フードリンクレポート


「ららぽーと横浜」をはじめ商業施設開業ラッシュ、充実目覚しい横浜・港北のダイニング

2007.4.27
3月15日に横浜市郊外の港北エリアにオープンした「ららぽーと横浜」は、高感度で軽い田舎暮らし志向を持った“横浜都民”のニーズをとらえた大規模商業施設で、なかなかの力作である。食においても、フードコートの常識を破った、ホテルや老舗旅館などの11の専門店の味を集積。大丸がデパチカに特化した新業態を提案。プラネタリウムやキッズの遊び場のある個性的なレストランなど、実験的な店が集まっている。横浜市営地下鉄新線の開業を来年に控え、続々と開業するライバルの商業施設の動向も合わせて追ってみた。



「ららぽーと横浜」外観





高感度な“横浜都民”をターゲットにした大型商業施設が誕生

 2007年の首都圏大型商業施設のオープンラッシュ第一弾として3月15日、横浜市北部の港北エリア都筑区内に、「ららぽーと横浜」が開業した。

 これは神奈川県内最大級の商業施設で、NEC横浜事業所跡に建設され、店舗面積は約2万8000坪を擁し、店舗数は284(大丸・イトーヨーカ堂内の専門店を合わせると約370)を数える。事業者は三井不動産、運営・管理は関連会社のららぽーとである。

 最寄り駅はJR横浜線・鴨居駅で徒歩8分ほど。横浜市営地下鉄・センター北駅からは無料のシャトルバス、同・センター南駅からは路線バスが運行している。駐車場は4200台を収容する。第三京浜道路の都筑ICから約2キロ、東名高速道路の横浜青葉ICからも約5キロと近いが、しばしば交通渋滞が起こる難点もある。

 メインターゲットは、主に東京都心部、横浜都心部に通勤する、高感度の港北ニュータウン、東急田園都市線沿線を核にした、半径10キロメートル圏の世帯の住民約250万人で、横浜市都筑区、港北区、青葉区、緑区、旭区、保土ヶ谷区、神奈川区、瀬谷区、川崎市宮前区、高津区といったあたりになる。

 年齢的には40代ハナコ世代を中心に、商圏の南側に多い団塊世代に加え、ヤングファミリー、ヤングカップルと幅広い顧客層を想定。年間来場者約1600万人、初年度売上約350億円(イトーヨーカ堂とイトーヨーカ堂内の専門店を除く)を想定している。

 集客は開店日初日から4日間で42万人が来場と、順調なスタートを切っている。三井不動産によれば予想していたよりもJR、シャトルバス、路線バスといった公共交通の利用者が多く、車に乗らない高齢者の来客も目立つのが特徴だという。

 鉄骨造地上6階地下1階の建物であるが、店舗として使っているのは1階から3階まで。1階には平面駐車場やバス、タクシーの乗り場に面して、イベント用ステージのある緑豊かなセントラルガーデン(屋外広場)があり、モール内にはノースコート(北側広場)、セントラルコート(中央広場)、サウスコート(カリヨン広場)と計4つの円形広場が設置されている。そして広場と広場を結ぶ3層吹き抜けの開放的なインナーモールに店舗が並ぶというのが、おおよその施設の構造だ。


水と緑を効果的に配したランドスケープ


モール内


世界初ドイツ・マイセンの磁器製カリヨン(鐘)

 サウスコートには、世界初のドイツ・マイセン磁器製のカリヨン(鐘)と融合した、全長5メートルのパイプオルガン「KUJAKU」が設置されており、随時生演奏会も開催される。

 核店舗は、延リース面積8300坪を持つイトーヨーカ堂、食に特化した1500坪の大丸、13スクリーンのTOHOシネマズ、紀伊国屋書店、東急ハンズといったところ。ファッションの割合は3割ほどとそれほど多くないが、「ザラ」、「バナナ・リパブリック」、「ギャップ」、「ユニクロ」あたりの大型店が入っている。インテリア・生活雑貨関連では、「インザルーム」、「アクタス」、「無印良品」などと代表的なものが入居し、家電量販のノジマ、島村楽器、CDショップのHMVといった顔ぶれも見える。

 施設全体のコンセプトは“ライフ・ウィズ・カルチャー”とのことで、文化・知性・情報・教養などをきっかけに、新しいライフスタイルの発見、顧客のコミュニティの場になる施設を目指している。

