・東京ドームの2.5倍、JR川崎駅西口に直結した再開発
JR川崎駅西口の目の前、駅に直結した好立地の商業施設「ラゾーナ川崎プラザ」が、9月28日にオープン。28日(木)〜10月1日(日)までの4日間で、50万人の来街者が訪れるといったように、大きな反響を呼び起こしている。
その後も、午前中から盛況の日々が続き、連休明けの11月5日の月曜日には、さすがに落ち着きを見せてきたものの、首都圏でオープンした大型商業施設では、「六本木ヒルズ」以来といっていいほどの爆発的なオープン景気を誇っている。
川崎駅は、JR(京浜東北線、東海道線、南武線)と、徒歩5分ほどの京急(本線、大師線)を合わせて、1日に約42万人(JR約32万人、京急約10万人)もの乗降客を持っており、神奈川県内では横浜駅に次ぐ第2のターミナル。JR東日本では第13位、京急では第5位の駅となっている。
もちろん、政令指定都市で人口約134万人の川崎市の玄関口である。
その駅のパワーもさることながら、新橋から電車で15分という、首都圏のこれほどまでの交通至便な場所に、1つの街が形成できるほどの開発が計画されたこと自体が、奇跡的だ。
「ラゾーナ川崎」は、敷地面積約11万平方メートル、東京ドームの2.5倍という広大な「旧東芝堀川町工場跡」を再開発したもので、土地所有者は東芝、事業主体は東芝不動産と三井不動産である。三井不動産は工場跡地利用について、東芝からコンサルティング依頼を受け、「ラゾーナ川崎」全体のプランニング及び東芝不動産との共同事業、商業施設「ラゾーナ川崎プラザ」のリーシングなどを担っている。同じく共同事業で来年3月に竣工予定の住宅ゾーン、「ラゾーナ川崎レジデンス」(地上34階・地下1階、総戸数667戸)とともに、「ラゾーナ川崎」を構成する。
「ラゾーナ川崎プラザ」は、延床面積17万2303平方メートル、うち店舗面積7万9294平方メートル、地上6階・地下1階の建物で、300店が入居する。
駐車場は約2000台、駐輪場は約3200台を収容。年間来街者数約2000万人、年間想定売上高約350億円(「ビックカメラ」を除く)を目標としている。
「都市部の利便性・ファッション性」と「郊外のゆとりある日常」を融合させた、多様なニーズに対応する商業施設になることを目指す。
リードターゲットは20代後半〜40代のニューファミリー、シングル。サブターゲットとして、50代、60代の子育てを終えた人が、余暇を楽しめるような施設となるように設計されており、両面から幅広い顧客を集める計画だ。
主なテナント(「食」関連を除く)に、「ビックカメラ」(家電量販)、「109シネマズ川崎」(シネコン)、「コナミスポーツクラブ川崎」(フィットネス)、「ラゾーナ川崎プラザソル」(小ホール)、「丸善」(書店)、「HMV」(CD)、「ナムコ ヒーローズベース」(アミューズメント)、「コーチ」(服飾雑貨)、「ZARA」、「Gap/GapKids」、「ユナイテッドアローズ・グリーンレーベル・リラクシング」、「バナナ・リパブリック」、「ユニクロ」(以上、レディース、メンズファッション)、「アカチャンホンポ」(ベビー用品)、「ロフト」、「無印良品」、「ソニープラザ」、「ザ・ダイソー」(以上、生活雑貨)などがあり、特に生活雑貨はオールスターのラインナップだ。
ショッピングだけでなく、10スクリーン2000席ものスケールを持つシネコンをはじめ、映画、スポーツクラブなど、時間消費型レジャーも、幾つか入居している。
施設のデザインは、「銀座資生堂ビル」、「ユナイテッドアローズ原宿本店」などを手掛けた、スペインの建築家リカルド・ボフィル氏を起用。「大屋根のある街」をコンセプトに、中央に直径約60メートルの円形広場「ルーファ広場」を配し、コミュニティづくりを意識した、開放感のある居心地の良い空間に仕上がっている。
店内
中庭
・新しい川崎のイメージを表現した行列必至のレストラン
「ラゾーナ川崎プラザ」は、「食」、「音楽」、「旅」をテーマソリューションとしており、「食」に関連するゾーンは約1万6500平方メートル(約5000坪)の敷地を占め、重要な位置づけとなっている。
