・「アントワープ」は東京の商業ビルの人気テナント
大阪・淀屋橋で2003年12月にスタートしたベルギ—ビール・レストランカフェ「バレル」は全世界に約70店舗を展開している「ベルジアンビア・カフェ」のアジア第1号店。
2005年11月に東京に進出し、丸の内の商業施設「TOKIA」の地下にオープン。そして、2007年10月には、銀座コリドー街の商業ビル、ニッタビルの1階に開店。そして、来年3月に赤坂TBSの再開発施設横の赤坂4丁目プロジェクトにも出店する予定だ。三菱地所、三井不動産、サンケイという3大デベロッパーからラブコールを受けた。
同店を展開する株式会社アクアプランネットは教育事業からスタートし、6年前に際コーポレーションのFCとして「万豚記」で飲食事業を始めた。女性社長、福政惠子氏が生まれ故郷の三重県松阪市で13年前に一人で始めた会社だ。
現在は、教育事業で20教室3000人の生徒を抱え、外食事業で「アントワープ」2店舗を含む4店舗を経営している。年商は約20億円にまで業績を拡大させた。
TOKIAの「アントワープ・セントラル」は50坪にテラスも使って年商3億円以上。しかも、地下1階でこの売上高には驚かされる。2年前のオープンから今も徐々に売上が上がり続けているそうだ。
TOKIAにある「アントワープ・セントラル」
他方、大阪店は4周年で35坪で約9千万円の年商。東京のマーケットは巨大だ。来年は3月の赤坂への「アントワープポート」の出店のみならず、4月には青山に独自ブランドでイタリアンを出店する計画。
福政社長のコンセプトは、「リビング・ウェル」。よりよく生きることをサポートすることだ。「大阪はおでかけ外食へのポテンシャルが低いように思います。1人当たりの飲食店数は、東京の1.5倍と過当競争です。よりよく生きるための飲食店を展開していきたいので、東京に集中したい」と東京でのコンセプトの実現を狙う。
・1998年、精神の時代が到来。リビング・ウェルで起業
福政社長は三重大学を卒業後、就職したい企業が見当たらず、人と同じ人生が嫌で、独自の道を歩もうとしていた。父親は大手製鉄会社に勤務する会社員という普通の家庭に生まれ、2人姉妹の長女。小さい頃から1人だけ変わった性格と周りから言われてきたそうだ。
就職したのは、20代の社長とエンジニア1人のたった2人のベンチャーIT企業の立ち上げへの参加という形で、仕入れから、営業、経理まで何から何までやり、簿記2級の資格まで取った。この時の経験が今の社長業に生きている。
当時、同世代の取引先メーカー社員同士で「サービスがお金になる時代が来るよね。では、どんなサービスがウケるのか?」と話し合っていたそうだ。「1998年12月から水瓶座の時代が来る。ハードからソフトの時代に移行する」と水瓶座の福政社長は考える。当時、始まったインターネットや携帯電話がソフトの時代の象徴だった。
「精神の時代が来る。物質は満ち足りた。三千年間、物質文明が続いたので、これからの三千年は精神文明の時代が来る」と判断し、「リビング・ウェル」というコンセプトにたどり着いた。よりよく生きることをサポートする企業を作ることだ。
23才の時に独立する際の3つの方針を決めた。
1)在庫を抱えない。
在庫過多になりディスカウントに走り、人が疲弊してしまうようなことはしない。
2)付加価値を生む。
人を財産として年をとっても玉のように輝く会社を作る。そのノウハウで他社にもブランド作りを提案できるようになりたい。
3)値決めを自分でできる。
ブランドに信頼があれば、自分で価格を決めることができる。価格競争に巻き込まれず、安定した利益が取れる。
・教育事業から「万豚記」で飲食に
IT会社に勤めながら、夜は家庭教師をして交遊費や服飾代を稼いでいた福政社長は教育事業に目を付けた。教えることに自信があり、OLの傍ら、内緒で小中高校生向けの塾をスタートさせた。折込チラシを使ったが生徒が集まらず、1軒1軒飛び込みで訪問営業してようやく集りだした。
「子供、そしてその父母のモチベーションを上げるのが得意です」と語る福政社長。「自分は幸せになるために生まれた、自分でも幸せになれるんだ、と子供に教えます。そして、夢を見る勇気を与えるんです。やったら出来ると」。
