東京ミッドタウン
・「東京ミッドタウン」がオープンより1カ月で来場者400万人
3月30日に鳴り物入りでオープンした、東京・六本木の旧防衛庁跡を再開発した「東京ミッドタウン」。商業施設の来場者は、オープンより1カ月(3月30日〜4月30日)で約400万人、ゴールデンウィーク中9日間(4月28日〜5月6日)で約150万人を数え、集客上は順調にスタートしたと言える。
開業2カ月で約1000万人の入場者を誇った、2003年の「六本木ヒルズ」オープン時の爆発的な勢いまでにはいたらないものの、六本木界隈に大いに活気をもたらしている。
「東京ミッドタウン」は敷地面積約6万8891平方メートル、延床面積約56万3801平方メートルの規模を持ち、うち商業施設は約7万993平方メートルとなっている。店舗数は132店で、約200店ある「六本木ヒルズ」の3分の2ほどだ。
共同事業者は、三井不動産、全国共済農業協同組合、明治安田生命、積水ハウス、富国生命、大同生命という6つの機関投資家で、三井不動産は企画施工段階でのプロジェクト・マネージメントとマスターリース、竣工後のプロパティ・マネージメントを投資家より受託している。
敷地内には、5ツ星ホテル「ザ・リッツ・カールトン東京」が入居する、東京一の高さ248.1メートルの超高層ビル「ミッドタウン・タワー」(地上54階、地下5階、塔屋2階)をはじめ、「ミッドタウン・イースト」(地上25階、地下4階、塔屋1階)、「ミッドタウン・ウェスト」(地上13階、地下3階、塔屋1階)、「ガーデンサイド」(地上8階、地下3階、塔屋2階)、「デザイン・ウィング」(地上1階、地下1階)、「パーク・レジデンス」(地上29階、地下2階、塔屋2階)といった建物がある。南側に開けたプラザを中心にビル群が建ち並ぶ“都市ゾーン”を三日月形に取り巻くように、檜町公園も含めた“庭園ゾーン”が広がっている。
富士フイルム、コナミの本社などが入居する貸付面積約18万4000平方メートルに及ぶオフィス、ホテル「ザ・リッツ・カールトン東京」、410戸の住宅、107戸のサービスアパートメント(家具付き賃貸マンション)、商業ゾーン、ホール、メディカルセンター、「サントリー美術館」など、多彩な機能融合を目指す複合施設であり、「六本木ヒルズ」と同様にそれぞれ世界有数のパートナーとのコラボレーションが見られる。
また、敷地の40%を緑とオープンスペースが占め、防衛庁跡地に残されていた約140本のサクラ、クスノキなどの高木を移植した。アートにも力を入れており、プラザ中央に置かれた安田侃氏の「妙夢」という作品をはじめ、敷地内にさまざまな作品が散りばめられている。安藤忠雄氏設計で服飾デザイナー・三宅一生氏、プロダクトデザイナー・深澤直人氏、グラフィックデザイナー・佐藤卓氏の3人がディレクターを務める、デザイン専門ミュージアム「21_21 DESIGN SIGHT」は“庭園ゾーン”にあり、建物自体がアートだ。このあたりの大都市のまちづくりに自然環境との調和や人間の感性を取り入れて、創造型社会における知的生産の場を志向する考え方も、「六本木ヒルズ」と同様なものであろう。
なお、「ミッドタウン・タワー」をはじめとする建築のデザインと、マスターアーキテクトは、全米最大級の建築事務所で、ニューヨーク「グラウンド・ゼロ」の再建では中央の「フリーダム・タワー」の設計を手がけたSOM(スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル)が、東京初のプロジェクトとして担当した。
ともあれ、「東京ミッドタウン」は、都営地下鉄大江戸線・六本木駅に直結した立地にも恵まれ、前評判どおり東京の新名所に名乗りを上げたと言えるだろう。
ミッドタウン入口
プラザ
1月に開館した「国立新美術館」
・感性豊かで希少性が高い店がそろったショップ&レストラン群
商業施設は、都心の上質な日常を彩る“The Lifestyle Museum”がコンセプト。都市型のライフスタイルを確立した人に向けて、感性豊かで希少性が高く、繰り返し利用できるような店をリーシングしたという。
