・新丸ビルが順調に発進。オープンから1ヶ月で280万人を集客
4月27日にオープンした「新丸の内ビルディング」(通称「新丸ビル」)が好調なスタートを切っている。
商業施設の1年間の目標を、来場者数2000万人、売上高220億円と設定しているが、5月27日までの1カ月で約280万人を集客し、三菱地所によれば予想を上回る入りとなっているそうだ。
また、近隣の「丸ビル」、「丸の内オアゾ」、「東京ビル TOKIA」の集客にも相乗効果をもたらしており、2002年9月に開業した「丸ビル」以来、毎年のように新しい商業施設をオープンして、話題づくりを行い、丸の内全体の集客をはかるという、三菱地所の戦略は功を奏している。
「新丸ビル」は、地上38階・地下4階、高さ約198メートルの高層ビルで、コンセプトデザインは、新英国議会ビル、マンチェスター・アート・ギャラリーなどを手掛けた、英国の建築家のマイケル・ホプキンス卿が担当した。「丸ビル」とツインタワーの景観をなし、地下ネットワークにより、天候に左右されずに東京駅と直結する、東京駅正面のランドマークである。
用途は、店舗、事務所、駐車場などという複合ビルで、駐車場は368台を収容する。
商業施設は地下1階から7階にあり、総店舗面積の約1万6000平方メートルは、ほぼ「丸ビル」と同規模である。総店舗数は153店。
地下1階から4階まではショッピングゾーンで、113店ある。
地下1階には 高級食品スーパーの「成城石井」が出店しているほか、荻窪が本店のフランス惣菜の「ル・ジャルダン・ゴロワ」、淺野正己シェフがプロデュースする3店目のベーカリー「POINT
ET LIGNE」、北海道江別市にあるショップで直売する町村牧場の道外初出店・ミルクブティック「町村牧場
丸の内」などといった、食に関する気鋭のショップが並んでいて、なかなか面白い。
1階から4階までは、バッグ、雑貨、アクセサリー、アパレルといったファッション関連の店が並ぶが、セレクトショップ「ユナイテッドアローズ 丸の内店」をはじめ、「丸ビル」に比べれば年齢層がやや高めの、大人の素敵な時間を演出するショップを充実させており、男性のショッピングニーズにも考慮している。3階にある「マルノウチボーテ」と呼ぶ、12の化粧品をはじめとするビューティー系ショップを集積したゾーンもユニークだ。
1階ショッピングゾーン
5階レストランゾーンは小規模な店が多い
7階丸の内ハウス、山本宇一氏プロデュース
・立ち飲みから街のゲストハウスまで、工夫を凝らすレストラン群
さて、5階から7階は、計40店あるレストランゾーンだが、各階ごとに違った楽しみ方ができる。
比較的小規模な店が並んでいるのが5階で、「日本再生酒場 もつやき処い志井」のような立ち飲みの店まである。「パスタハウスAWキッチンTOKYO」は、中目黒で大評判の渡邉明シェフの3店目。「泡盛古酒と琉球料理 東京うりずん」は、沖縄県にある46軒すべての酒造所の泡盛と特製古酒をただ1店、全てそろえている。「こなから」は、湯島にあるひょうたん型の鍋がユニークなおでん屋の支店である。全般に気軽に使える、こだわった店が多い。
6階は「丸ビル」の35階、36階ほどではないが、顧客単価6000円〜1万円前後の高級感のある店が5店並んでおり、たとえば「Salt
by Luke Mangan」は、オーストラリアのスターシェフである、ルーク・マンガン氏とのコラボレートで誕生した、日本初出店のモダンオーストラリア料理の店である。
7階は従来のレストラン・コンプレックスの発想を破って、1つのコンセプトのもとに集積した「丸の内ハウス」と呼ばれるレストランゾーンで、8店がそれぞれ独立の店でありながら、1つのラウンジ、あるいはゲストハウスとして構成されている。たとえば、飲み物のグラスを共通化しており、店内だけでなく共有部分の廊下やテラスに設けてあるテーブル席で飲んでもいい。ゲストが思い思いのスタイルで過ごすことができる。
「丸の内ハウス」のプロデュースは、表参道のカリスマカフェ「ロータス」などのオーナーである山本宇一氏。店舗は、山本氏自身の店であるスタイリッシュな空間のダイニング「SO TIRED」とラウンジダイニングの「HENRY GOOD SEVEN」、“大統領にサービスした男” こと新川義弘氏率いるヒュージの「RIGOLETTO WINE AND BAR」、女性専用バー「来夢来人」、蒸し料理専門店「MUS MUS」、蕎麦屋「ソバキチ」、洋和食「自由ヶ丘グリル」、史上最年少の28歳で3ツ星シェフとなったマッシミリアーノ・アライモ氏が日本初出店したイタリアン「il Calandrino Tokyo」といった、ユニークなショップ構成である。
