・中華とイタリアンが融合した店が「西荻窪」でブレイク
荻窪と吉祥寺に挟まれた中央線沿線の「西荻窪」は、一見何の変哲もない住宅街でありながら、アンティークの店、古本屋が点在し、好事家の注目を浴びて、独自の発展を続けている街だ。
それに加えて、5年ほど前から、新しい傾向のダイニングが顕著に増えている。吉祥寺の発展に限界が見え始め、家賃の高騰を嫌った個人の事業者が、隣の西荻窪に着目した面もある。
「西荻窪は所得の高い人も多く住んでいますし、お客さんの舌がとても肥えています。突出したこだわりを持った店でないと、難しいですね。チェーン系の店では厳しい土地柄だと思います」と語るのは、昨年10月にチャイニーズ・イタリアンダイニングの店「カムラッド」をオープンした、ビーフリー代表取締役の林卓氏だ。
「カムラッド」外観
「カムラッド」店内
ビーフリーは、3年ほど前に調布駅前に、カフェダイニング「カムラッド」をオープン。近くにある外資系企業などに勤めるOL、サラリーマンのランチ需要が非常に大きく、成功を収めてきた。この店は和、洋、中、エスニックのジャンルを問わず、約100種類の料理を出す、品数の豊富な店であるが、西荻窪の場合は、席数が調布の本店のほぼ半分の30席ということもあり、料理の分野を中華とイタリアンに絞込んだ。
「中華とイタリアンの調理の工程は、離れているようで実は近いんです。1つの例を挙げれば、中華はごま油を使い黒酢で酸味を出しますが、イタリアンはオリーブ油を使いトマトソースやバルサミコ酢で酸味を出します。中華もイタリアンも、ニンニクをうまく活用します。その両方を組み合わせる試作を、重ねてきました」(林氏)。
「カムラッド」季節温野菜と4種のチーズの丸ごとトマトサラダ(920円)
酢豚を提供するにしても、トマトソースをベースにして、イタリアンと融合するというような工夫を行っている。もっとも、すべてが創作料理なのではなく、中華、イタリアンの王道を行くメニューもある。また、和のテイストのメニューなどもあり、型にはまらずにおいしいものを出しているという。
独立する前の会社員の頃から10年以上、レストランや惣菜のメニュー開発の仕事に携わってきた、林氏の各国料理に対する知識と経験が、自社のレストランにも存分に生かされている。
素材は厳選して、牛肉は松坂牛の原種とされる三重県の伊賀牛、豚肉は岩手県のハーブ豚、鶏肉は低カロリーである鳥取県の大山鶏を使用。ディナーでは2名より、伊賀牛(5500円)、ハーブ豚(3800円)、大山鶏(3000円)を使った個人のコースがある。それとは別に2800円より、パーティー用のコースもある。
15穀古代米を使ったプレートも、ヘルシーさを強調した特徴あるメニューだ。
ドリンクでは、世界のビールを20種類以上常備しているほか、毎週3種類ずつ数量限定で、林氏が実際に蔵元を訪問して選んだ、日本各地の地ビールが楽しめる。
「カムラッド」世界のビールは充実した品揃え
顧客層は40代から70代がメインと、全般に年齢層が高い傾向がある。ランチは近隣の主婦が圧倒的に多いが、ディナーは男女比が半々ぐらいという。
ディナーの単価は5000円ほど。ランチは現状、料理だけで1080円が最低ラインとなっているため、主婦中心になっているが、近々にもドリンク付の900円台後半の新メニューを投入して、近隣にある東京女子大の学生のニーズにもこたえていく方針である。
顧客の入りは、日によってバラつきがあるものの、平均すればランチ1回転、ディナー1.5回転ほど。金、土の夜は、貸切パーティーが多く入る。
順調に定着が進んでいるが、林氏は「お客さんとの人情のある交流を大切にしたい。病院から食事の規制をかけられている人に対しても、よく事情を聞いて適切に対処していきます。それが、大手チェーンではできないことだから」と、個店でなければできない、痒いところに手が届くサービスを目指すという。
・リビングの感覚で遊べる、寛げる“卓球酒場”とは?
