・造船場跡地に立地する親水型の商業施設「ららぽーと豊洲」
かつて京浜工業地帯の中心地の1つとして、重化学工業の工場が立ち並んでいた豊洲は、2000年以降の大規模マンション開発ラッシュと、オフィスビルの増加で日々変化する、湾岸再開発の要所の1つとなっている。
今年2月には「豊洲IHIビル」が完成し、石川島播磨重工業の本社が大手町より移転。3月には、ゆりかもめが有明駅から延伸開業。4月には、芝浦工業大学が田町より移転。9月末には地上40階建ての地下鉄有楽町線豊洲駅直結の高層マンション「豊洲シエルタワー」も竣工した。
6〜10年後には、「築地市場」の移転も計画されるなど、豊洲駅前はさらなる発展が見込まれており、将来的には就業人口約3万3000人、居住人口2万2000人に達する複合的な街づくりが計画されている。
「アーバンドック ららぽーと豊洲」は、この一帯の臨海副都心で、商業の核となる大規模商業施設であり、地下鉄有楽町線豊洲駅に隣接し、10月5日のオープン以来、新しいファミリー層に対する斬新なショップ構成で、注目を集めている。事業主は三井不動産で、店舗数は190。
晴海運河に面した、地上5階建て、店舗面積約6万6000平方メートルの建物で、年間約310億円を目標とし、1年で約1300万人の入場を想定している。駐車場台数は約2200台、駐輪場台数は約1700台。店舗は1〜3階に立地する。
オープンしてからの最初の1カ月で、約200万人が入場しており、ほぼ計画どおりにスタートした模様だ。
“アーバンドック”と付いているのは、元石川島播磨重工業の造船場跡に立地し、「ノースポート」、「センターポート」、「サウスポート」と呼ぶ3つの連結した港を模した建造物に、「シップス」と呼ぶ船の形をした4つの建造物が横付けされるという、独特な施設のデザインに由来している。
3つの「ポート」と4つの「シップス」は、コの字型に配置され、コの字の内側にドッグランや庭園を併設した広場があり、そのまた内側は、造船ドッグを産業遺産として保存し、アニメ界の巨匠・松本零士氏デザインの水上バス「ヒミコ」の乗船場が設置されて、浅草やお台場と結ぶという、凝った親水型のデザインだ。運河に面したドッグの入口には跳ね橋が掛けられ、「ヒミコ」が乗り入れるたびに、ダイナミックに開閉する。
また、3つの「ポート」と4つの「シップス」の内側はモールを形成し、「ポート」と「ポート」の間は施設外との出入口、「シップス」と「シップス」の間は広場や水上バス乗船場への出入口となっている。
施設のデザインを担当したのは、商業施設に世界的な実績を持つ、アメリカ在住のジョン・ロウ氏。日本でも「ららぽーとTOKYO−BAY」(千葉県船橋市)、「河原町オーパ」(京都市中京区)、「ショッパーズモールマリナタウン」(福岡市西区)などを手掛けている。
2008年春には、三井不動産と石川島播磨重工業の共同事業で、地上52階など3棟のマンション「パークシティ豊洲」、1481戸が竣工。「アーバンドック ららぽーと豊洲」と直結し、雨に濡れないでショッピングに行けるようになる。
郊外でありながら、地下鉄に乗れば銀座まで5分という立地の良さから、販売はすでにほぼ完了しており、この新しい商業施設の周囲のまちづくりは、将来性が豊かである。
・反響大きいニート解消の期待を背負う「キッザニア東京」
・海をテーマにした各国レストランやバギー族を狙った店が続々
・WDIはケイジャン風シーフードとハワイアン新業態で勝負
さて、個々の企業ごとに出店の狙いと現状をレポートしていくと、まずWDIは3階に「ババ・ガンプ・シュリンプ」、1階に新業態「ハノハノキッチン」と、2店を出店して
いる。
「ババ・ガンプ・シュリンプ」は、「キッザニア東京」の真向かいにあり、しかもこの施設内のレストランでは東京湾の夜景が一番きれいに見える、好立地だ。窓越しに、レインボーブリッジが見える。
同店は、アカデミー賞を1994年に受賞した、映画「フォレスト・ガンプ」をテーマにしたアメリカン・シーフード・レストランで、96年カリフォルニア州にオープン。現在まで、アメリカ本土、ハワイ、メキシコ、フィリピン、日本、バリ島に出店している。
WDIが出店する日本国内の店としては、大阪の「ユニバーサル・シティウォーク」、東京の「ラクーア」次ぐ3店舗目、海外も合わせると5店舗目である。