メインショッピングゾーンは、西側のビルとビルの間をモールにした「ガレリア」で、全長約150メートル、高さ約25メートルの4層吹き抜けの大空間に、スタイリッシュなショップが並んでいる。また、東側のゾーン「プラザ」には個性的なカフェなどが入居するほか、1階には開放感あるガラスの天井「ビッグ・キャノビー」、TOKYO FMのサテライトスタジオ、大型スクリーンも設置され、憩いの場を提供している。
1、2階に集まるファッションでは、東京コレクションで人気を博している若手デザイナーの森健氏による「オブジェスタンダール」の旗艦店や、パリで最も芸術的と言われる老舗紳士服「アルニス」、世界の厳選したブランドを集めたセレクトショップの「リステア」あるいは「ヴィア・バス・ストップ」等々、自分の感性でモノを選択したい先端的な都市住民のニーズに対応。2階には、シュウ・ウエムラ氏が選んだ、アロマセラピー、エステティック&スパなど11店のビューティー&ヘルスケアの店を集積しているのも特筆される。
3階はインテリア&デザインのゾーンで、京都を拠点に美意識の高いインテリアを発信している「スフェラ」の東京初進出店、デザイン家電専門店の「イデア・デジタル・コード」など、デザイン性の高い商品構成の店舗を集積させ、都内でも有数の規模、ショップ数の集積となっている。
さて、食に関しては、「様々な方にご満足いただけるよう、世界的に有名なインターナショナルなレストランから『賑わい溢れる』店舗まで、幅広いラインナップを取り揃えた」(三井不動産広報部)とのことで、魅力溢れる個々の名店が集積することで、シナジー効果が生まれるように配慮されているそうだ。
地下1階が一大集積地で、食物販に関しては、東急ストアによる24時間営業の高級スーパー「プレッセ・プレミアム」があり、セレクトショップ「デーン&デルーカ」、中国刀削麺の「麺」、ハヤシライスの「東京ハヤシライス倶楽部」、韓国料理「妻家房」、豚肉・とんかつ「平田牧場」、魚介味淋粕漬「鈴波」、和菓子「とらや」、フランス菓子「ルコント」、デリカテッセン「マンハッタンデリ」等々、イートインも備えて行列が絶えない店も多々ある。
また、地下1階には、席数300席とこの施設のレストランでは最大規模のニューヨークの市場をイメージしたというフードコート、「Okawari.jp(オカワリ・ドット・ジェーピー)」もあり、ランチ時は1000円を切る値段からと比較的リーズナブルに食事ができるので、特に込み合っている(フードリンクニュース「次に流行るお店」第175回参照)。
“カジュアルダイニング”と呼ばれるゾーンには、シドニースタイルのガストロパブ「ヤオ_エスタブリッシュ」、蕎麦「江戸切庵」、カレー「デリー」、洋食「ワイン&ダイニング エデッセ」、中華・点心「千里馬 南翔小籠」、鶏料理「東京ミッドタウン 今井屋茶寮」と、通常のレスラン街で食事できる程度の価格帯の店が並んでいる。
一方で、もう一つの集積として「ガレリア」の北側に“ガーデンテラス”と呼ばれる地下1階〜4階の吹き抜けのゾーンがあり、17店の高級レストランが軒を連ねており、「東京ミッドタウン」の見所となっている。
主なレストランを挙げると、ニューヨーカーに圧倒的な人気を誇る「ユニオン・スクエア・カフェ」が東京に初出店した「ユニオン・スクエア・トウキョウ」(フードリンクニュース「次に流行るお店」第173回参照)、映画監督フランシス・コッポラ氏がプロデュースしたイタリアンとカリフォルニアワインの店「コッポラズ ヴィノテカ」、インテリア界の重鎮テレンス・コンラン卿が「ひらまつ」と組んで展開するレストラン部門の日本1号店「ボタニカ」、日本におけるフレンチの重鎮ジョエル・ブリュアン氏が手がけた「キュイジーヌ フランセーズ JJ」、原宿のメキシカンの名店「フォンダ・デ・ラ・マドゥルガーダ」が新進的なモダンメキシカンに挑戦した「ラ・コリナ」、神戸・元町を拠点に日本料理界の革命児との異名をとる山下春幸氏プロデュースの「ハル ヤマシタ 東京」、食通だった作家の故・池波正太郎氏が愛したという「山の上ホテル」の天ぷらが商業施設に初出店した「てんぷら山の上」等々といったようなところだろうか。
