・ヒートアイランド現象で水辺の価値が見直されてきた
歴史的に見ても、人間のつくる都市は、海、川、湖、池に面した「親水空間」を中心に発達してきた。というのは、単に飲み水と食料の穀物、野菜、水産物などを確保するためだけではなく、鉄道や飛行機や自動車ができる前は、船による輸送が交易の圧倒的な主流を占めていたからだ。
日本の3大都市、東京、大阪、名古屋、世界的な大都会のニューヨーク、ロンドン、パリ、モスクワ、上海、ソウルなどの発祥は、例外なく海または大河に面した港湾都市である。
このように親水空間とともに生きてきた都市の人間が、水を遠ざけ始めたのは、近代の工業化社会になって、浄化不能なほどの汚水を流すようになって以来のことだ。
日本では1964年に開催された東京五輪を機に、汚水の流れる川を外国人に見せるのは体裁が悪く、悪臭で住民の健康も脅かされるので、大都市、特に東京では河川にコンクリートの蓋をする暗渠(あんきょ)化が進んだ。また、輸送に鉄道、飛行機、自動車が使われるようになって、相対的に港湾の地位が低下し、廃倉庫が増えたという事情もあった。
しかし、アメリカの首都ワシントンD.C.郊外のボルティモアが60年代より30年間にわたる計画的な都市再生によって、荒廃した港湾部を再開発して、インナーハーバーなどの新たなショッピングゾーンを誕生させて以来、ウォーターフロントが注目を浴びるようになった。サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフなど、世界中の都市で同様の試みがなされ、成功例も続いた。
日本でも、80年代神戸の人工島、ポートアイランドを皮切りに福岡のシーサイドももちが続き、東京の台場、横浜のみなとみらい、千葉の幕張などが「臨海副都心」として開発されただけでなく、民間レベルでも「東京ディズニーランド」、芝浦のディスコ「ゴールド」、「ジュリアナ東京」などによって、ウォーターフロントは新しい価値を生み出す場所として、クリエーターたちの関心を引くようになった。
そうした中でも下水道の整備などによって、水質の浄化は続けられ、最近ではヒートアイランド現象の回避やエコロジーの流れもあって、都会人のオアシスとして親水空間にますます賑わいが生まれてきている。
横浜ベイクォーター
たとえば、06年の「横浜ベイクォーター」、「アーバンドッグ ららぽーと豊洲」はともに港湾部に位置する職住近接型の大型商業施設であり、デザインも前者は豪華客船、後者は近未来的な造船所がイメージされ、施設内に水上バスの乗り場も設けられている。
三井不動産をはじめ東京・日本橋の老舗が取り組む、一連の日本橋再生事業は、国の重要文化財・日本橋の景観を蘇生するために、首都高速の地下化、日本橋川のさらなる浄化や親水空間の設置を目指している。
「ニホンバシ イチノイチノイチ」
さる6月に日本橋のたもとにある国分本社ビル1階に、ゼットンがオープンした「ニホンバシ イチノイチノイチ」は、川に向かってテラスを持ち、この地区では初の親水空間を意識したレストラン、人の集まる場として、非常に意義のあるものである。
それでは概況はこのあたりにとどめて、都会人の心を潤し、涼風が心地よい立地が魅力のレストランを紹介していこう。
・鎌倉・七里ヶ浜に世界一の朝食を出す海外1号店がオープン
今年3月22日、鎌倉市七里ヶ浜にオーストラリア・シドニーで人気のレストラン「bills(ビルズ)」が、海外初出店のレストランをオープンした。
海岸沿いを走る国道134号線に面して新設された、毎日が週末のようなリゾートライフを提唱する、店舗と住居の複合施設「ウィークエンド・ハウス・アレイ」2階に立地する。席数は86席となっている。
billsテラス席
billsダイニング
「ビルズ」はレオナルド・ディカプリオ、トム・クルーズ、キャメロン・ディアスといった、ハリウッドスターも愛用していると噂のレストラン。オーナー・シェフのビル・グレンジャー氏は“卵の魔術師”の異名を持ち、オーストラリアの朝食を変えたとまで言われている。