「ババ・ガンプ・シュリンプ」
「ババ・ガンプ・シュリンプ」店内
シュリンプディッピンブロス(1995円)
店内は、波型の鉄トタン壁や粗削りの木材などを使い、ガンプがエビ漁に勤しむ映画のシーンを、彷彿させるものとなっている。バナメイエビを使ったシュリンプのメニューを中心としたアメリカン・シーフード・レストランで、アメリカ南部、特にケイジャン寄りの料理が中心となっている。
194席ある広い店だが、平日の来店者数200人、休日は600〜800人と、圧倒的に休日が強い店になっている。客単価は2600円ほどで、特に休日は車で来店する人が多いので、お酒を飲む人があまりいない。今後は、パーティー獲得を強化し、ビバレッジの売り上げにも力を入れるとのことだ。
顧客層は、平日の昼はお子さん連れの女性、夜はサラリーマンが主流で、休日は家族連れが圧倒的に多いという。キッズメニューを注文すると、マグネット付きの小さな海老のキャラクター「ルイ君」のぬいぐるみがプレゼントされるのは、この店のみの企画だ。
「キッザニア東京」効果について聞いてみると、「ちょうどお昼の時間や、夜のお食事の時間に利用されていて、お母さんもお子さんの目が離せないので」(八戸洋輔店長)とのこと。
「キッザニア東京」には、朝10時から3時と、夕方4時から9時までの2回、利用できる時間帯があるのだが、一度入ったら途中で抜けられない仕組みになっている。夜に利用する人が入場する前に利用するケースは比較的多く、案外2時、3時頃に店が混んだりするのだという。
一方の「ハノハノキッチン」は、1階の広場に面した場所にあり、新業態のハワイアンクイックカフェだ。ハワイのローカルフードを本場の味をカジュアルに提供する店で、テイクアウトの需要も4割ほどある。ファーストフードとの違いは、全て店内でメニューの仕込みを行っていることである。
「ハノハノキッチン」
ハワイアン オックステールスープ(ライス付き、850円)
席数は9席で、顧客単価は約830円。共有スペースのテラス席でも、イートインが可能だ。
顧客層は平日は施設内の従業員が4〜5割を占め、残りは子供連れの女性が多い。休日は親子連れ、サラリーマンやOLがオフで来るといった模様だ。顧客数は平日で120〜160人、休日で300〜400人で、雨の日などは弱いがほぼ計画どおりとのことだ。
食事のメニューは、「ハワイアン オックステールスープ」(ライス付き、850円)、「ロコモコ」(オリジナルグレイビー、完熟トマト、スパイシーカレーの3種、850円)、「スパムムスビ」(250円)に絞っている。ドリンクは、「ハワイアンコナ・ブレンドコーヒー」(250円)や、「ホットチョコレート」(300円)が人気だ。
いずれも、ハワイのフードコートでは人気のものばかりで、WDIの福島統括シェフが、ハワイ中のフードコートを食べ歩いて新規に開発したという。
特に「ハワイアン オックステールスープ」は、日本では前面に打ち出した初めての店だろう。テールの肉を刻み生姜を入れた醤油に漬けていただくのだが、なかなかこれが合っている。ダシの効いたスープは、タイ料理などでよく使うパクチーが入っているが、嫌う人もいるので、注文の際には、入れていいのか必ず顧客に聞いている。
また、「ロコモコ」で人気のオリジナルグレイビーとは、ハワイで一番ポピュラーなソース。100%ビーフハンバーグの焼き汁を加え、濃厚でマイルドな味に仕上げている。ハワイより来日したロコも納得の味だという。
フラダンスをはじめ、今、日本ではハワイアンカルチャーがちょっとしたブームである。ありそうでなかった業態なので、期待してみたい店だ。
・個性的な21世紀のファミレスはアメリカンポップの世界を表現
「ラゾーナ川崎プラザ」のベルギービール専門店「パトラッシュ」で、大ブレイクを果たしたダイヤモンドダイニングは、21世紀のファミレス「ファミレス キャンディ」と、スペアリブ専門店「ガブリブ」という、これまた個性的な2つの店を出店している。ともに1階にある。
「ファミレス キャンディ」は、20代、30代のバギー族がメインターゲットで、施設ターゲットのストライクゾーンを狙った店だ。しかし、そこには同社でなければ思いつかないような遊び心をくすぐる仕掛けが随所にあって、決して飽きさせない。