外食の1店目は、際コーポレーションの中島社長と知り合い「万豚記」をFCとして6年前に始めた。しかし、目指す「リビング・ウェル」のコンセプトとは異なると思ったそうだ。現在も大阪・梅田で「万豚記」は営業を続けている。
教育事業で培ったモチベーションアップの手法が、外食事業の社員教育にも生かされている。「同じ仕事を同じレベルで毎回行ってはいけない。同じ仕事でも視点を少しずつ高くしていきなさい。『鳥眼』を持ちなさいと言っています」と教育者として語る。今の作業は何の為にやっているのか、自分の役割が何に繋がっていくのかを考えることができるように育てる。
また「ポジションが人を育てる。思い切って店長に抜擢する。そして負荷を与えて伸ばす」。
「社員に売上が100億円になった時のあなたの年収はコレだと見せる。先のことを具体的に見せてあげる。決算賞与を支給していて、利益の3分の1を全員頭数で均等に分けて配分しています。今年は、決算賞与1人100万円を目指して、全社員で頑張っています」。
・ベルギービールカフェを世界で展開するインべブ社と出会う
インべブ社は世界最大のビール酒造メーカー。「ヒューガルデン」などベルギービールを始め200以上のブランドを醸造し、世界に販売。世界のビール市場で13%のシェアをもつ巨大企業だ。
「ベルジアンビア・カフェ」はインべブ社が創業し、「スローフード・スローライフ」をコンセプトに本場ベルギーのビールと伝統的な欧州料理を提供する正統派のビアカフェ。1920年代に実在したビアカフェを忠実に再現した内外装となっている。現在、世界で約70店舗を展開。
ドラフト・ビールのタップ
ベルギービールはブランド毎に異なるグラスを使用
インべブ社の「ベルジアンビア・カフェ」を日本で展開する権利を持っていた人がいたが、その方はFC方式で展開しようとした。しかし、上手くいかず、インべブ社に直営で展開する提案を行った福政社長が日本での出店ライセンスを取得した。アジア1号店が2003年12月大阪・淀屋橋に開店した「ベルジアンビア・カフェ バレル」だ。
ビールはベルギービールであればよく、インベブ社以外のブランドでも問題がない。クオリティーを高く保つこと。個性をもった店作りに励むことなどコンセプトにこだわる。店作りにインべブ社指定の設計会社クレノー社を使うこと。テーブル、椅子、カウンターなど、ベルギーから直輸入した調度品をふんだんに使用しており、初期投資は重い。
「アントワープ・シックス」(銀座ニッタビル)店内
・「ゆりかごから墓場まで」、次はアンチエイジング
インべブ社に思い入れた理由は、老人ホームでのような積極的なサービスをということでヨーロッパの介護4原則をそのままビアカフェの原則に取り入れていたことと言う。介護4原則は、1)安全・安心 2)受け入れる 3)尊敬する 4)美しいとほめる。ちなみに日本の介護は3原則で、1)安心 2)安全 3)正確。鉄道機関の3原則と同じだそうだ。日本は高齢者の尊厳を重視せず、介護師は平気で幼児言葉で話しかけるのを見て、福政社長はおかしいと思っていた。
アンチエイジングを手掛け、アルツハイマーを無くしたいと言う。「お年寄りがよりよく生きられるような高齢化社会を実現させたい。お年寄りを受け入れてまた社会に帰してあげたい。また、高齢者の尊厳を守ったままよりよく死んでいくことができるようにしたい」。
「教育事業は少子化で先細りが考えられる。今後はアンチエイジングの仕事にもシフトしたいと思いますし、社員にも話しています」と、社員に次の夢を見せ始めている。
「スタッフが育っているのを見るのが楽しい。会社の夢と本人の夢との競争なんです。会社にいた方が大きな夢が見られるようにしたい」と会社を大きくすることへの意欲が強い。
最後に女性経営者ということについて聞いてみた。「女性経営者は女性というだけで興味を持たれて得なことが多いかもしれない。飲食も教育も男性ばかりですから」と話してくれた。飲食の女性経営者にもっと活躍いただき、今の男性経営者には出せない提案で過当競争に悩む外食市場を魅力あるものに変えて欲しい。