「スプリンクルズ」のカップケーキ
・2005年4月にビバリーヒルズに開店。
ビバリーヒルズに開店したカップケーキ専門店「スプリンクルズ」は2005年4月の開店以来、いまだに行列ができる店として有名。週末には行列ができ、30分以上、カップケーキを焼くのにかかるよりも長く待たなくてはならない。
店舗は、小規模ながら人目を引くとてもおしゃれな外観。暖かいきれいな茶色がアクセント。
「Sprinkles スプリンクルス」
中に入るとガラスのショーケースにかわいいカップケーキがずらりと並んでいる。
小さな店舗は人が6−7人も入れば身動きもできないほどになってしまうが、筆者が訪問した日はカリフォルニアには珍しい雨が降ってどんよりした日で店員が「今日は雨が降っていてとっても暇」といっていたが、約20分ほどいた間に外に行列こそできなかったが、シニアのカップルから小さな子供まで幅広い客層が入れ替わり立ち代り、少なくとも30人以上来店していた。小さな店にもかかわらず、店員が5人。全員がお客様の相手やカップケーキの補充に追われていた。
カウンターで注文する。
持ち帰るか、店内のカウンターにすわりビバリーヒルズの往来を眺めながらドリンクを楽しむこともできる。
カップケーキは20種類。普通のスーパーマーケットなどでは1個1ドル以下で買えるがここでは
3ドル25セント。定番は、
○ブラックアンドホワイト
ベルジァンダークチョコレートケーキ+クリーミーバニラフロスティング
○ダークチョコレート
ベルジァンダークチョコレートケーキ+ビタースイートチョコレートフロスティング
○レッドベルベット
サザンスタイルライトチョコレートケーキ+クリームチーズフロスティング、スプリンクルズ特製「ドット」付き
○バニラ
マダガスカルバーボンバニラケーキ+クリーミーバニラフロスティング
○バニラミルクチョコレート
マダガスカルバーボンバニラケーキ+ファッジイミルクチョコレートクリームチーズフロスティング
以上の5種類の定番商品に日替わりの5種類、常時10種類の品揃えだ。
白くて中央にピンクの円が付いているのが「レッドベルベット」
犬用のカップケーキもある。
サイズは人間様のものより大分小さめだが、価格は2ドル50セントと高い。オールナチュラルで成分は無漂白小麦粉、卵、はちみつ、バニラ キャロブ(ココアの代用品) またはヨーグルトフロスティング。「犬に甘いものを食べさせて大丈夫?」とつぶやくときさくな店員が「私食べてみたけどそんなに甘くなかった」。どれほど売れているか聞くと「今日もう15個くらい売れた。一人で6個買っていた年配の女性もいた」という。
犬用カップケーキ
・東京を含め、15ヶ所への出店計画。
「スプリンクルズ」の2号店はロス近郊オレンジカウンティーの高級住宅地がならぶニューポートビーチに去年開店。現在ダラス、パロアルト(北カリフォルニアの高級住宅地)、スコッツデール (アリゾナの高級保養地) 開発中、さらにロンドン、東京を含む15ヶ所への進出が計画されている。
経営者であるネルソン夫妻はアメリカのトップクラスのグルメイベントの多くから招かれ、一流のシェフたちと肩を並べてカップケーキの啓蒙活動をしている。たったひとつの商品。しかも1個3ドル25セント。これだけの急成長を遂げている秘密を「スプリンクルズ」の経営者であり、「エキゼクティブペーストリーシェフ」のタイトルも持つ、キャンダス・ネルソンさんに聞いた。
キャンダスさんは32歳。笑顔がとてもチャーミングで素敵な女性だ。今妊娠5ヶ月。お会いしたとき、少しふっくらしているおなかをなでながら、「これはカップケーキのせいではなく赤ちゃんなのです」とそんなところにもカップケーキの宣伝を忘れない。もともとサンフランシスコ出身。小さいころからお菓子作りが大好きで7歳ごろから友達がテレビ番組にかじりついているとき、オーブンの前でチョコレートチップクッキーのねばねばした種が加熱することによってみるみるふくらんでクッキーになる過程を観察するのに熱中していた。「お菓子作りって基礎は化学反応。学校の化学のクラスは苦手だったけどお菓子作りに関連するような教え方だったら大得意だったでしょうね。」
大学では経済学を専攻し、投資銀行業務の職についた。(共同経営者のご主人も同じ分野でそこで知り合った) その後ビジネスバンキングに進み、そのころサンフランシスコでは誰もがしたようにインターネットビジネスに突入した。そのバブルがはじけた時、20代中ごろの若さでミッドライフクライシス(中年の危機)を体験するようなものだったという。
