・熊本県の農家から税理士へ
吉田氏は大阪で生まれるが、小学校の時、父親が食糧危機が来ると予言し、地縁も血縁も無かった熊本県に一家で移住した。そこで田畑を買って一家で農業をスタート。東京の大学を卒業後、亡くなった父親の跡継ぎとして熊本に帰り農業を継いだ。
「大学時代はバブル景気。いつでも就職できるだろうと軽く考え、田舎に帰ってとりあえず百姓を始めました。でも、銀行、商社に就職した同級生の話を聞く度に、取り残された気分に陥りました。そこで、手に職と考え、会計事務所で働きながら税理士の勉強をしました。5年間でどうにか税理士試験に合格しました」
そして、京セラの経営コンサルティング事業を行う子会社、京セラコミュニケーションシステムに入社。仕事に対する情熱、経営をシステム化する基礎を学ぶ。そして、税理士事務所を開設し、大阪と東京に40人のスタッフを抱えるまでになる。その顧客で上場を計画していた不動産ディベロッパー、都市綜研インベストバンクの株式公開準備担当役員として転籍。しかし、不動産、建設を取り巻く大きな環境の変化に同社は上場を延期。その時に出会ったのが、ホッコク創業者、青池保氏だ。
「2007年に青池さんと出会いました。バイタリティ溢れる方で、とても73才には見えませんでした。青池さんから『私はもう時代に合わなくなった。後継者を捜したい。しかし、飲食業界の中では私に勝る人はない。できれば畑違いから来てくれた方が、違う発想もできてよいのでは』と言われたことが、ホッコクに来るきっかけになりました。」
2008年3月に都市綜研インベストバンクを退職。吉田氏は4月1日付けでホッコクの代表取締役に就任した。
・「どさん子ラーメン」、「みそ膳」などFC430店
同社が直営するのは、わずか13店舗。ラーメン店だけでなく、豚しゃぶ「銀座イベリコ」、際コーポレーションFC「紅虎餃子房」も展開。FCは、札幌ラーメン「どさん子」200店、味噌ラーメン専門店「みそ膳」110店、そしてフリーブランドのラーメン店120店。フリーブランドとは、オーナーが好きな店名を付けて運営できる店舗。
FCシステムは独特だ。加盟金100万円、研修費50万円、開店指導料50万円だが、ロイヤルティーはなし。麺、味噌、チャーシューなど基本的な食材は本部から仕入れてもらう。しかし、義務はなく、本部からの仕入れは一部のみという店舗もある。同社の営業所には必ず製麺工場を併設し、そこで製造された麺を出荷している。今は工場数が減ったが、自社物流は維持している。これは創業当初からの手法で、FC本部というより、食品製造卸の色合いが濃い。
最盛期には1200店あったFCも、オーナーの高齢化とともに撤退が増えた。現在のオーナーの平均年齢は62才。新業態への転換を提案しても、後継者もいなく、腰が重いオーナーも多い。店舗の営業譲渡を受けて本部で運営するケースも出てきた。伴って、ホッコクの業績も過去5年間連続で減収。2008年3月期にはついに1億4千万円の最終赤字に転落してしまった。
今期はラーメン店FCの営業先を、従来の個人から法人に切り替えた。さらに、海外展開も計画。
1970年代に「どさん子ラーメン」はニューヨークに10店もあった。三菱商事が米国から「シェーキーズ」「ケンタッキーフライドチキン」を日本に導入した代わりに、米国へ持って行ったのが「どさん子ラーメン」。現在は直営ではないが、店は残っている。過去の経験をベースに、日本料理ブームに沸くアジアで展開したいという。
「みそ膳」丸の内店 外観
「みそ膳」 店内
「みそ膳」 店内
「丸の内ラーメン」
・農業進出、川上へ遡る
2008年5月にLCAから、ミステリーショッパーなど外食コンサルティング事業部、MS&コンサルティングを買収した。取引する8000店が狙い。そこに食材を販売するのが目的。
ラーメン店FC430店と、MS&コンサルティングの8000店を食材の販売先とし、川上に遡っていこうとしている。その川上が農業だ。
「農業に近づきたいです。私は元百姓ですので農業のことは分かっています。ラーメン残飯を飼料として豚を育て、その排泄物を堆肥として農産物をつくる。循環型の農業がやりたい。農業生産法人の設立をめざして、農地探しを始めています」と吉田氏。
まずは、小麦と大豆を生産する計画。麺と味噌の原材料だ。インドネシアでも実験農場を開始した。
「従来3倍近い価格差があった輸入小麦との価格差がなくなってきました。ラーメンに適さなかった内麦もかなり改良され九州では、国産小麦でラーメンを作り始めている。皆さん、同じ方向に動き始めたので、国産小麦が取り合いになる恐れがあります」
「11月までには小麦の確保を行います。米の裏作で小麦を作っている農家が多く、植える時期が11月なんです。それまでに契約しないと、小麦を確保できません」
農産物のJAなど卸への売値は低く、農業単体では儲かりにくいビジネスと言われている。しかし、川上の農家から川下の飲食店まで中抜きなしに自社で一気通貫させることにより利益が生み出せる。
「健康なラーメンがやりたい。今度、化学調味料を一切使わない無添加ラーメン店『東京味噌ラーメン』を東京駅北口の日本ビルディングの地下に出店します。味噌は、江戸甘(えどあま)という東京特産の味噌を使います。いずれは、海藻やキトサンとかを練りこんだ麺で食べて健康になるラーメンもつくりたい」
さらに、本年6月から始めたのが、日本のパン「地ぱん」のイートインとテイクアウトの店「じぱん家」。「地ぱん」とは、福島市の銀嶺食品工業が30年かけて作った日本料理に合う日本のパン。国産小麦と日本伝統の希少食材とをミックスさせたこだわりパン。1号店は東京・人形町にオープンさせた。今年度に直営で30店に拡大させる。
「じぱん家」 1号店
「じぱん家」の2Fは和カフェ
自社で生産した国産小麦と、国産大豆を原材料に、麺、パスタ、パン、味噌などに加工し、健康をテーマとした商品やサービスを生み出すのが、これからホッコクのめざす方向だ。3年後に売上高100億円、経常利益10億円が当面の目標。
「熊本で農業をしていた時、トマトや米を作っていました。朝の4時から働いて、昼の暑い中をドロドロになりながら働いて、一生懸命思いをかけて育てれば、出来た時、本当にかわいいんです」と目を輝かせながら話す吉田氏。ビジネスと夢が重なって、大きく羽ばたこうとしている。