オーセンティックから革新的なラインまで多士済々だが、世界に通用するような美食の集積では、都内屈指であることは間違いなく、多くの店では予約を取らなければ入れないほどの好調なスタートだそうだ。
ガレリア
ガレリア
カジュアルダイニングのゾーン
賑わう地下1階食物販ゾーン
フードコート「オカワリ・ドット・ジェーピー」
ユニオン・スクエア・トウキョウ
・サントリー美術館とのゾーニングが後押しした「てんぷら山の上」出店
そうしたキラ星の如く見える「東京ミッドタウン」のレストランの名店の中でも、東京・神田駿河台の文化人の集うホテル、「山の上ホテル」による「てんぷら山の上」出店は、特筆すべきニュースの1つである。
「前々から商業施設に出店しませんかというお誘いはあったのですが、会社としてタイミングの問題があって、お断りしているような状況でした。今回“ガーデンテラス”に出店依頼をいただいて、東京ミッドタウンが注目の場所でもあり、和をテーマに古美術を中心とした展開を行うサントリー美術館のある3階に、“ジャパンバリュー”をキーコンセプトにして、和食の店を4店集めるという構想でしたから、出店を決めたんです」と山の上ホテル・白野直樹副総支配人は背景を語る。
駿河台「山の上ホテル」の「てんぷらと和食 山の上」は、同ホテルのレストランの中でもトップの売り上げがあり、十数年安定した業績で、日によっては予約で埋まってしまうようなことも続いていた。
また、東京の市井のてんぷらの名店は、「山の上ホテル」出身者も多く、「山の上ホテル」のてんぷらの認知度も高いので、より多くの人にてんぷらを楽しんでもらいたいとの趣旨であるという。
「東京ミッドタウン」の「てんぷら山の上」は、カウンター12席、テーブル26席、4人の個室が4つで16席と、計54席。空間は和の美を感じてもらうために、欄間、蒔絵風などといったビジュアルを取り入れている。
メニューは、ランチは3150円の「天丼」が人気で、ご飯に海老、白身魚、野菜の天ぷらが乗っている。コースは5250円からあり、野菜10品とかき揚げからなる、野菜てんぷらのコースの注文が多い。
ディナーは9450円から5種類のコースがあるが、現状は予約で8割は埋まってしまう状況だという。
本店と同様、油はクオリティの高い生搾りのごま油と浅煎りのごま油のブレンドで、材料は毎朝築地より、鮮度の高い旬のものを仕入れている。衣も薄く、素材の味を生かした仕上がりがおいしさの秘訣だ。
顧客は20代後半から30代のカップルや女性が中心だが、平日のランチに関しては40代、
50代の女性が目立っている。ドリンクは、ワインのオーダーが多いのが、「東京ミッドタウン」の支店の特徴だという。
店員は調理もホールも全員が社員で、アルバイトは置かず、ホテルのサービスをきっちりできる人を送り込んでおり、本店と変わらないサービスが受けられるそうだ。このあたりも、同社の「東京ミッドタウン」にかける本気度が伝わってくる。
「てんぷら山の上」外観
カウンター
個室
・1階の路面にあるカフェ感覚の気軽なレストランが集客好調
レストランが集積する地下1階や、“ガーデンテラス”のほかにも、1階には路面店のような感覚で、「東京ミッドタウン」にある店であることをあまり意識せずに利用できる、カフェやバーが点在している。
ゼットンが出店した「オランジェ」は、地下鉄大江戸線の出入口の目の前で、外苑東通りに面した、施設内で最も六本木交差点に近い角地という、好立地を確保した。
朝7時に開店して翌朝5時まで営業(日曜、祝日は24時まで)という、六本木界隈でもファーストフードを除けば珍しい長時間営業のレストランで、どの時間でも気軽にシャンパンを楽しんでもらうのが趣旨の店である。六本木の場合、昼夜逆転した生活を送っている人、夜通し遊んで朝どこかでゆっくりして帰りたい人も多く、早朝からシャンパンも、わかるような気がする。
また、店内は「オレンジ」がテーマになっており、たとえば朝は自家製ママレードやフレッシュオレンジジュース、ランチタイムはオレンジを使ったシャンパンカクテルの“ミモザ”、午後はオレンジジュースと、一日中オレンジの香りに包まれた空間で、心地よく過ごせるという。