特に、独特のふわふわな食感を持ったスクランブルエッグは絶品で、「世界一の朝食をつくる男」とされる。1993年に初めて自分の店を出して以来好評を博し、現在シドニーに3店を展開している。
ビル・グレンジャー氏とスクランブルエッグ・トースト付き
今回の七里ヶ浜出店に先立って、昨年10月、代官山のカフェ「サイン」にて期間限定の「ビルズカフェ」を出店していた。なお、店舗の運営は中村貞裕氏率いるトランジットジェネラルオフィスが担当している。同社は、目黒のホテル「クラスカ」、鎌倉・腰越の上質な海の家「クーラ」などの運営実績を持ち、都会の中のリゾート空間、上質な遊びに対して一貫した関心を寄せている。「サイン」も同社の運営する店である。
テラスや窓際の席からは海と浜が展望でき、江戸時代の浮世絵師たちも数多く描いた景勝地、七里ヶ浜を眺めて、ぜいたくな時間を過ごすことができる。
ビル氏は海が好きで、海をバックにプロフィール写真を撮ったりもしているが、実は海に面したレストランは初めてとのこと。まさか、日本のしかも東京でもない場所で実現できるとは、思いもよらなかったという。
「七里ヶ浜は僕の大好きなビーチライフスタイルが感じられる場所であり、入った施設のコンセプト“デスティネーション”も、僕の店と完璧にフィットしていると思う。“シチリガハマ”という地名を発音できるまでは多少時間が掛かったけれど(笑)、とてもエキサイトしているよ!」とコメントをいただいた。
「ビルズ」はシンプルな料理が特色であり哲学でもあるのだが、それによって満足のいく仕上がりを求めるには、素材の良さが非常に大切である。
「鎌倉エリアは野菜から魚介類に至るまでローカル食材が豊富で、フレッシュでおいしい食事をレストランで提供するために素晴らしい環境にある」と、ビル氏は七里ヶ浜に出店した意義を強調した。
たとえば、「オーガニックスクランブルエッグ トースト付き」(1200円)の場合、味が濃厚で栄養たっぷりな放し飼いのオーガニック卵にこだわっている。
そのほか、「リコッタパンケーキ」(1400円)も代表的メニュー、「スイートコーンフリッター」、「和牛バーガー」、「チェリートマト、リコッタ、ほうれん草、ぺコリーノのスパゲティ」といったところも人気だ。
顧客層はファミリー、サーファー、ビジネスマン、セレブと幅広い。年齢やライフスタイルを問わず、地元の住人も東京などからの観光客も、シドニーの「ビルズ」を訪問した経験がある人ならどこか懐かしさを感じる、ビーチの環境と融合したリラックスできる空間で楽しめるのが、「ビルズ」の特徴である。
客単価は、ランチで1000〜4000円、ディナーで2000〜7000円の価格帯にあるが、代表的メニューの値段を見ても、決して高額な店ではない。
オープン以来連日賑わっており、集客数は1日平均400人になる。しかし、ここまで海に近いと天候に左右され、台風などの場合は急遽、営業時間を変更せざるを得ないデメリットもあるのが、親水レストランらしいと言えよう。
ビル氏はレシピ本も出版しており、「ビル・クレンジャーのシークレットレシピ」(ランダムハウス講談社MOOK、1400円)で、最高の朝食をつくる秘訣を伝授している。
ビル・グレンジャー氏のレシピを公開した著書
・180度オーシャンビューが開ける高台の絶景レストラン
180度見渡す限りのオーシャンビュー。まさに絶景という言葉に嘘偽りがないレストランが七里ヶ浜に存在する。江ノ電・七里ヶ浜駅裏の高台にあるピッツェリア「アマルフィイ デラ・セーラ」がそれだ。
別荘を改装したというこの店は、海が山に迫った七里ヶ浜の地形を生かし、全席がテラスとなっている。相模湾の潮風、鎌倉の山の自然を感じながら、手づくりのピッツァや、ワインを楽しむことができる。
180度オーシャンビューが開ける、アマルフィイデラ・セーラ
席数は約60席あり、悪天候の日は営業中止になる。室内は天候が急変して集中豪雨が降った時などの避難所として確保しており、通常営業は行っていない。