4階のレストランゾーンは、ルーファ広場に面して、クラシック音楽の生演奏が聞けるイタリアンの「リストランテ・ルビー・ソプラフィーノ」(フェアネスクリエイション)、日本初出店の「カリフォルニア・ピザ・キッチン」(WDI)、日本一のベルギービールの品ぞろえを誇るという「パトラッシュ」(ダイヤモンドダイニング)、鉄板焼にイタリアンの要素を加えた「鉄板焼 S」(スティルフーズ)といった、ベンチャー精神を持った実力派中堅の飲食企業が、新業態にチャレンジしている。
また、法人需要を見込んだ中華の「南国酒家」、勝率10割の主婦向けのバイキング「三尺三寸箸」(柿安本店)といった堅実な業態や、南インド料理をジャズを流したクールな空間で食せる「ボンベイ・トーキー」(マハラジャ)、沖縄・那覇の国際通りにある「沖縄地料理波照間」(JCC)、四谷本店の韓国家庭料理「妻家房」といったような、トレンドに則った業態が、バランス良く配置されている。
いずれも施設の中の店というより、その店を目的として行く人を集めるタイプの、個店として自立できるような店、10店が集積している印象だ。
南国酒家
三尺三寸箸
ボンベイ・トーキー
沖縄地料理波照間
一方で、モールの中は、施設にショッピングに来た人の食事に対応した18店がそろっており、とんかつ「かつくら」(フクナガ)、イタリアンの「カプリチョーザ」(WDI)お好み焼「千房エレガンス」(千房)、越後そば「越後 叶家」(叶家フードシステムズ)、1皿290円均一の寿司「寿し常」(豊田)、中華「西安餃子」(グリーンハウス)などいった、商業施設ではおなじみの店が並んでいる。
そうした中でも、ジンギスカン「くろひつじ」(くろひつじ)、オイスターバー「ガンボ&オイスターバー」(ヒューマンウェブ)といったような特徴のある専門店が、スパイスのように混じっているのが面白い。
また、1階から3階までには、カフェが散りばめてあり、全国8店目とチェーン展開が軌道に乗った「ワイヤードカフェ」(カフェ・カンパニー)、「アフタヌーンティー・リビング」とセットで出店した「アフタヌーン・ティールーム」(サザビーリーグ)、関東で初めて「堂島ロール」が楽しめる「モンシュシュ with トラベルカフェ」(トラベルカフェ)などに加えて、「サンマルクカフェ」(サンマルクホールディングス)、「スターバックス」(スターバックスコーヒージャパン)の名も見える。
カフェとレストランを合わせて全部で40店弱といった構成だが、行列の絶えない店も多く、現状では非常に好調に推移している。
「全体として変わりゆく新しい川崎のイメージを出せたのでは」と、三井不動産商業施設本部リージョナル事業部・福井健人氏は自信を深めている。
・ラーメン3店の名店入居など、迫力満点のフードコート
レストランの巧みなリーシングもさることながら、もう1つの見所は1階にある充実した、フードコート及び食物販のゾーンである。
「ダイニング・セレクション」と呼ばれるフードコートは、「リゾートに建つ邸宅」をイメージコンセプトとし、約670席の席数となかなか迫力がある。
13店が出店しているが、特筆すべきは、従来のフードコートのイメージを打ち破る、豪華なラインナップだ。
フードコート「ダイニング・セレクション」
まず、目を引くのは、味噌の札幌「すみれ」、醤油の葛西「ちばき屋」、とんこつの池袋「極えるびす」と、いずれ劣らぬラーメンの名店3店が並んでいることで、さりげなくあること自体に度胆を抜かれる。
その他、関東初出店の佐世保バーガー「ログ・キッド」、盛岡冷麺「ぴょんぴょん舎オンマーキッチン」、四川料理「陳麻婆豆腐」、パスタ「壁の穴」、タイ料理「バンコクチキンライス南国泰飯」等々といった、いずれも個店として成功している店が入っており、従来のファーストフードに重きが置かれた、郊外型スーパーのフードコートとは、グルメ度の桁が違っている。
また、1ブースは雑誌『ハナコ』とタイアップした、イベントブースとなっており、年間で何回か、店が入れ替わる。第1弾として、神戸・元町の老舗洋食店「伊藤グリル」の「伊藤グリルカフェ」が入居しているが、このような企画もおそらく前例がないものだ。全国のさまざまな名店の味が、フードコートで気軽に試せるという発想は面白く、東京進出の足掛かりとしたいと考える店側に立っても、活用できそうである。
すみれ
ちばき屋
えるびす
ログ・キッド
バンコクチキンライス
雑誌『ハナコ』とタイアップ、神戸・元町の老舗洋食店「伊藤グリル」
