・「エルブジ」仕込の創作イタリアン
茂呂氏は、世界の著名な料理人・美食家が注目するスペインの3つ星レストラン「エルブジ」で2シーズン修行した新進気鋭のシェフだ。「エルブジ」は4〜9月のみの期間限定で営業し、10月に翌年の予約が開始され、10月中には全てが埋まる。以降はキャンセル待ちのみという人気店だ。
働くのは東京・銀座の隠れ家レストラン「バックエントランス」。2007年12月に開店したばかり。その名の通り、入口は正面にはなく、裏口が入口となっている。ホテルの1階にあるが、正面に立つと、どこから入ればよいのかとまどってしまう。ぐるりと回って、路地裏が正式なエントランス。
デザインはグラマラス、森田恭通氏。ドアを開けると目の前に大きなシャンデリアがしつらえられたスタンディングバー。奥のレストランフロアは、エルメスなどブランドのスカーフを多様した内装になっている。メニューカバーもエルメス。
そして、「エルブジ」で修行した茂呂氏の料理は、森田デザインに負けずクリエイティブだ。
モッツァレラ・ウハラのカプレーゼ バルサミコのシート包み(1800円)
北海道産子牛モモ肉のトンナート(ローストビーフ)2500円
グレープフルーツの宝石サラダ 薔薇の香り(1500円)
フォアグラのキャラメルソテー レモンピューレ ポルトソース(4000円)
牛ほほ肉の赤ワイン煮 チョコレート風味 バニラ風味のジャガイモピューレ添え(2500円)
・「エルブジ」では、早く行くと怒られる
食べる事が好きで、サラリーマンになりたくなかった茂呂氏はモランボン調理師専門学校を卒業し、ケータリング会社で3年間コックとして働いた。
そこで知り合った人の紹介で、ミラノの日本料理店で働くこととなる。ここから、イタリア、スペインでの7年間がスタートする。その日本料理店は、日本人スタッフは全くおらず、名ばかりの日本料理。1年間働いて辞める。
そして、ミラノ郊外の「リストランテ・アンティーコ・アルベルゴ」で1年半働く。オーソブッコ(牛すね肉の煮込み)、リゾサルト(焼きリゾット)などミラノ郷土料理を出すレストラン。
次に、中世の都市、ベルガモにある「リストランテ・ダビットーリオ」で3年間。ミシュラン2つ星だ。郷土料理がメインだが、新しいことも取り入れていた。レストランだけでなく、バンケットもあり、さらにはパティスリーやパンの小売も行っている。厨房で一通りのパートを経験。
星付きレストランも様々な悩みがあるそうだ。レストラン収入だけではやっていけないし、グルメ記者にはよく書いてもらうために、通常より良い食材を使いお金もとらない。バンケットや小売で収入を確保する必要があるそうだ。
そして、スペイン「エルブジ」。「エルブジ」は春・夏の4〜9月のみ営業し、他の期間はクローズする。キッチンには30〜40名のスタッフが働いているが、その大半は研修生。給料もなく、チップも貰えない。寝泊まりする寮と食事が用意されるだけ。茂呂氏はここで2年間、2シーズン修行した。日本人は1年目には4名、2年目には2名いたそうだ。
「エルブジ」の勤務スタイルは常識と異なって驚いたと言う。
「早く行って働こうとすると怒られるんです。上の立場の人の方が早く来て、下はちゃんと休めと言われる。終わったら終わったで、早く帰れと言われます。賄いや片付けも手早く終れと指示されます。いわゆる、修行という感覚ではありませんでした」
「寮は、3人1部屋。寮では修学旅行のように楽しく、世界中から来た仲間と仕事が終わるとよく飲みに行きました」
「出勤は毎日ヒッチハイク。レストランは山の上にあり、村人の車や、仲間が持っている車に相乗りをさせてもらいます。ある時、歩いたら1時間半もかかりました」
・将来は、アグリツーリズモ
「エルブジ」では、エスプーマで香りを付けるテクニックや、ゼラチンの使い方を身に付けた。ゼラチンは種類により溶ける温度が異なる。40度で溶け出すもの、60度で溶け出すもの、漬けるとすぐに固まってしまうものなど。料理や食材によってゼラチンを使い分けるのが妙だ。
ゼラチンの技法は、ゼリー状にしたポン酢として寿司店でも使われるようになり、日本料理にまで広がり初めている。
先端の技術を身に付けた茂呂氏だが、彼の夢は郊外の農家を改造したレストラン。古い農家を改造した宿泊施設にお客を泊め、自分の畑で取れた農作物を使ったメニューを調理し提供するオーベルジュだ。スローフードの人気とともに、田舎暮らしを体験するツアー「アグリツーリズモ」として日本でも人気が出始めている。
ヨーロッパでは有名なレストランほど郊外にある。日本でもそれと同じ事をしたいと夢を膨らませている。立地は田舎だが、その土地で獲れた新鮮な食材を使い、調理技術は世界の最先端というユニークなレストランが誕生しそうだ。
「バックエントランス」スタンディングバー
「バックエントランス」レストラン
「バックエントランス」メニューブック