1つはキャンディーレッドと白のカラーリングでまとめた、60年代を思わせるちょっとレトロなインテリアである。鮮やかで暖かみがある空間の中に、天井からはシャンデリアが釣り下がっており、独特なスタイルでアメリカンポップの世界を表現している。
「ファミレス キャンディ」
「ファミレス キャンディ」店内
ウエートレス
飛び出すメニューブック
キッズプレート・オムライス
シュークリーム
ウエートレスのコスチュームは、元気の良さと萌えを追求し、ホットパンツにドットのカチューシャで決めている。休日には、コスチューム見たさに、店舗におたく青年も出没するという。誕生日の人や「お子様ランチ」などを注文した人には、席でウエートレスが歌を歌ってくれるサービスもあり、「ハッピー・バースデー」の歌や、季節柄クリスマスの歌がよく聞かれ、賑やかである。
メニューブックも、子供用のものは飛び出す絵本になっていたり、ハート型をしていたりと、それだけでも楽しめる。
ランチは、ベビー用(780円)、キッズ用(980円)、大人用(1280円)と3種類ある、年代別にファミリーで楽しめる「お子様ランチ」がメイン。
ベビー用は車を模したプレートに盛りつけてあって、チキンライスには旗が刺してある。キッズ用はメインをオムライス、ナポリタン、カレーライス、チキンピラフから選べ、タコさんウインナーが入っていたり、おもちゃが付いてきたりする。
大人用は、メイン(オムライス、ナポリタン、カレーライス、シーフードピラフ)1つと、サイド(エビフライ、カニクリームコロッケ、メンチカツ、フライドチキン)2つを選べ、ハンバーグ、サラダ、スープが付いてくる。
夜は、「ヤリイカと青ジソの明太子スパゲッティー」(980円)など、パスタの人気が高い。
また、パフェやスティック状のシュークリームは、テイクアウトできる。
顧客層は、やはりバギー族中心だが、夜はビールも結構出るので、デートで使われるケースも多いという。
席数は84席。月商は2300万円ほどになり、順調な滑り出しと言えるだろう。
実験的な「ファミレス キャンディ」に対して、スペアリブ専門店の「ガブリブ」は、飲食店の業態開発のセオリーを踏まえて、正攻法でつくったような店だ。「ハノハノキッチン」の隣にある。
アメリカではポピュラーなフィンガーフードのスペアリブを、手軽にテイクアウトで楽しんでもらおうという趣旨の店で、「スペアリブ」(BBQとレモンペッパーの2種、340円)、「リブドッグ」(420円)、「リブDON」(560円)、「リブガンボDON」(580円)のほか、サラダやドリンクを組み合わせたセットメニュー(780円〜940円)もある。
また、夕方16時以降の夜はスペインバルの顔を持ち、スペアリブはもちろん、「ハモンイベリコペジョータ」(980円)、「小ヤリイカのフリット」(540円)などのタパスで、ビールやワイン、サングリアが楽しめる。
イートインのスぺースは12席で、月商は500万円くらいだ。
顧客層は、テイクアウト需要は、昼は奥さん連中や施設内の従業員が多く、夜はホームパーティー用が主流。夜のイートインは、サラリーマン、カップルが目立つそうだ。
ありそうでなかった、ファミリーが気兼ねなく行ける店とスペアリブ専門店で、今回も存在感を示したダイヤモンドダイニングだが、100業態を目指す同社としては、達成度はまだ3割程度ということになる。
「来年中になんとか50業態にはしたい」(重田委久子 企画・広報部チーフ)とのことで、どんな面白いアイデアが飛び出してくるのか、目が離せない。
「ガブリブ」
「リブドッグ」(420円)
・「玄品ふぐ」の関門海がバルニバービと提携、陽気なバルを出店
とらふぐ料理専門チェーン「玄品ふぐ」で著名な関門海は、1階の広場と水上バスの乗船場に面した場所に、ポルトガルの港町にある陽気なバルをイメージした、「バルデゲー」を出店した。
「バルデゲー」を開発するにあたり、同社ではチェーン発想を払拭するために、顧問の芸術家・綿貫宏介氏にプロデュースを依頼。若い頃、ポルトガルのリスボン大学に留学していた綿貫氏は、立地を見て、ポルトガルの港町のバルにコンセプトを決め、現地の職人に3カ月かけて伝統的なタイルを焼かせたり、鉄製の手作り感のある照明を芸術家仲間に依頼するなど、手腕を発揮して、大人がゆったりくつろげて旅情のある空間を構築した。BGMも綿貫氏が、雰囲気に合うようにコーディネートを行っている。
