フードリンクレポート


飲食店で働く感動を分かち合いたい!
株式会社一家ダイニングプロジェクト
代表取締役社長 武長太郎

12.8
 千葉を中心に居酒屋の一家、和製らーめん 漁だし亭、スペインバルのOrenchなどの飲食店10店舗を展開している(株)一家ダイニングプロジェクト。代表取締役社長の武長太郎氏は、従業員の独立開業を支援しており、教育に力を注ぐ。現在、居酒屋甲子園の委員を務め、千葉の飲食店経営者やスタッフを集めた勉強会、千葉フードリーム勉強会を主催。飲食店で働く感動を分かち合うのだと熱く語った。


「オレンチ」全員集合



飲食店で働くのは何よりも楽しい。

 高校卒業後に大学へ進学し、夜は母親が経営するパブでアルバイトをしていました。接客業は楽しくて、大学よりも働く方がずっと面白いと考えたので、大学は退学して22歳までに飲食店を開くことを決意しました。その後、ホテルのサービスや居酒屋でのアルバイトを経験しました。

 20歳になった頃、母親の元へ近所のパブが閉店したいとの話が持ち込まれたので、その店を引き受けると手を挙げたのです。店を500万円で改装して、自分の友達や駅前でキャッチした女性を集め、店をスタートさせました。女性の採用基準は笑顔がカワイイことです。この店は、30坪の店舗規模で月商1500万円を超える大繁盛店となりました。

 次に縁があったのが、現在のこだわりもん一家元八幡店となる物件。どんな店をやろうかなと考えたときに、最もくつろげるのは自分の家であると考えました。

 自分の家に帰宅する感覚で、靴を脱いで上がるというコンセプトの居酒屋を「一家」と名付けたのです。

 料理のやり方を知らなかったので、最初は本を買ってきてみよう見真似で作った料理を出していたのですが、それだけでは差別化できません。97年の12月に開店したのですがどんどん売り上げが下がっていってしまいました。そこで、料理人をスカウトしてきてレベルアップを図りました。

 当時はこのあたりには、客単価3500円程度のいわゆるアッパー居酒屋と呼ばれる店がありませんでした。開店日に、最初にお店に来店したお客様が、婦人客二人だったのですが「本八幡にこんなお店無いから流行るよ!頑張りなさいね」と、言ってもらったのがすごく励みになりました。

 このうれしさをいろいろな人に体験してほしいと思ったのが、店舗展開への起動力になったのではないかと思います。


「こだわりもん一家 行徳店」店内


「オレンチ」(千葉県市川市)店内


「闇市」(千葉県松戸市)店内


「漁だし亭」店内


チェーン店ではできない魅力ある店づくり。

 一家の店舗数が5店くらいになったときに、近所に和民を代表とする大手チェーンが開店するようになりました。私自身は当初、一家を50店舗程度までチェーン展開していきたいと考えていたのですが、競合店を調査するうちに、考えが変わりました。

 店舗数を増やしていくにつれて、こうした大手チェーン店と価格競争をしなくてはならないし、組織もマニュアル化が必要になっていくのです。果たしてそれが私のやりたいことなのかと考えたときに、働く人の魅力やチェーンではできないことを提供していく店にしたいと思いました。

 弊社の特徴は、一店ずつ独立採算制を取り、それぞれの店長を経営者のように育てているところでしょうか。独立志向の社員も多いので、そのための教育制度を充実させています。

 月に一度行っているのが、全社員が参加する店舗ミーティングです。各店舗のやり方やケーススタディを把握して、それぞれの事例を発表し、良いところは取り入れるようにしています。

 これも月に一度行っているのが、経営者養成講座。これは、社員だけでなく、アルバイトスタッフが参加することもあります。

 もうひとつ行うのが、一家塾。成功するためには、スキルではなくて心なのです。松下幸之助を初めとした成功者達の本を読んで、レポートを提出したり、ディスカッションを行ったりする自己啓発の講座です。

