フードリンクレポート


生産者を押さえた地鶏を武器に出店を加速中。
米山 久氏
株式会社APカンパニー 代表取締役

2008.2.13
みやざき地頭鶏を武器に、八王子を起点に展開してきたAPカンパニーは2006年から本社を都内に移し店舗展開を加速している。生産者を押さえ一気に展開するパターン。そして、次なる武器に鮮魚とホルモンを加えた。店に金をかけず、食材で勝負する米山社長の姿勢は「美味しい料理をリーズナブルな価格で提供する」という外食の基本に気付かせてくれる。


「塚田農場」餌をやる田上さん

直営店17、FC・ライセンス5店で、年商17億円

 米山氏は宮崎地鶏「みやざき地頭鶏(じとっこ)」をメイン食材に、総合居酒屋「わが家」直営6店、地鶏専門店「じとっこ」を直営2店、FC・ライセンスで5店、宮崎料理「塚田農場」直営1店。さらに、漁港直送の魚をメイン食材とする魚居酒屋「魚米(うおべえ)」直営5店、A4,A5ランク限定の朝挽き和牛ホルモンをメイン食材とする「関根精肉店」直営3店を展開している。
 
 2008年3月期には年商17億円。2007年度は5億5千万円であり、1年間で売上が3倍という急成長企業だ。

 オリジナリティのある名物料理を中心に展開していく手法。現在は、みやざき地頭鶏、漁港直送の魚、朝挽きホルモンという3つの食材をテーマに業態を分けている。

「みやざき地頭鶏(じとっこ)」は、古くから宮崎や鹿児島の旧島津藩で飼育されていた天然記念物である「地頭鶏」がルーツ。柔らかさの中に適度な噛みごたえがあり、「幻の地鶏」と呼ばれていた。宮崎県が特産品として改良を重ね、2004年に完成させたのが「みやざき地頭鶏」だ。

 そして、米山氏は宮崎県日南市に「塚田農場」として、2006年に自社養鶏場を作った。そして、2007年にセントラルキッチンを作り、2008年には処理施設も建設する予定だ。

 ヒナだけ仕入れ、飼育・処理・加工まで全て自社で手掛けることになる。これにより流通から仕入れるより半値以下のコストになる。生産者を押さえて業態開発、店舗展開をしていくのが、APカンパニーの特徴だ。


宮崎地鶏業態の完成形「塚田農場」(東京・八王子) 養鶏場と同名。


「塚田農場」店内

もも焼き

チキン南蛮

地頭鶏茶漬

冷汁


ダーツバーから宮崎地鶏

 役者を目指していたが夢破れ、不動産やブライダル企業で営業マンとして働いていた米山氏が夢中になったのがダーツ。当時住んでいた八王子から六本木のダーツバーに通ったという。それが、高じて、2001年に八王子でバーの居抜き物件を見つけ、友人に借りた3百万円で改装しダーツバーを開業する。

「オープン当日まで卓番を付けることや、お通しを出すことも知らなかった。正直、お客さんと喧嘩したりもしていました」と米山氏は当時を振り返る。ところが、ダーツのトーナメントを開催するなどお客を楽しませ盛り上げる才能があり、八王子でダーツブームを巻き起こした。役者を目指していたころの経験が役立ったようだ。30坪で年商9千万円、営業利益20%の実績を残す。

 そして、飲食を天職と考えるようになり、2004年に「わが家」1号店を八王子に開店させる。当時は焼酎ブーム。また、新橋に大好きな焼鳥屋があったことから、鶏を中心とした居酒屋業態を選んだ。
 
 出会ったのがみやざき地頭鶏。名古屋コーチン、比内鶏を使うと客単価が6〜7千円に上がってしまうが、みやざき地頭鶏は4千円で収めることができた。

 当初は、契約農家から仕入れていたが、通い詰めてノウハウを教えてもらい、2006年に2千万円で宮崎県日南市に自社養鶏場を作った。現在、現地に法人を設立し、5人の地元社員を雇い、月に1千2百羽を生産している。もちろん、これだけでは足らず、契約農家からも仕入れている。