狙いとして、三井不動産リージョナル事業部・福井氏は、「駅前にある施設ですし、お子さま連れのニューファミリーだけでなく、夜はビジネスマン、OLがお酒も飲めるような空間を目指しました」と語っている。夕方は高校生、大学生の姿も多く、10代後半から60代、70代にいたるまで幅広く顧客を集め、いつも賑わっている。
86店を集積した「グラン・フード」と呼ばれる食物販ゾーンは、デパチカにも負けない品ぞろえである。
柿安本店が精肉の「柿安精肉店」、和菓子の「柿安口福堂」と2店を出店。BYOは和惣菜とだし茶漬で「えん」を2店出店。京都発祥の産直青果店「八百一」、デパ地下に強い北辰グループの「魚の藤塚」、とんかつ「新宿さぼてん」、天ぷら「つな八」、中華惣菜「過門香」、ベーカリー「ドンク」、おなじみの「アールエフワン」、「ホテルオークラ」、「なだ万厨房」、「築地銀だこ」、スイーツでは高級チョコレート「ゴディバ」、ケーキ・焼菓子「アンテノール」、「チーズケーキファクトリー」、「クレープ・クレープ」等々、賑やかで書き切れない。
その中には、3000種の品ぞろえを持つ日本一の焼酎店「Sho−Chu オーソリティ」のような店もさりげなく入っているので、散策が楽しい。
それに対して、日常的な食を担うのは、町田市に本社がある食品スーパー「三和」で、京浜東北・東海道線沿線では初の出店。価格帯で「グラン・フード」のショップ群とは、棲み分けがなされている。
・70種類そろえたベルギービールの品ぞろえ一番店が出現
次に、「ラゾーナ川崎プラザ」に出店した各飲食企業の狙いと、現状の好調ぶりをレポートしていこう。
ダイヤモンドダイニングは、4階のレストラン街に、ベルギービール&カフェ「パトラッシュ」をオープン。57坪、約100席の店舗で、最初の1カ月の月商3600万円という、段然の売り上げを叩き出している。同社としては、大型商業施設へは初めての出店で、手探りで企画を進めたようだが、予想をはるかに上回る反響に、スタッフが休む暇もないと嬉しい悲鳴を上げている。
パトラッシュ店内
パトラッシュ入り口
ボトルシャンデリア
同社企画・広報部チーフ、重田委久子さんは、「ベルギービール専門店ということで、夜しか入らないのかなとか、心配はあったんですよ。実際にオープンしてみると、ランチからラストまで一杯で、3時から5時くらいまでが少しすいているくらいです。ラストオーダーぎりぎりに入ってきて、一杯飲んで帰られる人も多いです。お昼からビールを飲む人もいますし、自分たちのやり方が商業施設でも通用するんだとわかりました」と、これほどまでにうまくいくとは、思いも寄らなかったようだ。
昨年7月にオープンした池袋の4店を集積した「お伽噺」から三井不動産との接点ができ、三井不動産側の提案で、ベルギービール専門店を出店したとのこと。ダイヤモンドダイニングは、100業態、100ブランド、業態開発ナンバー1を目標に掲げており、今回はクライアントのリクエストにも応えられる、機動力を発揮した。
この店の特徴は、70種類そろえた、ベルギービールの品ぞろえだ。1つの輸入業者から仕入れていてはとても間に合わず、幾つもの業者と交渉して、ようやく提供できる体制を整えているのだから、そこに手間が掛かっている。
ベルギービールは、ビンとグラスがワンセットで提供するのであるが、そのビンとグラスのデザインのバリエーションに富んでいるので、見るだけでも楽しく、飲み比べれみたくなる。また、フルーツランビックという、果汁を加えたカクテル感覚のビールがあるので、ビールが苦手だった人も、チャレンジできる飲みやすさがある。
立ち飲みのコーナーもあるので、もう少し落ちつけば、キャッシュオンで飲めるようにしたいという。
料理は、ムール貝をバケツ一杯に盛ったビールに合うおつまみや、ベルギービールで煮込んだ肉など、ベルギー料理が基本で、全般に癖がない、食べやすいものが多い。
ムール貝
ランチは、メインの料理以外をビュッフェスタイルにしており、サラダバーの感覚で利用する人が多く、7割ほどを女性が占めている。客単価は1000円〜1300円。
一方で、夜は仕事帰りのサラリーマン、OLが多く、6割が男性客となっている。客単価は4000円〜5000円となっている。