メニューは全般に、シンプルなライトフレンチのビストロ料理で、1日のシーンで、モーニング、ランチ、カフェ、ディナー、バーとメニューが変わり、使い分けることができる。
モーニングでは、1500円でパンと卵料理を中心にした、ママレード、カットオレンジ、100%オレンジジュースといったものを組み合わせたセットが人気。またランチは、1500円でチキンライス、パスタなどイタリアン的なメニューが、カットオレンジとともに楽しめる。モーニングとランチは、プラス300円で小さいグラスのシャンパンを付けられる。
ディナーはアラカルトが中心で、「骨付き子牛のキャラメルロースト」などのビストロ料理が味わえる。顧客単価は6000円前後。ミッドナイトのバータイムでは、生ハム、マリネ、パスタのような軽食が主流になるが、肉料理、魚料理もあるので、空腹を満たすことも可能である。なお、ディナーとミッドナイトは、10%のチャージがかかる。
デザインは森田恭通氏で、アンティークの本を使ったシャンデリアや、バサルディーナというイタリア産の火成岩を使った壁が印象的で、ヨーロッパ的でシックな雰囲気の中にも、カジュアルな要素を取り入れている。
席数はレストランスペースが50席、バーカウンターが30席、テラスが30席と、計110席あるが、OL、サラリーマン中心に1日平均500人、週末の金曜と土曜は650人が来店するといったように、好調なスタートを切っている。
中でも11時半〜15時半のランチタイムの利用が多く、特に晴れた日のテラス席の人気が高い。
稲本健一社長によれば、「オープン景気でいまは心配してないですが、商業施設は必ず劣化します。劣化した時に、影響を受けないような立地を考えた」とのこと。フラワーブティックを挟んで、同じ1階の路面にある、カフェカンパニーによる「A971 GARDEN」のスタンディングスタイルのバールが、集客力抜群で連夜込み合っており、簡単には減速しそうにないことを見ても、その戦略は功を奏する公算が高いと思われる。
「オランジェ」テラス席
「オランジェ」バーカウンター Photo(C)Nacasa&Partners
「オランジェ」テーブル席はアンティーク本のシャンデリアに注目
Photo(C)Nacasa&Partners
・平日のランチ需要にしっかりこたえた店は決して劣化しない
六本木にできた“街の中の街”では先輩格に当たる「六本木ヒルズ」であるが、「東京ミッドタウン」開業後3日間(3月30日〜4月1日)で、来街者数は昨年比約10%増、ゴールデンウィーク9日間の集客数も「東京ミッドタウン」に迫る140万人を記録し、さすがの健在振りを示している。
「六本木ヒルズ」のメインレストランゾーンと言えば、18店が集積する「ウェストウォーク」5階であるが、その中で集客率1位を誇るのが、際コーポレーションが展開する「老虎東一居(ラオフー ドン イージュ)」である。席数60席で、月商1500万円を売り上げており、既にオープン以来4年が経過し、回転扉事故などの逆風があった中での成績なのだから立派である。
しかも、去年の春に荒木隆史店長が着任して、メニューを大幅に改定し、売り上げは昨年に比べて毎月3%くらいずつ伸びているという。
1日の来客数は約370人、雨天の時はさらに増えて約490人に達する。平日はオフィスワーカー、休日はファミリー層が顧客の中心で、バリアフリーにも対応。性別は6:4で男性がやや多い。
なぜ、劣化しないのか、その鍵はランチに対する取り組みであるようだ。「ウェストウォーク」5階は、オフィス棟でもある「六本木ヒルズ森タワー」の一角にあり、平日のランチの時間には、一気にフロアーに人があふれる。「六本木ヒルズ」で働くビジネスマンは、この街の外に出てランチを取るほどの時間的余裕がない人も多く、そこでどれだけのリピート客を確保し、ディナータイムも来て見たいと思わせるかが勝負なのである。
同店ではランチに、定番の定食2種(麻婆豆腐、餃子)、週替わり定食6種(肉料理、海鮮料理、野菜料理が各2種)、計8種を用意。900円〜1200円という値段はやや張る感もあるが、ご飯とスープをおかわり自由にして、お得感を演出している。従来はメニュー数をもっと絞り込んでおり、おかわり自由のサービスも行っていなかった。