 地鶏専門店「じとっこ」はシンプルな業態なので、直営だけでなくライセンス方式で急激に店舗数を増やそうとしている。「いろいろな方々にもっとみやざき地頭鶏を食べて欲しい」という。現在、この方式は5店のみだが、大宮でも出店が決まったそうだ。

 みやざき地頭鶏の出荷量増加に伴い、競合を寄せ付けないように多くの出荷量を確保するためには、自社の販売量を増やすこと。そのためにライセンス方式による急激な出店を選んだ。

 また、売れると出荷価格が上昇する恐れがある。名古屋コーチン、比内鶏等の地鶏と異なり、4千円の単価で食べられるところがみやざき地頭鶏の良い点。この価格を守るために自社での販売量を拡大したいと考えている。


「塚田農場」全景


養鶏場メンバー


生後1週間のヒナ


魚、ホルモンも「川上」を押さえる

 宮崎地鶏で養鶏場を自社で作ったように、漁港直送の魚が売りの「魚米」、朝挽きホルモンが売りの「関根精肉店」の2業態でも生産者を押さえる作戦だ。

 鮮魚は輸送費がかさみ、現在の5店ではコストがかかり過ぎる。「築地の仲卸を何社か買いたいが、残念ながら未だ巡り会えません。なので5店で止まっています。5店では試験店舗のレベルです。スケールメリットができると、仲買権を買ったり、船ごと買ったりできるんです」と鮮魚業態の多店舗展開のための生産者を探している。


「魚米(うおべい)」立川店 店内


「魚米(うおべい)」立川店 店内


「魚米」2階


「魚米」刺盛

 ホルモンは、東京・芝浦の処理場から、A5・A4ランクの最上級和牛の朝挽きを確保することに成功。しかし、8店舗分しか供給できず、残りの出店余地は5店しかない。多量に供給できる生産者を見つけることは容易ではない。


「関根精肉店」外観


「関根精肉店」店内


「関根精肉店」店内


「関根精肉店」レバ刺し


「関根精肉店」もつ鍋

 食材に重きをおき、店舗にはあまり投資を行っていない。「じとっこ」田町店は居抜きで200万円のみで改装。「わが家」上野店は居抜きを600万円で改装。特に都内は店舗内装にお金をかけていない店が多い。

「今までは利益重視できました。2008年度の売上高見込みが17億円となり、これでようやく借入のバランスが正常になりました。あと1〜2年、売上高30〜40億円までは、居抜きに徹し、収益重視を続けます」と金をかけず店舗数を増やす計画。

「じとっこ」ライセンス以外、出店の基本は直営。「弊社のような独自性のある業態は直営でしか無理です。出店してから進化させます。その結果、何店舗かの試験店舗で試しながら本物の業態が出来上がっていくと思ってます。お客様に向かって自信を持てる業態になり、そして初めて多店舗出店できます。武器は業態そのものです。『これ美味しいから食べて下さい』とお客様に胸を張りたい」と米山氏は強く語る。

 みやざき地頭鶏の業態も「わが家」「じとっこ」と進化を続け、2007年にようやく「塚田農場」で完成したそうだ。今後は、じわじわと既存の店舗を「塚田農場」に転換しようとしている。

 生産者を独自に確保し販路を独占する方式は、オリジナル食材を安価でお客に提供することに繋がる。それが、他店との競合に打ち勝ち、お客に強い来店動機を持たせることができる。

 2006年に新規6店、2007年に新規8店と走り続けてきた米山氏。まだまだ加速しつづける、バイタリティーに溢れた経営者だ。



米山 久(よねやま ひさし)
株式会社APカンパニー 代表取締役。1970年生まれ。東京都出身。2001年、八王子で有限会社APカンパニーを設立。2004年、みやざき地頭鶏を売りにする居酒屋「わが家」1号開店。2006年、自社養鶏場「塚田農場」を開設するとともに、株式会社に組織変更。2006年、本社を港区浜松町に移転。2007年、セントラルキッチン「じとっこ加工センター」完成。直営・ライセンス合わせて、5業態、22店舗を展開。

株式会社APカンパニー http://www.apcompany.jp/

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2008年2月6日取材