店」の裏手にあり、昨年12月にオープンしている。女の子が、メイド服をはじめ、学園祭イベントで学生服を着たり、ハローウィンイベントで仮装をしたりといった店だ。
しかし、メイドやコスプレの店ならば、出せば間違いなくはやるバブルは弾けつつあり、次を探る意味で、ガールズバーに注目した面もあるようだ。
コスプレダイニングバー「ナデシコワークス」
・東京スタイルの新しい形のガールズバーを発信する店も
一方、9月7日に、歌舞伎町の区役所通りにオープンしたガールズバーは、「NANA」。
店の特徴は、シックでスタイリッシュな空間の中に、楕円形の大きなカウンターがあって、その内側に女性バーテンダーが入り、お酒をつくったり、顧客とコミュニケーションをしたりするようなレイアウトになっていることで、32席と席数も多い。
東京スタイルのガールズバー「NANA」
フレッシュなTシャツの制服。NANAガールズ
女性バーテンダーは15人から20人が出勤しており、なかなか賑やかで、1人で飲みに行っても、放っておかれることはない。彼女らは18歳から24歳くらいまでの学生やフリーターで、話好きな気さくなタイプがそろっている。
店の制服は、店のロゴが入ったTシャツを着るが、ボトムは自由でデニムのミニスカート、キョロットスカートなど、めいめいが好きなものをはいている。
料金は、テーブルチャージが深夜0時までに入店すれば1時間2000円、深夜0時以降ならば1時間2500円。ドリンクは1杯800円または1000円となっており、ビール、ウィスキー、ウォッカ、テキーラ、本格焼酎(芋、麦、米、黒糖、泡盛、その他)、ワイン、日本酒、リキュール、サワー、ソフトドリンクなど一通りそろっている。
女の子のドリンクは1杯500円となっている。
1万円あれば、2時間は楽しめる料金設定で、キャバクラに比べれば、半分から3分の1程度の価格で、女の子と話せるのだから割安感がある。ただし、指名はできないし、同伴もアフターもないが、何回か通って常連になれば、好きなタイプの女性バーテンダーと親しくなって、打ち解けた会話もできるようになるだろう。
「マクドナルドとかファミレスの店員と、気さくに話せるような感覚ですね。関西のガールズバーは狭いスペースで営業していて、女の子も2、3人という店が多いんです。カウンターに人が立つと後ろを通るスペースもあまりないので、立ち位置が変わらなくて、別の子と話したいなと思っても、なかなかチャンスがなかったりします。当店ではいろんなタイプの女の子を選べますし、時間を見計らって立ち位置を交代しますので、従来ありがちっだった不満を解消した店に仕上げています」と、店長でセヴンウェイズ取締役の山本博三氏。
山本氏は関西出身で、知人がガールズバーを経営していることもあり、なかなかのガールズバー通だ。
顧客層は早い時間はサラリーマン、深夜は終電を逃した人や飲食店、水商売の関係者が多い。女性客も全体の2割くらいはいるのだという。
・読者モデルが接客する合コン感覚のバーが渋谷にあった
フリーペーパーやファッション誌の読者モデルが接客する新タイプのガールズバー、「読モ★カフェ」も現れた。渋谷・センター街に、今年8月4日にオープンしている。
運営するベル・ネットは、昨年12月に創刊した、渋谷近辺で約300店に6万部を配付する、オーディション情報の月刊フリーペーパー「ライヴォ!」の発行のほか、編集プロダクションとして「ブレンダ」、「ピンキー」といったファッション誌の一部のページの編集を請け負っており、多くの読者モデルとの交流がある。
同社の広瀬孝司代表によれば、開店の経緯は、「フリーペーパーの打ち上げパーティーを毎月開催していくうちに、発展形として合コンのノリがあるガールズバーをやってみようかと思いつきました。ウチの読者モデルは、女子大生やフリーターがメインなのですが、夏休みのアルバイトがないかと、相談を受けてもいたんです。彼女たちは、彼氏がいない子も多いので、出会いの場が提供できるかなとも思いました」とのこと。