とにかく江ノ電の線路をまたいで、人間1人しか通れないような狭い山道の階段を上がった場所に、おしゃれなレストランがあるという演出が素晴らしい。
経営は鎌倉に本社があるビィバリュー。オープンして9年目となり、都内では「丸の内オアゾ」のイタリアン「アマルフィイ モデルナ」、「成城コルティ」のイタリアン「アマルフィイ カステッロ」は系列店だ。
顧客層は女性が多いが、カップル、ファミリーなど観光客が主流。6月のアジサイの季節など、忙しい時は階段の中腹まで顧客が並ぶ繁盛振りなので、地元の人は混んでいる店といった印象が強いためかあまり来ないそうだ。
顧客単価は2500円。ランチが中心の店で、ミニサラダとパン、デザート、コーヒーまたは紅茶がセットとなった、1890円と2630円の2種類のセットが売り上げの7〜8割を占める。セットの値段の違いは、前菜の盛り合わせが付くかどうかである。メインを、ピッツァかショートパスタから選べる。
ペンネなどのショートパスタ、リゾットはメニューにあるが、スパゲティなどロングパスタは扱っていない。
店内で生地をつくって焼くピッツァは、パリッとした歯ごたえのローマタイプ。三浦半島三崎の契約農家から仕入れた糖度の高い甘いトマトをふんだんに使った「ピッツァ デラセーラ」は、桜井充料理長が考案した自信作である。
ピッツアデラ・セーラ
また、魚介類は仲買担当が三崎漁港からその日に獲れたものを買い付けるので、アラカルトで出すカルパッチョなどは非常に新鮮だ。
ワインは全てイタリア産を試飲して、料理に合ったものをセレクトし、バイオーダーで輸入代行から仕入れている。たとえば夏なら、キリッと冷えたスパークリングや白ワインがお勧めという。
ワインは全てイタリアから輸入
ちなみに店名の“アマルフィイ” は、南イタリアの世界遺産の街で、鎌倉と同じく歴史が古く海が山に迫った風光明媚な地形を誇る観光地。“デラセーラ”はイタリア語で夕日を指す。桜井料理長によれば、冬の空いたシーズンこそ、空が透き通っていて、江ノ島側に水面を走るように沈む夕日の美しさはこのうえなく、富士山もよく見えるのでお勧めなのだそうだ。
北風を防ぐ七里ヶ浜の地形もあって、冬でも日中は18度くらいまで気温が上がる日が多いのでそれほど寒くない。防寒対策として、暖房に加えてブランケット、毛布を貸し出すので、よほど寒い日を除けば快適に食事ができるだろう。
なお、近くの海岸沿いには2つの系列店がある。既にオープンして11年目の人気イタリアンレストラン「アマルフィイ」と、今年7月にオープンしたばかりのカフェを併設したスウィーツ専門店「アマルフィイ ドルチェ」だ。
アマルフィイドルチェ
どちらもオーシャンビューを楽しみながら飲食ができる、海に顔が向いた店で、地元の出身というオーナーの強い郷土愛が感じられる。
・運河に面したテラスで造りたてのビールを飲むぜいたく
東京のウォーターフロント開発では、お台場、豊洲などに先行し、先駆けとなった天王洲。その天王洲にあって倉庫をリノベーションし、人気店となっているのが、「ティー・ワイ・ハーバー ブルワリー」だ。
レストランと地ビールの醸造所が一体になった店舗で、造りたての新鮮なビールが味わえるのが売りだ。
母体は寺田倉庫で、ティー・ワイ・エクスプレスという関連会社が経営している。天王洲運河と高浜運河が合流する角地にあり、天王洲運河側に川風が心地よいテラス席が設けられている。席数は300席以上の大箱である。
ティー・ワイ・ハーバーブルワリーと手前の運河に浮かぶ白いウオーターライン
ティー・ワイ・ハーバーブルワリーのテラス席
オープンは1997年。ゆりかもめ、りんかい線の天王洲アイル駅から10分近く歩く不便な立地なので当初は苦労したが、運河沿いにある建物の景観が人気を呼び、テレビドラマやファッション誌の撮影に使われるなど知名度がアップ。
近年はすぐ近くに高層マンションの建設が進んで、地域の人口が増加していることもあり、初年度から毎年売り上げが伸び続けているという。