 特に団塊世代向けのカルチャーの仕掛けとして、ナムコの新業態となる会員制で絵画、手芸、パソコンを使ったデザインなどの趣味に没頭できる「玄創工房」、ホームセンターユニディの新業態で画材や陶芸用品などがそろう「ユニアート」、栄光のカルチャー教室「カルチャー・プラス」、大型ペットショップ「ジョーカー」等々がそろっている。

 デザインは全体のランドスケープをオーストラリアのバケン・グループが総合監修しているが、同グループはオーストラリア最大級のメルボルンにある「チャドストーン・ショッピングセンター」などを手がけている。店舗の部分は石本建築事務所が担当している。 


実験店が並ぶ食のゾーン。大丸はデパチカに特化した新業態出店

 食に関しては、施設全体では1割ほどの比率と控えめに見えるが、ラインナップは実験的なものが目立ち、なかなかに刺激的である。

 全般に飲食店は、セントラルガーデンからサウスコートのあたりに集まっている。
1階のセントラルガーデンに面した「キャンドルライトカフェ」、「フィッシュケーキ&デリ」などのカフェは、路面のカフェのような使い方ができる。

 セントラルコートにある人気のベルギーチョコレートのブランド「ゴディバ」のショップは、セルフ形式のカフェになっていて、ファンの間で評判になっている「ホット・ショコリキサー」も味わえる。

 また、2階の特選ダイニング「フォーシュン」は、「山の上ホテル」の洋食「ヒルトップ」など11店が集まる高級フードコートで、本格的な専門店の味を手軽に楽しめる非常に実験的な施設で、「ららぽーと横浜」の中でも最も注目度の高い店舗の1つだ。この階には、珍しいプラネタリウムレストランの「ムーミンオーロラカフェ」もある。

 3階はカジュアルに使えるダイニングが多く、「ラゾーナ川崎プラザ」にも入っていた「カリフォルニア・ピザ・キッチン」、「マザー牧場」のソフトクリーム専門店など、広く大衆にアピールするタイプの店のほか、女性を狙った「ソイダイニング 豆々」、子供のプレイスペースを併設した「キッズパーク バンビーレ」といったターゲットをセグメントした個性的な店も散見する。

 和・洋・中と、3つの大型ビュッフェレストランを配したのも大きな特徴で、3階には和食を中心にした「野の葡萄」、1967年創業の中華料理「謝朋殿」の新業態「炎菜房」、2階にはすかいらーくの関連会社ニラックスによる洋食を中心にした「ブッフェ エクス・ブルー」がそれぞれ競い合っている。

 団塊世代のニーズにこたえるため、旬の食材にこだわった「セントヘレナカフェ」、「野の葡萄」、「ベジクレープ」、「オリーブバール」などといった店も意識的に配している。

 そうした中、大丸はデパチカの品質をそのままショッピングセンターに持ってくるという、食に特化した新業態でチャレンジしてきた。こうした試みは、高島屋が3月12日に千葉県流山市にオープンした「流山おおたかの森S・C」で、食に特化した新業態「タカシマヤフードメゾン」を提案したのと同じ流れにあるもので、デパチカの進化を考える上で非常に興味深い。

 高級スーパー「ピーコック」ではなく、あえてデパチカというのは、イトーヨーカ堂とのバッティングを避けた面もあるが、百貨店が最も得意とする成長分野で、郊外のニーズを掘り起こそういった、三井不動産の強い意向も働いているようだ。

 店内は、市場、デリカ、ベーカリー、スイーツと4つのゾーンで構成され、日常の惣菜購入から贈答品まで幅広いニーズにこたえられるものだ。

 また、センター北駅前の都筑阪急、センター南駅前の港北東急、東急東横線日吉駅ビルの日吉東急といった、近隣の既存百貨店のデパチカに比べて規模も大きいが、イートインを多く展開して、滞留できる店づくりを行っていることがポイントだ。

 大丸はイトーヨーカ堂と同様に、1階の平面駐車場から入場でき、デイリーに使いやすいよう、立地も配慮されている。


ゴディバ


WDI の「カリフォルニア・ピザ・キッチン」は「ラゾーナ川崎」に次ぐ2店目


「マザー牧場」のソフトクリーム店は5店目となる


「ソイダイニング 豆々」の御膳


高級感ある「ブッフェ エクス・ブルー」店内


「野の葡萄」


大丸店内、横浜・元町のフランス料理店「霧笛楼」のブース


大丸店内「茶房 慶茶」は、京都・福寿園の和カフェ


 