「読モ★カフェ」読者モデル(写真:土井一秀)
席数は、カウンターとお座敷を合わせて40席。営業時間は金曜と土曜の20時〜深夜2時である。月曜から木曜までは、2人以上の予約制で読者モデルとの合コンのセッティングサービスを行っている。
料金は、カウンターは1000円のチャージに、1杯1000円がメインのドリンク代、フード代(500円〜)を足した金額になる。一方、お座敷は22時までの入店なら1分50円、22時から23時までの入店なら1分70円、23時以降の入店なら1分90円のタイムチャージ制で、テーブルにタイマーを置いて時間を計って会計する。
「5分で出てもいいかとおっしゃるお客さんもいますが、結局は平均して90分くらいはいらしゃいますので、満足していただけているのかなと思っています」と広瀬氏。
在籍する読者モデルは80名ほどで、常時8人〜15人が出勤している。そのほとんどが、水商売はおろか接客業の経験もない子ばかりだそうで、お座敷ならキャバクラのように隣に座ってくれるので、合コンっぽい雰囲気が醸し出される。指名料は取っていない。
お好み焼き(2人前1800円)、焼きそば(2人前1600円)、目玉焼き・玉子焼き(900円)といった鉄板焼きメニューは、読者モデルが目の前のプレートで焼いてくれ、キムチチゲ鍋(2人前2000円)は読者モデルと一緒につつける。
「超盛り上がりの合コンゲームセット」(1000円)というメニューもあり、各読者モデルの趣味で、UNOや山手線ゲームなどが一緒に楽しめる。
また、昼間は経営者は異なるが、岩盤浴をしながらくつろげる「岩盤浴カフェ」というユニークな店になっていて、床面は天然セラミックなど、生体を活性化させる低温岩盤浴仕様である。なので、女性と岩盤浴の両方で癒される店とも言えるわけだ。
顧客層は20代から40代までの出版をはじめとする、マスコミ関係者が多い。読者モデルは大半がプロダクションに所属しておらず、ベル・ネットもタレントのマネージメントをしていないので、店内でスカウトして交渉するのは自由である。
読者モデルにとっては、仕事と恋愛のチャンスが開けるかもしれない「読モ★カフェ」。もしかしたら、秋葉原名物のメイド喫茶のように、渋谷の名物になる可能性もある。
・メイド喫茶にも1対1で接客するキャバクラ感覚の店が
メイド喫茶の中にも、後発の業者は他店と差別化をはかるために、キャバクラのシステムを取り入れて、カフェクラブともいうべき中間的な業態を試みる店が登場している。
今年5月、秋葉原にオープンした「エアー萌えっと」は、30分3000円でメイドと1対1で半個室型のブースに入って、2人で会話が楽しめる店だ。最初に入会金が500円かかるが、指名料は発生しない。延長は30分ごとに3000円である。営業時間は、朝の11時半から22時半までとなっている。
ブースでできることは、「お菓子セット」、「お磨きセット」、「お絵かきセット」、
「肩揉みセット」、「ゲームセット」と5つのコースがある。
「お菓子セット」は、メイドと駄菓子を食べながらトークするもの。
「お磨きセット」は、メイドにネイルケア等をしてもらうもの。
「お絵かきセット」は、白いTシャツ、靴下などにメイドが絵を描いてくれるもの。
「肩揉みセット」は、メイドが肩、首などをハンドマッサージしてくれるもの。
「ゲームセット」は、メイドとオセロ、トランプ、黒ひげ危機一発などのゲームが楽しめるものとなっている。
一番人気があるのは「肩揉みセット」で、メイドリフレクソロジーよりも割安感があるところが受けている。次に人気があるのは、メイド喫茶らしい「お菓子セット」である。
生ジュース300円
半個室、メイドと1対1で話せる
人気の「お菓子セット」
話し好きの気さくなメイドたち