内装は、松村厚久社長が映画「ブラザーズ・グリム」を見た時に、印象に残ったヨーロッパのバールを再現したいとのことで、樽を象徴的に配し、ビールビンでつくった照明を吊るし、カウンターの天井にグラスを並べてストックするなど、ベルギー・フランダース地方の醸造所を想起するような空間を構築している。
世界的に有名なベルギービールだが、まだ日本では関心は高まっているものの体験した人は多くはない。潜在的なニーズを、特徴ある内装と圧倒的な品ぞろえで、喚起したと言えるだろう。
最近は飲酒運転に対する取り締まりが厳しく、郊外型居酒屋で一杯というわけにもいかなくなった。飲むなら駅前といった風潮も、このようなタイプの店が成功する要因の1つになっているようだ。
・クラシック生演奏を聴きながら食事が楽しめるレストラン
川崎市は、川崎駅西口の「ラゾーナ川崎プラザ」の向かいに、シンフォニーホールを備えた複合高層ビル「ミューザ川崎」を2004年に完成させるなど、「音楽のまち」をまちづくりのポイントとしている。
「ラゾーナ川崎プラザ」も、その方針に則って、「音楽」を「食」とともに、テーマソリューションに掲げているのであるが、それを最も具体的に表現した店が、オーケストラレストランの「リストランテ・ルビー・ソプラフィーノ」だ。
運営会社のフェアネスクリエイションは、横浜・本牧より発展し、あのセレブ感満点の「グレース六本木」1階にある「リストランテ・ルビー」、「アトレ品川」の「ルビー・カフェ」の成功で知られる、飲食企業である。
リストランテ・ルビー・ソプラフィーノ入り口
リストランテ・ルビー・ソプラフィーノ店内
この店の趣旨は、弦楽四重奏などの生演奏をバックに、イタリアンの食事を楽しんでもらおうというもので、しかも演奏者は日本フィルハーモニー交響楽団などに所属する、本物のプロである。オーストラプレゼンターという音楽家をイベントに派遣する会社と提携して、平日の夜と土日祝日の昼と夜に、2回〜5回のステージが催される。
演目は主にクラシック、映画音楽から選ばれ、弦楽四重奏のほかにも、ピアノとバイオリン、サックスとピアノ、オーボエとクラリネットなど、日によってさまざまな音楽が聴ける趣向になっている。ミュジックチャージは取っていない。
「六本木の姉妹店として、オーケストラレストランをつくろうと、銀座辺りで物件を探していたのですが、ちょうどサッポロビールさんから、川崎でどうっていう打診があって、三井不動産さんにプレゼンテーションに行って、採用していただきました。お客さんは、思ったよりもレストランに慣れた人が多く、この店を目指して来ていただいています」と、総支配人の入交功氏は良質の顧客が多いことに手応えを感じている。
価格帯はコース料理なら3800円が中心で、ピッツァを除いた2800円のものもある。ランチで1300円中心。全般にリーズナブルで、六本木の店と品川の店の中間くらいの設定である。
料理は、築地の市場で仕入れた旬の新鮮な魚介類を使うなど、食材を選んだ、ややフレンチテーストの入ったイタリアンとなっている。メニューでは、秋鮭とカブのペペロンチーノ、鴨のラグー、ピッツァ・マルゲリータあたりが人気になっているという。
ワイン好きの人が多く、よく出る日には50本くらいも、ワインが売れる日もある。ソムリエは2人が勤務している。
顧客層は、男女が半々くらいで、40代くらいが中心。「ミューザ川崎」に音楽を聴きに来た人はもちろん、2人連れの男性や女性、カップル、家族連れのほか、行政や会社の接待需要も多い。
集客も順調で、オープンから1カ月は1日に500人〜600人が来店しており、席数の180席に対して、3回転ほどしている感触だ。雨の日と、月曜、火曜は少し客足が鈍るそうだ。
サービスの良さは系列の「グレース六本木」の店でも実証済みで、そのレベルのサービスと、生演奏の心地よさがプラスされて、この価格なら魅力は十分である。地域に密着した、息の長い繁盛店になっていくことを期待したい。
・ジンギスカンへの逆風を見事に跳ね返した「くろひつじ」
ジンギスカン専門店「くろひつじ」の出店は、「ラゾーナ川崎プラザ」のレストラン群の中でも、サプライズである。2004年の中目黒の本店出店以来、ジンギスカンブームの火付け役となった「くろひつじ」は、その後、下北沢、六本木、福岡と店舗をオープンしてきたが、商業施設への出店は初めてである。