これらレストラン群は、特に5階と7階で、朝4時まで営業を行う店もあり、「東京ビル TOKIA」で一部試みたレストランの深夜営業が、さらに拡大したといった印象だ
丸の内で働くビジネスパーソンは24万人と言われるが、深夜営業の少ない丸の内を活気づかせようという、チャレンジは興味深いところである。
丸の内ハウスのテラス
・リゴレットブランド確立に向けて、ヒュージが新丸ビルに出店
個々のレストランを見ていくと、まず7階「丸の内ハウス」に入っている「リゴレット ワイン&バー」は、目を引くところである。
元グローバルダイニングのナンバー2で、“サービスの神様”の異名がある新川義弘氏が社長を務めるヒュージとしては、昨年4月にオープンした吉祥寺の「カフェ・リゴレット」、銀座の「ダズル」に次ぐ3店目である。
しかし、実は「丸の内ハウス」総合プロデュースの山本宇一氏やドリンク部門を担当するキリンビールの島田新一氏とは、先に出店した2店の企画を進める前から大枠の話し合いを行っており、実際の案件としては、ヒュージとしては一番最初の店であるという。
「丸の内ハウス」の趣旨に賛同し、天井が最大で4.8メートルと、商業施設としては高かったこともあり、出店を決めた。朝4時まで深夜営業を行っている。
禁煙のメインダイニング68席、喫煙可のサブダイニング32席、そして奥に20人くらいまでが収容できる個室があるといった構成だが、それに加えて店の外の通路側と、店の中のサブダイニングのゾーンに、立ち飲みのスペースがつくられているのが目を引く。サブダイニングの立ち飲みは、一部補助席も付いていて、ウェイティングにもなる。
外からのぞけるオープンキッチンは、目線より低い位置に設置されているので、調理している様子がよく見える。これは顧客に、安心感を与える心理的効果を狙っての設計だ。
エントランスがそっくりそのままワインセラーとなっていて、ワインセラーを潜り抜けて店内に入るのも新発想である。ワインはストックを含めて2000本あり、常に摂氏14度になるようにワインセラーの温度を調節している。
ワインは1本2500円が大半を占め、1万円くらいの高級なものも置いているが、全般にリーズナブル。グラスワインは420円から飲める。また、今回、ヒュージは酒販免許も取得したので、エントランスでワインを選び、レジでビンごと購入して店内で飲むこともできる。
料理は吉祥寺の「カフェ・リゴレット」と同じく、スパニッシュ・イタリアンで、メニューは吉祥寺の店とほぼ同じである。パスタ、ピザ、タパス、1500円のメインディッシュなどが楽しめ、夜の客単価で3500円といったところだ。
昼は客単価1500円のプチコースになっているが、秋口から単品800円から提供できるようにし、安い人でドリンクも合わせて1000円くらいから満足できるように変えていくという。
「高級な店づくりですが、毎週来れるような気軽で安心な店を目指しています。ランチは平日で12時、土日は11時半で満席になりますし、3回転はしています。ディナーも夜8時には満席になって3回転はします。夜0時を過ぎるとメインダイニングをクローズして、サブダイニングだけで営業していますが、2時頃までは満席ですし、4時の閉店時でも6割は埋まっています。オープン景気もありますが、今のところ好調ですし、深夜営業もサラリーマン、OLからは歓迎の声が多いです」と、神山満取締役は自信を見せている。
オープンから1ヶ月で4000万円を売り上げた。
また、神山氏の自信の背景には、吉祥寺の「カフェ・リゴレット」が1周年を過ぎて、前年よりも倍増に迫る勢いで売り上げが伸びていることがあり、ヒュージでは今後、エリアごとにタイプの異なる「リゴレット」を出店していく方針である。9月には銀座コリドー街のニッタビルへの出店が決まっている。
銀座2丁目「ミキモトギンザ2」にある「ダズル」は、月商3000万円のペースで順調に集客していて、木曜、金曜は予約が必要な状況という。オープン当初に比べれば、外国人の顧客比率が増えているそうだ。
「リゴレット」外観
「リゴレット」店内
・蒸し料理をテーマとするユニークなレストランがオープン
同じ「丸の内ハウス」内にある、「MUS MUS」は、世界の蒸し料理をテーマとしたユニークなレストランだ。
こちらは、佐藤としひろ氏率いるテーブルビートの経営で、「丸の内ハウス」にある昔懐かしい場末のスナックをイメージした女性専用バー「来夢来人」と、2店が「新丸ビル」に入居している。なお佐藤氏は、恵比寿「ぶた家」のヒットによって、東京の外食に豚肉料理のブームをもたらし、さらに伝説となっているクラブ、芝浦「ゴールド」のオーナーでもあった人物である。