専門店の味がファミレスの価格で楽しめる高級フードコート

 さて、「ららぽーと横浜」のレストラン群の中でも、ビッグなサプライズといえば、2階にある“特選ダイニング”と銘打った高級フードコートの「フォーシュン」であろう。

「フォーシュン」は約600席の規模を持ち、施設内の飲食店では最大級であるが、フードコートにおよそ入るとは思えないようなビッグネーム、知る人ぞ知る名店が11店、軒を連ねているのには驚かされる。

 その11店の面々とは、東京・神田駿河台の「山の上ホテル」が洋食「ヒルトップ」を出店、山形県天童温泉の老舗旅館「桜桃の花 湯坊いちらく」が名物山形そばに特化した「湯坊いちらく」を提案、銀座のちゃんこの名店「佐賀昇」がうどん専門店を新開発、原宿に本店を持つ広東料理の「南国酒家」が広東つゆそばなど人気メニューに絞ったブースを展開といったように、何とも豪華なラインナップである。

 このほかにも、横浜中華街の行列店でやきそばで有名な上海料理「梅蘭」、湘南・茅ヶ崎の地魚を使った海鮮和食「えぼし」、韓国家庭料理「吾照里」、東京・世田谷代田の創業76年のうなぎ「世田谷 宮川」、スティルフーズの展開する東京・乃木坂のナポリピッツァ&パスタ「1830」、さらには子供も喜ぶスイーツでは東京・高円寺のパンケーキ専門カフェレストラン「パンケーキデイズ」、コーヒーやジュースあるいはビールなどちょっとした酒類を提供するカフェ&バー「パシフィックカフェ」といった面々がそろっている。

 各店メニューを絞っての展開ではあるのだが、総メニュー数はフードだけでも約150、ドリンクも合わせると約190にもなり、どれも食べたくて選ぶのに悩むほどだ。

 実際、「ヒルトップ」の特製デミグラスソースで食する「オムハヤシ」(1580円)、カリカリに焼いた表面にあんかけのとろりとした具を閉じ込めた「梅蘭」の「梅蘭やきそば」(890円)、「えぼし」の湘南名産しらすをふんだんに使った「釜揚げしらす丼」(900円)などは、一度は食べて損はないメニューである。そういった看板料理が各店に1つは必ずある。

 また、「フォーシュン」の大きな特徴は、集中レジ座席指定方式によるオーダーの仕方にある。顧客はまずオーダーカウンターに行って、メニューブックから好きな料理を注文して、先に会計を済ませる。その時に座席が指定され(または全席自由席の時間には自由に座り)、店ごとのポケベルとレシートを受け取って、席に着く。そうして、調理が終われば店から呼び出しのポケベルが鳴り、各ブースまで行って料理と引き換える。

 食べ終わった食器、トレーは係員が回収するので、テーブルに放置しておいて良い。出店したレストランとすれば、注文を取らなくてよく、調理に専念できるというわけだ。中心価格は1000〜1200円と通常のフードコートよりも高いが、ここでしか味わえない特別感と、緑のあるテラス、落ち着いて食べられるレストランに近い環境づくりが売りである。

 出店した店に意図を聞いてみると、「もっと多くの人にお茶の水にまで来なくても、ヒルトップの味を知ってもらえるいい機会になると思いました。当ホテルのメニューでも、他店と重なるものもありましたので、そこは三井不動産のコーディネートで調整していきました」(山の上ホテル)とのことだ。

 客層を見ると、子供連れが多く、ファミレスと同じような価格帯であることから、新タイプのファミレスとも考えられる興味深い業態だ。

 イトーヨーカ堂の1階にもフードコートがあるが、こちらは「マクドナルド」、「ケンタッキーフライドチキン」、さぬきうどんの「丸亀製麺所」など、従来型のファミリー、ファーストフード需要にこたえるもので、2つのフードコートは明確に差別化されている。

 顧客がオーダーするのに、カウンターでどれにしようかと迷ってしまうためか、カウンターの行列が必要以上に長くなってしまうのが気になるが、カウンターの人員を増やすなど、まだまだ顧客のさばき方に改善の余地がありそうだ。


「フォーシュン」注文カウンター


注文品のできあがりを知らせるポケベル


「フォーシュン」店内


11の専門店のブースが軒を連ねる


「パンケーキデイズ」の「キャラメルバナナパンケーキ」(850円)


「湯坊 いちらく」の「つったい鶏そば」(880円)


「ヒルトップ」の「オムハヤシ」(1580円)


 