「古い倉庫をリノベーションして、写真スタジオ、デザイン事務所、ファッションデザイナーのようなクリエイティブな人に貸していたのですが、周りに食べるところがなかったという事情がありました。飲食店は外から多くの人を呼ぶ効果もありますし、天王洲を活性化にもつながると考えたのです。運河に面したロケーションを生かし、ちょうど地ビールの解禁ともタイミングが合ったので、このような店を企画しました」と、ティー・ワイ・エクスプレスの寺田心平社長は語る。
顧客層は、平日のランチはバギーカーを押した主婦たち、ディナーは50代〜60代の男女、ランチ、ディナーを問わず近隣のサラリーマン、OLが中心。週末、祝日はファミリー、学生カップル、合コンなどと非常に幅広い。
天王洲は、日本航空、JTB、ヨウジヤマモトなど国際派企業の本社、シティバンク、ナイキなど外資系企業の日本本部など、大企業のオフィスが意外に多くあり、就業人口3万人のランチ、ディナーの需要を満たしている側面もある。そういった場所柄、外国人の顧客も多い。
ビールはアメリカ西海岸・サンフランシスコのブルワリーをモデルに、アメリカンスタイルの上面発酵のエールを提供しており、ペールエール、濃い目のアンバーエール、小麦を使ったウイートエール(いずれも250ml、480円〜)の3種類がある。
食事はビールに合う、カリフォルニア料理を提供。「自家製ビールでマリネした大山地鶏のグリル」(2400円)はオープン以来の定番料理だ。「スパイシーNYチキンウイング」(1600円)、「シーザーサラダ」(1400円)、各種のピザ(1700〜1800円)も人気が高い。ディナーの顧客単価は5000円ほどだ。
自家製ビールでマリネした大山地鶏のグリル(2400円)
ランチは950〜1700円で、サンドイッチ、パスタ、本日のスペシャルなどがあり、おかずの量の多さ、パン食べ放題、アイスティー飲み放題とボリューム感があるところが支持され、2回転くらいする。
エールは外販をせず、店で飲めるのみであるが、本物のおいしさを追求していることと、店内だけで提供される差別化された条件、外資系企業が多い土地柄などがプラス面に働いて、地ビールブームが収束しても好調を保っている。
また、2年前に店の前の天王洲運河に浮かぶ水上ラウンジ「ウォーターライン」をオープン。約80席あり、「ティー・ワイ・ハーバー ブルワリー」で食事したあとに「ウォーターライン」で飲み直す人も多く相乗効果が出ているという。
アメリカンタイプのエールを店内で醸造
両店とも、冬はテラスにスクリーンを下して暖房を炊くので暖かく過ごせる。猛暑の夏の日中や雨天、強風の日以外は、水に近いテラスで快適に過ごせるのも、人気が高い1つの理由であろう。
・隅田川に行き交う観光船を眺めてゆったり過ごせるカフェ
東京の代表的な川である隅田川の展望が素晴らしいのは、浅草にある「カフェ・ムルソー」。
川に面したクラシックな洋館風の建物の2階、3階にある店内からは、対岸にあるアサヒビール本社の金色の雲のような「炎のオブジェ」や、吾妻橋、駒形橋への展望が開ける。隅田川を行き交う水上バス、屋形船、上空を飛ぶカモメの群れを眺めていると、自然と心が落ち着いてなごんでくる。席数は60席。
カフェ・ムルソー外観
カフェ・ムルソー2階席
カフェ・ムルソー3階席
前身は30年ほど前から当地にある、ごく一般的な路地裏のコーヒーショップで、隅田川に顔が向いたような構造ではなかった。しかし、せっかくの川に面したロケーションを生かせないかと考えて、10年前に現在のビルに建て替えた。
地下1階がケーキの製造即売所になっており、「カフェ・ムルソー」においてもできたての手づくりケーキが賞味できるのが売り。約20種類といろんな味が選べるのも楽しく、特に創業当時から出しているチーズケーキ、チョコレートケーキ(共に400円)には根強い人気がある。
また、ドリンクでは紅茶に力を入れており、5種類のオリジナルブレンド(各840円)をはじめ、20種類以上のポットサービスが楽しめる。
