ライブ活動も行う「ぴなふぉあ」のメイド。
・店の日々の営業がストーリーとなっていく新感覚のメイド喫茶
最近のメイド喫茶の1つの流れは、ストーリー性を重視した、世界観をしっかりと構築した店が増える傾向にあることだ。
秋葉原に昨年3月にオープンしたメイド喫茶「シャッツキステ」は、階段でしか上がれない古い小さな雑居ビルの5階という、飲食店としては圧倒的に不利な条件を逆手に取り、“洋館の屋根裏部屋”との設定で、熱心なファンを獲得している店だ。店名はドイツ語で“宝箱”を意味する。
店内はアンティークの家具や時計、棚に並んだ本、メイドの手づくりという木の板にペンキを塗った壁面などで空間が構築されており、クラシックな洋館の屋根裏部屋の雰囲気が巧みに表現されている。そこに静謐なバロック音楽が流れ、たおやかなメイドが給仕をする。顧客は現実とは隔絶した、おとぎの世界に浸れるというわけだ。
「シャッツキステ」店内
オーナー・エリスさん
「二次元のアニメの世界にどれだけ近づけるかを、テーマにしています。メイド一人一人のキャラクターが立っていて、毎日が同人誌や自主制作のCDを生み出す原案、原作となるようなテーマカフェを目指しました」と語る、代表のメイド長・エリスさんこと、前原絵里子さんは、秋葉原の有名メイド喫茶「メイド・イン・エンジェルズ・カフェ(略称・ミアカフェ)」で、約1年間メイドとして働いた後、自らの理想とするメイド喫茶を具現化した行動派である。
前原さんの他の8人のメイドは、3人がマンガ好きのオタク、2人が音楽系、2人が美術系、1人が小説を書く文学系と個性的。店に置いてある自由に閲覧可能な本は、各自が家から持ち寄ったものである。また、それぞれが同人誌、CD、人形、ポストカードなどを制作して店内で販売したり、バイオリンの演奏会を店で突発的に開いたりと、店が各自の創作物、あるいは特技の発表の場となっている。
昨年の春先は、まだまだ世間のアキバブームが覚めやらず、秋葉原のメイド喫茶はどこも顧客があふれ、元からのユーザー、いわゆるオタク層にとって、居心地の良い空間とは言い難い状況になっていた。前原さんは、そうしたメイド喫茶の現状に不満を持つ、オタク層に顧客対象を絞った。
13席の狭い空間でもあり、人目につきにくい場所に立地するのは、かえって長所になると考えた。個人開業で資金があまりないということもあったが、家賃も10万円程度と電気街の中にしては安く、あとはアイデアで集客する、起業家らしい発想の店だ。
狙い通り、特に宣伝をしなくても口コミで徐々に顧客が増えて、ゴールデンウイーク頃には軌道に乗り、満席になる日も出だしたそうだ。
ところで、メイドというものは一般的に、屋根裏部屋では住むことはあっても、奉仕はしないが、そこは「屋根裏部屋で密かに詩を書いたり、絵を描いたりして趣味を楽しむ若だんな様がいて、何人かのひいきのメイドだけがその秘密を知っている…」とのストーリーが設定されており、ホームページで公開されている。
システムは30分500円で紅茶飲み放題が基本で、あとはお好みでクッキー(5枚100円)があるくらいと、飲食のメニューは限られているが、これは空間重視のコンセプトに基づいて、あえて絞り込んだ部分なのだという。
顧客は18歳〜40歳くらいまでで、男女比は6:4で男性がやや多く、1人から3人で来店して、1時間ほど滞在する人が多い。そこで、本を読んだり、店にあるボードゲームで遊んだり、常連同士ならサロンのように、共通の趣味のアニメやパソコンについて情報交換したり、メイドとのちょっとした会話によって世界観に浸ったりして、帰っていく。
ボードゲームは、「ガイスター」など20種類と豊富にそろえてあり、店の9人のメイドが登場するオリジナルのゲームもある。ただし、メイドは遊び方の説明をするが、一緒に遊ぶわけではない。
メイドたちが制作した同人誌
各種ポイントカード
ポイントカードは、全部貯めるごとにメイドの写真や手書きのメッセージ、または300円無料券がもらえるが、描かれている絵によって、「キーカード」から「マップカード」さらに「館カード」に、ステップアップする。たとえば500円で1ポイントの「キーカード」は、20ポイントで一杯になり、それを10枚分使わないと次の「マップカード」に進めない。にもかかわらず、「館カード」まで使い切るほどの者も、何人かいるそうだから、いかに常連の支持が厚いかがわかるだろう。
土日の夕方は混むが、行列をつくらない方針なので、満席の時に入店をやむなく断った人、残り10分以上を残して席を譲って帰った人には、「ぶらっくめるめるかぁど」という、別のポイントカードを発行している。
女性オーナーらしい細かな心配りが随所に行き届いており、9人のメイドの離脱もなくこれまで来ているのも、店が安定した人気を獲得している秘訣だろう。
・IT企業のサラリーマンなどをターゲットに、魔女バーがオープン
また、最近の萌え系、アキバ系飲食店のもう1つの特徴は、衣装のバリエーションの広がりによって、メイド服だけではなく、魔女、シスターなど、さまざまなキャラクターに扮したテーマカフェ、あるいはバーが台頭していることだ。
2007年2月9日、秋葉原の電気街にオープンしたばかりの「ユナティコ ストレーガ」は魔女をテーマにしたバーである。店名はラテン語で“魔女の隠れ家”を意味する。
不思議の国に迷い込んだような、異空間を楽しんでもらうというのがコンセプトで、アルコールによってさらに効果が高まることを狙っている。
「ユナティコ ストレーガ」店内
「ユナティコ ストレーガ」店内
顧客が入店した時の出迎えの言葉は、「ようこそ魔女の隠れ家へ」、帰る時の見送りの言葉は「いってらっしゃいませ、良い旅を」となっている。たとえばRPGゲームにおいては、宿屋に一泊すると瀕死の重傷を負っていた人も、なぜか完全に回復してまた旅立っていくが、そのようなリフレッシュできて元気が出る空間を目指している。席数は38席。