がっかりする出来事だったが、それはまた次のステップへの機会という認識をした。そして小さいころからの夢だったお菓子作りを本格的に学ぶために「タント・マリー」という料理学校のペーストリーコースに入学した。個人でケータリングをしながら、自分なりのコンセプトでスウィーツ店を始めたいと考えていた。
基本的にひとつの商品に特化して高品質のものを提供したかった。アメリカでは万人を喜ばせようと無理して何から何まで幅広くしようとする傾向があってしまいには質が低下してしまうこともある。たとえば、買物に行っても私は何から何まであるような店は圧倒されてしまうので好きではない。品揃えにポリシーがあり特定のもので有名なお店だとわざわざそこの店に出かけていってユニークで貴重なひと時を経験できる、そんな店が好き。
・カップケーキを高級チョコレートのように扱う。
「私たちはみんなカップケーキを食べて育ってきた」 ポーションも大きすぎずちょうどいい。アメリカでは何でも大きければいい、量が多ければいい、という風潮があるが、そんななかでカップケーキはひとときのぜいたくを演出してくれるが、「過度」ということはない。かれんで何か人をひきつけるものがある。
カップケーキを内容、デザインすべてにおいてプレミアムにグレードアップさせ、高級チョコレート店のイメージで提供しようと思った。たった1つの商品、でも種類がたくさんあって選ぶことができる。家に持って帰れる小さな宝物。カップケーキを高級チョコレートのように扱おうとする人はいなかった。
ニューヨークを皮切りに、郷愁はさそうが、どちらかというとダサいカップケーキが少しずつおしゃれでクールなものとなってきていた。これならアメリカ人にとってすでにおなじみのもので、クレープやシュークリームのように慣れていないものを教育しながら提供する必要もない、と思った。
そこでカップケーキ「スターに育て上げる」ためにレシピ開発に取り組んだ。カップケーキはその小さいサイズのため表面積の割合が普通のケーキより大きいので、満足のいく食感やしっとり感を人工の材料なしで実現するのに苦労した。上にのせるフロスティングも独自のものを開発した。
当時、サンフランシスコの景気は良くなかったので、同じ世代の多くの人がしていたように私たちもロスアンジェルスに引っ越した。カリフォルニアからは離れたくなかったので、商機のあるロスに来たのが2003年10月。カップケーキ専門店をしたい、という考えは頭のすみにいつもあったが、知る人もいないロスでまずは家をベースにケータリングからはじめた。
そのうち口コミで注文が増え、これならお店を構えても、と物件を探し始めた。ロスははじめてで土地勘もなく、最初は不動産やに物件探しを依頼したが、カップケーキベーカリーを開店するというと誰も相手にしてくれず、電話でメッセージを残してもかかってもこなかった。らちがあかないので人に頼ることはやめて自分たちで文字通りドアをノックして物件を探した。
ビバリーヒルズに開店したのは、やはり高級ブランドに囲まれ、贅沢を演出する町だから。ただここを訪れる人のすべてがロデオドライブで買物をできるとは限らない。ビバリーヒルズに来ても、ウィンドウショッピングだけの観光客でも、カップケーキ一つなら買うことはできる。小さな贅沢を提供できるのだ。
約2年間の「困難で険しい」準備期間を経て2005年4月に開店。最初のラッキーブレークは『デイリーキャンディー』というインターネットニュースが開店を取り上げてくれたことだ。本当は準備が完全でなかったので開店を予定より数日延ばそうと考えていたが、『ディリーキャンディー』で開店日を告知してしまっていたので予定通り開店したが、その日の2時には売切れてしまった。待っていただいたのに買えないで怒ってしまったお客様もたくさんいた。
・350個の注文がテレビ局から。
そしてあくる年の2月。ある日の午後1時ごろ電話があって350個のカップケーキを翌日の朝までにシカゴに配達してほしい、という注文があった。それは、有名なテレビのトークショーのホスト、オプラ・ウィンフリーが全国放映の生放送で使うということだった。このようなチャンスには絶対ノーとはいえない。何とか350個焼き上げ、その日のシカゴ行き夜行便(ロスからシカゴまでは4時間以上の飛行距離)で夫、その弟、私の3人でカップケーキを手で運び、スタジオに届けた。その日は一睡もしなかった。