ケーキセット(1100円)は、その日のお勧めケーキ2種類とドリンク1種類(コーヒーまたは紅茶)がセットになったお得なメニューだ。
本日のケーキセット(1100円)
食事も、キッシュ、パスタ、グラタン、ハーブチキンのトマト煮など多彩なメニューがあり、ディナーにはキッシュのコース(2300円)などがある。ビールやワインといったアルコール類も取り扱っている。
顧客層は、平日は近くの会社に勤めるサラリーマンやOL、休日は観光客が中心。年齢層は幅広いが、20代後半から30代が比較的多い。
夏は隅田川花火大会の日は、毎年予約する常連客で一杯になる。また、春の桜のシーズンは店からは桜の花は直接見えないのだが、隅田公園の花見客で行列ができる。気候の良い春や秋は窓を開け放って川風を感じられる空間になるし、暑い夏、寒い冬はエアコンのきいた店内で川を眺めることができる。
つまり、四季折々の隅田川と近い距離感にあって、かつ快適な環境で親しめるのが、この店の良さなのである。
・高原リゾートの雰囲気が漂う石神井池に臨むイタリアン
親水空間といえば木々に囲まれた池のほとりにあるレストランには、高原リゾートっぽい雰囲気が漂う。
練馬区石神井公園の石神井池に臨むイタリアン「ロニオン」は、高級住宅街の中にポツンとある赤レンガ造りの一軒家レストランであり、さながら別荘地にある涼しげなレストランの風情がある。
ロニオン外観
ロニオン1階テラス
元々は裏手にある2棟のマンションまでが一連の土地だったが、ちょうど遊休地であったので、地元民でもあるオーナーが購入し、池に面した場所をレストランとし、奥にマンションを建てたとのこと。池の前の通り沿いにレストランがなかったので、地元の人に楽しんでもらおうとの趣旨であったという。開業したのは1996年。2階建てで、席数は70席。駐車場は6台となっている。
デザインはイタリアの教会がイメージされており、ステンドグラスにサンタクロース、壁画と2階のトイレの壁に天使の絵柄がそれぞれ入っている。
ロニオン吹き抜け
ロニオン店内
特に2階のテラスからは池と池端の桜並木が見渡せる景観が素晴らしく、花見のシーズンは予約で一杯になり、店に長い行列ができる最大の繁忙期となる。新緑や紅葉の頃もいいが、暑すぎる真夏と、寒すぎる真冬は店内で過ごす人が増え、テラスの稼働率は落ちる。
ロニオンの石神井池を展望できるテラス
料理は旬の素材を使ったイタリアンで、コマツナ、シュンギクのようなイタリアにはない日本の食材を使うこともあるが、味噌や醤油は使わない。味付けは子供からお年寄りまで幅広いニーズにこたえられるように、やさしいまろやかなタッチにしており、本場イタリアほどしょっぱくはないのだそうだ。
昼は自家製パスタのランチ(1900円)、平日限定自家製ピッツァ(1400円、10食のみ)などが人気で、顧客単価は2000円ほど。平日は主婦がほとんどで、休日はカップルや家族連れが主流となる。
自家製パスタのランチ
夜は8割がコース料理を注文するが、パスタ中心の3500円、パスタに魚料理または肉料理が加わった5500円、シェフお任せの7000円と3種類ある。
客単価は6000円で、場所柄もあって接待は少なく、平日は年配の個人利用が多い。週末は家族が増える。
「8割が地元のお客さんです。駅からも少し歩きますし、入りはその日の天候次第の面があります。散歩している人数に比例しますね」と、マネージャーの若井健之亮氏。
1階のテラスは犬を連れて入っても良い。庭の樹木に掛けてある巣箱には、シジュウガラ、スズメなどの野鳥が訪れる。23区内にあって、都会の喧騒を忘れるゆったりとした時間が流れる店だ。
・ニューヨークの海をほうふつさせる風景を眺めて和を食す
東京の海といえば、ゆりかもめから見える東京港の眺めはなかなかの迫力だが、お台場から見るレインボーブリッジや品川埠頭も、レストランの眺望とすれば一級品ではないだろうか。