総勢10人前後の魔女たちは、それぞれがオリジナルの魔法を持っているという物語の設定になっており、その魔法は、魔女オリジナルのカクテル(1000円)によって表現される。そして魔女オリジナルのカクテルは、魔女各自が出勤時のみ、提供が可能である。
たとえばスタッフの六花さんの創作カクテル「M」は、ベリー系のリキュールに梅酒などをブレンドした、口当たりの良い甘いカクテルだ。
オリジナルカクテル「М」を持つ六花さん
メイド喫茶「ティアラ」を2つの店に分割し、半分を魔女バーの「ユナティコ ストレーガ」にした
魔女たちの中には、バーテンダー経験者が何人かいるほか、系列に昨春にオープンした、メイドダイニングバー「クイーンハート」を有しているので、そちらで研修して、バーテンダーとキッチンとホールを兼ねた、魔女として業務にあたっている。つまり、スタッフ全員女性で運営しており、昨年後半から東京の盛り場で台頭目覚しいガールズバーの1つとも言える。萌えを表現した魔女服は、秋葉原のコスプレ衣装専門店、コスモード製だ。
そのほか、酒類はカクテルだけで100種類そろっており、「魔女の一滴〜生搾りサワー」(800円)なるレモン、グレープフルーツ、ライムを、魔女が顧客のテーブルにてスクイーズしてくれるメニューもある。
バーなので食事のメニューは限定されているが、それでも500円の「ピクルス」などおつまみ各種、「ミートローフ」、「鮭のホイル焼き」、「手作りピッツァ」、「お茶づけ」といったような空腹を満たすものが最低限抑えられている。「不機嫌な魔女のピザ」(900円)という、1枚だけ激辛のピザが混じっている、“ロシアンピザ”もユニークで、顧客にすれば、魔女バーなる異空間を体験してきた話のネタに、もってこいのメニューであろう。
「お酒が好きな人、魔女の衣装を見てみたい人、アニメやゲームが好きな人、魔女全員がコスプレなどのモデル活動をしているので、モデルなるものに一度会ってみたいという人に来てもらいたいです。まだオープンしたてで不慣れな面もありますが、成長していく魔女たちを温かく見守ってほしいです」と、六花さんは意気込んでいる。
チャージはテーブル300円、カウンター500円。18時よりの営業だが、休日のみ15時から18時までチャージ無料のカフェタイムを設けている。BGMはR&B、日本のインディーズなど、魔女たちの選曲で流している。現状は30代の男性中心に、順調に集客しているようで、秋葉原で営業しているバーも数少ないことから、期待していいだろう。
顧客単価は2000円〜3000円を想定している。
ところで、「ユナティコ ストレーガ」は、04年6月にオープンした約70席を有して日本最大規模だったメイド喫茶「ティアラ」を2分割してできた店である。「ティアラ」はテーブル間の間隔を広く取り、ゆったりと過ごせる空間をコンセプトとし、王宮メイドをイメージしたメイド服を女性スタッフが着用している店。
ちょうどタイミング的にメイドブームの絶頂時でのオープンであり、超特大の「3倍カレー」、ユニークなメイドと顧客の共同作業でつくるドリンク「らぶらぶカフェモカ」、メイドが席でデコレーションしてくれる「らぶらぶパンケーキ」といった、他店にない特徴あるメニューも受けて、すぐに人気となってこれまで既に延べ9万人弱を集客している。
しかし、ブームにかげりが出てきたこと、元々平日は広い客席を持て余していたこと、新店のメイドダイニングバー「クイーンハート」が、従来のメイド喫茶の顧客とも異なる、「秋葉原UDX」など、秋葉原再開発の新築ビルで働くIT関連のサラリーマンを中心に、貸し切りパーティーがしばしば入るなど、集客好調なことから、半分を魔女バーにするべく改装を行った。店舗多角化の効用として、既存店で新店オープンを宣伝できることがあり、「ユナティコ ストレーガ」の順調な滑り出しに寄与している。
これらの店を経営するイオス プランニングは、さらに古く03年夏に中野「ブロードウェイ」内に、中野で初のメイド喫茶、「不思議の国のアリス」風メイドをコンセプトとした「ティールーム アリス」をオープンさせてもいる。
萌え系飲食店を多店舗展開する一種のベンチャー企業が、こうして秋葉原に生まれていることからも、このマーケットの急速な拡大が見て取れるだろう。
・秋葉原に人生に迷える子羊たちを癒す、シスターカフェが登場
秋葉原地区でも万世橋を越えた駅の南側、「肉の万世」本店にほど近いオフィス街に、昨年6月にオープンしたのが、教会とシスターをテーマにしたアミューズメントカフェ、「セントグレースコート」である。店名を日本語に訳すると“聖なる祈りの庭”。
同店の特徴は、スタッフがデザインしたオリジナルのミニスカートのシスター衣装を着た、シスターが接客することで、顧客は“人生に迷える子羊”という設定になっている。
オリジナルのシスター服、モデルはシヅキさん
“人生に迷える子羊”は“ご主人様”ではないので、顧客が入店した時のお出迎えの挨拶は、「お帰りなさいませ、ご主人様」ではなく、「迷える子羊よ、『セントグレースコート』にようこそいらっしゃいました」となる。また、顧客が帰るときの挨拶は、「神のご加護がありますように」である。
内装は教会をイメージして、白塗りの壁に、ヨーロッパの宗教画やギリシャ・ローマ風の彫刻が飾られている。BGMは昼間はクラシック、夕方以降はジャズを流している。1階と地下1階の2層の構造で、1階が喫煙席、地下1階が禁煙席と、分煙化がはかられている。
「セントグレースコート」外観
地下1階の禁煙フロアー
1階の喫煙フロアー
階段のイメージづくり