子供に遊び場、親にはリラクゼーションを提供するキッズレストラン

 次に「ららぽーと横浜」の食のシーンを彩る個々の店から、特徴あるものをピックアップしてみよう。

 レストランが集積する3階の一角にある「キッズパーク バンビーレ」は、小さい子供連れのファミリー、お母さんを優先したレストランである。子供連れでなくても入れるが、ウェイティングが出た時は、子供連れの顧客を先に案内するようにしている。

 企画・運営しているのはキューブコミュニケーションズ(本社・東京都新宿区)で、高級感があってゆっくりと本格的な食事ができる個室カラオケ、六本木「フィオーリア アリアブルー」及び、歌舞伎町と大阪・道頓堀にある「アリアブルー」をヒットさせた企業。個室カラオケは平日こそサラリーマンが顧客の主流だが、週末は小さい子供を連れた家族の利用が結構多いことから、子供連れをメインにしたレストランの着想を得たのだそうだ。

 日本は少子化が進んでいるが、そのぶん、1人の子供にかける金額は多くなっており、「ららぽーと横浜」が港北ニュータウンなど子育て世代の多い商圏であることに、出店の狙いがある。子連れの顧客は、ファミレスなどでは子供が騒がないかと周囲に気兼ねしてしまうが、同店ならば立場が同じなので、リラックスして利用できるというわけだ。

 また、若い夫婦は独身の頃はおいしいものを食べ歩いていた人も多いが、子育てをするようになれば、グルメからは縁遠くなってくる。そこで、子育ての世代にも、おいしい料理を提供して楽しんでもらうという意図もある。

 なお、1号店は昨年5月にさいたま市大宮区にある、さいたま新都心の「イトーヨーカ堂大宮店」内に出店しており、今回は2店目となる。

 店内は、すべり台などを設置したプレイルーム、授乳室、オムツ換えルームが設けられ、入店利用料として0歳〜12歳一律1時間300円、以降30分毎に100円を徴収している。

 料理はオーガニック素材を使用したイタリアンで、食器、什器などは子供の利用を意識した安全性の高いものを使っている。席数は70席。メニューは、キッズ向けのプレート4種(680円〜800円)、安全性を考慮して瓶詰めを提供する離乳食(380円〜400円)をはじめ、パスタ、ピザ、各種オードブル、ドルチェ、メイン料理などがそろっている。ドリンクも380円からあり、全般的に安い。

 顧客単価は1200円〜1500円といったところで、ファミレス並みと考えていいだろう。パーティー需要も多く、幼稚園の歓送迎会、謝恩会、お母さん方の集まり、誕生会などが既に入ってきている。パーティープランは、大人1人1980円、子供1人980円となっている。

 少し奥まったわかりにくい場所にあるが、「目的を持って来ていただく店ですので、あまり関係ありません。平日でも3時過ぎまではウェイティングが出る状況ですし、休日は夕方までウェイティングが出ます。順調なスタートです」(キューブコミュニケーションズ経営企画室部長・小林哲三氏)とのことだ。

 同店では、地域の子育てをする人のコミュニティとしても、自治体やNPOなどと連携してワークショップ、親子のイベントなども開催していく方針であり、核家族化で情報不足になりがちな子育てに関する交流の場としても機能させていくという。


「キッズパーク バンビーレ」店内


プレイルームのすべり台


「チョコロールピッツアとプレミアムジェラート」


キッズメニューの「バンビーレミックスプレート」


 

プラネタリウムがあるファンタジックな「ムーミンオーロラカフェ」

 2階にある「ムーミンオーロラカフェ」は、「ムーミン」の世界観を楽しんで食事ができる、プラネタリウムを設置したキャラクターカフェで、本邦初の出店である。

 展開したのは、さまざまなキャラクターを使ったグッズの製造、販売、レストランビジネスなどを手がけるベネリック(本社・東京都港区)で、「ムーミン」のキャラクターによるベーカリー&カフェでは、既に「東京ドームシティラクーア」と「キャナルシティ博多」の2店の実績を持っている。

 今回は趣向を変えて、「ムーミン」の故郷である北欧・フィンランドで見ることができるような、ファンタジックなオーロラや星空を、プラネタリウムで体感しながら食事をしてもらうことができるカフェを出店した。顧客ターゲットは20代から30代の女性を中心に、カップル、ファミリーまでを想定しており、現状は予想通りの客層となっている。1時間から2時間、プラネタリウムを観賞したり、北欧の雰囲気に浸ったりして、ゆっくりとしていく顧客が多い。