今までの推移は極めて順調で、最初の1カ月で、月商2500万円を売り上げたという。東京都内ではジンギスカンブームは収束しており、ジンギスカン専門店の淘汰が進んでいる。さすがの「くろひつじ」も、最盛期に比べれば3割〜4割くらいの売上減が起こっているが、郊外ではまだまだ強いニーズがあることが、実証されたと言っていいだろう。
くろひつじ
「オープン景気もありますが、予想の倍以上のペースです。これまでは個店でやってきたのですが、今後を考えると注目の大型施設に出店して、幅広い層にブランドを認知してもらえないかと思ったんです。社内的にも賛否両論があったのですが、予想以上の反響をいただいています」(マーケティング・広報担当、内田氏)と、1つのかけであったが、期待を上回って目的を達成する勢いにあることがうかがえる。
顧客単価は2000円弱と、既存店の2500円〜2600円に比べればやや安いが、メニューを絞り込んで、中目黒本店と同じくジンギスカン、追加肉、追加野菜、ライス、キムチ、トマト、ソフトクリームだけの提供なので、コストパフォーマンスが非常に良いという。昼も夜も通して同じメニューで営業している。席数は56席となっている。
顧客層はスタイリッシュで清潔感ある内装と、カルニチンを多く含有する羊肉のヘルシーなイメージもあって、女性が主流。ただし、中高年のミセスから家族連れ、若いOL、カップルと、従来は20代後半から30代の女性に偏りがちであったところから、一気に年齢層が広がっている。話に聞くジンギスカンとはどういうものか、一度は試してみたいと考える人が、郊外では多く存在するということなのだろう。
「いずれジンギスカンが、たとえばウナギ屋、お好み焼屋のように、普通に街角にあるような専門店になっていくのが夢です」と、内田氏は力強く語った。
「くろひつじ」はWDI系列の店だが、WDI本体でも、「カリフォルニア・ピザ・キッチン」、「カプリチョーザ」、「ストーンバーグ」という3店を出店し、いずれも非常に好調に推移している。
「カリフォルニア・ピザ・キッチン」は、日本初出店ではあるが、アメリカ28州及び海外5カ国に190店以上を出店していることもあって、海外旅行の経験者からは既にブランドが良く知られている存在である。日本にできたのならと立ち寄る人も目立つそうだ。
「カプリチョーザ」はブランド認知度の高さを生かした、堅実な強さを見せている。石焼きハンバーグ&ステーキの「ストーンバーグ」も、若い人たちを中心に、幅広い集客に成功しているという。
カリフォルニア・ピザ・キッチン
カプリチョーザ
ストーンバーグ
・スタイリッシュな鉄板焼にイタリアンの要素を加えた店も
スティルフーズは「ラゾーナ川崎プラザ」の中に、鉄板焼にイタリアンの要素を加えた「鉄板焼 S」と、ケーキショップ「イルピノーロ」の2店を出店している。
「鉄板焼 S」は厳選素材を使った鉄板焼で、たとえば5000円、7000円のコースでは、宮崎県内で肥育された黒毛和牛のうちでも、肉質等級4等級、5等級という最上位クラスの牛肉しか名乗れない、「宮崎牛」というブランド牛のステーキを、メインのメニューとして扱っている。ちなみに、3つのコースのうちで一番安い3500円のコースでは、オーストラリア産牛とのことだ。
鉄板焼 S
焼パスタ
ステーキはイタリア・サルディーニャ島のエキストラ・バージン・オリーブ油で焼き、お好みでポン酢ベースのタレ、醤油ベースのタレ、アンデス産のピンクソルトという塩、本山葵、または柚子コショウをつけていただく。
また、魚介類は、天然物のマダイ、手長エビ、アワビなどを産地から直送している。
フォアグラを使った焼ニョッキなどの焼パスタ、石焼ビビンパの器で提供するパルメザザンチーズのリゾットなど、この店ならではのイタリアン風創作料理も楽しい。
ドリンクも数多くのワイン、本格焼酎、カクテルなどを幅広くそろえ、手のとどく範囲の日常の上質を追求している。座席数はカウンターとダイニングに分かれるが、68席あり、全て禁煙席となっている。
鉄板焼は自分で焼くタイプの大衆店か、コックが付きっ切りで焼く高級店かに二分される傾向があるが、「鉄板焼 S」ではその中間を取り、コックがカウンターのどこかの鉄板で焼いて、アルミホイルで包んで席まで運び、保温プレートに乗せて提供するスタイルとなっている。