店長のシスター名・イヌ発電こと、梅木洋子さんは、メイド喫茶勃興期より、秋葉原の代表店「コスチャ」、「JAMアキハバラ」で活躍し、目配りの利いた丁寧でウィットのある接客や高い統率力で、カリスマメイドとも呼ばれるメイドブームの立役者の1人である。
メイドになる前は喫茶店からバニーガールまで、さまざまな飲食店で働いていたというのだから、飲食の基礎をしっかりと身に着けたうえに、萌えを追求している人物である。
「オーナーは、私が以前働いていた店の後輩のメイドだったんです。彼女が新しく店を出すというんで、先輩であった私や今の副店長もアイデアを出して、一緒に企画を練り上げていきましたね。シスターカフェにしたのは、メイドの店はもういっぱいあるので、差別化のためです」と、梅木店長は店の背景を語る。
同店のポイントは、3つの顔を持っていることだと、梅木店長は強調する。昼間はゆっくりまったりと、お茶やランチを楽しんでもらう。夜は仕事帰りのサラリーマンが多く来店するので、ワイワイガヤガヤと賑やかな雰囲気である。また、週末の金・土と祝日の前日は早朝5時まで深夜営業をするが、シスターたちとお酒を飲んだり、紅茶を飲んだりして、ワイワイとまたはゆったりと、朝まで過ごしてもらうのだという。夜が早い傾向の強い秋葉原界隈で、深夜営業をする店はまだ数少ないので、貴重な存在だ。
「そうして、メリハリをつけることで、以前昼間来た人が深夜に来れば、全然違った店の雰囲気に驚くでしょう。常連さんの中には、1日に3回いらっしゃる方もいます。そうするとシフト交代でたくさんのシスターが見れます。お客さんが飽きないようにするにはどうすればいいかを、常に考えています」(梅木店長)。
やや強引に解釈すれば、同店は3幕の一種の顧客参加型の劇場であり、教会という設定でシスターと顧客の即興的な群像劇を楽しむ場所となるのだろうか。特にシスターとゲームをしたり、中にステージがあってシスターが歌を歌うわけでもないが、常連となって通うほどに、味が出てくるタイプの通好みの店である。
顧客層は、他のコスプレ系の飲食店に比べれば高く、20代は少なくて、30代が中心という。メイド喫茶になれたマナーの良い人が多く、電気街の喧騒からは神田川に架かる万世橋で隔絶されているためか、冷やかしで来る顧客はほとんどないのだそうだ。男女比は7:3で男性が多い。
イベントとして、毎週火曜日にはお祈りサービスを行っている。これは「明日の会社のプレゼンがうまく行きますように」とか、「おいしいご飯が食べられますように」といったような、顧客の人生のちょっとした悩みを紙に書いてもらい、食事をオーダーした人に、シスターが祈りをささげるというものだ。
また、シスターのバースデーイベント、1日店長デー、メイド服や制服などの衣装を着るコスプレイベントなどがあり、特別メニューなどが提供される。
食事はボリュームのあるものがあれこれそろっているが、甘党の男性が満足できる甘味も充実している。店長推奨の「チョコバナナハニートースト」(900円)は、極厚のトーストにチョコレートのアイスとソース及び、バナナ、クリームが乗った、一食分にも相当するボリュームたっぷりのスイーツだ。
「チョコバナナハニートースト」
ドリンクもソフトドリンクから酒類までそろっているが、「ドンペリ」(白3万円、赤8万円、黒10万円)をオーダーした顧客には、シスター全員で“ドンペリソング”を歌うサービスがある。
ランチは現状1000円前後で提供しているが、2月末より近隣のサラリーマン、OL向けにもう少し安い価格帯で出すランチに、ある程度の期間を区切ってトライする。
・本邦初、全員外国人のバトラーが女性に癒しを提供する執事喫茶
さて、どちらかといえば男性向けのメイド系の店に対して、女性を対象に萌えを追求する執事喫茶、男装喫茶(乙女喫茶)が台頭してきているのも、新しい傾向だ。
渋谷の「東急ハンズ」の向かいのビルの5階に、昨年6月7日にオープンした執事喫茶「バトラーズカフェ」は、バトラーつまり執事が全員外国人というユニークなカフェだ。
「バトラーズカフェ」店内
「バトラーズカフェ」店内
オーナーでシェフでもあるYUKIさんは、「女性の癒される場所は、エステ、スパ、ネイルサロン、ホストクラブとあるけれどどこも高くてOLだと奮発しないと行けないし、予約も難しい。もっとリーズナブルにお茶1杯でも癒される場所がないのかしら」との疑問をOLの頃から温め、ユニークな執事喫茶に具現化させた情熱家だ。
開業にあたっては、情報の発信地である渋谷を選び、リサーチのために渋谷の街頭に立って、街行く女性たちに「次にしたいことは何ですか」とインタビューを繰り返した。その結果、年齢を問わず英会話と答える人が多かった。
そこで、メイド喫茶や執事喫茶を参考にしながらも、英会話の要素をからめて、レディーファーストで優しい外国人バトラーに癒されて、ストレスを解消するカフェの構想を練り上げた。現状、顧客の98%以上は女性で、20代〜30代が中心になっている。
男前で癒し系の外国人バトラーたち
ビルの下に設置した宣伝用の黒板
同店に来店する人には3つのタイプがある。
1つは女性の扱いのうまい外国人男性と会話をして、プリンセス気分を味わいたい人。もう1つは、英会話学校に通っていたり、海外生活を経験したりしたが、実践の場所がなくて困っている人。さらに残りの1つは、外国人が純粋に好きな人である。
それに対して、バトラーの採用には、ルックスを重視するが、ワーキングホリデーで留学している人やモデルなど、目的を持って日本に来ている身元と素行の正しい人を厳選しているのだという。国籍はアメリカ、ハンガリー、カナダ、チュニジア等々さまざまだ。ボディータッチ及び個人的な情報交換は、禁止となっている。
内装は、厨房周りの配管工事などを除いては、資材を買ってきて自分たちでつくり上げたが、ホワイトとブラウンを基本に、センスのいいおしゃれな雰囲気でまとめている。