西荻窪には大手チェーンでは思いも着かないような自由な発想で、地元の顧客に強く支持されている個性的な店が多いが、駅北口から徒歩5分くらいの場所にある「卓球酒場 ぽん蔵」も、そういった店の1つだ。
「卓球酒場ぽん蔵」ラケット型の看板
「卓球酒場ぽん蔵」外観
「卓球酒場ぽん蔵」カウンター
「卓球酒場ぽん蔵」左側はソファーでゆったりできるテーブル席
店内には卓球台、ダーツ、コンピュータゲームの設備があるほか、ジェンガ、オセロなどのゲームを貸し出しており、ドリンク、フードを注文した人なら無料で楽しむことができる。
「コンセプトは、リビングの感覚でワイワイガヤガヤできる店です。友達や恋人の家に行く代わりに、気軽に立ち寄れる店を目指しました。カウンターの設計も普通のバーよりも近いですし、バーテンダーの服装もラフにして、お客さんとの距離を縮めるようにしています」とショップコンセプトについて語るのは、代表の中川修三氏。
何人かで来て、ソファーに座れるテーブル席で、まったりとくつろぐのも良し。1人で飲みに来て、カウンターでバーテンダーと話すのも良し。第2の家のように使ってもらおうというわけだ。席数は、約20席。
「卓球酒場ぽん蔵」卓球台とダーツ
「卓球酒場ぽん蔵」コンピュータゲームやサッカーのビデオも楽しめる
オープンは、2005年11月で、中川氏は当時、会社勤めの傍ら休日にサッカーを教えていたが、平日も教えたいと思うようになり、夜に稼げる飲食業を起業したのだそうだ。西荻窪を立地に選んだのは、中川氏の子供の頃から慣れ親しんだ地元であり、人の流れがよくわかったからだ。
特に飲食業の経験があったわけではなかったが、コンセプト、内装はインターネットで知識を仕入れながら練り上げ、お酒や料理については、店を開けてから勉強して今日にいたっているという。内装もメニューも、基本的にはすべて手作りなのだそうだ。
確かに、バーとカフェとダイニングバーとインターネットカフェの融合したような、この独特な空気感の店は、業界に染まった人では思いつかないだろうが、結構完成度が高いのは驚きである。同店には2回訪問したが、両日とも7時のオープンとともに常連とおぼしき顧客がやってきて、すぐに席の6〜7割は埋まり、思い思いに卓球をやったり、オセロに興じていたりしていた。
顧客の年齢層は25歳〜35歳がコアになっており、大学生の来店も多い。近所に住んでいる徒歩圏の人たちが大半で、男女比は半々くらいと、女性の比率も高い。
メニューは、メインとなるお酒は、スコッチ、バーボン、ブランデー、リキュールなど洋酒がメインで、ボトルで300種類ほどがそろっている。なまじのバーよりも品揃えは豊富だ。最初は今の半分も入ってなかったが、顧客の要望にこたえていたら、いつのまにか増えていったそうだ。ボトルを置く棚も、増設していった。
おつまみは、ピザ、鶏のから揚げやポテトフライのような揚げ物、シーザーサラダ、タコワサなど、居酒屋でそろっていそうなカジュアルなものが40品目ほどそろっており、中川氏いわく「お客さんのリクエストで、どんどん増えていった」という。このフットワークの軽さは個人経営の店ならではだ。
ご飯ものも、あんかけごはん、まかないカレー、マーボー豆腐丼(以上700円)、ナシゴレン(650円)などがあって、空腹を満たしたい人にも対応できるようになっている。
顧客単価は2000円〜3000円ほどで、居心地が良いためかリーピーターが多いようだ。
9月には、吉祥寺の旧近鉄百貨店(旧三越)裏に、50席くらいある今の2倍の規模で2号店を出店する。今後の展開が楽しみな店だ。
・個人店が主流を占め、発想が自由な「西荻窪」の飲食店