人力車でメイドと食事にいける
飲食メニューは、コーヒー、紅茶、ジュース、コーラなどのソフトドリンク300円、ケーキセット700円で、別途料金が必要となる。オレンジ、グァバ、マンゴー、ミックスと4種類ある生ジュースは、お得感がある。
しかし、同店では、店内のこれら5コースのほかに、60分につき6000円で秋葉原周辺をメイドとお散歩できるコースがあり、むしろ店外のお散歩サービスのほうをメインと位置づけている。
お散歩といっても、実際は食事に行くことが多く、メイドはメイド服または私服で、ヨドバシカメラのレストラン街、「秋葉原UDX」の「アキバイチ」、メイド喫茶などへと、顧客である“ご主人様”のお伴のご奉仕をするわけだ。そのほか、カラオケ、ゲームセンター、電気街の買物などに付き添ってくれる。
お散歩コースは2回目以降にオーダーする人が多く、中には30分店内で話してからお散歩コースに切り換える人もいる。言わば料金制のアフターのようなものだ。
メイドは18歳から27歳くらいまでの学生やフリーターの40人ほどが在籍しており、コスプレーヤーもいるが、オタク属性の強いいわゆる腐女子より、普通のお嬢さんが多い。常時平日は6人〜7人、週末は10人ほどが2交代で出勤している。同店では決まったメイド服はなく、店で支給される服のほか、各メイドが自分の趣味の服を持参して着用している。
スタッフによれば、顧客はいわゆるオタクは少なく、アキバブームで好奇心に駆られたサラリーマンが、ミニキャバ感覚で利用しているとのこと。1日平均で平日は50人〜60人、週末は70人〜100人ほどが来店し、リピート率も50%と高い。元は個室ビデオ店だった場所で、それをそのまま居抜きで使って、半個室で話せる店にしたそうだ。
当初は全く反響がなかったが、駅前でビラを配るなどして宣伝に務め、折からのメイドブームもあってテレビの取材が入るなどして、ようやく経営が安定してきたという。
週に2回、日本橋の人力車サービスと契約して、人力車で秋葉原を回るサービスも行っている。
現在の秋葉原では、同店のような店舗内営業をしないで、お散歩サービスのみを行う、メイド派遣店が数店ある。ともあれ、パッとしない早くも閉店した店もある「アキバイチ」にとっても、この種の店はありがたい救世主になっているということだ。
・バカ殿様や女中と遊べるエンターテイメント焼肉登場
さらに、新橋で8月22日にオープンした「アイーン」は、メイド、学生服、ロリータ、体操服など、さまざまなコプスレ衣装を着た、メイドならぬ女中が、ご奉仕をしてくれる、コスプレ焼肉店だ。
コスプレ焼肉店は大阪で3、4年前に発祥し、東京でも2店ほどあるが、この店は“バカ殿様”に扮した男性スタッフも一緒になって盛り上げてくれる、新感覚のエンターテイメントを打ち出している。店は、“バカ殿様”のいるお城ということになっており、女中は20代前半中心に、6人〜10人が出勤し、各テーブルで肉を焼きながらワイワイ会話ができる、合コン感覚の店である。「ふうふうアーン」のようなお楽しみもある。
コスプレ服が飾られた店内
バカ殿様と女中さん
女中さんが肉を焼いて食べさせてくれる
女中は機をみて交代していくが、1人1時間1500円で指名もできる。
料金は、焼肉と野菜食べ放題1人3500円が基本で、4種類のタレ(特性タレ、塩タレ、ガーリックバター、バーベキュー)で味わえる。別途ビール、サワー、ソフトドリンクなどのドリンクを注文する。または、プラス1500円を払って5000円で、飲み放題のコースになる。60分の時間制であるが、延長もできる。
また、1人で来た人は1000円、2人で来た人は1人につき500円、計1000円の席料がかかる。営業時間は18時〜23時半。