そのほかにも、麺16種、あんかけご飯6種も楽しむことができ、夏は冷やし麺2種もメニューに加わる。顧客にすれば非常に選択肢が広く、いわゆる「中国麺飯店」の機能が強化されることによって、根強いファンを獲得している。
また、夕方17時までランチが食べられるので、多忙で食事の時間が不規則なオフィスワーカーに喜ばれている。
テイクアウトも行っているが、これの売り上げも馬鹿にならず、1日に10万円くらいにはなるのだそうだ。
夜は2300円の客単価で、際系列店ではおなじみの、特徴ある真っ黒い酢豚、タンタン麺、棒焼き餃子などを味わうことができる。北京の古い食堂をイメージした落ち着いた内装の効果もあってか、外国人の来店も多いそうだ。また、忘年会、懇親会、結婚式の2次会などのニーズも多いという。
「六本木ヒルズ」にはおしゃれなレストランも多いが、この店にはほどよい庶民感覚があって、ほっと一息できる側面があるようだ。メニューや内装の目新しさがある店ではなく、決して業界ウケはしないが、商業施設で本当に売り上げをとっていく店の類型がある。
なお、際コーポレーションは六本木エリアに、「六本木ヒルズ」内にある「天一ポウ」、「白椀竹カイ楼」、「国立新博物館」近くにある「胡同四合坊」、「六本木ヒルズ」の外れの「フードマガジン」の道向かいにある「胡同三辣居」などの店を持っているが、いずれの店でも最低でも数%の「東京ミッドタウン」効果は出ているという。「東京ミッドタウン」に近い「胡同四合坊」ではランチタイムや土日の顧客数の増加が目立ち、遠い「胡同三辣居」でも麻布十番駅を利用する人が、特に土日にこの店で食事を済ませて、観光に向かうケースが見られるそうだ。
4周年を迎えた「六本木ヒルズ」はエリアマネジメントに踏み出す
東京ミッドタウン効果が顕著な路面店「胡同四合坊」
老虎東一居」外観
「老虎東一居」店内
「老虎東一居」人気の定番ランチ・麻婆豆腐定食(950円)、ご飯とスープはおかわり自由
・アパレルが撤退した後に入居したケーキショップ&カフェが成功
一方、「六本木ヒルズ」に新しくオープンした店の中には、瞬く間に多くのファンを獲得し、繁盛店となったものもある。
「ヒルサイド」1階のエスカレーター脇の立地に、2005年12月にオープンした、ケーキショップ&カフェの「ハーブス(HARBS)」は、名古屋を本店に中部、関西でショップ展開してきたチェーンで、全国に22店あるが、関東は六本木ヒルズ店が1号店だ。現在は、この店の成功をきっかけに、ルミネエスト新宿、上野松坂屋、恵比寿三越と、東京都内に4店と広がっており、東京進出の足がかりとなった。
経営するのは重光という会社で、26年前の創業以来、厳選した素材を使い、鮮度を重視した味の良さと、一般的なケーキの1.5倍はあろうかと思える、ワンホール直径24センチの大きな8号サイズにより、名古屋では人気を博してきた。松坂屋、三越、高島屋などといった都心部のデパートにも店舗を構えており、非常に有名なケーキショップである。
同社のケーキは、たとえばフルーツは季節を重視してイチゴは旬に採れたものしか使わない、小麦や卵や牛乳はそれぞれのケーキに合ったものを使用、防腐剤は一切使用せず凝固剤の使用も最低限にとどめており、毎日工場からつくりたてがワンホールの状態で店に届けられて、オーダーが入った際に切り分けるので、高品質で新鮮な状態のケーキが常に顧客へ提供できるのだという。
六本木ヒルズ店は、内装の高い天井と、ヨーロピアンモダンのシックでありながらもカジュアルな雰囲気も醸し出すインテリアで、旗艦店として上々の店舗に仕上がっている。元はアパレルのテナントが入居していた場所だったそうだ。
立地的には、ちょうど「六本木ヒルズ森タワー」やブランドショップが並ぶ「ウェストウォーク」から、バス通りのけやき坂、イベントスペースのアリーナに下っていく接合部分にあたり、ゆっくり休憩するにはちょうどいいような位置に、カフェという業態がうまくはまった一面もあるようだ。仕事の打ち合わせにも、結構活用されている。