オープンから1カ月の月商は3000万円で、予想を大きく上回っている。
顧客層は20代後半から60代まで、主婦、ファミリー、仕事帰りのサラリーマンやOL、カップルなどと、幅広く集めている。会社の会合で使われることも多く、7000円以上のコースはないのかといったリクエストまであるという。男女比は半々くらいで、イタリアンによりは男性が多い印象だ。
「思ったより以上に、上質なものにはお金を出してもいいという人が、多いですね。本格的なイタリアンなら2時間から2時間半のコースになるのですが、鉄板焼なので40分から1時間で食事が済んでしまうので、回転率がいいですね」と、スティルフーズ販売企画部PRマネージャーの宇佐美育恵さん。
平均単価は夜で5000円台。昼はコースもあるがランチは1300円〜1500円で提供している。ランチメニューは、そばめし、カレー、手づくりハンバーグなどである。
また、6店目となる「イルピノーロ」のケーキショップも、オリジナルの焼菓子「アルベアーレ」をはじめ、ラゾーナ川崎店限定のプリン、クッキーなどが好評で、順調にスタートした模様だ。9月19日には横浜そごう店を閉店しているが、その顧客を受け継ぐだけでなく、田園調布店、玉川高島屋S・C店を利用している人が、「ラゾーナ川崎プラザ」に入っているのを見掛けて購入するケースもあるという。
「ラゾーナ川崎プラザ」の商圏の意外な広さが、うかがい知れる。
・3店を積極出店のトラベルカフェは「堂島ロール」が好評
「ラゾーナ川崎プラザ」のテーマソリューションの1つに「旅」があるが、その「旅」と「食」を結びつける店舗として、トラベルカフェが3店を出店していることも、注目される。
JR川崎駅から直結する、2階の正面にある「モンシュシュ with トラベルカフェ」は、大阪の「パティシェリー モンシュシュ」とのコラボレーション企画で、トラベルカフェ初のスイーツを前面に出したカフェである。席数は36席で、全席禁煙。
このカフェの特徴は、大阪で評判のロールケーキ、「堂島ロール」が、関東では初めて味わえること。北海道産生クリーム、風味豊かな「四ツ葉バター」、最高級小麦粉など素材を厳選した味は絶品だと、実際に食した人の評判は上々のようである。店内でパティシエが、20種類以上のケーキなどの菓子類を焼き上げて提供している。コーヒーは有機豆を使って提供している。
顧客は20代以上の女性を、幅広い年齢層で集めている。
モンシュシュ with トラベルカフェ
トラベルカフェ
また、4階にある「トラベルカフェ」は、JR東日本横浜支社とのコラボレーションにより、50歳以上に特典満載である、会員制のJR東日本「大人の休日倶楽部」の申込書、パンフレットを設置するほか、プラズマ画像でCMを放映。また、大塚商会の特定会員向けの通販誌「ぱーそなるたのめーる」を店内に配置し、旅グッズなどを紹介している。
こちらの店は、「JTB」、「近畿日本ツーリスト」、「HIS」という3つの旅行社及び、ファッションデザイナー・永澤洋一氏の旅行バッグのブランド「tabi」初の直営店と、仕切りのないラウンジを思わせる設計になっており、旅行パンフレットを見ながら、旅の計画をゆっくりと話し合えるように活用してもらおうという趣旨だ。オープンスペースでは、各種のイベントを海外政府観光局等との連携により開催していく。
顧客層は、20代以上の旅行カウンターに来る女性が中心。席数は57席。
さらに、「トラベルカフェ」の向かいにある、「トラベルカフェ・ミュージック」は、CDショップ「HMV」に併設され、“音楽を旅する”がテーマ。レコード会社のビクターエンタテインメント及びラジオ番組制作会社のエニィービィ・サウンズとのコラボレーションで、CD試聴機が4台設置され、3社でセレクトした、ジャズ、ブラジリアンなどの新譜音楽を聴きながら、コーヒーやワインでくつろぐことができる。気に入った作品があれば、「HMV」で購入が可能である。席数は42席。
トラベルカフェ・ミュージック
また、ミニステージ、FMスタジオを併設。プロミュージシャンの育成を最終目標として、さまざまなアマチュアミュージシャンの作品披露の場となるべく、ライブイベントを行っていくという。「音楽のまち」らしい、新しい試みの企画である。
顧客層は、喫煙できることもあってか、6対4で、男性のほうが多い。