 プラネタリウムは、平日の昼に2回、夜に6回と、土日・祝日は昼に数回、夜に6回上映される。プログラムはムーミン谷のオーロラ(30分)、オーロラの舞(5分〜10分)、土星接近(5分)、星座案内(5分〜10分)などで、夜は生の解説が入る。投影時間や内容は随時変更されるので、スケジュールは確認して出かけたほうがいいだろう。

 店舗の外観と内装は、北欧の田舎や、ムーミン谷にあるような家をイメージしており、外観はムーミンハウスになっている。全席禁煙で、席数はテラスを含み84席。

 メニューは、北欧風料理を基本に提供されており、ランチはメインにサーモンを使った「ムーミンママランチ」(1260円)や、メインに鶏肉を使った「ムーミンパパランチ」(1260円)が好評。ディナーは「オーロラディナー」(3200円)というコース料理がある。ドリンクはフィンランドビールの「ラピンクルタ」(735円)、デザートは特大サイズの「ムーミン谷のプリン」(1050円)が人気とのことだ。

 同社スタッフによれば「プラネタリウムに興味を持ち、関連グッズを購入していく方も多い」そうで、上々の滑り出しと言えるだろう。今後は季節に合わせたメニュー、プラネタリウムのプログラムの開発を行って、リピーターを増やしていく方針だ。


「ムーミンオーロラカフェ」外観(C)Moomin Characters TM


店内(C)Moomin Characters TM


ムーミンパパランチ(C)Moomin Characters TM


 

カリフォルニアのワイン産地、ナパバレーのスローライフを提案

 1階の駐車場に面した場所にある「セントヘレナカフェ」は、2003年にオープンした静岡県三島市郊外にあるレストラン「セントヘレナキッチン」の2号店で、母体はカリフォルニアワインのインポーター、カリフォルニア・ワイン・トレーディング(本社・静岡県清水町)だ。

 元々、ワイナリーで働く人たちの人柄やインポーターとワイナリーの関係などを、消費者に直接伝えたいといった山口正道社長の意向で、飲食店を始めたとのことで、店名はカリフォルニアのワイン産地ナパバレーの中核の町、セントヘレナに由来している。

「セントヘレナはサンフランシスコから車で2時間ほどの田舎町ですが、クオリティの高いレストランが多いんです。ワイナリーを持つことは、アメリカ人のステータスですし、生活水準の高い裕福な人が多く住んでいます。田舎暮らしで、決して気取ってはいないけれども品がある。そうしたナパバレーの生活スタイルと、上質のカリフォルニアワインを提案したいという趣旨の店です」と、同社事業開発室室長の竹内保之氏は語る。

 料理のジャンルはカリフォルニア・キュイジーヌと銘打っているが、実際はカジュアルなフレンチとパスタ、ピザが中心の店で、東京の恵比寿、西麻布、銀座あたりのカリフォルニア・キュイジーヌをイメージすると、戸惑うだろう。普段着で味わえるフレンチレストランで、パスタやピザもある店と考えていい。

 ナパバレーのレストランは、自ら畑を持って自家菜園を行い、収穫できる季節の野菜に合わせてメニューを考えるのが一般的。「セントヘレナキッチン」でも、その思想にならって現地・三島郊外に農場を所有し、さまざまな野菜を育て、旬のメニューを出している。

 そして、2号店の「セントヘレナカフェ」でも、三島の農場からとれたての野菜を直送し、同じ考え方で旬にこだわったメニューで構成している。たとえばナバナを使ったパスタ、コーヒーブレイクにぴったりの静岡産イチゴ「秋姫」のデザートピザなどは、春でなければ味わえないものだ。

 野菜は統括料理長の米沢康裕氏が直接見て、減農薬の路地栽培で育てているが、ハウス栽培の野菜に比べれば濃厚で苦い味になる。特に本来の野菜の味を、子供の頃に知っている年輩の人からの評価が高く、既に横浜で来店した人が、静岡県裾野市内のアウトレットモールに寄った帰りに、三島の本店に立ち寄る人も見受けられるというような相乗効果も表れている。

 また、魚は静岡県の沼津港より天然物を直送、肉は国産素材を使っている。顧客単価はランチで2000円、ディナーで4000円といったところ。ちなみに夜のコースは3800円となっている。席数は約60席ある。

「店構えから、高級な店というイメージを持たれる方も多いですが、もっと気軽に来てもらっていいんです。ピザとシーザーサラダをつまみながら、ワインをちょっと引っかけて帰るスタイルが発信できればと思っています」と米沢統括料理長。

