駐車場の上のスペースを店舗・事務所にするというアイディアを実現させたのは、(株)フィル・カンパニー(代表:松村方生)。駐車場に鉄筋で土台を作り、その上に主にアルミ材と板ガラスを用いた建物を建設する。この建築資材はリユースやリサイクルが可能で、数年後に撤退する場合は別の場所に移築できるのがポイントとなる。
建物の設計と製造は、アルミ製住宅製造会社のエスユウエス株式会社が請け負った。建物を建設することによって、駐車場のスペースを減らすこともないという。本商品は、フィル・パークと名付けており、技術的には駐車場2台分、9坪からのスペースがあれば、車のストッパーなどにも影響せず、あらゆるタイプの駐車場に対応する。また、2階建ての建設も可能であるという。
(株)フィル・カンパニーは、05年6月に設立。同社代表取締役の松村方生氏は、同社設立以前に、都市再生プロジェクトを手がけるR-projectに参加。その際に駐車場の上のスペースを生かし、リユース、リサイクルできる資材を利用したビジネスを思いついた。06年3月にはショールーム兼オフィスとなる「フィル・パーク八重洲」を竣工。スタイリッシュなオフィスが完成している。黒豚劇場は、商業用の1号店として開店した。
「フィル・パークは、飲食店はもちろん、ブティックや美容院、オフィスなどアパレル等のショールームなど様々な用途に活用できます。中でも飲食店は制約が多く、設備関係の問題等難しい部分があったのですが、敢えて最初に飲食店を開店させたことで、全ての業態に利用できることをアピールできたと思います」と、松村氏はコメントする。
フィル・パークを建設した際、土地の所有権は駐車場オーナー、建物の所有権はフィル・カンパニーとなる。オーナーとフィル・カンパニーで契約が成立した場合、建物はフィル・カンパニーが費用を負担して建設。テナントはフィル・カンパニーと契約して家賃を支払う仕組みだ。導入した場合のメリットをまとめると、駐車場オーナーにとっては駐車場料金の他に空中部分の家賃が入ること、建設期間も約1〜1.5カ月と短期間であることが挙げられる。
土地を駐車場にするのは、現在のところ使用用途が定まってない、いずれビルを建設する予定であるが、現在は資金が不足している、周囲の立ち退きなどの問題で中途半端な広さである、などの理由が多く、駐車場運営会社とは通常2〜3年間の契約としており、長期的には土地の別利用も考慮しているケースが多い。こうした事情からも、建設期間は短い方が良い。フィル・パークに入居するテナント側にとっても建設期間が短いのはありがたい。
また、新たに建設を行うため、使用用途によってカスタマイズしやすく、オリジナリティを出しやすい。
通常店舗の賃貸の場合、保証金が10カ月以上というケースも少なくないが、フィル・パークの場合は2〜4カ月が基本であり、初期投資が安くてすむ。黒豚劇場のケースでは、家賃は相場程度。テナント家賃については今後、相場よりも安い水準の達成を目標としている。
オーナー、テナント双方とも、期間が3年と固定される難点はあるが、都心一等地の新しい活用方法としてユニークなビジネスモデルと言えるだろう。
フィル・パーク1号店となったのは、ダイニングの黒豚劇場と、ワインバーのKurobuta
Gekijo Part2(以下、Part2 と表記)の2棟。経営母体は、埼玉県川越市の株式会社ひびき(代表:日疋好春氏)。同社は東松山の名物である味噌ダレ焼きとりのテイクアウト専門店のチェーン展開を行っており、2006年12月現在で11店舗を運営する。
ユニークなのは、東松山の焼きとりは、豚肉が主流であること。したがってやきとりとひらがなで表記することが多い。一口大に切った豚肉もしくは鶏肉を串に刺して塩焼きにしたものに、唐辛子の入ったピリ辛の味噌を添えて提供する。