西荻窪の注目すべき店は、「カムラッド」、「卓球酒場 ぽん蔵」の他にも、まだまだたくさんある。
たとえば、シンガポールのチキンライスとマレー風カレーを日本に広め、麻布十番や新橋にも店がある「海南(ハイナン)チキンライス 夢飯(ムーハン)」は、西荻窪が発祥で、休日のディナーなどは今でも行列になる人気店だ。メインメニューの「海南チキンライス」は蒸した鶏肉が、鶏のスープで炊いたご飯に乗っていて、お好みでチリなど3種類のソースをかけていただく。これが、なかなか旨く、はまると病み付きになるほどだ。
海南チキンライス 夢飯
「ワイズカフェ」は、欧風カレーの専門店として、中央沿線では知られた店で、沖縄県石垣島の地ビールを出し、店内も石垣島の海や風景の写真、民芸品で飾られている、いっぷう変わった店だ。「石垣島スペシャル」はエビ、イカ、ホタテ、カニなど海の幸をふんだんに使った看板メニュー。チキン、ビーフ、ポークの入った「西荻スペシャル」なども面白い。
欧風カレーのワイズカフェ
「ハンサム食堂」は駅南口の戦後の闇市がそのまま保存されたような、いかにも中央線らしい一角にある、タイ料理専門店。タイの屋台をそのまま持ち込み、かつ昭和の雰囲気が満点の店内で味わう、庶民的なタイ料理やお酒は、不思議とマッチしている。
ハンサム食堂は、道の両側に店がある
同じ一角の「やきとり 戎」の手前にある、立ち食い寿司「にぎにぎ一」は、1貫100円で提供する店で、ネタの新鮮さが際立つ、この業態ではレベルの高い店だ。7、8人も入れば一杯になる店内は、いつも常連で賑わっている。
駅南口通称・戎通り、左に立ち食い寿司にぎにぎ一が見える
一方で、商店街から少し入った住宅街の中に「ニューベリーカフェ」、「ジュアカフェ」のようなセンスのいい落ち着けるカフェがあったりするのも、西荻窪の飲食のなかなあ奥行きが深いところである。
ガレージを改装したという「ニューベリーカフェ」
バリ風テイストのジュアカフェ
全般的に言えることは、せいぜい30席くらいまでの、個人経営の小さな店が多く、それが非常に自己主張している。最近5年ほどで、1割くらいは飲食店が増加しているようだ。
歩いてみて感じるのは、西荻窪が東京23区内の中央線という大動脈の駅を中心に発展したにもかかわらず、車の通行が目立って少なく、商店街もどちらかといえば不活発で、住宅街の色彩が強いことだ。
そうした街でありながら、アンティーク、古本に強く、ゆるい感じの飲食にも強い。まさに、観光地ではないが歩いて楽しい、スローライフを体現したようなユニークな空気感があり、今後の動向も目が離せない。
・日本人の食の原点、魚にこだわる店が「西新宿」に登場
次に、2つ目の「西」の付くダイニングゾーンとして、「西新宿」小滝橋通り、新宿大ガードから職安通りにいたる一帯が注目されている。
このあたりは、1998年の「麺屋武蔵」オープン以来、新しいラーメンのメッカとしてまず注目され、2003年のセルフ式讃岐うどんの名店、「東京麺通団」のオープンあたりから、西新宿に集積するオフィスビルに勤務する膨大な人口を背景に、ユニークな路面の個店が続々とオープンする状況となっている。
「東京麺通団」
そうした中「原点回帰酒場 魚丸」は、小滝橋通り沿いに昨年11月にオープンした、魚好きの人のための魚料理をメインに据えた居酒屋である。
「魚専門の店は、鮨屋にしても割烹にしても、値段の高いアッパーなイメージがあると思うのですが、昔の居酒屋はもっと気軽に、一般大衆にとって身近な食べ物として、魚を出していました。創作料理でなく、和洋折衷でもなく、昔の日本人が好きだった魚料理をリーズナブルに食べられる店でありたい。それで、原点回帰酒場と銘打ちました」と、運営会社であるエンジェル・コミュニケーションズ営業本部、半井(なからい)康博本部長は、店のコンセプトについて熱く語った。