「バルデゲー」店内
「バルデゲー」厨房
また、メニューの面では、大阪・南船場の「カフェ・ガーブ」や東京タワーの目の前にある「ガーブ・ピンティーノ」などのヒットで知られる、バルニバービと提携し、スペインバルの見せ方でヨーロッパ各地の料理を提供するスタイルを構築。チラシ制作など、販売促進の面でも、感性豊かなバルニバービのスタッフの協力を得ている。
オペレーション面でも感性の豊かなメニューを扱えるように、店員をバルニバービの店に派遣して、研修を行っている。
月に1度は、バルニバービとミーティングをして、店の改善を続けていくという。
メインとなるメニューは土鍋料理で、「アサリのパエージャ」(900円)、「エビとマッシュルームのアヒーリョ」(900円)などが人気。鉄板焼きも、「タラバガニの香草バター風味」(1500円)、大エビ(2本1500円)など、迫力がある。
タパスはスペイン産生ハムの「ハモンセラーノ」(1200円)、「ブロッコリーとシラス ドライトマトのマリネ」(550円)など、魚介類を使ったものやスペイン料理が提案されている。
ドリンクは、店で仕込む「オリジナルサングリア」(グラス500円)、スペインのスパークリングワイン「モンサラ ブリュット」(3000円)などに特徴がある。
締めはパスタで、「ゴンゴラーゾチーズのペンネ」(1300円)、「有機卵のカルボナーラ」(1200円)のほか、日替わりで「本日のパスタ」が提供される。
また、ランチはパエージャのプレート(1600円)、パスタ2種類、カレーを出している。
席数は56席あるが、客数は平日50人、休日150人といったところ。昼間は買物客のバギー族が多いが、夜は4、5人連れのお酒を飲む30代〜40代のサラリーマン、OLが中心となる。休日は家族連れも多いが、他店ほどではなく、サラリーマン、OL、カップルが中心という。忘年会の需要も少しづつ入ってきている。
客単価は夜で3800円、男女比は6対4で男性のほうが多い。
「弊社の強みは中国でとらふぐを養殖する技術を開発したように、素材開発にあります。今回この店を出すにあたって、イカやアサリの開発が進みましたし、飲食店として同じように店を出していても、儲け方が違うという理想に一歩近づきました。具体的にメニューをつくって、使い方も研究していますから、素材提供企業としていろんな仕掛けができるんです」と、関門海取締役の林泰広氏。
最近の同社は、かに料理の「以蟹茂」、カレーの「直釜カレー」といった、とらふぐ専門店以外の新規事業が目立つ。「バルデゲー」では、個店としてデザイン性の高い店もつくれることを証明するとともに、次の収益の基となる、素材開発の面で大きなメリットがあったということだ。
ブロッコリーとシラス ドライトマトのマリネ
アサリのパエージャ
タラバガニの香草バター風味
・「ららぽーと柏の葉」には650席の巨大フードコート出現
一方、「ららぽーと柏の葉」は、今後大規模な再開発が予定されている、つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅前に、11月22日にオープンした。
「ららぽーと柏の葉」
こちらは、元々三井不動産が所有していたゴルフ場が、駅の開設にあたって区画整理のため閉鎖になり、その跡地を再開発したものである。
最近は“常磐線の渋谷”などと言われ、沿線随一のファッショナブルタウンとなった柏市なのであるが、柏の葉キャンパス駅周辺は他のつくばエクスプレス沿線の駅前と同様に、今までほとんど何もなかった。
しかし、駅の西方には、柏レイソルの準本拠地「柏の葉総合競技場」や東京大学の柏キャンパスがあり、一帯は国土交通省が選定した「学術・新産業拠点」に位置づけられて、将来的な発展が見込まれている。現に、「ららぽーと柏の葉」と反対側の駅東口には、高層マンションが建設工事が始まっている。
「ららぽーと柏の葉」の反響は大きく、オープン日には開店の前に約2000人の行列ができた。想定していた半径5キロ圏の柏、流山、野田の市民約45万人に加えて、電車や車で、守谷、つくば、土浦など茨城県西部から来る人も多いようだ。常磐自動車道の柏ICからは、約2キロと近いのである。