蒸し料理は、野菜、肉、魚といずれの食材にもわたっているが、生産者にはこだわっている。
たとえば野菜は、30年かけて土を改良した大分のナチュラルファーミングより、露地栽培の無農薬野菜を仕入れている。豚肉は、山形の安田畜産より仕入れた、豚の健康を配慮して育てたコラーゲン豚を使っている。
水蒸気で加熱する、蒸すという調理法によって、肉や魚の脂肪が有害な酸化過程に進まないし、野菜のビタミン分の破壊も最小限に留めることができる。つまり、旨みを封じ込めるのに優れた調理法が、蒸し料理であるという考え方で、出店した。現状は、和食や中華、アジア料理が主流で、全般的に家庭的なメニューになっている。
たとえば豚の角煮は、蒸すことによっていっそうやわらかくなるし、採れたての野菜をさっと蒸して自然塩を振りかけただけのサラダもおいしい。ムール貝のワイン蒸し、蒸かし芋、チマキ、小龍包、茶碗蒸し、温泉饅頭等々、蒸し料理がバラエティに富んでいることが、この店に来れば再認識させられる。そのほか、山形産ウコッケイの卵の卵ごはんは自慢のメニューだ。
また、店内のアートディレクションは、タイの人気漫画家、ウィスット・ポンミニット氏を起用している。
客単価は、ランチは1200円、ディナーは4000円弱といったところ。ドリンクはオーガニックワイン、割水の焼酎などに特徴ある。
現状、ランチは主婦層を中心に常時満席状態で、夜も特に平日は7時頃からOL、サラリーマンで込み合う。深夜4時までオープンしているが、終電を過ぎれば、顧客は少なく空いているそうだ。
「MUS MUS」入口
「MUS MUS」店内
「MUS MUS」店頭に展示された蒸し料理の食材
「MUS MUS」ランチの角煮せいろ丼セット
「MUS MUS」蒸し豚わさび風味
・18坪のスペースで1日平均350人を集客する日本再生酒場
5階レストランゾーンにある、立ち飲みの店「日本再生酒場 もつやき処い志井」の出店は、「新丸ビル」のような再開発ビルには、最も入居しそうにない業態であるだけに、衝撃的であった。
しかも、反響は非常に大きく、比較的空いているランチ時はともかく、夜の営業が始まる4時になれば、早速顧客が入ってくる。7時頃ともなれば、連日、店の外の通路まであふれんばかりの賑わいになる。ピークは夜8時頃から10時頃で、深夜2時まで営業している。
18坪と小さな、懐かしい昭和30年代のムードを演出した店だが、1日の平均来店者数は約350人、多い日には400人に達する。
「路面商売を中心にやってきましたので、最初は出店をお断りしていたんです。しかし、土日の夜に人がいない、丸の内を活気づけるために、5階のフロアーに個性的な店を集めたいという三菱地所の熱心なお誘いがあって、4回、5回とミーティングを重ねていきました。商店街、路面と変わらないコンセプトで、大丈夫だと判断して、出店しました」と小幡土穂店長。
ちょうど、会社としては「東京ミッドタウン」に、商業施設初出店の「東京ハヤシライス倶楽部」出店の案件を抱えていたので、なおさら「新丸ビル」への出店には慎重になったわけだ。
実際この店のたたずまいは、今日の立ち飲みブームの切っ掛けとなったと言われる新宿3丁目の路地にある系列店などと、雰囲気的に全く変わらない。ただ、屋内に入っただけといった感じである。BGMはブルースを流している。
顧客層は、丸の内で働くサラリーマン、OL、さらにカップルが中心であるが、意外に女性が多く、カウンターにずらりと女性が並ぶことも結構あるという。全体としてみれば、男女比は半々くらいだろうか。早い時間の4時から6時は、年輩者の来店が多い。
客単価は1600円〜1700円である。
同店や系列の店では、もつ肉は群馬県の高崎食肉センターより毎日仕入れ、鮮度の高いものを細かいところまで掃除して串にする。なので、もつ肉にありがちな臭みがないのが人気の秘訣だ。そのうえ、もつがヘルシーであるというイメージがあるのが、女性客が多い理由なのだろう。
もつ焼きは1串130円〜、そのほかの人気メニューとして、ればテキ(430円)は臭みがなく、ゆでタン(390円)は箸で切れるくらいにやわらかい。牛胃袋刺し(430円)は、光沢があっていかにもおいしそうだ。ドリンクは、新宿ハイボール(370円)、陳年紹興貴酒(490円)、あたりがお勧めメニューだ。
「日本再生酒場」外観
「日本再生酒場」店内
「日本再生酒場」店内
「日本再生酒場」串を焼く小幡店長
・トラジが銀座ベルビア館で、和風新業態の肉割烹にチャレンジ
・千駄ヶ谷から移転。清水忠明シェフが銀座で正統派フレンチ開業
・他所で成功しても、銀座で直ちに成功できるわけではない
・銀座の商業施設に入居した店の集客は、自助努力で行う