「原点回帰酒場魚丸」外観
「原点回帰酒場魚丸」カウンター
「原点回帰酒場魚丸」テーブル席
席数は約60席で、カウンターと半個室を含めたテーブル席に分かれる。
同社は、2年前にスタートした、モツ鍋・モツ焼専門店「がっつん」を都内で4店展開し、FCビジネス化して広げようという構想が進行中の気鋭の飲食企業で、魚料理に特化した「原点回帰酒場 魚丸」は2つ目の業態となる。「世界でいちばん魚好きな日本人においしい魚を味わってもらいたい」という、気持ちのこもった店だと言えよう。
魚を安く仕入れるために、神奈川県の小田原市場、真鶴港など近場の地方市場、漁港に出向き、さらには漁師、漁協と交渉して、大きさや数量がそろわないために、スーパーなど流通業者からは規格外の魚とされて、缶詰用、飼料用として二束三文で売られていく新鮮な魚を、安く仕入れる仕組みをつくった。
相模湾だけでなく、築地の仲卸を通して、同じ考えを持つ飲食店などが集まって、三陸や九州の規格外の魚も、朝に水揚げされたものがその日のうちに届く、一種の共同購買システムを整えた。
朝獲れた天然の魚を、素材の良さそのままに提供することをモットーとしており、養殖が主流のブリ、カンパチ、アジ、タイ、ヒラメなども、夜のおつまみは、すべて天然物しか使わないというのだから、特に刺身は歯ごたえ、食感が違う。通にはこたえられない店だろう。
人気のメニューは、常連なら必ずオーダーするという、骨付きで提供される「鮪の中おち市場流」(880円)。マグロは赤身、それも骨に近い部分が一番おいしいとの確信から、考案されたもので、スプーンで身をほじって食べる。
「原点回帰酒場魚丸」鮪の中おち市場流(880円)
また、マグロのあごを焼いた「鮪のイノキ焼き」(680円)も、スペアリブのマグロ版といったようなもので、マグロのおいしさを再認識するメニューだ。
「原点回帰酒場魚丸」鮪のイノキ焼き(680円)
ドリンクは、その都度入れ替える地焼酎、地酒が楽しく、ボトルキープもある。締めには、「地魚のにぎり」(3貫500円)、「海鮮小どんぶり」(650円)などの人気が高い。
夜はほぼ1回転、金曜のみは2回転といった集客で、徐々に常連が増えてきているといった状況だそうだ。客単価は3500円ほど。性別は男性が80%と圧倒的に多く、年齢層は40代、50代が主流となっている。
ランチも850円の価格帯を中心に、海鮮丼、日替わり定食などを提供しており、2回転ほどするという。
「2号店、3号店を出せるように頑張りたい。魚を愛するいろんなお店と連携して、漁師さんたちの生活を支える、規格外の魚を仕入れるしくみをつくっていきたい。日本の魚を食べる文化は世界に通用すると思うので、海外展開も視野に入れています」(半井氏)と、この店にかける意気込みがうかがえる。
・アジア色の強い小資本の店が集まる「西新宿」小滝橋通り
西新宿小滝橋通りの場合は、「麺屋武蔵」、「東京麺通団」の知名度が際立っているが、ラーメン、うどんのメッカと言えるほどの麺料理の集積があるのかというと、そうでもない。
むしろ、「原点回帰酒場 魚丸」のような和のベタな業態や、大久保・新大久保からの流れで、大久保・新大久保からの流れで、アジアン・エスニックのカジュアルな店が多いことに特徴があるように見える。
ラーメン、インド料理、韓国料理などが、路面に軒を連ねるビルもある。新宿3丁目の「日本再生酒場 もつやき処 い志井」の影響もあってか、和の中でも、立ち飲み形式のもつ焼きの店も結構目立つ。