 現状の集客は平日が1回転ほど、休日が4回転ほどと、圧倒的に休日に集中する傾向にある。アメリカのリタイアした人が好んで住むナパバレーの食のスタイルが、団塊世代の大量退職が始まった昨今、どれだけ横浜・港北の住民にアピールするか。スローフード、スローライフを実践する店だけに、今後店のコンセプトに合ったリピーターをどのように増やしていくか、期待したい店だ。


「セントヘレナカフェ」外観


「セントヘレナカフェ」店内


自家農園で育てた安全・安心な野菜を使ったサラダ


 

高級中国料理の店が技術を生かしたビュッフェの新業態を出店

「ららぽーと横浜」では、和・洋・中と3店がそろったビュッフェ形式の大箱レストランも、飲食のリーシングの大きなポイントだ。

 その中では、中華の「炎菜房」が、創業より40年の中国料理店「謝朋殿」が仕上げた、上海、広東、四川、北京という本格的な4大中国料理を60種類以上も楽しめる新業態店として注目されるところだ。

 経営はグリーンハウスグループのグリーンホスピタリティーマネジメント(本社・東京都新宿区)で、出店の経緯は元々「謝朋殿」の技術を生かしたビュッフェを立ち上げる構想が社内にあり、ちょうど「ららぽーと横浜」の開業時期にあたっていたので、三井不動産にアプローチを行ったとのことだ。

 空間は“中華=炎の料理”の連想から、炎のモチーフと炎の色である赤を基調にデザイン。ステージを連想させるオープンキッチンの鍋場でつくられた料理が、すぐ横のカウンターで提供され、シズル感が演出されている。席数は112席。

 料金は、平日のランチが大人1880円、小学生900円、幼児500円、3歳未満無料。平日のディナーと土日・祝日が大人2880円、小学生1500円、幼児700円、3歳未満無料。

 来店数は、平日で400人、土日で550人といったところで、顧客単価は2100円となっている。

 主婦をメインターゲットに3世代が楽しめる店づくりを目指しているが、現在の顧客層は平日のランチが30代〜40代の主婦の5人くらいまでの小グループ、平日のディナーはファミリー及びビジネスユース、土日は3世代ファミリーやカップルが主流になっているという。ほぼ、狙いどおりと言ってよさそうだ。

 人気メニューは、平日のディナーと土日終日に提供される「北京ダック」、温かくてふんわりさっぱりとしたデザートの「豆花(トーファ)」など。料理は素材本来の旨みを生かすため、化学調味料を使用しておらず、身体にやさしい味を追求している。お勧め料理ができあがると銅鑼で知らせる。

 同社は、今回の出店を機会に多店舗展開を目指す方針であり、業態の確立を進めている。


「炎菜房」外観


「炎菜房」店内


ビュッフェ台と厨房


 

スウェーデンの家庭料理や激安ホットドッグが味わえる「イケア」

 ところで、横浜・港北地区には、「ららぽーと横浜」のみならず、新しい大型商業施設が続々と誕生している。

 第三京浜道路の港北インターチャンジのすぐ近く、ヤナセ横浜デポー跡に、昨年9月にオープンした「IKEA(イケア)港北店」は、店舗面積約4万平方メートル、取扱品目約1万アイテムという、外資系の巨大な組み立て家具と生活雑貨の店である。日本では昨年4月にオープンした、千葉県船橋市の船橋店に次ぐ2店目。

 駐車場は2100台を収容。JR新横浜駅からは無料のシャトルバスが運行している。

 イケアグループはスウェーデンを本拠に、世界35カ国でショップを展開している国際企業であるが、製販一貫体制を構築してるのが強みである。デザインを統一し、世界で最もコストの安い地域で大量生産。かつ、製品を買った顧客が組み立てる方式にして、人件費を削減している。そのため、デザインの良い北欧の家具を安い値段で買うことができるので、世界中で人気がある。たとえば照明1つとっても、都内の青山や目黒のインテリアショップで買えば、1万円近くしそうなハイセンスの商品が、1000円もしない値段で買えることもあるので驚きだ。

 店舗は2層になっており、顧客はまず、2階のショールームに上がって、イケアが生活提案する69のルームセッティング、インテリアやキッチンのコーディネートの例を見学。イメージを膨らませて1階の売場で商品を選び、集中レジで会計をするという流れになる。

 一種の住まいのテーマパーク的な要素を持った店なので、顧客の滞留時間は長い。顧客層は平日の昼間は子供連れの主婦が多く、夕方からは20代のカップルや独身者が増えてくる。そして、休日はファミリーが中心になる。3月、4月が引越しのシーズンといった事情もあるが、平日でも多くの来店者で賑っており、神奈川県民のみならず、都内西南の港区、渋谷区、目黒区などの住民も目立つという。

