世界の最前線を走り続ける街、ニューヨーク。レストランにおいても同様に、世界中から店が集まりトレンドを作り出している。そしてそれと同時に、毎年120件以上のレストランがオープンし、それと同時に100件以上がクローズするとも言われる、世界中で最も競争が激しい街。日本の右肩下がりの外食産業を尻目に年率5%以上の成長を遂げているアメリカのレストラン最激戦区で競う注目のレストランに迫る。
「National Wine Week」ポスター
・$10で10種類のワインが飲み放題!
3月19日から23日までの5日間、「National Wine Week」が開催された。このイベントは、ニューヨークの老舗高級ステーキハウス「Smith
& Wollensky」のレストランチェーン(全米14店舗)において、20年前から年に2回春と秋に行われているもので、今回で40回目。
ランチに限り、一人$10で日替わりおすすめワイン10種類を好きなだけ試飲できるというイベント。試飲といっても気に入れば何杯でも飲めることから、実質的には飲み放題ということになる。通常注文するとボトルで$40〜50、もしくはそれ以上の価格のワインが$10で飲み放題、しかも10種類も飲み比べができるというのは、かなりお得なイベントである。
一回にサーブされる量のは、通常のグラスワインよりやや少なめだが、大雑把なアメリカのサーバーたちは、徐々に注ぐ量が増えていった。
・延べ700種類、1万6千本のワインが空く、そのからくり
このWine Week、もともとは、レストランと共にアメリカワインのプロモーションのため始まった企画のようであるが、現在ではアメリカを中心に、フランス、イタリア、スペインなど世界中のワインが楽しめるようになっている。各店舗日替わりで10種類以上、14店舗5日間で述ベ700種類以上のワインがセレクトされ用意されていることになり、この5日間でなんと1万6000本以上のワインが空くというから驚きである。
参加各店舗のワインリストを見比べていると、一部同じワインが違う日に違う店舗で提供されているので、ローテーションを組んでいるようだ。参加している14店舗は同系列のレストランで、そのうち6店舗がニューヨークにあるので規模として限られてはいるが、その規模とネットワークがだからこそこれだけの種類のワインを短期間に提供できるのだろう。
当日テーブルに配られている各店舗の5日間のワインリスト。延べ700種類のワインがびっしり並び、そのスケールは圧巻。
・「午後の打ち合わせはキャンセルしよう!」そのターゲットとは?
さすがに、この店舗数ということもあり、残念ながらWine Weekの認知度はいま一つ。ニューヨーカーの間でも知っている人は少ないが、プロモーションはレストラン予約サイトなどでのWeb広告の他、前週にはニューヨークタイムズの全面広告を何回も出すなど、大々的に行っていた。「10
Wines for $10 With Lunch」という大きなコピーと共に、「午後の打ち合わせはキャンセルしよう!」というメッセージが。
30〜40代のワインが好きなビジネスマンをメインターゲットにしているのだろうが、今回インタビューしてみたところではコピーの通り仕事を午前中で切り上げて来たというビジネスマンは少なく、バースデーパーティーとして、久しぶりの集まりの場として利用している人が多かった。ワイン好きの友人に誘われて来たという人が多く、そのワイン好きがリピーターとなって広めているようである。
ただ、今回初めて来た人は皆大変満足しており、是非次回も利用したいと答えていた。じわじわと認知度は上がっていくのではないだろうか。そして、土曜日だけでも期間を延長すれば、さらに認知度は上がり、メインターゲット層の取り込みとリピーターを増やすことも狙えるはずだ。
・アッパーイーストの高級レストランで、ワインとロングランチ
今回このWine Weekを体験するために訪れたのは、「Park Avenue Cafe」。Wine
Weekを開催している「Smith & Wollensky」グループのレストランはディナー単価$60以上の高級ステーキハウスがメインだが、ここはコンテポラリーアメリカンを提供しており、毎年ザガットでは好評価をされている人気店である。日常では訪れる機会があまりない店だけに、こういった機会で、しかもランチならばハードルが下がるというもの。
名前の通りPark Avenue沿いにあり、高級アパートやショップが並ぶ閑静なUpper
Eastエリア。
