フードリンクレポート


ラーメン業界のイノベーター
有限会社グランキュイジーヌ
代表取締役 竹田 敬介氏

2007.8.17
ラーメン業界にフレンチの香を持ち込み、竹炭、海老、トマトをテーマに、お客を驚かせる新ラーメンを提案し続けている「けいすけ」店主、竹田氏。そのクリエイティブな商品開発力は、ラムラで磨かれた。フレンチと居酒屋の業界からやってきた新ラーメン店主はラーメンをA級グルメに変える。



海老そば 双子味玉のせ。球体を斜めにカットしたような形のユニークな丼。

ラムラで商品開発力を磨く

 広島県で生まれた竹田氏は、中学卒業後に東京へ出てきた。やんちゃで暴れん坊だったようだ。そして実家を出て「住むところがあって、食べられる」という理由で調理師になる。割烹で2年間修業し、1987年に池之端文化センター(東京・上野)で西洋料理を担当。その後、フランス料理店を転々とし、96年にラムラに入社した。ラムラ時代も合わせて通算でフレンチ12年、和食5年の実績を持つ。

 ラムラに入社した動機は「フレンチでは独立できそうにない。居酒屋は不況にも強いので勉強してみたい」(竹田氏)と居酒屋業界に興味を持ったこと。調理師として現場に立ったが、後に商品開発も担当。「土風炉」「鳥元」などラムラの新業態の誕生に貢献した。8年間在籍し、ついに2004年独立し、神田に居酒屋「美味川柳 炭香」をオープン。

 ラムラ時代の貯金と公庫からの借り入れで2千万円を調達し開店にこぎつけた。他の居酒屋には無いものを客単価4千円で提供するというコンセプト。「料理には拘りました。鶏肉は、フランスの『赤ラベル』というフランス農業省から優良品質を保証したマークが付けられたヒナを輸入し、霞ヶ浦で野放しで育てた鶏を使っています。解体も店で行っています。それにモンゴル産の岩塩を使って焼き鳥にしました」

 3ヶ月間赤字が続いた。割引クーポンは使わず、来店客に1品サービス券を配布した。「食べてもらえば味に自信があった。初めてのお客様を逃さず、リピーターにすることができました。すると、4ヶ月目から安定し現在も安定しています」


「美味川柳 炭香」外観


「美味川柳 炭香」店内


グレープフルーツハイ。凍らせたグレープフルーツの房を浮かべる。

レモンハイ。スライスをグラスの側面に貼りつける。


少ない資本で大きなリターンを求め、ラーメンへ

「炭香」は味を高めるため素材にこだわり、原価率が32%。FL値では60%近くになっている。居酒屋の利益の薄さを実感し、他業態に目を向け始めた。

 そんな時に、ラーメンと出会う。ラーメンは投下資本が少ない。「少ない席数で大きな数字をたたき出す可能性を持っている」。


竹炭、海老、トマトでラーメン

 05年6月に本郷に「黒味噌ラーメン 初代 けいすけ」をオープン。「味噌ラーメンは競合が少ない。味噌でいじるとメディアも取材に来てくれる」と味噌に注目。スープは真っ黒。豚骨など4種類の食材のダシに7種類をブレンドした味噌。さらに何と「竹炭」を加え、黒いスープが生まれる。

「オープン当初は良かったが、すぐにダメになった。味が一定せず、オペレーションもバタバタでお客を掴めなかったから」。その後、テレビ「王様のブランチ」で取り上げられ大人気に。メディア、特にテレビの力を知った。


黒味噌ラーメン。赤い丼に黒いスープが印象的。

 06年7月には高田馬場に「二代目 海老そば けいすけ」をオープン。豚骨・鶏ガラとともに、香ばしく焼いた大量の甘海老をじっくり煮込んだスープ。球体を斜めにカットしたような形のユニークな丼を使用。この形はスープの香りを蓄え、海老の香りを逃がさないよう工夫。「一風堂」が銀座ベルビア館で営業する「五行」でも似たデザインの丼が使用されている。


「二代目海老そば けいすけ」看板


冷やし海老そばNEO

 そして06年10月に立川に「三代目 けいすけ 紅香油」をオープン。豚骨、鶏がら、香味野菜、羅臼昆布等で炊いたスープに凝縮したイタリアントマトを加え香油の効いた紅色のスープ。割り箸にバジルの葉が挟まっており、それをラーメンに入れて香りを楽しませる。そして、食べ終えたスープにガーリックトーストを入れ、レンゲですくって食べる。しかし、このトマトラーメンは「手ごたえがない。時期をみて閉めようと思っています」と失敗も経験。


紅香油ラーメン。割り箸にバジルの葉が挟まっている。丼には箸先を通す穴があけられている。

今はラーメン・テーマパークに熱中

 テレビ「嗚呼!花の料理人」に出演するなど、ラーメン業界では有名人となり、各地のラーメン・テーマパークから続々とラブコールが寄せられている。

 博多キャナルシティ「ラーメンスタジアム2」に本年6月「海老そば」で出店済み。さらに、お台場「ラーメン国技館」というラーメンテーマパークの改装時に「黒味噌ラーメン」の出店が決まっている。

「ラーメンはやりやすい。ラーメンフリークの人達を上手く使うとブームにしやすいことが分かりました。今では、彼らと仲良くしています。でも、たまに普通の人からブログで批判されたりするのは怖いですが」

 商品力とは、美味しさと話題性、と語る。「話題性とは、真っ赤な丼に真っ黒なスープを入れるといったことです。居酒屋『炭香』でも真っ黒な『備長パン』というメニューがあり、つくねを食べた後の生卵が混ざったタレに浸して食べてもらうようにしてます」


「美味川柳 炭香」の備長パン

 上場に意欲を燃やす。「やれる仕事の質が変わりそう。今は自分で動かせる金に限界がある。儲けた金の範囲で投資せざるを得ないので、ラーメンテーマパークがちょうど良い。投資金額も少なくてすみます。博多キャナルシティに『海老そば』を出店した際、入居時の改装費に600万円を投資しただけで、月商1千万円を稼いでくれる」。博多キャナルシティがドル箱。「私もなるだけ福岡で店に出ています」と月の大半は福岡で過ごしている。


博多キャナルシティ「ラーメンスタジアム2」内の店舗

「今、気になる食材は、鶏節、豚節。かつお節のように削って使う肉です。これを使ってダシが作れないか、考えています」と他人が使わないユニークな食材を探すアンテナは高い。

 竹田氏は「けいすけ」のブランドアップと、商品開発に飛び回っている。



竹田 敬介(たけだ けいすけ)

有限会社グランキュイジーヌ 代表取締役。1969年、広島県生まれ。調理師としてフレンチ12年、和食5年の実績を持つ。ラムラで商品開発・企画を担当した後、居酒屋「炭香」で独立。黒味噌、海老、トマトとユニークな素材を使ったラーメン開発で名を挙げる。ラーメン・テーマパークの話題には無くてはならない存在。



【取材】 安田 正明(やすだ まさあき) 2007年8月6日