・LLC、LLPは専門知識や技術に利益配分する組織
LLCは「合同会社」と言われ、2006年5月に施行された新会社法により誕生した。出資者は出資額を限度とする有限責任を負うが、株式会社のように出資割合に応じて利益配当を行わなくてもよい。社員の同意により、自由な配分で利益配当ができる。出資金が少なくても、知識や技術で多大な貢献ができれば、大きな利益配当がもらえる仕組みだ。
LLPは「有限責任事業組合」と言われ、2005年に新たな法律が出来て誕生した。LLCと同じく出資者は出資額の範囲での有限責任。さらに、出資額と関係なく利益配当できる。違いは、LLP自体は非課税である点。配分された利益は、出資者に直接課税される。すなわち、法人税の負担がないのが特徴。
この2つの仕組みを使って、地方の食材を提供する飲食店を東京に出店しようとする試みが始まった。
・16人の出資者を集めて、十勝レストランが東京出店
帯広出身の、場所文化プランナーの後藤健市氏が、北海道・十勝の食材を使った「とかちの・・・」を東京・丸の内の国際ビル地下1階に、6月27日オープンさせた。
国際ビル地下は、バルニバービの佐藤裕久氏を総合プロデューサーとして8月下旬にリニューアル・オープンされる予定だ。「とかちの・・・」はいち早くのオープンとなった。
後藤氏は、16人の出資者を口コミで募り、LLC「合同会社場所文化ファンド」を設立した。同氏は、東京でパソコンの販促会社を経営に参画した後、地元の帯広に戻り、商工会議所青年部で地方活性化に目覚めた。販促会社で鍛えた企画力で生み出したのが、新しいスタイル。
「地方の食材をただ売るだけでは、地方の文化は伝わらない。チーズを売るだけではだめだ。チーズとワインを楽しめる場を提供して初めて伝わる。それが飲食店。十勝の思いや空気を伝えられる。そこで豊かな時間をお客に提供したい」と後藤氏。
16人の出資者にも「リターンを期待した投資ではなく、リターン以外の喜びのために投資してもらった。自分の店で豊かな時間を過ごす。すなわち、自分の楽しみのための投資」として話す。もちろん、儲かる保証はしない。金のため投資ではなく、自分の楽しみのための投資もあることを知ってもらい「お金の質を変えたかった」と言う。200万円出資した方には、年に10万円の「とかちの・・・」での食事券を利息として提供し、リターンより自分の店として楽しんでもらうことを求めた。
「とかちの・・・」外観
毒素を出すと言われる、麦飯石を壁に貼った個室風スペース
・LLPを作り、仲間で運営
店舗の運営に、LLP「場所文化フォーラム・十勝有限責任事業組合」を設立。そこに、「合同会社場所文化ファンド」は資金を投資し、かつLLPの一組合員となり、運営に参画。もちろん、後藤氏個人も組合員として店舗に立つ。帯広出身の高橋司店長も組合員だ。
「後藤さんの理念に共感して働いてます。アルバイトでしか飲食店で働いたことはないですが、他の組合員の方々と話し合いながら良い店にしたい」と、目を輝かせながら高橋店長は語った。
高橋店長
LLPはフラットな組織で代表はいない。通常の株式会社であれば、社長対従業員という関係になるが、LLPは皆が対等な仲間として経営に参画できる。
「地方の人材育成の場としても店舗を生かしたい」と後藤氏。「飲食店は様々な人と触れ合える場。人を人で磨ける場になる。学校のようにお金を払ってでも働きたい、となればいいですけど(笑)」
東京のお客には観光で十勝に来てもらえるよう、「とかち倶楽部」を結成。年会費は5万円と高いが、「とかちの・・・」での食事券3万円、年4回のパーティーへの招待、十勝ツアーの割引などのメリットがある。
・居心地の良い居場所を作るにはLLP
店名の「とかちの・・・」だが、「の・・・」に拘りがある。「とかち」だけなら十勝の食材を使った飲食店に過ぎないが、飲食だけでなく、スタッフとお客が触れ合ったり、お客同士が触れ合ったり、居心地の良い居場所を作りたいとの意味が込められている。「お客が店に帰ってくる、そんな店にしたい」。仲間で運営するから、ビジネスライクにならず、お客にとり家庭のような存在になれるようだ。
食材は十勝から毎日届けられているが、酒は甲州ワインを使用。十勝ワインもあるが、勝沼醸造のワインがハウスワイン。焼酎は、黒木本店のセレクション。居心地の良い居場所を作るために、ドリンクメニューは広くから調達している。年間売上目標は6千万円。
「とかちの・・・」への投資は5年間。5年後にはファンドを一度清算する。店舗は自立できるならそのまま残し、LLPが株式会社に変わることも考えられる。戻った金をファンド出資者に出資額に応じて配分する。年2%程度のリターンを想定している。その後、ファンドは新たに出資者を集めて、新たな投資を行う。
十勝から毎日空輸される食材
ランチ看板
・他地方からも東京出店したいと引き合い
十勝をスタートとしてノウハウを積み上げ、他地方でも同じスタイルで東京に出店し、食文化で日本全国の地方活性化を狙っている。既に、ある地方から相談が来ているという。
リターンのためではなく、楽しみのために出資する人の存在がキーとなるビジネスモデル。確かに自分の店を持ちたいと思う人は世の中に多い。それを少しの投資でかなえることができるのがこのスタイル。しかも、自分の故郷など関わりのある店舗であれば、尚更、出資しやすくなる。自分の店ということで、出資者がお客を連れて来店し、売上にも貢献してくれる。
但し、店舗の方は対等の組合員により運営されるため、途中で考え方の相違が出て、空中分解してしまう危険性も孕んでいる。5年という長い期間運営するので、そのリスクは大きいとも言える。運営さえ上手くゆけば、投資家、店舗運営者が家族のような許しあえる関係で繋がって、地域活性化にも貢献できるよいスタイルとなりそうだ。
カウンターの足置きには、風水で良い運気を呼び込み溜める力があるとされる馬蹄を使用