厳格に格付けされた仙台牛
・有名食材は、地産「東」消
「北海道にも道産の羊がいるが全数が東京に向い、地元では仕入れられない」
「大間のマグロは、青森では手に入らない」
地元の生産者は、生産量に限界があるため、高く売れ、しかも安定的に買ってくれる東京に持っていこうとする、それは仕方のない経済の流れだ。地元の方は簡単に手に入るとのんびり構え、気が付いたら東京に持って行かれていた、となる。
東京では郷土料理や食材が人気で、飲食店経営者や業者が地方を旅し、食材探しに熱中している。さらには、欧米から日本食ブームに乗って、ユニークな食材を探し求めて日本各地を歩く外国人シェフまで参入しているのが現状だ。
・地方の飲食店は潰れる
美味い食材が手に入ることが当たり前と考え、労力をかけようとせず、工夫せず潰れていく地方の飲食店が多い。全国チェーンがやって来ても、安直な安売りや飲み食べ放題に走って、利益が取れず潰れていく。
全国チェーンは、圧倒的な安さと、東京らしさを売りに若者を中心に地方のお客をさらっていく。食材や酒類の納入業者も、巨大なバイングパワーの下、納入価格を下げられ悲鳴を上げて疲弊する。
仙台では、全国チェーンに負けない地元飲食店経営者を育てようとして、地元の酒類卸、カネサ藤原屋が私塾「仙台フードビジネス専門塾」を本年4月に開校した。初年度ということもあるが、集まった生徒の数は5名にも満たず、地方の企業家スピリットは弱い。
・地元の食材に戻ろう
地方自治体は地元の食材に注目し、巨大マーケットである東京を目指し出先を設け、消費量の拡大を期待してきたが、各地とも同じ動きで、逆に東京での地方同士の競争が激しくなってしまった。
そこで、地方は地元での消費を固め、まずは地元でブランドを確立しようという動きに転換。地元客と観光客の両者が喜んでくれるブランドを作り上げた後で、東京や全国市場に出ていこうとしている。
しかし、地元では地元の食材であることを謳うだけでなく、鮮度を訴えることが必要だ。観光客は地元産というだけでも価値を理解してくれるが、地元の人には当たり前。そこで付加価値を付けるために「鮮度」がポイントになる。
・手間をおしまず仕入れよう
仙台市内で昭和43年創業の「伊勢屋」。元は業務用の八百屋だった。ステーキと和食を提供する店「ステーキハウス伊勢屋」として市内に4店舗まで拡大。しかし、BSEが発生し、2店舗まで縮小。その時に出会ったのが「仙台牛」。これオンリーにすることにより、他店と差別化することができた、と松坂信社長は言う。
レジ横には、トレイサビリティ情報も開示
「伊勢屋」松坂信社長
「仙台牛」と呼べるのは、宮城県で生産される1万2千頭の食肉牛の内、3割に過ぎない。黒毛和種であり、A5、B5に格付されたものだけなど厳格な規格がある。ちなみに、格付けがやや劣るものは「仙台黒毛和牛」と呼ばれる。
伊勢海老の仕入れに、夜行に乗って伊勢まで行ったり、フグも下関まで修行に行って、ようやく仕入させてもらった、という先代の考えが、今の松坂社長にも徹底されている。松島のカキを仕入れに毎回漁港まで通っているそうだ。「行くと、良いカキを取り分けて待っていてくれるんです」。他店より良質のカキを手に入れている。
手間をかけて仕入れた食材だから、自然とお客にも大切に提供できる。「伊勢屋」は仙台牛、三陸の魚を提供し、客単価5千円以上。駅ビル地下の店舗は58席で月商14百万円にも達する繁盛店だ。
下関までフグの修行に行った。その縁で、「世界一ふく刺」イベントにも参加。
・地方はストライクゾーンを広くすべし
地方のマーケットは小さい。「地方では顧客ターゲットを狭めず、ストライクゾーンを広くする必要がある」とキリンビールで仙台の業務用を担当する榎本孝氏は言う。東京では尖った顧客向けに店舗を作っても繁盛するが、地方ではこのやり方は通用しない。
例えば店舗デザイン。カッコ良すぎはだめ。かつて仙台で注目されていた外食企業が東京の有名デザイナーを起用した和食店を作った。しかし、今はその店舗はない。普通のお客も気兼ねなく来られる店舗が求められている。
米国や英国では一極集中が進み、日本でも地方と東京との格差は今後さらに拡大する可能性が高い。地方から東京へ出店するなど、飲食店経営者が地方と東京を行き来し、東京の刺激を受け、それにより地方を再認識することで地方の飲食マーケットは活性化する。