全般的にチープな店が多い中で、日本料理「板前心 菊うら」は、客単価7000円くらいのゾーンで、しっかりと仕事をした和食が食べられ、ドリンクの趣味もいいと評判の店で、予約を取らなければ入れない日も多い。
また、「西新宿ホテル」2階の居酒屋「ひなた」は、立地は少しわかりにくいが、本格焼酎を60種類そろえ、魚料理も上々のようである。
隠れ家的な居酒屋「ひなた」
エスニック系では、本格ベトナム料理の「フォンベト」は、既にかなり知られた存在であるが、「インディアン・グリル・バーベキュー・レストラン ハッティ」は、インドのデリーの街並みをリアルに再現した内装は、インド人も驚くほどと言われ一見の価値がある。インドのグリル・バーベキューをメインとし、日本では珍しいインド産ワインが楽しめる、一味違ったインド料理の店で注目していいだろう。
「インデアン・グリル・バーベキュー・レストラン・ハッティ」
西新宿のオフィス街を背景に持つ、このエリアは、少し品のいい歌舞伎町&大久保・新大久保というような感もある。西洋の料理も皆無ではないが、あえて言えば、昔の日本あるいは日本の伝統、もしくはアジアン・エスニックの料理を、東京の繁華街の近くにいながら喧騒を忘れて、じっくり味わいたいというニーズに特化した、新しい飲食店街なのではないだろうか。
アジアンな店が路面に並ぶビル
・自然派のゆるい立ち飲み屋兼弁当屋が「西青山」で盛業
さらに、3つ目の「西」の付く新しいダイニングゾーンとして、渋谷警察署裏から金生神社周辺部、並木橋や渋谷図書館の手前までの一帯を、「西青山」と呼ぶ動きが出てきているようだ。
一帯は、渋谷駅からは徒歩10分以内と至近距離にあるが、国学院大学の学生の通学路になっており、緑も多い。実際に歩いてみると、意外なほど閑静で学生街の文化的な雰囲気も漂い、確かに青山の延長線上にあるように感じられる街だ。
この西青山に2005年8月にオープンした、「キミドリ」はランチタイムは弁当を販売し、夜は立ち飲みのバーになるというユニークな店。すべてではないが、全般に埼玉県のエコファーム認定を受けた農家より、オーガニックの野菜、食材を可能な限り取り入れており、自然派を標榜している点で、あまたの立ち飲み屋とは異なる。
「キミドリ」外観
「キミドリ」店内
同店を経営する(有)enは、オーガニック業界では草分けとして知られる、南兵衛@鈴木幸一氏が率いるイベント企画運営会社アースガーデンで、「フジロックフェスティバル」のような野外音楽祭にて、ステージの1つを運営したり、ケータリングや飲食部門を企画から統括、運営までを行うといった、事業を手がける会社である。
そうした中で実店舗を持ちつつ、年に何度かあるイベントの際には、出店するという構想で「キミドリ」はスタートした。
ランチの弁当は、「グリル野菜弁当」など600円程度の価格の5種類ほどが提供され、ご飯が大盛なら100円増しになる。おかずは主菜に加えて、4品の惣菜から2品をチョイスできる。それに、スープを付けて販売している。
「キミドリ」週替り弁当のナスとトマトの黒酢豚(手前600円、夜のメニュでは500円)と、緑豆チップスの自家製サルサソース(左上300円)
キミドリグリル野菜弁当(600円)
また、メニューは野菜中心のヘルシーな弁当ではあるが、肉類を使った弁当もあり、いわゆるベジタリアンの料理に偏ることはない。
店頭販売が基本であるが、店内に5席ほど椅子が設けられ、座って食べることも可能だ。周囲にはオフィスがたくさんあるので、結構な需要があるようだ。すぐ裏に、小さな広場があるので、晴れの日は広場のベンチで弁当を食べる人も多い。