YUKIさんは、実家がインテリアショップを経営しており、かつて自身もインテリア関係のライターとして健筆をふるっていたこと、カフェやレストランを回るのが趣味で内装をよく研究していたこと、パートナーの桜木マネージャーも元ファッションデザイナーで、色の合わせ方はお手の物だったことから、デザイン面では、選択眼の厳しい女性に満足してもらえる水準のものができたという。
料理はYUKIさん自らイタリアンのシェフに学び、ピザ、パニーニ、クレープのほか、多国籍料理のロコモコ、タコライス、タイ風のグリーンとレッドのカレーなども出す。1500円でランチもある。ソフトドリンクは、コーヒーが590円など。アルコールはカクテルが50種類あるほか、ワインなど各種そろっている。客単価は2000円〜3000円ほどで、手作りを基本に、おいしくて見た目がきれいなものを提供しているそうだ。
また、癒しを求める人には「バトラーズプリンセスメニュー」なる、特別メニューもある。これは、(1)お姫様だっこで記念フォト(800円)、(2)「シンデレラタイム」と称して、ティアラを被ってもらい、テーブルにキャンドルを立て、用がある時に鳴らすベルを置き、シャンパンのサービスを行うもので、店で顧客が主役になれる趣向のもの(お姫様だっこの写真付 1800円)、(3)とっておきの1枚をバトラーと記念撮影(500円)、(4)バトラーが顧客のイメージドリンクをサービスする(1200円、ノンアルコールは1100円)などといったラインナップがそろっている。
(4)は最も人気があり、バトラーが会話の中から顧客のイメージを思い描き、それを厨房に伝えて、厨房でつくったドリンクを、バトラーが甘い会話を交えて給仕する。
バトラーが女性客のイメージに合ったカクテルをサービスしてくれる
そのほか、4000円で、店に来るごとに指名のバトラーと交換日記できるサービスもあり、日記が終了すると自宅に持ち帰ることができる。鍵付なので他の人に読まれることはない。
メンバーズカードを3ヶ月前から始めたが、既に1250人が会員になっている。ポイントを貯めるとスイーツ無料、バトラーと写真が撮れるなどの特典がある。
席数は40席弱で、平日で1回転をやや切るくらいの客足だが、リピーターは多く、休日は満席になることもしばしばある。また、個人のパーティーだけでなく、異業種交流会や、企業の資産運用講座で使われるケースもあり、今後の展開に期待したい店だ。
・池袋「乙女ロード」で男装美少年のカフェ&バーが人気上昇
昨年4月に池袋の同人誌専門店が立ち並ぶ、腐女子(女性オタク)の聖地、通称「乙女ロード」の一角にオープンし、アニメやゲームが好きな腐女子たちに高く支持されているのが、男装カフェ&バー「80+1(エイティープラスワン)」である。
店名は、腐女子に人気がある、美少年のホモセクシャル、ボーイズラブをテーマとする、同人誌などの隠語「やおい(ヤマなし、オチなし、意味なしの略)」に由来し、全員女性の男装ギャルソンが接客と調理にあたっている。
「80+1」外観
「80+1」店内
同人誌なども各種そろえている
男装の麗人というと、かの宝塚歌劇を思い浮かべる人もいるだろうが、コスプレにも男装というジャンルがあって、美少年に扮して腐女子に人気のコスプレーヤーもいる。
総勢14人のスタッフは、森川楓、林田草太、佐伯翔といったように、アニメ風ともホスト風とも見える独特のセンスのギャルソン名がつけられており、1人1人、萌えるキャラクターが設定されている。たとえば、森川さんなら「常識人で計算高く頭の回転の速い秀才」、林田さんなら「元気いっぱいだがいつも度が過ぎて怒られる空回り野郎」、佐伯さんなら「やくざの息子で実家は大金持ち。父親に似て女好き」といった具合だ。
かと言って接客は、ナチュラルかつ丁寧に行うわけであって、冷たかったり、粗暴であったりということは一切ないが、各自がギャルソンとしてのブログを店のホームページで公開し、そこではアニメの登場人物のごとく、設定されたキャラクターを演じている。
ギャルソンたち(左から森川楓さん、林田草太さん、佐伯翔さん)
そして、ギャルソンと顧客の間で一種の恋愛シミュレーションゲームを、リアルな店舗と、バーチャル上のブログの物語展開にて、合わせて楽しんでもらおうという趣向の店だ。
たとえばバレンタインデーには、両手で抱え切れないほどのチョコレートをゲットしたギャルソンもいるそうだ。
営業は15時〜18時が、男子禁制、喫煙不可、お酒を出さないカフェタイム。午後18時〜22時が、男女とも入れて、喫煙可、酒類を提供するバータイムとなっている。
顧客層は高校生から20代後半までで、男女比は1:9と、圧倒的に女性が多い。男性が来てもカップルが主流で、男性のみの来店は非常に少ない。
どちらかというと、見るからに腐女子といった人より、外見上は普通の人と見分けがつかない“隠れオタク”が多く、本当はアニメが好きだがそれを語る機会がなかった人が、この店でオタク友達をつくるケースもあるという。バンドやメイドをやっている人も多い。
席数は20席で、平日で3〜4回転、休日で平日の1.5倍〜2倍の集客をしている模様で、なかなか好調だ。オープン当初は顧客は少なかったが、昨夏くらいから池袋の「乙女ロード」が秋葉原と対照的な見せ方で、テレビや雑誌に頻繁に取り上げられるようになって、軌道に乗った。今や池袋には執事喫茶や男装喫茶が数店あり、メイド喫茶も含めて、腐女子の集まるアミューズメントの集積地と化している。
店の内装は、白、黒、ピンクを基調にカフェ風のスタイリッシュな空間を目指した。
システムは1ドリンクオーダー制になっており、コーヒーなどのソフトドリンク500円からある。お酒は、ギャルソンが席の前でシェーカーを振ってくれる、オリジナルカクテル「ROUTE
80+1」(1200円)が人気だ。