エンターテイメントのメニューとして、500円〜1000円の9つのお遊戯があり、「アイーンじゃんけん!」、「大興奮!ワニワニパニック」、シュークリームの中に1つだけカラシが入った「アイーン風ロシアンルーレット」、女中が目の前で握ってくれる「愛情おにぎり」、ミニスカの女中がリンボーダンスをしてくれる「チラリンボー」などといったように、秋葉原のメイド喫茶で考案された萌えメニューやテレビのバラエティ番組のお遊びが、アレンジされている。1枚500円で女中と「チェキ」で写真が撮れ、男性は500円、女性は無料で店内でコスプレ衣装に着替えることもできる。BGMはザ・ドリフターズの歌などがかかっている。
「アイーンじゃんけん」
「チラリンボー」
店長の佐藤哲士チーフマネージャーは、「牛角」で4年間店長を務めていたが、常連であった「アイーン」のオーナーで美容院を経営する酒巻大智氏より、「日本のサラリーマンを元気にするような、飲食プラスアルファの店をやりたい」という、コスプレ焼肉の構想を聞き、共感して転身したそうだ。
駅から7、8分歩く地下にあるため、少しわかりにくい立地だが、秋葉原まで遠征してビラをまいたり、「ミクシィ」にコミュニティを開設するなどで、徐々に認知度が高まり、水、木、金あたりはだいぶ席が埋まるようになってきた。
顧客層はやはりサラリーマン中心だが、4人〜8人くらいの会社の飲み会、銀座や新橋のクラブやキャバクラの同伴で使う人も目立つという。
・キャバクラの危機により、“イブニング系”のバーが勃興
以上、昼間から店員の女の子とお酒が飲める店、夜に営業していてもゆるい感じの店が、増殖していることをレポートした。
こうした店が普及する土壌をつくったのは、ここ2、3年でブレイクしたメイド喫茶であったように思われる。秋葉原で誕生したメイド喫茶は、コスプレと融合し、居酒屋、バー、キャバクラ、リフレクソロジー、美容室などさまざまな業態へと波及し、メイド・コスプレ業界を形成しながら、全国主要都市に広がった。
また、メイド喫茶の中には、積極的に会話をしたり、ゲームをしたりと、コミュニケーションを売りにする店も出現。女性でも楽しめ、キャバクラにもない、メイドとゲームができるエンターテイメントとして確立した。
しかし、男性の中にはメイド喫茶に行くのが軟弱だ、気恥ずかしいなどの理由で、メイドを嫌う人もいることも事実である。一方でメイド系の店が急増して、競争が激しくなる中、次を探る意味で、そこらへんに歩いている女の子がそのまま接客するような、昼キャバ、ガールズバーが登場したのではないだろうか。
これは、カフェや居酒屋と、キャバクラやスナックの中間に位置する、“イブニング系”あるいは“ガールズ系”とも言うべき、新しい展開である。
かかる構図から見えてくるのは、ここ20年ほど、ナイトビジネスでは話題の中心にあったキャバクラのパワーの後退である。幾ら規制してもなくならない歓楽街の強引な呼び込みは、過当競争を背景にした各店の危機感の現れだろうが、逆に優良な顧客を遠ざけている。
女性キャスト、いわゆるキャバ嬢も余裕がなくなって、商売気丸出しでギスギスとしてくると、顧客はキャバクラに行っても癒されるどころか、かえって疲れるので、足が遠のいていくのである。
呼び込みをしないでひっそり営業する昼キャバや、女の子からうるさ過ぎる営業の電話やメールが来ないガールズバーの台頭によって、直接従来のキャバクラの顧客が流れていると思われる。これは萌え、妹っぽさを強調するメイド業態の顧客が、さほど競合しないのとは違っている。それだけに意味するものも重要だ。
このままキャバクラが、女性を使った接客業の主役の座を、メイド喫茶やガールズバーに奪われていくのか。それとも、営業姿勢を改めて、企業体としての組織を固めて、素人の女性を癒しの天使に仕立てて使いこなす、プロ集団として蘇生するのか。これまでのビジネスモデルを見直す、曲がり角に来ていると言えるだろう。
ともあれ“イブニング系”の動向は、今後も注視していきたい。
取材・執筆 長浜淳之介 2006年10月20日