「トラベルカフェ」の店舗は全部で17店あるが、大型商業施設に入るのは初めてだし、いずれも他社とのコラボレーションで、従来になかったタイプの店を3店もつくっているのだから、頑張っている印象だ。
同社広報の久保倉一嘉氏によれば、「ラゾーナ川崎プラザは、JR京浜東北線、JR南武線沿いに、横浜以外にこれだけの規模の商業施設がないため、“集客できる”のが最大の魅力。さらに、従来の川崎のイメージを払拭できる力もある」と考えての出店であったらしい。
11月中にニュージーランド政府とコラボレーションした店舗を六本木に出す予定で、世界各国あるいは日本の地域とのコラボレーションに、今後とも注力したい意向だ。
・シネコン日本一の「ラ・チッタデッラ」は商業施設強化中
ラ・チッタデッラ
ところで、川崎のイメージを変えた商業施設として、駅東口の「ラ・チッタデッラ」について触れてみたい。
「ラ・チッタデッラ」の概要については、フードリンクニュースの2002年11月17日付「トレンドを探れ! 街づくりバブルか!? 東京のグルメ街、オープン&リニューアル・ラッシュ」で既に紹介しているが、「六本木ヒルズ」の商業施設部分、「カレッタ汐留」を手掛けたジョン・ジャーディー氏による、イタリアの丘の上につくられた中世の街を思わせるデザインで、街区は車の通行を遮断し、日常とは隔絶されたスローな街をつくり出している。
ローマ風の円形劇場を思わせる広場では、さまざまな音楽ライブや音楽に合わせた噴水ショーが無料で毎日開催され、すっかり市民の名物となった。
店舗数は60店ほどだが、そのラインナップは16スクリーン、5000席という、首都圏最大級のシネコン「チネチッタ」を中心に、ライブハウス「クラブチッタ」、イタリアン、創作和食、タイ料理などのおしゃれな飲食店、CDショップ、ファッション、ゲームセンター(アミューズメント)など、「ラゾーナ川崎プラザ」と競合すると見られるものも結構ある。
クラブチッタ
昨年までの推移は、3年連続でシネコン動員数日本一を達成しており、03年約195万人、04年約188万人、05年179万人が、「チネチッタ」に入場している。イメージターゲットである、20代〜30代の女性、カップルが顧客層のコアをなすが、春、夏などはファミリー向けの映画が増えるため、家族連れが増える傾向にある。
このように非常に成功しているパワフルな施設なのであるが、さすがに「ラゾーナ川崎プラザ」のオープン直後は、来街者が減る傾向にはあった。しかし、11月中にワインブティック&カフェ「エノヴィーノ&カフェソラーレ」のほか、和風アクセサリー、ハワイアンジュエリーの店が新しくオープンするなど、新陳代謝によって、集客のテコ入りをはかり、戻りつつはあるという。
施設利用者は、昨年10月には「ヒューマンアカデミー」、「エリートモデルズワークショップ」などのスクール系、今年7月には岩盤浴「バグーススパ」、酸素バー「O2ビーナス」などのサービスを追加したこともあり、底堅いものがあるようだ。
「ラ・チッタデッラ」の中でも、スティルフーズのイタリアン「イルピノ−ロ」は、元々レギュラーの固定客が多い店なので、「ラゾーナ川崎プラザ」の影響は、ランチで少し落ち込んでいるものの、ほとんど受けていないという。
昼は主婦どうしが映画を見た帰りに、ランチを取るようなニーズが多く、1500円〜2000円が中心の価格帯。夜は打って変わって、官庁や医師、弁護士の接待需要やちょっとしたパーティー、会合が多くなる。
また、最上階の噴水を挟んだチャペルの向かいにあり、年間60件のウエディングにも対応しているのも、この店の安定した強さに寄与している。
あるいは、フードスコープのオイスターバー&チャコールグリル「マイモン」は、北海道厚岸、三重県的矢湾、アメリカ・シアトルなどの産地を厳選したカキをはじめ、比内鶏、前沢牛、フランス・ランド地方から空輸するフォアグラなど、素材へのこだわりが受けている。当初はランチコース2500円、夜は5000円以上の顧客単価の高さが懸念されたが、施設を運営するチッタ エンタテイメントによれば「たいへん好調」だそうだ。
イルピノ−ロ店内
マイモン
・路面店の弱さを克服すれば、川崎駅前の魅力は倍増する
これまでの川崎駅周辺部は、主に東口ばかりが開発されてきた。