「ららぽーと柏の葉」の概要は、店舗面積約4万1000平方メートルで、185店が入居。店舗は1〜3階に立地する。駐車場は約2400台が収容できる。売上目標は年間約200億円で、入場者数約1000万人を目指している。
キーテナントは、食品スーパー「東急ストア」、10スクリーン・2009席のシネコン「MOVIX柏の葉」、日本初の本格的タラソテラピーを提供する「タラサ志摩スパ&リゾート」がプロデュースするフィットネス1号店の「カルナフィットネス&スパ」である。
また、「アトリウム」、「屋上農園」、「屋上庭園」、「太陽光発電パネル」、「風力発電装置」などが設けられ、環境に配慮した施設になっている。
全般に環境、健康、循環といったテーマに基づく施設で、千葉大学と提携した鍼灸院があったり、壁や床に極力、化学物質を使わないケミカルレス保育所があったりと、なかなか頑張っている。施設全体もISOの環境の認証を受けており、きっちりした裏づけされた提案なので、いわゆる環境ブームに乗ったものではないのである。
施設全体の年齢的なターゲットは、団塊世代とシニア予備世代の40代、50代で、そのジュニア及びファミリーまでを考えている。
そこで、「マンシングウェア」や「アーノルドパーマー タイムレス」といったある種懐かしい息の長いブランドとともに、「ユニクロ」や「ライト・オン」が入居するというリーシングになっている模様だ。「HMV」、「アクタス」、「無印良品」などはこちらにも入っている。
飲食は3階にある650席の巨大フードコート「コミュニティ・ダイニング」がメインだ。ゆったりとくつろげる、フカフカのソファー席や、暖炉のある個室のような空間もあって、なかなか快適である。
「コミュニティ・ダイニング」には、「担々麺と焼売 福龍」、「キハチソフトクリーム」、「丼専家 一碗屋」、「ステーキ&ハンバーグ 金の牛」、「横濱三本珈琲」など多彩な13店が入居し、1000円くらいまでで食事が取れて、デザートまで楽しめるようになっている。
そのほか、飲食は28店あるが、3階がメインで、1階にはカフェ、スイーツなど軽いものが多い。主な店は、自由が丘に本店があるメキシコ料理「ロザリオ」、団塊世代女性に人気の「梅の花」(梅の花)、犬と一緒に楽しめる「ジョーカーズ・ダイニング」、スープカレー「心」(リンクワン)、産地にこだわった素材や健康食のブッフェ「八菜ドゥブランシェ」(ニラックス)などである。
「コミュニティ・ダイニング」
メキシコ料理「ロザリオ」
ブッフェ「八菜ドゥブランシェ」
・犬と食事ができる本格的レストランをペットショップが提案
そうしたレストラン群の中でユニークなものとして、1階には、関東一円の百貨店などにペットショップ13店を展開するジョーカーが、犬と一緒に食事ができる本格的なレストラン、「ジョーカーズ・ダイニング」をオープンしている。
この「ジョーカーズ・ダイニング」は、単に犬と入れるだけのレストランやカフェだと思えば大間違いだ。プロのシェフをスタッフに迎え、本格的な11種のパスタ、サラダ、スイーツなどのメニューを提供するとともに、ジャズが流れるおしゃれな空間を構築しており、レストランそのものとして、心地よく過ごせるだけの完成度に達している。
「ジョーカーズ・ダイニング」店内
「ジョーカーズ・ダイニング」店内
同店のオープンの背景としては、ジョーカーで犬を購入した会員向けに発行している、会員誌「ジョーカーズマガジン」のアンケートで、3年ほど前から、犬と入れる本格的なレストランをぜひ作ってほしいと、要望が多く寄せられていたことがあった。
ジョーカーの瓜生敏一社長自身、グルメ好きで、数々の店を食べ歩いて構想を膨らませ、シェフのアドバイスのもと、1年半の準備期間を経て、イタリアンにカレー、サンドイッチなど多国籍の料理を組み合わせたメニューを持つ店を提案した。
席数はテラスも合わせて、57席である。
特にチキンとシーフードの2種類あるカレーライスは、瓜生社長のこだわりが良く出たメニューで、その中でも「激辛チキンカレーライス・プチサラダ・プチデザート付」(1280円)は、骨つきの鶏のもも肉が入り、激辛だけどおいしいと評判という。