ランチタイムが終了した3時から6時まではカフェタイムとなり、フェアトレードによる南米・エクアドル産のオーガニックコーヒー(300円)が楽しめる。
18時から24時までのバータイムは、エントランス両脇の2卓4席と夏場に開放するテラス以外は、座席を全部取り払っての完全立ち飲みスタイルの店となる。おつまみは300円が基本で、佐渡島より直接仕入れた、ヤリイカの丸干し、ナガモという海草、イカの塩辛は絶品だ。その他、スチームして旨味を引き出した金杉農園の野菜盛り合わせや、各種の肉料理もある。また、ご飯物はランチのうちで週替り弁当のみ、500円で食すことができる。
ドリンクは500円が基本で、ビールは「ハートランド」を提供するほか、日本酒、焼酎、梅酒、カクテルとそろっている。
バータイムの顧客層は20代、30代が主力で、男女比は7:3で男性が優性だ。
客単価は2500円ほどで、平日は30人〜40人、金曜に限っては60人〜80人が来店して、道路まで人があふれることも多い。土曜はバータイムのみの営業で、日祝は休んでいる。
車庫を改装した店舗は、船をイメージしたデザインとのことで、照明も漁船で使うものを調達している。
独特なゆるくて手作り感ある雰囲気は、街場の個店ならではであろう。
「キミドリ」葦やサトウキビのパルプを原料としたモールド製の弁当箱、国産の木製の箸やスプーン。すべて土に返るものを使用
・地球環境や健康面への関心が高い「西青山」の飲食経営者
西青山の飲食店の傾向を挙げれば、「キミドリ」のように環境やヘルシーであることに配慮した、小資本の店が多いことだ。
「東京純豆腐」は、韓国の辛い豆腐鍋「スンドゥブ」の専門店で、青山、新宿、麻布台にも系列店がある、ヘルシーさを前面に出した韓国料理の新機軸。
「東京純豆腐」
「伊倶部(イクベ)」は、創作イタリアンをメインにしたダイニングバーだが、イカ墨ライスを使うなど工夫を凝らした日替わりのオムライスが大きなウリだ。全般に野菜の使用量が多い盛り付けになっている。
「カフェダブルトール」は、東京では珍しく目の前に小公園が広がり、アメリカでは“オーバーハンガー”と呼ばれる、屋根つきのテラスがあるおしゃれなカフェ。日本で初めて、エスプレッソを苦味によって3種類選べるシステムをとっているのも新しい。原宿、白金、浜松町に系列店がある。
ラーメンの「凪」は、昼は豚骨と醤油のラーメン専門店、夜はラーメン居酒屋「夕凪」になるというユニークな店。「夕凪」では、その日仕入れた新鮮な魚をオリーブ油とニンニクで焼いた焼魚、チャーシューのタレで炒めた野菜炒めなどが提供され、従来のラーメン屋に比べてもヘルシーなメニュー構成となっている。
「凪」は夜にはラーメン居酒屋になる、奥はココナッツカレーのカリガリ、2階にはタイ料理サラタイが入居
全般に表参道や道玄坂上に比べても、店舗の規模が小さく、新しくはあっても流行を追わない普遍的なスタイルな店が多いのが、西青山の特徴で、どちらかというとより郊外にある、中目黒に近いものを感じる。この流れが並木橋や渋谷駅新南口といった近隣のゾーンに広がっていくのか、ウォッチを続けていきたい。
いずれにしても、大手チェーンでは真似できない個性ときめ細かいサービスが特徴の西荻窪の飲食店、日本やアジアの伝統的な良さの再発見に挑戦する西新宿小滝橋通りの飲食店、環境にやさしい食文化や健康への関心が高い西青山の飲食店。
これら3つの「西」に集積する鋭い新しい感性を持った、小資本の路面の個店から新しい飲食のトレンドが形成されていくような予感がする。