店内は、平日はビジネスマンやOL、買物ついでの主婦、休日は「六本木ヒルズ」の観光客で、いつも賑わっており、休日には行列ができるほどだ。また、名古屋出身者が懐かしがって訪れるケースも多く、近年東京の飲食で勢いのある名古屋発ブランドの1つでもある。席数は56席あるが、1日平均4回転以上の集客を確保している模様である。
特に今年3月に、フジテレビ系列「とんねるずのみなさんのおかげでした」の人気コーナー「新・食わず嫌い王決定戦」で、同店の「ミルクレープ」(650円)が紹介されてからは、1日の売り上げが平素の2倍近く売る日が2、3週間続くほどの反響があったという。
ドリンクは、各種コーヒー(600円〜)、ポットサービスの各種紅茶などをそろえ、決して安くはないが、高級デザートカフェで人気がある「カフェ・ラ・ミル」などと同様に、品質で支持を得るタイプの店と言える。11時〜14時のランチタイムは、お好みのサンドイッチ1点とハーフサイズケーキにドリンク付きで1300円〜という、お得なメニューもある。
「ハーブス外観」
「ハーブス」ミルクレープ
「ハーブス」季節の新作ケーキ
・ニューヨークスタイルのモダンなレストランが華々しくオープン
さらに、六本木界隈では「東京ミッドタウン」開業効果をも当て込んでか、路面でも実験的なニューオープンの店が続々と誕生している。
六本木通りと「東京ミッドタウン」の間となる六本木4丁目で、三河台公園の西隣にあるおしゃれな商業ビルの地下1階に、4月26日に開店した「57(フィフティセヴン)」は、ニューヨークスタイルのモダンチョップハウス・レストランだ。店名は言うまでもなく、ニューヨーク・ミッドタウンの57番街に由来する。
チョップハウスという業態は、Tボーンなどのステーキを切って(つまり、チョップして)提供するレストランをルーツとするが、現在では広く大衆的なアメリカンスタイルの料理を提供するレストランを指す。
しかし、「57」の目指す方向性は、よくありがちな大味に流れるチョップハウスではない。アメリカ料理の大衆性を残しながらも、日本的な繊細さやフランス料理の粋を織り交ぜた、都会的で洗練されたモダンチョップハウスという新しいスタイルの創造を目指している。
「57」を経営するメトロメットは、昨年9月にアメリカに初進出して、ニューヨークのマンハッタンに、モダンチョップハウスのスタイルで、「7 SQUARE(セヴンスクエア)」をオープンさせており、いわばその東京版の姉妹店が「57」という位置づけだ。
同社のアルバロ・ペレズ会長は、日本において「イルフォルノ」、「イル・ピノーロ」を成功に導いたことで知られ、2002年の同社を設立後も、半蔵門のフレンチ「アルゴ」や銀座「ミキモト ラウンジ」のプロデュースなどを手がけて、注目を集めている。
「イルフォルノ」展開にあたってアメリカより来日したアルバロ・ペレズ氏は、日本とアメリカのレストラン市場を熟知しており、ニューヨークと東京に共通する、エネルギッシュでスピーディで、24時間眠らない大都市の住民の、貪欲なまでのレストランに対する高い要求にこたえられるような、ホスピタリティを実現したいとしている。
また、料理長には26歳の若さながら、ニューヨークではナンバーワンのフレンチとの呼び声も高い「ジャン・ジョルジュ」のスー・シェフ(副料理長)を務めた、米沢文雄氏を抜擢。米沢氏は恵比寿「イル ボッカローネ」、蔵前「ビストロ カンパーニュ」で経験を積み、02年より渡米していた。
同店では米沢氏の表現する、「ジャン・ジョルジュ」仕込みの独特のスパイスやハーブを使った豊かなフレーバーの世界、様々な柑橘類を使った酸味と甘味の融合が楽しめる。顧客の体調や好みに応じて、油分、塩分を調整し、ベジタリアンメニューにも対応する。コースは5500円と8000円の2種類がある。
5月10日には、プレス、レストラン関係者などを招いて、立食形式のレセプションパーティーを行い、立錐の余地もないほどの多数の来場者が訪れ、同店への期待の高さを物語った。