通常も人気のある店だが、特別な週とあって予約はさらに取り辛く、ようやく取れたのはWine
Week最終日の金曜日の午後2時過ぎ。到着した時はほぼ満席状態で大変な活気。人気の高さが伺えた。
ウェイティングバーに着席すると、早速バーテンダーが得意気に、まずはスパーク
リングワインから!とワインを注ぎ、Wine Weekについても説明をしてくれた。基本
情報は前述の通りだが、10種類のワインを持ったサービススタッフがテーブルを回る
ので、試したいワインがあれば遠慮なく声をかけ注いでもらうというシステムとのこ
と。中華料理の飲茶のようなスタイルである。
「Park Avenue Cafe」
・赤ら顔で上機嫌なスタッフたちがさらに盛り上げる
心なしかサーバーたちの顔も徐々に赤ら顔に。アメリカのカジュアルなレストランなら見かけることもある光景だが、通常ここのような高級店ではまず無い。多少疑問に思うサービスもあったが、フレンドリーでホスピタリティの高いサービスも売りのレストランだけに、このイベントをスタッフ自身も心から楽しみ、盛り上げている様子が伝わって目をつぶってしまった。
まわりのテーブルを見渡すと、それぞれたくさんのグラスが並べられ、テイスティングディナーの様相。次から次へとボトルが開けられ、サーバーたちが陽気にワインを注いで回っていた。聞くと、1日に100本以上のワインを空けるとのこと。60〜70席程のフロアが2回転弱しているので、一人あたりの量もランチにしては相当である。
料理は、通常のランチメニューと同じだが、ドリンクメニューの代わりに卓上には、「Tasting
Notes」と書かれたその日のその店のワインリストも置かれていた。
ワインの名前と共に、コメント欄も用意されていて、お土産として持ち帰れるようになっている。
前菜より「Terrine of Sonoma Artisanal Foie Gras」($16)
フォアグラのテリーヌに添えられた、ブリオッシュのトースト、アップルスープがワンプレートに。アップルを温かいスープ仕立てでという工夫が新しい。
前菜より「Yellowfin Tuna Tartare」($16)
プレートに合わせた盛り付け、ポテトチップスとの組み合わせが楽しい。
メインより「Sauteed Salmon with Gnocchi」($23)
絶妙な焼き加減の上質なサーモンと上品なクリームソースとのが良い。付け合せのポテトのニョッキが軽くフライしてあり、味とともに食感を楽しめた。
デザートより「Classic Creme Brulee」
ペストリーシェフが特に有名というだけあって、期待を裏切らない味。風味豊かで濃厚にもかかわらず、後味のよい、クリームブリュレだった。
料理は正直特筆すべき点はなかったが、どれも問題なく美味しく、評価に違わず全
体的なレベルは高かった。
・「あなたの年齢が料理の値段です」
余談にはなるが、実はこのPark Avenue Cafe、Wine Week以外にも面白いサービスを行っている。お客の年齢をそのままコースの価格にするという、その名も"Pay
Your Age"。遅い時間帯の集客を狙ったサービスで、夜8:30以降に来店した場合、前菜・メイン・デザートの3品のPri-fixコースの値段をその人の年齢と同じ数字にするというのである。つまり、32歳の人は$32、40歳の人は$40という具合。年齢によって(つまり金額によって)量や内容に多少の傾斜はあるようだが、その3品はレギュラーメニューの中から選べるというから驚きである。このサービスは大変人気があるということで、スタッフからも熱心に勧められた。
Wine Weekは、費用対効果が非常に高く、ワインを十分に楽しむことができた。次回も是非利用したいと思うイベントだった。Wine
Week然り、"Pay your Age"然り、期間限定、時間帯限定とはいうものの、採算を度外視して顧客満足度を上げる、太っ腹な思い切りの良さをを感じた。人気もある高級店が行うからこそ尚更好感が持て、こんな店ならファンになりたいと思う。個人的には、Wine
Weekの規模拡大を願う。
住所:63rd Street and Park Ave. New York, NY 10021
早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社リクルートにて人材ビジネス領域で商品企画を担当。2006年7月から夫の転勤に伴い、NY在住。趣味は、レストラン巡りと料理。英語の特訓のかたわら、おいしくエキサイティングな街NYを満喫中。