 テーマパーク的な店となると、休憩を取ったり、食事を取ったりする、レストラン、カフェも、店を構成する上で重要な役割を担うことになる。

「イケア港北店」のレストランは、700席の規模を持ち、食べ終わった後の片付けも含めて、セルフサービスとなっている。料理は世界のどの店でもスウェーデンの家庭料理が基本で、代表的なメニューの「スウェーデン風ミートボール」は、塩味のグレービーソースと、リンゴンベリーというコケモモの一種のジャムを付けて食べる(5個495円、10個650円、15個795円)。また、「ハーブサーモンのチャイブソース添え」(695円)、ジャガイモやタマネギなどをサイコロ状に切って炒めた「ピティパンナ」、カービングでサービスをする「ローストハム」や「ローストビーフ」も人気だ。

 日本の店独自のメニューとしては、カレーやパスタもある。ソフトドリンクなどは、別途カフェカウンターに並んで注文する。セルフだからでもあるが、総じて安く、パンは30円からあるので、食事には1人1食1000円もかからないだろう。

 店内のテーブル、椅子、照明などは、もちろんすべて「イケア」の製品を使っているが、さすがに家具の専門店だけあって、いい感じである。カフェやレストランのデザインに興味がある人なら、一度は行って損はないのではないか。

 また、1階の出口脇のビストロでは、「イケア」名物のホットドッグが食べられる。ビストロは先に食券を券売機で買って注文するセルフサービス方式を採用しているが、ホットドッグは1個100円、5、6種類のソフトドリンク飲み放題のセットで180円と激安だ。ホットドッグは温めたパンにソーセージが挟まっただけで提供され、ケチャップやマスタード、ピクルス、フライドオニオンは自分で付けて食べる。

 ソフトクリームの値段50円はさらに驚きだ。あのマクドナルドより安いと感じる外食など、めったにお目にかかれるものではないが、ここまで安いとついつい注文してしまう。


「イケア」外観


2階レストランのセルフ式カウンター


店内のテーブルや椅子、照明などはすべて自社製品


1階ビストロの券売機。驚きの安さ


イケア名物、スウェーデンの代表的家庭料理「ミートボール」


 

センター北、大倉山、新横浜、たまプラーザと大型商業施設ラッシュ

 横浜・港北の大型商業施設の建設は、「ららぽーと横浜」、「イケア港北店」にとどまらない。

 4月21日には横浜市営地下鉄センター北駅前に、毎日通いたい“ツカエル港北”をコンセプトとした「ノースポート・モール」が新規オープン。営業面積約2万2000坪という地上9階地下2階の建物で、ファッション、飲食、家電量販、シネコン、高級スーパーなど119店舗が入居し、年間売上目標250億円、年間入店者数1700万人を目指している。

 事業主体はエスアイ・アセットサービスという不動産開発の会社で、商業施設の企画やリーシング・運営はパルコが行っている。

 レストランに関しては、仙台発祥の自然食ビュッフェ「ひな野」、ダイヤモンドダイニングによるしゃぶしゃぶ・すきやき食べ放題の店「肉屋山本商店」など個々に面白い店がないわけではないが、全般的に1000円前後くらいまでで楽しめそうな、気軽に利用できる店が並んでいて、そんなに尖がった印象はない。たとえば5階のレストランゾーンには、「家族亭」、「シズラー」なんかが入居している。

 しかし、パルコが得意とする各種ファッション、インテリアや生活雑貨、12スクリーン2300席のシネコン「ワーナー・マイカル・シネマズ」、いなげやの新業態「ブルーミングブルーミー」という高級スーパー、家電量販のノジマ等々は、「ららぽーと横浜」とまともにバッティングする。

 そればかりではない。今年秋には、港北区師岡町という東急東横線大倉山駅から1キロメートルほど離れた環状2号線沿いに、トヨタ自動車が敷地面積7万1000平方メートル、駐車場2800台収容の複合商業施設「トレッサ横浜」をオープンさせる。6階建てとなる北棟と南棟、2つのビルから構成されるが、先行して11月にオープンする北棟は、トヨタ系ディーラー6社が一同にそろうのが目玉。そして来年3月にオープン予定の南棟にはスーパーマーケットの三和、家電量販のノジマなどが入居し、ファッション、飲食などを含めて、両棟で約200の専門店が集結するという。