(株)ひびきは、テイクアウト店を中心に展開してきたために、通常の飲食店経営のノウハウが無い。このため、店舗プロデュースならびにオペレーションは、東京都台東区の外食企業である(株)エムズダイニングの協力を受けた。
「コンセプトはひびきのお膝元、埼玉県です。」と、語るのはエムズダイニング代表取締役の望月厚志氏。彩の国黒豚を全面に生かしたメニューで、埼玉の地ビールや地野菜、調味料など食材は可能な限り、埼玉県産のものを使用する。
また、埼玉名物として名高い川越唐桟の織物をコースターや、スタッフのユニフォームに利用している。店舗のロゴも、豚と埼玉県の形とを重ねたものだ。
また、「3年で初期投資が回収できるモデル」であることも大きな課題であった。黒豚劇場のメイン客層は、20代後半から50代のビジネスマンであり、同店の客単価は5000円とアッパーミドルの価格帯に設定。価格に見合った満足度の高いメニュー構成を目指した。
黒豚劇場は17坪33席、Part2は13坪46席の店舗規模であり、目標月商は2店舗で700万円である。食材原価率、人件費共に無駄を省き、収益を確保する業態設計がなされている。
3年熟成させた自慢の味、魯仔喃亭(ロシナンテイ)の生ハム
手前から時計回りに、串焼き各種1本350〜500円、彩の国黒豚のKOTOKOTOトマト煮1,280円、ミミガーのコラーゲンたっぷりサラダ780円
手前から時計回りに、魯仔喃亭(ロシナンテイ)の3年熟成生ハム2,480円、黒豚劇場の角煮2,100円、新鮮レバーパテ680円
看板料理の焼きとりは、ひびきより串に刺された状態で配送されるなど、P/Aを中心とした調理でも可能なようにオペレーションが組まれている。
人気メニューは、特上黒豚やきとん ひびき500円(1本)。「黒豚ステーキとして提供できる品質とボリューム」と、スタッフが太鼓判を押す自信作だ。この他、黒豚やきとん400円、黒豚かしら350円などの串焼きは、来店客のほぼ全てがオーダーする。黒豚劇場の角煮1,800円は、柔らかく煮込んだ豚の角煮を卓上コンロと共に熱々の状態で提供。豚バラ肉の他に豚足も入り、コラーゲンの補給にももってこいのメニューである。
また、川越市の人気スペイン料理店から特別に分けてもらったのが生ハム。黒豚を使用し、3年間熟成させた希少性の高いものだ。こちらの魯仔喃亭の3年熟成生ハムは2,480円で提供。この他にも、ミミガーを利用したミミガーのコラーゲンたっぷりサラダ780円や、彩の国黒豚のKOTOKOTOトマト煮1,500円などの個性的なラインアップだ。
一方のPart2では本格的な厨房を設けておらず、ドリンクを提供するディシャプコーナー中心。黒豚劇場の全メニューのオーダーできるよう、黒豚劇場で作成したものを持参するシステムを準備している。客単価は2800円に設定し、ワインやカクテルの種類を増やすなど、ウエイティングやアフターディナーなどカジュアルな場面での利用を想定する。
同店の内装を手がけたのは、(有)空デザイン。ひびきより「正直で楽しい」「世界に誇る和の文化」「原っぱ」などというリクエストがあり随分悩んだというが、カーペットの一部に人口芝生を利用するなどでリクエストに応えた。
「Part2」
一方のPart2 は、隣のお客とも気軽に話しをする立ち飲みのような気軽さがありながら、女性客にもウケるお洒落なダイニングスタイルとした。同店は上述した通り、様々な企業の協力によって誕生した。チーム黒豚劇場は以下の通りのメンバーとなる。
株式会社ひびき(企画・食材提供)
http://www.hibiki-food.jp/
株式会社エムズダイニング(運営協力) http://www.ms-dining.co.jp/
株式会社フィル・カンパニー(空間プロデュース) http://www.philpark.jp/
エスユウエス株式会社(建物設計・製造) http://www.sus.co.jp/
有限会社空デザイン(内装デザイン) http://www.kuudesign.com/