食事は手作りパンによる「ホットサンド」(サーモン、ツナ、ハム 各1000円)がお勧め。メイド喫茶の定番である文字入れする「オムライス」(1000円)や、700円均一で12種類のボリューム感あるケーキもそろっている。顧客単価は2000円ほどである。
その他のサービスとして、クリスマス、バレンタインデーのイベントでは要予約で80分間、好きなギャルソンを指名して付きっ切りで話せるサービスを導入して、好評を博した。
店舗を経営する吉良歩代表は、元は秋葉原のメイド喫茶の店員だったそうだ。元メイドであるだけに、同僚だったメイドたちが何に萌えていたのかのツボは、しっかり研究して押さえている。
「男性的なルックス、スタイル、身長を考慮し、自主性、常識があって、キャラクターの被らない子をギャルソンに採用しています」(吉良代表)とのことだが、同店のスタッフは全般によくバランスが取れていると、顧客からの評価も高い。
・ミリタリーショップ内にある、全国唯一のメディックメイドカフェ
関西でも、萌え系の飲食店は、新しい展開を見せている。
京都の電気街・寺町に、京都初のメイド喫茶として、2005年4月にオープンした「カフェ・ド・ジュール」は、ミリタリーショップ「ガンショップACE」の2階にあり、迷彩柄のメイド服を着た“メディックメイド”が接客する、全国唯一の店である。
同店のメイドは「この世のあらゆる戦場から傷ついて戻ってきた戦士を癒す、衛生兵としてのメイド」と設定されており、詳細なストーリーはホームページで公開されている。「サー、イェス、サー」とメイドが掛け声を出すのもメディックらしい。
メイド服は同店でデザインして、コスプレ衣装専門店のコスパが製作した。
メディックメイドの渚さん
「ガンショップACE」は04年11月に、元々大阪府東大阪市のミリタリーショップ「ファースト」の京都店としてオープンし、06年12月に独立して店名変更したものである。
当初スタート時の04年11月から、2階に飲食ブースを設けていたが、ごく一般的な喫茶店だったという。しかし、ミリタリーショップの喫茶なら、普通と違った、もっと面白いことがしたいということで、現在のように業態変更したそうだ。もちろん、電気街に立地するので、東京・秋葉原、大阪・日本橋、名古屋・大須といった、電気街で勢力を伸ばしているメイド喫茶に着目した面もあった。面積は20坪で、席数は31席。
人気メニューは「びっくりパフェ」(1800円)という、通常の2倍くらいあるビッグサイズのパフェで、5分以内に完食すれば、メディックと記念撮影などができる。ただし、このサービスは平日限定である。また、1回100円から、ダーツで遊ぶこともできる。
毎月30日には、「ミリタリーDAY」なるイベント日を設け、ミリタリーコスプレのコンテストなどを行っている。コンテスト参加者にはメディックの写真のプレゼント、優勝者にはメディックと交換日記ができるなどの特典があり、ファン交流の場ともなっている。
顧客層は男女を問わず10代の学生から40代くらいまでとまちまちで、オタク層だけでなく一般の人の来店も多いという。これはソフトドリンクで400円〜、食事メニューも630円〜800円と安く設定されているからでもある。
ミリタリーの趣味の人が2階に上がってお茶を飲むこともあれば、逆にメイド喫茶に興味があって来店した人がミリタリーにも関心を持つケースもあるといったように、ミリタリーとの相乗効果も出ているのだそうだ。男女比は7対3で男性が多い。
一見無関係なメイドとミリタリーをつなげた、異彩を放つ店だ。
・東西2大電気街でメイド系店舗を展開するベンチャービジネス
ストーリーというよりも、大阪・日本橋と東京・秋葉原の東西2大電気街で展開して、メニューとサービスをほぼ共通化させて、ポイントカードも共通させる、はじめての試みを行い、ユニークな出店戦略が光るメイド喫茶が「カフェドール」である。
しかも、系列にメイドリフレクソロジーの「メイリラックス」、コスプレキャバクラの「フェアリーテール」を有し、3業態すべてを大阪と東京に出店。店内にリーフレットを置いたり、ホームページにリンクを張るなどの宣伝を行い、複合的な相乗効果を生み出している。
日本橋2店目のメイド喫茶として「カフェドール」がオープンしたのは、2005年1月。同年春には「フェアリーテール」、秋には「メイリラックス」をオープンさせた。
「カフェドール大阪店」店内
カフェドール大阪店のメイド店員
その直後の同年12月、東京進出1号店として、秋葉原に「カフェドール東京」がオープン。06年に入って新春の頃、神田に「フェアリーテール東京」、春には秋葉原に「メイリラックス東京」をオープンさせている。
「カフェドール東京」外観
「カフェドール東京」店内
日本橋「カフェドール」井上店長によれば、「オープン前は日本橋にまだ1つしかメイド喫茶はなく、秋葉原でものすごい人気なのになぜないのか考えた結果、日本橋でも秋葉原に負けないような店ができると思いました」と当時を振り返る。
秋葉原の店を参考に、差別化のために「メイドとの交換日記(コミュニケーションノート)」、「メイドとチェキ(記念撮影)」(300円)などを取り入れた。この頃より日本橋にもオタクブーム、メイドブームが波及してきたが、関西のメイド喫茶草創期より展開し、しっかりと固定客をつかんだことで、経営基盤が安定した。
51席あるが、現在のところ、日々の来店数を平均すると100人ほどで、男女比は7:3で男性が多い。当初はオタク層が大半だったが、現在は一般の人のほうが多く、子供連れからおじいちゃんまで、多彩な人が来店するという。
メニューでは、メイドがケチャップでお絵描きをしてくれる「チキンオムライス」(800円)が、メイド喫茶の定番料理として人気だが、名物料理ではもう1つ、メイドがソースとマヨネーズでお絵描きしてくれる「オムそば」(800円)がある。