 

アルバイトスタッフにも感動を与える場を提供。

 飲食店のレベルは、パートアルバイトのレベルによるといわれます。一家で働くことによって、アルバイトスタッフに、どれだけ感動を与えて挙げられるのかは大きな課題です。

 賃金を高くして、待遇を良くして福利厚生を完備すれば、従業員は満足するでしょう。でも、それだけではアルバイトスタッフは感動しない。人間は、誰でも達成感や充実感を感じたいと考えているはずです。賃金だけでは得られない、そういった体験をどれだけ与えてあげることができるのかが、一家で働く従業員への使命です。

 誰かに認められたい、ほめられたい、役に立ちたいという気持ちは誰でもあると思います。従業員へのモチベーションのアップのために、年に2度発表の場を設けています。

 8月に行われているのが、感動店舗発表会。感動・感激・感謝をテーマに自分達が日々働く中で、どんなことに感動しているのかを発表します。

 そして3月に開催するのが、従業員全員が参加する「一家祭り」。これは、学生アルバイトスタッフの卒業式も兼ねています。各店舗ごとの目標に対してどのような取り組みを行ったのかを発表して、優秀店舗をスタッフ全員で審査して決めます。参加したアルバイトスタッフがすごく感動して、卒業するまで働きたいと申し出てくれました。


「一家祭り」

 また、毎月1回はC1K1グランプリと称して、C1はカスタマーつまりお客様からどれだけ支持されたかがによって、各店のナンバーワンを決める。K1はキッチンスタッフの中で輝いているナンバーワンを決める、という具合です。報酬は、一家グループで利用できる食事券などですね。

飲食店で働く楽しさを多くの人と分かち合う。

 今後の目標としては、とりあえず2010迄に15店の直営店を出すこと。

 地域密着型店舗ですから、業態は同じものではなく、常に新しいものを作り上げていく力を持つ企業でありたいので、新業態を3〜4店舗出店したいですね。

 何度も繰り返している通り、一家で働いて独立して成功するという人をどんどん輩出していきたいので、社内FC店というスタイルを取っています。これは、減価償却が終了した店舗に関して、家賃と店舗使用料という形で店主に支払いをしてもらうという形です。

 FC店オーナーになる資格は、社員の在籍3年店長2年の経験が必要。そしてもちろん、本人に独立の意思があって、更に私が大丈夫だと太鼓判を押せる人物です。

 05年2月市川に開店した、板そばとおばんざい 花の庵というお店は、06年4月に社内FC制度が適用されて、初めて社員が独立しました。こうして独立して成功して社員が増えるに従って、どんどん良い人材が集まるのではないかと考えています。


スタッフが書いた今年の目標

 弊社の直営店は15店舗程度で、それ以上増やした店舗は独立させていく、という形にしたいですね。1年に1店くらいは独立させてやりたいので、年間5000万円くらいの経常利益を出していきたい。その程度の利益があれば無理はありませんから。

 現在は、居酒屋甲子園のお手伝いをしておりますが、こうした活動からも感化されて、千葉の飲食店を盛り上げたいと考えて、千葉フードリームと名付けた勉強会を06年9月に開催しました。

 これは、千葉で働く飲食店経営者とスタッフが参加して、講演会やケーススタディをディスカッションしたりするもの。今後もこうした活動を通じて多くの方たちに、飲食店で働く楽しさや感動を、味わってほしいと考えています。
 




武長 太郎(たけなが たろう)

株式会社一家ダイニングプロジェクト代表取締役。1977年、千葉県生まれ。千葉を中心にアッパー居酒屋を展開。飲食店で働く楽しさや感動を、味わってほしいと、「居酒屋甲子園」「千葉フードリーム」でボランティアとしても活躍している。

株式会社一家ダイニングプロジェクト http://www.ikkadining.co.jp/index.html


取材・執筆】 石田千代 2006年12月6日