また、服部栄養専門学校の監修で、8種類のアボカドを使った「アボカドサプリジューズ」(630円)などのメニューを出しており、美肌効果、生活習慣病予防、肝機能アップ、悪玉コレステロール撃退といった効果が得られるという。
「アボカドサプリジューズ」(630円)
犬用のメニューは、砂糖などを入れた濃い味つけこそしていないが、素材は人間の食事と同じもので提供しているので、犬も喜んで平らげる。
こちらは、「若鶏のキャベツスープ煮」、「馬肉のカルパッチョ」、「ハンバーグステーキ」あたりが人気で、犬の大きさに合わせて、Sサイズ(420円)かLサイズ(630円)が選べる。
また、バースデーケーキを予約制でつくっているが、今は季節柄クリスマスケーキを受注しており、順調に売れているという。
そのほかにも、小型犬を、テーブルに備えつけたカートのようなものに入れる、「ワンちゃんシート」を考案したり、犬のスイーツづくりをオープンキッチンで見せたりと、さまざまな工夫を行っている。
なお、隣にはジョーカー直営のペットショップを併設しており、トリミング、ドッグテラスなども備えている。
顧客層は、犬連れの女性が7割〜8割と多いが、ランチでは30代くらいの犬連れの主婦がおじいちゃんやおばあちゃんと一緒に来店するケースも多い。また、休日には、夫婦が犬を連れずに、下見にお茶をする光景もよく見られる。
いわゆる“ジョーカーのお客さん”がやはり多く、遠く横浜、逗子、千葉、大宮などからの来店も目立っている。車での来店者が多いのでお酒を飲む人は少なく、客単価は1500円弱と安めだ。
「犬好きの人たちがオフ会を開いたり、犬を飼っていない人もくつろげたりできるような空間をつくっていきたいです。もっと多くの人に、こういう店があるのだと知ってもらいたいですね」と、同社店舗統括部の中島秀輔部長。
この店に連れて来られるような犬は、しつけとケアが行き届いていて、周りの方に迷惑を掛けることはほとんどない。欧米に比べても、日本は犬と入れない店が多いが、「ジョーカーズ・ダイニング」のような店が増えて、飼い主、商店・レストラン双方の意識が高まっていけば、状況は変わって行くのではないだろうか。
けっこうぜいたくなワンちゃんメニュー
ワンちゃん用ケーキ
・新しい“ポピュラー”をつくることに挑戦した「ららぽーと」2店
以上、この秋にオープンした「ららぽーと」2店は、立地はかなり違うが、ともに将来、周辺地域の開発が見込める、成長性のある交通が便利な地域に出店している。
三井不動産が手掛けた物件では、「ラゾーナ川崎プラザ」が、あまりにも好調なので、それと比較すれば、各レストラン業者は「1カ月でオープン景気は終わってしまった」と嘆くが、そもそも地域密着とは、1年か2年で回収するものを指さない。時間をかけて店をつくりあげていくタイプの店が残っていくのだから、普通に立ち上がったと考えていい。地域が成長すれば、チャンスは広がるので、まさにこれからである。
店の傾向を見ると、「ららぽーと」2店の意義は、これまで「ダサく見られるのが嫌だ」という理由で、新興の飲食ベンチャーが避けてきた“ファミレス”を、再生させようという意思を、ディベロッパー側も飲食企業側も持ち、答えを幾つか見出したことにあるのではないか。
「ファミレス キャンディ」のようにストレートに、21世紀のファミレスとうたった店もあった。
また、「ジョーカーズ・ダイニング」に見るように、レストランも犬も家族のまさに一員と考えてオペレーションしないと、いけない時代になってきたことが示された。
「ハノハノキッチン」のように、ファーストフードではないが、クイックに提供するフードのあり方の提案もあった。それを“ファーストカジュアル”というのかどうかはわからないが、ポストファーストフードの1つの方向性であることは、間違いないだろう。
ただし「アーバンドッグ ららぽーと豊洲」では、モールの外に出ないと入れない店が、寒さや雨に弱く、天候に左右される不利が出ていることは否めない。雨除けをつくったり、何かアイキャッチをつくって、動線をつくりだす工夫は必要だろう。
一度、地に落ちた“ファミレス”という言葉は、実は“ポピュラー”という意味なのだと、ヒュージ社長の新川義弘氏は語っていたが、新しいポピュラーが何なのかを探る、真剣な取り組みが、「ららぽーと」2店を機に始まったと見ていいのではないだろうか。