・おふくろの味フレンチを新潟&東京で
大桃氏は新潟県出身。シェフになることに憧れ、20才で東京に挑んだ。下町のビストロとして人気の浅草「ビストロ・アンフィニ」で住み込み。そして、仏ロワール出身の仏人オーナーシェフの南青山「バンドール」にて、南仏料理を学んだ。「バンドール」はオーナーシェフが仏に帰ってしまい今はない。ワイン、料理、音楽が売りの人気店だった。
そして、現在の西麻布「THE BARON」でシェフとなる。2006年2月にオープンしたダイニング。入り口がオープンテラスを望むレストランゾーン。右奥はカウンターとテーブルでカジュアルなパブゾーン、中央奥にライブやパーティが楽しめるクラブゾーンの3つのエリアで構成される。そして、店名に相応しい貴族的な趣味のVIPルームを持つ、モダンな店舗だ。
「THE BARON」外観
オープンテラスを望むレストランゾーン
カウンター
カジュアルな店なので、シェフの服装もコックコートを着る訳ではなくカジュアル。1人で仕切る厨房は広い。料理は、スパニッシュ&フレンチベースの創作。例えば、今秋のコースメニューは、魚のスープ、リヨン風サラダ、秋刀魚とじゃがいものテリーヌ、広島産カキのフレッシュトマトと大葉のスパゲティー、青森産林檎のコンポートバニラアイス添え。
現在29才だが、35才までには自分の店を持とうと計画している。大桃氏の実家は新潟県で日本海から直ぐの所。実家近くで、日本海で水揚げされた新鮮な魚介類をメインとするオーベルジュのようなレストランを持ち、東京や新潟以外のお客に来て欲しいと考える。そして、今彼が働く巨大な東京マーケットへの出店。新潟と東京の2つの店舗が相乗効果を生みだしてくれる。
「新潟の人は目の前に恵の日本海が横たわっているにもかかわらず、築地ブランドが好きなんです。資金の問題で、まずは新潟で開業しようと思っていますが、是非とも新鮮な日本海の魚介を使いたい。そうするとお客は新潟以外の方々を狙わないといけない。新潟で東京などからのお客を集めて実績を作り、次に新潟の魚介をウリに東京で本当の出店です」と大桃氏は夢を語る。
・殴られた世代と、コック不足世代の挟間
大桃氏の調理との出会いは、高校中退後に勤めた新潟の洋食屋。美味しいものを食べられるし、食べることに困らないという単純な理由だ。しかし、アルバイトで入り正社員に登用され、約5年間、同じ店で働いた。そして浅草「ビストロ・アンフィニ」で約3年間、南青山「バンドール」で約3年間と、各店舗で料理人としては比較的長く務めている。
修行時代を思い出して、大桃氏は語る。「辛かったけど楽しかった。住み込みで働かせてくれる店は『ビストロ・アンフィニ』しか無かった。『バンドール』では鍋に残ったソースや、客の残したソースを舐めるたりして勉強した。専門学校を卒業した調理師達とは違う。包丁も十分に使えない知識だけの人間より、普段の仕事ができる人間の方がずっと良いと思う。フォアグラより、玉ねぎの方が大切だ。」
自慢の「ブイヤベース」 いとより、旬の魚、全7種の魚介と3種コンディメント(アイオリソース、ルイユソース、粉チーズ)。スープは別に付けられる。
スープは渡り蟹
現在は、コック不足の時代。「今の若い子は人に指示されるのが嫌。自分で本を読んで、自分の架空の世界を作り上げている。ちょっと怒られたら直ぐに辞める。辞めて次の店に行けばいいと安易に考える。すると、教える側も直ぐに辞めてしまうんだから、と教えることが面倒になる。」
大桃氏は29才で、厨房で殴られて育った世代と、専門学校などで学びコック不足でちやほやされる今の世代の挟間に立つ。「フレンチの先輩、三国清三シェフや坂井宏行シェフは今をどう感じているのか聞いてみたい」と料理界の将来への不安を感じている。
知識先行型の今の若者への不満は、調理業界だけでなく、様々な業界でも耳にする。育った時代が異なるのだ。しかし、彼らを理解した上でどのように育てていこうという議論が重要だ。大桃氏のような挟間世代のシェフに多数活躍してもらう事が、両世代の理解を深めることに繋がると思う。