フードリンクレポート


楽しく分煙! 
吸う人・吸わない人が共存できる接客を。

2008.5.16
禁煙、分煙とお客のタバコに気を使う飲食店が当たり前になってきた。全面禁煙とはっきり謳うグローバルダイニングの店舗から、曖昧な居酒屋業態まで、喫煙への許容度はまちまち。その中で、吸うお客と吸わないお客が隣り合って共存できる店の模索が始まっている。


シガ—の似会う黒崎輝男氏(「SMOKE」にて)

燻製料理とタバコのカフェ「SMOKE」

 東京・表参道で、シャネル、ブルガリなど高級ブティックが入居するGYRE表参道の4Fにあるカフェ「SMOKE」。季節の食材を燻製したシンプルな料理とワイン、シャンパン、モルトウイスキーなどが楽しめる大人の店。

 ここのウリは、完全喫煙。シガーも各種取り揃え、夜ともなると青山に住む外国人達がシガーやタバコを酒と楽しみにやってくる。2007年11月にオープンし、多くの金を使ってくれる外国人客に支えられて、繁盛店となっている。

 天井が高く煙がまっすぐ上に上がり、喫煙者と共にいても気にならない。表参道を望むテラスもあり、ケヤキ並木を眺めながら気持ち良く外でも喫煙できる。


「SMOKE」 外観


「SMOKE」 店内


「SMOKE」 テラス席から表参道が見渡せる

 この「SMOKE」を経営するのが、元イデー社長の黒崎輝男氏。現在は、個人事務所を持ち、スクーリング・パッドを設立し、デザイン・プロデュースの流石創造集団を経営するなどマルチに活躍している。国連大学のボードメンバーにも就任し、青山にあるキャンパスをオープンにするプロジェクトも始めるという。

「日本で最初のシガ—バーを作ったのは僕です。1996年頃、イデー・カフェの上に『ハバナルーム』という店を作りました。当時は、ワインには葉巻だよね、と言ってむせ込んで吸っていました。この店がきっかけになってシガーブームが起き、今ではカルチャーとして定着しています。」

「SMOKE」のテーマは、「真実は煙の中」。「作家も文化人もみんなタバコを吸っていた。そんな彼らが文化を作っていく。白黒をつけることが良いことではない。あいまいに煙に包んでしまうことも良いことだ」と黒崎氏は考え、煙をテーマに燻製料理とタバコの店が出来上がった。


「旬の食材を使ったスモークを目の前で」(1200円)


日本では珍しい「エッグ・ベネディクト」(1500円)


シャンパンに合う「紙のように薄くスライスした旬の野菜のカルパッチョ」(1200円)


快適な喫煙ルームは商業施設側のニーズ

 黒崎氏は喫煙ルームのプロデュースも手掛けている。これまで約30ヶ所を作った。六本木の東京ミッドタウンの喫煙ルームは黒崎氏の作品。商業施設は、客単価をアップさせるため、お客の滞在時間を長くさせようとしている。家族など同行者の中に喫煙者がいると、喫煙ルームを用意しておかなければ早く帰られてしまう。そこで、商業施設は快適な喫煙ルームを作ろうとする訳だ。

 また、新しく丸の内にできる丸の内パークビルの喫煙ルームもプロデュースする。通常の喫煙スペースとは別に、葉巻を吸えるエグゼクティブなスペースも設ける予定だ。「喫煙ルームは部長も平社員もないクラスレス。会議とは別のリラックスした話ができる。また、場を変えて一服すると、良いアイデアも生まれる」と黒崎氏は喫煙派であることを全く隠さない。

「タバコを吸うのが悪いと決めつけたくない。吸わない人もいいし、吸う人もいいと考える社会にしていきたい。タバコだけじゃないですが、多様な価値観を認められる社会にしていきたい。人種、ハンディキャップ、ゲイなど文化が異なる人たちを受け入れることです。多様性の1つとして、タバコを吸うことを認めることです」と語る。


居酒屋では分煙できない

 宴会客を取り込む居酒屋で禁煙、分煙は難しい。グループの中にタバコを吸う人がいれば、禁煙や分煙の店は使ってくれない。お客を逃してしまうことになる。

 お客の方は、店を選ぶ際、喫煙の有無で優先順位が高くなることはない。やはり、味やサービスで決まるようだ。行ってみたら喫煙だったので不快な思いをしても、次回は利用しないのかと思うと再度食べにいっていたりすることも多い。

 日本たばこ産業の中井幹太氏(社会環境推進室 課長)に聞くと、

「複数で食事をする時は、その中にたばこを吸われる方も吸われない方も混在しているケースが多いと思います。大切なのは、お互いが気兼ねせずに楽しめることではないでしょうか。例えば、排気口の位置や空調機器の吹き出し方向は、店内の気流の流れに大きく影響しますし、スダレ程度の仕切を行うだけでも煙の遮断には一定の効果があります。このように弊社では分煙にお悩みの方々に対して無償で分煙コンサルティングを行っていますし、WEBサイトでも分煙に関する様々な事例や方法をご紹介しておりますので是非ご覧ください。」とのこと。


中井幹太氏(日本たばこ産業 社会環境推進室 課長)

 サービスの神様、新川義弘氏が経営する銀座のレストラン「ダズル」でも、ダイニングルームは禁煙だが、下のフロアのバールームでは喫煙可能。食事中に喫煙したいお客には、ちょっと席を立ってバーで吸っていただくことで、吸う人・吸わない人が仲良く過ごせる雰囲気を作り出している。

 かつて、全面禁煙の居酒屋「和民」が誕生した時、喫煙者用に畳半分くらいの狭い喫煙ルームを設けて話題になった。しかし、これでは喫煙者は居心地が悪く、利用するのは止めようとなり廃れてしまった。


共存のための実験店

 日本たばこ産業は2006年から毎年「スモーカーズ・スタイル・コンペティション 」というコンテストを行っている。目的は快適な分煙空間を作ること。アイデアを一般公募して、2007年は800点を超える応募作品があった。

 そして、最優秀作品を実際に店舗で実現したカフェ「Cafe STUDIO」が4月に表参道でオープンした。パラソルを利用して分煙空間を作る。店内での喫煙スペースの目印は、煙の流れが調整可能な上下移動型のパラソル。このパラソルの中では、煙が上に吸い込まれ、吸う人と吸わない人が快適に同席できるという。


「Cafe STUDIO」のパラソル

 時代は確実に禁煙の方向に向かっている。飲食店だけは別で喫煙OKとはならない。機械で吸う人・吸わない人が共存できる仕組みが近い将来に出来るかも知れない。しかし、飲食店では、壁で仕切ることではなく、接客力を生かして、両者を快適に過ごさせる工夫をお客に提供してみてはどうだろう。


「SMOKE」 http://www.smoke.co.jp/
東京都渋谷区神宮前 5-10-1E GYRE 4F
TEL 03-5468-6449

「Cafe STUDIO」 http://www.cafe-studio.jp
東京都渋谷区神宮前4-31-10  YM Square HARAJUKU 1F
TEL03-3478-0182

JTのHP「分煙」 http://www.jti.co.jp/sstyle/manners/bunen/index.html

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2008年5月7日取材