席数はフォーマル・ダイニング50席(うち個室が1室4〜5人)、カジュアル・ダイニング22席、ラウンジ46席の計118席。スタイリッシュでグレード感あるデザインは、ニューヨークを拠点とする、グレン・コーベン氏が担当した。
平均客単価は1万円、想定顧客層は30代以上のビジネスパーソンとなっている。
なお、メトロメットではアルバロ・ペレズ氏の故国である、南米ベネズエラの首都・カラカスで7軒のレストランを同時オープンさせるプロジェクトが進行中であり、ワールドワイドな活躍の舞台をますます広げている印象だ。
「57」店内
「57」ダンスパフォーマンスが行われたレセプションパーティー
「57」グランドシェフの米沢文雄氏
57ポークチョップのグリル林檎の香り(300g〜)100g1200円
「57」アボガドで挟んだタラバガニのサラダ仕立て スパイシーカレー風味のマヨネーズソース(1500円)
・3000本の自然派ワインをメインにした大人のラウンジが登場
「東京ミッドタウン」と、1月にオープンした「国立新美術館」に挟まれた、六本木7丁目エリアも、路面の新規開店が目立っている。
3月11日にニューオープンした「BANQUE(バンク)」は、モダンなビルの地下1階にある、隠れ家的なワインラウンジだ。
店内のワインセラーには、山本益弘氏監修のワインを、フランスワイン中心に3000本収容。バーのようなカウンターをあえて設けず、テーブル席で家族あるいは気の合う仲間と、ゆったりとくつろいだぜいたくな時間を過ごしてもらおうという趣旨の店である。だからこそ、ワインバーではなく、ワインラウンジなのである。
ワインは、グラスワイン1000円〜、ボトル6000円〜となっており、1本100万円以上もする超高級ワインもあるが、総じて高くなく、農薬、化学肥料を極力使わない自然派ワインを主体に取り扱っている。日本のワインは「甲州」、「マスカットベリーA」から生産したワインのみを扱い、オールドビンテージはフランス、イタリア、スペイン、日本、アメリカから選りすぐって品揃えしている。
席数は26席で、内装はフランスの古城の地下室をイメージしており、「NINJA 赤坂」、「NINJA ニューヨーク」をデザインした、ヒットメーカーの相羽高徳氏が、デザインを行っている。
運営会社のエム・ティ・ケイは、予約が取りにくい和食の超繁盛店「NINJA 赤坂」の親会社にあたり、同社取締役で「BANQUE」プロデューサーの横川毅氏は、すかいらーく創業者・横川4兄弟の4男、紀夫氏の次男にあたる。兄はジョージズファニチュアやディーンアンドデルーカジャパンを率いる正紀氏。
毅氏は、「NINJA 赤坂」の調理見習い、「NINJA ニューヨーク」のアシスタントマネージャーなど、飲食の経験を積んで、今回自身初のプロデュース店を構築した。まだ、32歳の若さである。
「当店はワインが主役で、食事の味を決めるソースはワインに合わせてもらうようになっています。通常、レストランではソースにワインを合わせますから、ちょうど逆の方向性の店ということになります。食事のメニューは、近辺のお店の厨房から、ジャンルに関係なく、ワインに合う一品をいただいてきて提供しています」(横川毅氏)。
つまり、食事のメニューは週に2回、数日の日持ちをするものを契約店に取りに行き、再現の仕方を教えてもらって提供する。店内では肉や魚に直接、火を入れないので、煮込み料理が中心になるが、質を落とさないようにするため、冷凍したものを戻すことは行っていない。
一例を挙げると、「東京ミッドタウン」内にある「ディーンアンドデルーカ」から、一品を提供してもらって、「BANQUE」で再現するというわけだ。
さらに、1万円のミニマムチャージを払えば、料理の持ち込みも可である。
メインターゲットは50代、60代だが、現状は30代、40代がコアになっている。しかし、「いまは会社の領収書を切って飲んでいる人が多くても、20年、30年と続いていけば、自然とターゲットは合ってくるはずです。熟年世代の家族や夫婦が、自腹で飲むような店にしていきたい」(同)と、時代を越えて愛されるスタンダードな店を目指している。
「バンク」入口
「バンク」自然派フランスワイン約3000本をそろえた
「バンク」店内
