授賞式会場となったリンカーンセンター内エイベリー・フィッシャー・ホール。
・アメリカ料理界最大の栄誉「ジェームズ・ビアード財団 アワード」とは?
“アメリカ美食界の父”と呼ばれるジェームズ・ビアード氏の死後、彼の功績を称えて1986年に設立されたジェームズ・ビアード財団は、アメリカ料理界の保護と発展を目的としたNPO(非営利団体)で、奨学金提供の他、マンハッタン内にタウンハウスを構え、全米の著名なシェフを招いたディナーや業界誌の発行を行っている。
その財団が1990年から始めた、一年に一度活躍した業界関係者を表彰する賞で、その影響力は大きく、「料理界のアカデミー賞」と呼ばれるに相応しくアメリカ料理界において最大の栄誉となっている。
創立20周年記念と併せて開催された今回のアワード。
・幅広いジャンルで60にも及ぶ表彰部門
本、ブロードキャストメディア、ジャーナリズム、デザイン&グラフィクス、レストラン&シェフ、業界横断のアメリカ料理界への貢献者という6つのカテゴリーに分類された表彰の総数はなんと60部門。
特にレストラン&シェフのカテゴリーは表彰数は多く注目度も高い。シェフ部門は全米を10エリアに分け、それぞれのトップが決まり、その他には30歳以下の若手シェフは「ライジング・シェフ・オブ・ザ・イヤー」において、また、5年以上のキャリアを持って料理界に多大な貢献してきたシェフは「アウトスタンディング・シェフ・アワード」でそれぞれトップが決まる。
「ライジング・シェフ・オブ・ザ・イヤー」を受賞した地元ニューヨークの「Momofuku
Noodle Bar」 シェフ、David Chang氏にメダルをかけるMartha Stewrart氏
レストランに関しては、高いホスピタリティを持った上質のサービスを提供しているレストランを選ぶ「アウトスタンディング・サービス・アワード」、充実のワインリスト共に、ワインに関して広い知識を持つスタッフを持ってワイン文化の浸透に貢献したレストランを選ぶ「アウトスタンディング・ワイン・サービス・アワード」や、キッチンとフロア共にマネジメントし、レストラン全体の指揮を執る役割を“Restaurateur”とし、そのトップを決める特徴的な賞などもあり、興味深い。
また、大都市の有名なレストランばかりではなく、地方の小さな町にあるハンバーガーやフライドポテトなどのアメリカ料理を地元の人々に長年に渡り提供しているレストランを称える「アメリカズ・クラッシック・プレゼンテーション」という賞や子供向けに料理教育を行った人道的な活動を称える賞、生涯を通して料理界に貢献した実績を称える賞など、アメリカ料理界の幅の広さと層の厚さを感じさせる賞のカテゴリーだった。
・誰にでもチャンスがある、全米600人以上が選ぶ公平な審査
この名誉を受けるまでには、何度も繰り返される審査に残らなければならない。
まずオープン・コールと呼ばれる、誰でも候補者として推薦できるオンライン上のノミネートが毎年秋に実施される。そのリストの中から、全米600人以上の飲食業界の専門家の無記名投票で20人に絞り、さらに同じ方法でその20人から最終候補者の5人に絞られ、事前に発表される。受賞者は授賞式の場で発表され、当日までは秘密。この選考には、財団は一切関わらず、外部に委託して公平性を保っている。
・賞品、賞金は無し。受賞が最大の名誉。
これだけ大規模で栄誉ある賞ではあるが、受賞者への賞品や賞金は無い。受賞者に手渡されるのは、ジェームズ・ビアード氏の顔が刻まれたブロンズメダルのみ。まさに受賞した事実自体が最大の名誉なのである。
客席に応援に来ている関係者は全米から集まっていて、受賞者が決まる度、歓声と拍手が巻き起こり、立ち上がって抱き合って喜ぶ関係者も。受賞者のスピーチでの感激した表情を見るにつけ、この賞の重みが伝わってきた。
受賞後のスピーチではメダルをかけた受賞者が巨大スクリーンに映し出される。
・本家アカデミー賞さながらの豪華さ
表彰式の会場は、オペラやニューヨークフィルのコンサートが開催されるリンカーンセンター内のエイベリー・フィッシャー・ホール。会場に着くと、入口前には赤絨毯が敷かれ、沿道に並ぶ報道陣の取材に答える受賞者やプレゼンターを務める料理界のセレブリティの姿が。スケールこそ違うが、まさにアカデミー賞授賞式の光景だった。
赤絨毯の上で取材を受けながら会場入りする、候補者やプレゼンター達。
インタビューを受ける「アメリカ版料理の鉄人」の鉄人の一人、ボビー・フレイ氏。
ニューヨークを代表するセレブリティシェフの一人、ダニエル・ブーレー氏。