メイドが文字入れしてくれる「オムそば」
ソフトドリンクは、ブレンドコーヒー450円からあり、ランチは500円と格安だ。
一方「カフェドール東京」の開店にあたっては、5年間焼肉店の厨房、ホールの経験がある安部店長が、日本橋「カフェドール」で2ヵ月半ほど研修を受けた後に、オープンに際して東京に転居してきた。東京店は25席と、大阪店の半分の規模である。
「料金、サービス、メニューの内容は、基本的に大阪と同じです。しかし、メイドは他店での経験がある人も採用しましたが、店が違えば勝手も違う。仕入先も1から開拓しないといけませんでしたし、一部東京で食材がそろわないので、内容を変えているメニューもあります。てんやわんやで、やっと店として固まってきたのは、半年を過ぎた去年の6月頃でした」と安部店長は立ち上げの苦労を語る。
同店で受けたのは、「メイドとチェキ」のツーショット撮影(300円)で、最高で1日に160枚もオーダーが入った日があった。日本橋ではどの店もやっているが、秋葉原では一般的なサービスではないので、人気が沸騰した。営業時間が終了しても、撮影待ちの人が列を成し、メイドが帰宅できない状況にまで過熱しすぎたので、東京店のみ1人撮影は4枚までと制限を付けた。それでも土日は、100枚ほどは出ているという。
メイドとご主人様・お嬢様(顧客)との交換ノート、ベルは用事がある時に使う
また、東京店のランチは700円だが、メイドとじゃんけんをして1回勝つと600円、2回連続で勝つと350円になる。しかし、1回勝った後、そこでじゃんけんをやめれば600円だが、2回目に負けると700円に戻ってしまう。このあたりのゲーム感覚が面白い。
顧客層は20歳前後から30代半ばまでのオタク層が中心で、9:1で圧倒的に男性が多い。
1日の来店数は、平日2〜3回転、休日でその倍といったところで、毎日のように来店する常連は30人くらいだという。
大阪店と顧客が異なり、オタクに強い店となっているのは、秋葉原でも外れのほうの末広町エリアに位置し、やはりオタクに強い「カフェメイリッシュ」に近接していることもあるのだろう。再開発ビルからも離れた不忍通り沿いにあり、一般人の一見さんでは 立ち寄りにくい立地なのが、オタクにとっての隠れ家になっている側面が強いと思われる。
・秋葉原の人気メイド喫茶がタイに進出。日本語でメイドが接客
日本のアニメ、ゲームの人気を背景に、韓国、台湾など海外にもメイド喫茶ができ始めたのが、昨年くらいからの新しい現象だが、日本のメイド喫茶に海外進出する店も登場した。
秋葉原昭和通り口の「ぴなふぉあ」がそれで、タイの首都バンコクに、去る1月21日にオープンさせた。この「ぴなふぉあ」はドラマ「電車男」のロケ地となってブレイクした店。今はひと頃のような連日大行列ということはないが、それでも平日の昼間でもウェイティングが出る日もある人気ぶりだ。タイの新店が2店目となる。
タイの2号店を訪問した、メイドのクララさん(左)とヒナナさん
タイ店のメイドたち、左端のクララさんと右端のヒナナさんは日本から訪問したメイド
バンコク店は、バンコクの地下鉄、BTSのアソーク駅に直結した、「タイムズスクエアビル」内にある。秋葉原の店とほぼ同じ内装、同一のメイド服で、しかも14人〜15人のメイドは全員タイ人ではあるものの、基本的に日本語を使って営業している。メイドのブログも、タイ語、日本語を織り交ぜて、店のホームページで公開している。席数は秋葉原の店より心持ち広くて、34席。
タイ出店の背景として、タイでも日本のアニメやゲームは人気が高まっており、コスプレイベントも毎週のように行われている盛況ぶりがある。バンコクにある「アキバ」なる名前のショップでは、日本のマンガやゲームを輸入販売して現地のオタクに熱烈に支持されており、店舗内にメイド喫茶もオープンしている。
「ぴなふぉあ」店内で開催されたゲームソフト「ひぐらしなく頃に 祭」発売イベントより、発売元アルケミストの浦野重信社長と、ゲスト出演したグラビアアイドルの松金洋子さん。
また、アソーク駅周辺はバンコク在住の日本人が多く住み、「タイムズスクエアビル」には「HIS」の支店も入っているので日本人観光客が多い。
そうしたことから、タイ支店の顧客は、タイ人のオタクと日本人が入り混じるような形になっている。
「日本人にしてみればずいぶん安いと感じるでしょうが、タイの物価では少々高めの料金設定にしています。タイでは日本のマンガやゲームは高いですから、高学歴で生活水準の高い人が、お客さんです。メイドさんに応募してくる女性も所得の高い家庭の娘さんたちで、皆、日本のアニメに驚くほど詳しくて、日本語を覚えたいと思っている意欲的な人が多いですね」と、運営会社ライトナウの宮崎英二社長は、タイのオタク市場の将来性に期待している。
そのほか、「ぴなふぉあ」では、メイドがユニットを組み、CDを発売してライブを開いたり、ゲームの発売キャンペーンイベントを行うなど、多彩な活動を行っている。
今年2月15日〜22日、アルケミストから発売される「プレイステーション2」専用ソフト、『ひぐらしなく頃に 祭』の販促キャンペーンとして、このゲームに登場するファミレス「エンジェルモート」の制服をメイドが着用する、コスプレイベントを開催した。
「ひぐらしなく頃に 祭」のコスプレ衣装で給仕するメイドのみれいさん
秋葉原などのメイド喫茶では、このようなゲーム会社などとタイアップした、コスプレイベントがしばしば開かれており、業界活性化に寄与していることも見逃せない。
・メイド喫茶の顧客は幾つかの趣味を同時に追求している人
以上、メイド喫茶とそれから派生したさまざまなテーマカフェについて見てきたが、整理してみよう。