「ラ・チッタデッラ」をはじめ、百貨店「さいか屋」、駅ビル「川崎BE」、地下街「アゼリア」、家電の「さくらや」やシネコン「TOHOシネマズ川崎」などが入居する「DICE」、ファッションビル「岡田屋モアーズ」、「ヨドバシカメラ」と「丸井」がコア施設の「川崎ルフロン」、複合ビル「川崎駅前タワーリバーク」などといった商業施設や、アーケード商店街の「銀柳街」、「銀座街」は全て東口にあったのである。
しかし、閑散としていた西口が「ラゾーナ川崎プラザ」オープンによって活気づいてきたことは、現状を見れば、東口各店が顧客を奪われて苦戦する傾向があるものの、長期的には1日飽きずに遊べる街となって、全般的にはプラスになるものと思われる。
というのは、川崎駅周辺の新築マンションの売れ行きは、完売が続く好調ぶりで、しかも50代、60代のお金に余裕のある人たちが流入する傾向があるからだ。それに、武蔵小杉をはじめ、南武線沿線のマンションの売れ行きも好調で、商圏の拡大が今後、予想される。そうした中で「ラゾーナ川崎プラザ」オープンは、タイムリーであった。
レストラン街においては、どこにでもあるようなファーストフードのチェーンをあえて外し、グレード感のある個性の立った店をそろえようとした点では、「丸ビル」以来のリーシングの手法を踏襲している。それが予想外に受け入れられたということは、もう既に川崎がかつての京浜工業地帯の公害の街といった悪しきイメージとは全く異なる、落ちついた大人の街に変貌していたことを実証しているのではないだろうか。
ソーホーズ・ホスピタリティ・グループが2004年に倒産した後に、「アゼリア」に「南翔饅頭店」を出店したことからも、いかに川崎駅前に可能性があるのかがわかる。
南翔饅頭店
将来的には、小田急沿線の新百合ケ丘から武蔵小杉を経て、川崎まで市営地下鉄が建設され、新百合ケ丘で小田急多摩線、川崎で京急大師線に相互乗り入れる予定もある。もし完成すれば、東西に細長い川崎市内の交通が、非常に便利になり、多摩丘陵に住む上質な顧客がさらに増えるだろう。
「ラ・チッタデッラ」、「DICE」の飲食街などでは店舗改装、テナント入れ替えが、現在積極的に行われており、あとは街を回遊する動線づくりが、行政も含めて協力してできるかどうかが、課題だろう。
ちなみに、チッタ エンタテイメント広報宣伝の土屋友子さんは「ラゾーナ川崎プラザをたとえて言うなら、日常の中の安心感や豊かさを選択する施設。一方、ラ・チッタデッラは、ちょっと日常から離れたワクワク感を選択し、遊び心を刺激する施設であると思っています。ラ・チッタデッラは施設全体として、コンセプト(エンタテインメント&カルチャー、ロマンス、イタリア)が明確なので、既存、今後登場予定の商業施設とは差別化されていると考えられます」と述べている。
これからは、各商業施設が、自らの個性を明確化していく必要があるだろう。たとえば川崎には、シネコンが3つ、大型電器店も3つもあるのだ。今後新しくできる施設にこの種の施設が、要るのかどうかということだ。
川崎のレストランシーンを考えた場合、路面店が弱いのが気になるところだ。現状では、チェーン系の居酒屋やファーストフード、カラオケばかりが強く、古くからある地元の中華料理店、韓国料理店、居酒屋などは停滞感がある。
しかし、京急駅裏や旧東海道には、ポツポツと個人経営と覚しき新和食などのセンスの良さそうな店が増えてきている。
東京でもおなじみの店では、京急駅裏のガード下にある、監獄風アミューズメントレストラン「ザ・ロックアップ」は奥まった立地といい、怪しさ満点で、池袋の店などより面白いほどだ。また、砂子地区には、名古屋の手羽先チェーン「世界の山ちゃん」が進出していることからも、潜在的な街の魅力がうかがい知れる。
世界の山ちゃん
旧東海道は、川崎市が宿場町の情緒が残る散歩コースとして整備しており、すぐ裏手に堀之内、南町という2大ソープランド街が広がっているものの、その分家賃は安いだろう。渋谷にしても、歌舞伎町にしても、風俗街に隣接する地域こそ、食のフロンティアである。これからの発展に期待したい。
全般に、川崎の家賃は、商業施設を含め、東京、横浜に比べて安めのようである。顧客層の良さと比較すると、今、お買い得な旬の街と言えるのではないだろうか。
取材・執筆 長浜淳之介 2006年11月17日