ショーではオプラ・ウィンフリーがゲスト全員にカップケーキを配った。オプラは、バーバラ・ストライサンドがプレゼントしてくれて「スプリンクルズ」のカップケーキを知ったと言ってくれた。この2人のおかげでセールスは50%アップ、その上「スプリンクルズ」ブランドを一躍非現実的な規模で広めてくれた。
今後はスプリンクルズを全国そして世界規模のブランドとして育てて行きたい。幸運なことに最初の店舗を始める資金は自分たちの貯金でまかなえた。多くの方や会社が投資を申し入れてくださるが、とりあえずは自分たちの資金でやって行きたい。なぜなら、事業すべての側面において投資家に対する説明やいいわけなしに決断する自由があるから。ブランドを維持するためには常に商品開発に励み、フレッシュ、シーズナルさを維持する。
品質維持のため地方への発送はしていないが、問い合わせはたくさんある。店にこられないお客様のためにカップケーキミックスを開発した。グルメ店「ウィリアム・ソノマ」で販売開始している。また季節に合わせた商品開発として現在、セント・パトリックデー(3月にあるアイリッシュの祭日)用にギネスビール入りのレシピやイースター用のレシピを開発している。
カップケーキミックスを背にしたキャンダスさん
・トレーを頭にのせて運ぶ。全てがブランド。
最後に、平凡なカップケーキをこれほどまでのブランドに育て上げた秘訣をまとめると
1.失敗や不運であきらめず、次への機会とする。
2.自分が熱意を持って夢中になれるビジネスコンセプトを一度作り上げたら、どんな障害や困難なことがあってもあきらめず、自分の手で実現させる。
3.事業活動のすべての側面を統合するブランドが重要。カップケーキ専門店だが、それにまつわるすべての側面、つまり店舗デザイン、パッケージング、プレゼンテーション、フィロソフィーがすべて連動したブランドの一面となっている。
特注のトレーケース
特注のプレゼンテション用トレーケースにはめ込みになっているがカップケーキが売り切れれば、奥のキッチンに補充しに行く。そこではフレッシュさが演出でき、カップケーキでいっぱいになったトレーを頭の上に掲げて運ぶ様も演出となっている。
カラフルなろうそく
カップケーキホルダー、犬用 人間用Tシャツ
(TシャツはAmerican Apparelというロス発祥の、スウェットショップつまり開発途上国などでの労働搾取工場を使わないポリシーで特に意識の高い若者に支持されているブランドの製品。)
トレイやカップケーキタワーなどにもおしゃれさを。
カップケーキミックスとTシャツ
ゴミ箱もカラーコーディネート
キャンダスさんのアシスタントによれば、「これは多分世界で一番高いゴミ箱だろう!」最初は買ってきたままの普通の白いゴミ箱だったがどうもしっくり来ないので店内のカウンターや外にあるいすと同じ色でパウダーペイントしてコーディネートした。
カップケーキの種類
・Black and White
・Dark Chocolate
・Red Velvet
・Vanilla
・Vanilla Milk Chocolate
・Carrot
・Chocolate Coconut
・Lemon
・Milk Chocolate
・Peanut Butter Chips
・Banana
・Coconut
・Mocha
・Lemon Coconut
・Orange
・Strawberry
・Chocolate Coconut
・Ginger Lemon
・Pumpkin
・Chai Latte
基本的に、
・マダガスカルバーボンバニラケーキ
・サザンスタイルライトチョコレートケーキ
・ベルジァンダークチョコレートケーキ
・くるみ入りキャロットケーキ
・香り高いレモンケーキ
・チョコレートチップ入りピーナッツバターケーキ
・バナナケーキ
・香り高いオレンジケーキ
・ピュアストロベリーケーキ
の9種類のケーキをベースにトッピングであるフロスティングを工夫して種類を増やしている。
東京出身。UCLAで文化人類学を専攻後、シアトル、ビバリーヒルズで日本食レストラン経営を体験、またベンチャーリンクロス支社に在職中、牛角のアメリカ立ち上げを担当した。現在レストラン、フード関係のコンサルティングをしながら食の文化人類学の博士号論文も準備中。