新しい動きとして1つは、魔女、シスター、執事、ギャルソンなどといったように、キャラクターの広がりが出てきたことだ。また、執事喫茶やギャルソン喫茶は、女性のオタク向けに萌えを追求した、いわばメイド喫茶の逆バージョンである。
「シャッツキステ」、「カフェ・ド・ジュール」、「80+1」のように、手の込んだ物語を店舗スタッフと顧客が共有して楽しむ、ストーリー性重視の店が広がっているのも面白い。
また、「シャッツキステ」、「セントグレースコート」、「バトラーズカフェ」、「80+1」は女性が起業したものであり、女性スタッフのアイデアが店舗づくりに反映している「ユナティコ ストレーガ」を含めれば、女性の活躍が非常に目立ってきている。そのうち、「バトラーズカフェ」を除けば、メイド出身者が企画の中枢である。萌え系の喫茶が、女性の自己実現の場という側面を持つことが示されている。
飲食業経験者、あるいはシェフの勉強をした人が、厨房やバーテンダーとして店舗の中枢を占めるケースが増え、食の部分も空間の部分も、格段にレベルアップしてきている。よって、一般のカフェと遜色ないレベルに達した店も増えてきた。
マーケットの広がりに対応して、多店舗を展開し、メイドベンチャーとも呼ぶべき企業体をなしている事業者も現れている。イオス プランニング、「カフェドール」のグループが該当し、今回取り上げなかったところでは「@ほ〜むカフェ」などを展開するリンクアップ、「ミアカフェ」などを展開するミアグループなどがある。
秋葉原や池袋、日本橋などでは、萌え系店舗の隣に萌え系店舗ができて、メイド街が形成された一角が出現。1棟を複数のメイド喫茶で占有する、メイドビルもできている。
イベントの宣伝にメイドも繰り出す。“趣都”秋葉原の駅前
1棟まるごとメイドビル。メイドのデパート化している
さらに、海外進出第1号として、「ぴなふぉあ」がタイに出店した。日本のゲームやアニメの海外での評価、人気はおそらく日本人が考えている以上である。将来を見越せば面白い狙いであろう。
メイド喫茶事情に詳しい、iモード公式サイト「秋葉原モバイル」の木浪プロデューサーは、「秋葉原は“趣都”と呼ばれるくらいですから、アニメ、ゲーム、同人誌、フィギュア、アイドル、カメラ、パソコン、オーディオ、音楽等々、さまざまな趣味を持った人が集まってきます。メイド喫茶オンリーで、興味のある人は非常に少ない。そこを理解して、複数の趣味を持った人を満足させる企画を考えることが重要です」と、指摘する。
ストーリー性を持った店の出現や、メイドの撮影会・音楽活動のようなアイドル化の進展、同人誌制作などの創作活動の活発化は、おそらく木浪氏の指摘を裏付けるものであろう。要はそれらをなんとなくやるのでなく、コンセプトを決めて、内装、店服、メニュー、ホームページ、グッズからスタッフの採用にいたるまで、練込んだものでなければもはや通用しないということだ。
・リサーチを踏まえて2分割した「ティアラ」改装の成否は?
ところが、一方で「メイドの店なら儲かる」と、よくリサーチもせずに出店して、短命に終わる店も多いと苦言を呈するのは、メイド喫茶ファンサイト「メイドさん的Blog」を運営するLancerさん。
「ある地方の店に取材に行くと、オーナーから秋葉原の店に行ったこともないし、どうやって運営したらいいのか教えてほしいと、逆に取材されましたよ。秋葉原の店は全般に別格にレベルが高くて、観光地としての魅力もあり、昨年1年でやや店舗数は増えていると思います。しかし、これといった特徴もない地方の店は、昨年末から約3カ月で50店近くが、なくなっているのではないでしょうか」。
前出、木浪氏も「私の試算では人口30万人に1店しか、メイド喫茶は成り立ちません。ところが、人口68万人の岡山ではどんどんできて最高で10店ほどが営業していましたが、今は閉店が続いて、半分の5店になりました。もっと減ると考えています。広島、福岡、札幌あたりも営業が苦しい店が多いと聞きます」と指摘する。
要はメイドバブルはむしろ地方で起こり、その研究不足の限界が露呈したのが、昨年からの流れであったようだ。
メイド喫茶紹介サイト「メイドカフェでGO!」をはじめ、萌え系店舗の広告代理店を展開する、萌店ドットインフォグループ代表のはるこむぎ氏も、「地方では宣伝方法が難しい。
都会では『ぐるなび』や各種情報誌に広告を掲載しても、見返りがありそうですが、地方では低い客単価の店で広告を出すメリットがあるのか、経営者は考えてしまうのでしょう」と、駅前のビラ配りだけではなんともならない、集客に苦慮する店の現状を報告する。
秋葉原にしても、リピーターの顧客をがっちりとつかんでいる、古くから営業している店の好調ぶりが、より目立つようになってきた。新規参入は狭き門になりつつある。
そうした中で、先述したように思い切った改装に踏み切った「ティアラ」が、半分を魔女バー「ユナティコ ストレーガ」に分割したのは、大きなニュースだ。昨年の夏頃までの「ティアラ」はキャパの大きさが奏功して、秋葉原でも最も成功した店の1つだった。
「ティアラ」外観
「ティアラ」店内
運営するイオス プランニングの溝口直人代表は、次のように語る。
「私が秋葉原に店をオープンする前に、カフェメイリッシュなどに、実際に通って感じたのは、行列を待って入ったにもかかわらず、中が空いていることがよくあったことです。それはキッチンが狭くて、ご飯が炊けていなかったり、料理ができていなかったり、洗い物ができていなかったりするからなんです。現在の物件を見て、ここまで広いものを正直、考えてはいませんでしたが、発想を変えて、キッチンの広さを他の店の3倍取りました。それに、席と席の間を詰めすぎると、隣の会話が聞こえてくつろげないので、ファミレスのように席間を開けたのです」。