・「東京ミッドタウン」オープン景気は意外に短い可能性も
以上、六本木地区の「東京ミッドタウン」開業とその効果について、駆け足で見てきたが、「六本木ヒルズ」、「国立新美術館」も含めて街全体の回遊性が高まり、全般的に飲食店の集客にはプラスになっている印象だ。
六本木に「東北居酒屋 はまはげ」、「黒薩摩」と2店を有するエイチワイシステムの安田久社長によれば、「東京ミッドタウンができて以来、10%ほど売り上げが伸びています。おそらく1年くらいは良い状況が続くのではないでしょうか」と、この地区の景況を予想した。
「六本木ロアビル」の向かいにある、うどん専門店「つるとんたん」などは夜10時を過ぎても行列ができるほどで、周辺には「ドネルケバブ」の移動販売の屋台も目立っている。
しかし、ちょっと道を入れば、全く顧客の入っていない店もあり、どの店も「東京ミッドタウン」効果の恩恵を浴しているとは言いがたい。
また、旧「ベルファーレ」の前に、昨年7月にオープンしたラグジュアリーな飲食ビル「グレース六本木」内にあるプライベート・バー「クリスタルラウンジ」では、「以前と入りは変わらず、目立った開業効果はない」とのことで、お酒が中心となったバー、クラブなどの業態では、全般に変化はないようである。
「東京ミッドタウン」の西側の最寄り駅、乃木坂方面はどうか。「土日は2割くらい顧客増がありましたが、いまは人通りがピーク時の5分の1くらいまで減りました。思ったほど開業効果が続かない印象です」(魚真乃木坂店)。
「六本木ヒルズ」では、「東京ミッドタウン」開業当初は、レストランが込みすぎていたために、食事を「六本木ヒルズ」で取る人が増えて、レストランの売り上げを牽引していたが、ここに来て「東京ミッドタウン」のレストランがすき始めてきたために、逆に顧客が「東京ミッドタウン」に流れる現象も一部出てきたようだ。このあたりの影響は複雑なので、さらに注視していきたい。
さて、「東京ミッドタウン」であるが、開業当初予約が取れなかったレストランも、幾つかは実際に入ってみると意外に空席が目立つ店も出てきたようだ。「六本木ヒルズ」開業時に比べれば、東京には確かに商業施設も格段に増えたが、それにしてもオープン景気が思ったほど持続しない可能性も出てきた。
施設のデザインが、「六本木ヒルズ」が迷路のようでわかりにくいとさんざん批判されたためか、機能的になっているが、今度はすっきりしすぎてどの店も同じように見えてしまう面がなきにしもあらずだ。
“ガーデンテラス”の飲食店群は外のファサードからは、何の店かわからないものも多く、ここまで食べ物のにおいがしない飲食店街というのも、日本初であろう。視覚と嗅覚に訴えることなく、口コミと情報だけで、個店はともかくレストラン街を成功させることができるのかというのは、日本の商業史上でも初のチャレンジと思われる。
そして、“カジュアルダイニング”のゾーンなどは、「六本木ヒルズ」の前例からも、今後オフィスワーカーのランチ需要、休憩所としての機能にどこまでこたえられるかが、劣化を防ぐポイントになるだろう。
東京は現在、激しい街と街の競争になっており、今年11月には八重洲ツインタワーがお目見えして東京駅周辺の注目度がアップし、来年6月に地下鉄副都心線が開業して新宿、渋谷、原宿、表参道、池袋が脚光を浴びるのは必至である。
そうなると、少し交通の便が悪い六本木は、必ずしも有利ではない。その意味で「六本木ヒルズ」が、「開業以来取り組んできたタウンマネジメント機能を、国立新美術館や東京ミッドタウンと連携を取りながら、六本木、麻布十番といった周辺地域を含めたエリアマネジメントに発展させたい」と、取り組みを始めようとしているのは、正しい方向性だろう。
六本木が輝き続けるかどうかは、各施設、商店街の連携がどこまでうまくいくかにかかっているに違いない。
「東北居酒屋 なまはげ」は、なまはげの路上パフォーマンスで集客
深夜まで賑わう「つるとんたん」
「魚真乃木坂店」では、「東京ミッドタウン」効果はゴールデンウィーク以降減速していると証言する
「六本木ロアビル」の道向かいは、ドネルケバブの移動販売車が目立つ
ミッドタウン夜景