受賞者のみならず、一般参加者にもドレスコードがあり、男性はブラック・タイ、女性はカクテルドレス姿で華やか。会場に入ると、ゴールドの装飾が施された巨大なスクリーンが目に飛び込み、気分をより一層盛り上げる。授賞式が始まる頃には、ホール1階のオーケストラ席が満席(約1700席)となった。
表彰式が始まってもその豪華さに驚かされた。プレゼンターは、アメリカのみならず、世界的に料理界で著名なセレブリティ達。マーサ・スチュワート氏に始まり、日本でもレストランを展開するウルフギャング・パック氏、東京ミッドタウンにもオープンした「ユニオン・スクエア・カフェ」他NYの人気レストランを多数手がけるダニー・メイヤー氏、アメリカ版料理の鉄人として知られるボビー・フレイ氏などが次々に現れ会場を盛り上げた。
授賞式が終了後は、ホール外のスペースを2フロアに渡って使ってのガラ・レセプション。吹き抜けの開放的なスペースに装飾が施され、授賞式の間に華やかなパーティースペースに様変わりしていた。
ここでは受賞者や候補者のシェフ達がそれぞれのブースを持ち、小皿料理を1品ずつプレゼンテーションし、参加者は好きなだけ楽しめる。お目当ての有名シェフの料理を求める人々でごった返していた。
シェフがテーブルを挟んで目の前で仕上げをし、直接サービスしてくれる。
前述の「ライジング・シェフ・オブ・ザ・イヤー」を受賞したDavid Chang氏も直接サービス。
スポンサーもブースを出してワインやカクテルが振舞われた。2フロア合わせて、57ものブースが並んだ。
この表彰式の参加費は、一般で$450(約5万円)。信じがたいくらい高額ではあるが、NPO主催のイベントで、これだけの演出と料理や飲み物を自由に楽しめるということを考えると、理解できなくもない。接待用にチケットを購入する企業もあるというのも頷けた。
・日本人シェフが「ベスト・シェフ・サウスイースト」を受賞!
今回のアワードでは全体で数名の日本人がノミネートされていたが、その中で唯一受賞の栄冠に輝いたのは、アリゾナのスコッツデールでレストラン「Sea
Saw」を経営するNobuo Fukuda氏。ワインに合わせた小皿料理を出す、30席弱の小規模なレストランではあるが、ノミネートされるのは今回が3回目。三度目の正直での受賞となった。
まさか自分が選ばれるなんてと驚くFukuda氏であるが、名誉あるジェームズ・ビアード・アワードに選ばれることでこれまでの功績が認められて嬉しいと語っていた。過去2回のノミネート後は、遠方、特にニューヨークからのお客さんから注目されるようになったとのことで、受賞でさらに注目度が高まることは間違いない。
Nobuo Fukuda氏
【主な部門の受賞者】
●Best New Restaurant
「L'Atelier de Joel Robuchon」 New York, NY
●Best Chef: New York City
David Waltuck 「Chanterelle」
●Rising Star Chef of The Year Award
David Chang 「Momofuku Noodle Bar」 New York, NY
●Outstanding Chef Award
Michel Richard「Michel Richard Citronelle」 Washington, DC
●Outstanding Restaurant Award
「Frontera Grill」 Chicago, IL
●Outstanding Restaurateur Award
Thomas Keller「The French Laundry」 Yountville, CA
●Outstanding Service Award
「Tru」 Chicago, IL
●Outstanding Restaurant Design
「Xing Restaurant」 Design Firm: Lewis. Tsurumaki. Lewis LTL Architects
●Cookbook of The Year
「The Lee Bros. Southern Cookbook」 Authors: Matt Lee and Ted Lee
早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社リクルートにて人材ビジネス領域で商品企画を担当。2006年7月から夫の転勤に伴い、NY在住。趣味は、レストラン巡りと料理。英語の特訓のかたわら、おいしくエキサイティングな街NYを満喫中。