折りしも起こったメイドブームで、秋葉原の既存店はどの店も行列になったが、席数が70近くもある「ティアラ」は待たずに入れると、行列を待つのに疲れた人たちを吸収し続けた。また、広い厨房が威力を発揮して、たとえ行列になってもほぼ15分以内の待ち時間までで、顧客を早く通せたので、回転率も上がった。人手が足りず、飲食が終わった食器を下げる時間、注文を取りにくるまでの時間が、かかるケースもあったが、他店なら1日に3〜4回転が限度なのが、それ以上に回転したため、抜群の集客力を誇ったのであった。
また、メイド服はスタッフでデザインを起こし、アトリエ ダームという制服の業者が製作したもので、メイドにはモデルもこなすコスプレーヤーたちが多く、流行のファッションをも研究し、センス良くうまく着こなした。メイドや飲食店の経験者も多く、顧客とコミュニケーションを取っていく接客には安定感があって、ファミレス風の内装も含めて、一般の人でも安心して入れるメイド喫茶とのイメージを植え付けた。それが、ブームに乗って成功した要因だったと思われる。
溝口氏自身は「JCC」という日本最大級のコスプレイベント団体を11年主宰するとともに、系列のコスプレ撮影スタジオ「チャーム」を経営する生粋の業界人で、働いているメイドもオタク趣味の強いコスプレーヤーが主力なのだが、つくったメイド喫茶は、マニアックな店とは正反対の、非オタクにもフィットする、スタンダードな店であった。実際に顧客の7割は一般の人で、コスプレ好きのオタクは3割であった。
しかし、ブームが去って一般人の顧客が減少するとともに、軽いオタク趣味を持つ再開発ビルのIT関係のサラリーマンが、系列のメイドバー「クイーンハート」の主力の顧客になっていることを見て取って、昨年の秋頃から、「ティアラ」の半分をバーに改装する構想を立てて、このたび「ユナティコ ストレーガ」をオープンした。
風を読むのに鋭敏で、マニアックなものを大衆化する独特なセンスを持つ、溝口氏の店舗分割作戦によって、両店が今後も輝き続けることができるかどうか。萌えバブル後のこの種の飲食店が、どのように発展し、定着していくのか、試金石になるような気がする。
・メイド、萌え系の店がコンセプトダイニングに急接近してきた
最後に、今後の萌え系飲食店の展望を若干行ってみたい。
メイド喫茶がただかわいい服を着た店員がいれば儲かるという幻想は、完全に崩壊した。
一般の飲食店のレベルを保ちながら、それにプラス、積極的に顧客に話しかける、ゲームがある店なら一緒にゲームを楽しむ、明るく快活なパーソナリティがメイドには求められる。ルックスの良さも大事だが、それ以上に大事な属性がメイドにはある。
「メイドに応募してくる人の話を聞いていると、すごく楽な仕事だというイメージを持っているらしい。やっていることはファミレスと変わらないし、コミュニケーションができないとメイドじゃない。さぼってると、2ちゃんねるで容赦なくたたかれたますし、なかなか大変な重労働ですよ。オーナーも、若い女の子に囲まれて、いい思いをしたいという気持ちで始めるのなら、失敗するのは目に見えているので止めておけと言いたいです」と溝口氏は、経営してきた実感から、参入希望者に辛口でアドバイスを送る。
また、固定客をつかんでいくには、メイドが辞めないことが重要と考える前原氏は、「お店がメイドの能力を引き立てる場であると考えています」と、表現意欲のあるメイドの自己実現ができるような環境づくりに取り組んでいる。
一方で、木浪氏は、フードに関してスイーツを見直してみればどうかと提言した。
「メイド喫茶のニーズを考えれば、オタクにとって同人誌だのフィギュアだのの戦利品を安心して広げられる場所という意味合いがありますが、男が甘いものを食べられる場所でもあります。理系などの頭脳労働者は、頭を使うので甘いものがほしくなる。でも女性が行くような喫茶店では、ケーキなんて注文しにくいですからね」。
具体的な例として、秋葉原の都営岩本町駅に近いメイドバー「マインドガーデン」が、30種類近くのアイスクリームを常時メニューにそろえていることを挙げた。商材はほかにもあるだろう。
執事喫茶など、女性向けのサービスに可能性を見るのは、はるこむぎ氏。
「新規店は、男性向けの店に真っ向から対抗するより、女性向けのほうが参入しやすいようで、最近は大人気です」。
ライブ活動も行う「ぴなふぉあ」のメイド。秋葉原で開催された無料のバレンタインミニライブには、70人ほどのファンが駆けつけた
メイドからタレントを目指す「ロイヤルミルク」のメイド、ののこさん。最近、加納典明氏などのグラビアに出演し、好評を博しているらしい
メイドの撮影会、ライブはどうだろうか。
「ファンにしてみれば店の外で会えるのだから、うれしいでしょうね。でも、メイドさんは基本的に拝むものですから、広がるかどうかはわからないです。コスプレキャバクラの隆盛を見れば、ユーザーも3D志向に進化していますけどね」(はるこむぎ氏)と、将来はともかく直ちにブレイクするのは疑問とのニューアンスだ。しかし、撮影やライブを売りにする店も出てきており、今後はメイド喫茶と芸能界が近接してくる可能性も強い。
そして、今回主に特集したテーマカフェのストーリー性強化は、ますます進んでいくだろう。
テーマを徹底的に追求すればするほどに、ダイヤモンドダイニングが展開する、「ヴァンパイアカフェ」や「迷宮の国のアリス」のようなコンセプトダイニングに、どんどん近づいてきている。
やや停滞気味に見えるメイド業界だが、マンガ喫茶が幾つかの脱皮を遂げて今日の簡易宿泊所も兼ねたような業態に進化したような、予期しないブレイクスルーが、もう何段階か起こる可能性がある。
そのキーワードが、コンセプトダイニングとなるのかもしれないのだ。
秋葉原の日曜の歩行者天国。これだけの人がいれば、ビジネスチャンスもあろうというものだ