 スーパーの三和は「ラゾーナ川崎プラザ」に入っているセンスのいいスーパーだし、ノジマは「ららぽーと横浜」にも「ノースポート・モール」にも入っている。よって、これもまた、他の商業施設とバッティングする要素が高いものである。

 さらに、来年にはJR新横浜駅が19階建ての高層ビルに生まれ変わり、高島屋のデパチカ新業態、ビックカメラ、三省堂書店、JR東海系のホテル、さらに数多くのオフィスが入居する。当然、レストランも多数出店するであろう。

 また、田園都市線たまプラーザ駅前でもまた、商業施設「たまプラーザテラス」を建設中で、今年1月にその一部フィットネススタジオなどが入居した「サウスプラザ」がオープン。2010年までに残りの「ステーションスクエア」と「ノーススクエア」も完成させて、約120店が集積する商業施設となる計画だ。


4月21日にオープンした、横浜市営地下鉄・センター北駅前の「ノースポート・モール」。商業施設の企画・運営はパルコ


 

苦戦する既存のショッピングセンター、街場の店は生き残れるか

 これほどまでの商業施設ラッシュになっている背景には、来年春に横浜市営地下鉄が東急東横線日吉駅から、センター北、センター南を経て、JR横浜線中山駅までを約21分で結ぶ新線“グリーンライン”開業を予定しており、横浜・港北エリアの利便性がますます高まり、さらなる人口増が期待されているからでもある。

 が、しかしあまりにも、数多くつくりすぎではないだろうか。

 現に、既存のセンター北駅前の都筑阪急と「モザイクモール港北」は、シンボルの観覧車が平日の夜には閑散としている寂しさだ。レストランでは最上階にあって観覧車を臨む、「ラ・ボエム」が孤軍奮闘している印象がある。

 センター北駅の駅ビル「あいたい」は上のほうの階に行くと、空き店舗が目立っている。

 センター南駅前の港北東急S・Cも、現状の顧客減は明らかで、レストランに関してはダイニングが居並ぶゾーンに「マクドナルド」が入っていたりするなど混迷を深めている。こちらも南国酒家の「遊旬居南国酒家」が孤軍奮闘しているイメージは否めない。

 以上のようなこの地域の大型商業施設乱立状況から、「ラゾーナ川崎プラザ」、「ららぽーと豊洲」、「ららぽーと柏の葉」に続いて、「ららぽーと横浜」でも、高い店舗開発力をアピールし、新しい生活提案を行った三井不動産といえども安穏とはしていられまい。「ららぽーと横浜」に隣接して705戸のマンションが建設され、来年1月には入居予定であることは心強いが、消費者を引きつけるイベント力が試されるところだ。

 果たして勝ち残る商業施設はどこか、共倒れしてしまうのか。「ノースポート・モール」開業効果で、センター北駅周辺の回遊性が高まって、この地域の巻き返しがなるのか。あるいは、たとえば最も港北ニュータウンらしい自然と住まいが融合したライフスタイルが見られる、市営地下鉄仲町台駅前あたりに自然発生的に集積した、せせらぎ公園に面したおしゃれなハワイアンカフェ「H1カフェ」やイタリアン「パークサイドカフェ」、手打ちの日本そばとアジアンスイーツを融合させた「蕎麦茶房 楽」、カジュアルフレンチ「アン・ジャンヴィエ」、店主が福島県白河市の「とら食堂」で修業をした「白河中華そば」などといった、エレガントかつカジュアルな傾向を持つ街場の路面にある個店が、結局は地域のニーズを的確にとらえてしぶとく生き残っていくのか。

 横浜・港北地区の商業施設間の競争、商業施設内の店と街場の店との競争のゆくえは、今後の郊外のレストランのあり方に大きな影響を与えていくような気がしてならない。


観覧車が回る、都筑阪急と「モザイクモール港北」


港北東急を核とした「港北東急S・C」は、「109シネマズ」の1号店がオープンした巨大商業施設だが、客足は厳しくなってきた


ハワイアンカフェ「H1カフェ」は、仲町台のせせらぎ公園前にある居心地のよい店


カジュアルフレンチ「アン・ジャンヴィエ」。仲町台にあってマスコミにもよく取り上げられる有名店


日本そばとアジアンスイーツの店、仲町台駅前のカフェ風の「蕎麦茶房 楽」


競争激化の中、港北ニュータウンの住民のニーズをとらえるのは、どの店だろうか(仲町台駅前で)




取材・執筆】 長浜淳之介 2007年4月26日