「ダイナミックキッチン&バー 響 お台場店」は、お台場海浜公園に臨む「アクアシティ」最上階の6階にあり、和食ダイニングという業態で、海の展望が良いレストランとしてセレクトされる存在である。
響お台場店テラス席
響お台場店の店内
伝統的な港の食堂を除けば、海や川に面している親水レストランは、イタリアン、カフェといった洋の業態が主流になっているが、そうした中でおしゃれな空間で楽しめる和食は意外に少なく、貴重な店だ。経営はダイナック。
「夜景とともに料理を楽しまれる人が多いですね。予約も窓側の席やテラス席から埋まっていきますから、ニーズは多いです」と同店店長・川床聡氏。
東京と京都に計13店ある「響」は、お金に余裕がある30代後半から40代をターゲットにしているが、この「お台場店」の顧客に関しては、もう少し若い20代後半のカップルや、子供づれの家族の来店も多い。また、一般的に「響」の顧客は男性中心であるが、「お台場店」は男女が半々くらいという特徴がある。
チェーンの中でも特異な店で、平日限定ではあるが、お勧めメニューをコース仕立てにした、若いカップルを狙った「ペアコース」(1人3800円)を設けている。
席数は140席とかなりの大箱だが、土曜、日曜、祝日は月曜の2倍近くの集客があり、満席となってウェイティングも出るほどだ。顧客単価は約5000円。
ランチも1200円以上の料金と決して安くないが、平日は昼間から領収書を切っていくビジネスマンが多く、周囲にある企業が総じてかなり裕福であることが幸いしている。平日のランチで利用者が80〜90人いるという。
「響」に共通する名物料理は、「佐賀県唐津市 川島豆腐店 ざる豆腐」(1500円)と、「新潟県中魚沼郡津南町産 コシヒカリ石釜炊き」(2〜3名向け950円)。
「佐賀県唐津市 川島豆腐店 ざる豆腐」(1500円)
前者は国産大豆の甘みが濃い、本来の豆腐の味がするクリーミーさが特徴で、毎日できたてを佐賀の200年続く老舗より空輸している。後者は、名産・魚沼コシヒカリを注文を受けてから石釜で炊くもので、炊き上がるまでに40分ほどかかるが、遠赤外線効果で極上の味わいが楽しめる。
それとは別に「お台場店」では独自のお勧め料理も提供しており、若い人が多いことから、揚げ物や肉料理に力を入れているそうだ。
お酒は、和の業態だけに、ビールのほか、焼酎や日本酒の人気も高いが、積極的に売っているのは梅酒。これは、女性客の開拓をも狙ったものである。
ニューヨークかと一瞬錯覚するような自由の女神像が見える海を眺めて、焼酎や日本酒を飲みながら、旨い豆腐やご飯を食す。欧米ではインテリが好むと言われる「海外の日本食」の雰囲気を、東京にあって今、最も良く伝えてる店の1つが、この店なのかもしれない。
不安材料としてフジテレビが夏休み期間中開催してきた「冒険王」のイベントが5年目の今年で最終回になることが挙げられる。通常の1.5倍の集客が見込めただけに、来年以降の新しい企画を望む声が、台場地区の飲食店を含む各商店から上がっている。
・大阪・南堀江に全席が道頓堀川リバービューの新名所誕生
親水空間の価値に気づいたレストランオーナーが、個々に店を運営しているにとどまる東京に対して、大阪市の場合は「水の都大阪再生協議会」が市のプロジェクトとしてあり、河川の浄化と親水空間の整備を進めて、集客・観光につなげようと官民一体で具体的に動いている。その一環として、ミナミの繁華街を横断する道頓堀川に「とんぼりリバーウォーク」という水辺の遊歩道が2004年にオープンして、賑わいが生まれている。
そうした中、大阪のカフェやインテリアの情報発信地・南堀江は、南端が道頓堀川に面しており、対岸は難波の西側に位置する湊川地区である。
その南堀江の道頓堀川に新設された遊歩道沿いに、7月15日にオープンしたのが、「カフェガーブ」などで知られるバルニバービの新店「ムーラン」。
ムーランから見える川向こうは湊川リバープレイス
同日オープンした商業施設「キャナルテラス堀江」東棟の1階部分にあり、50メートルに及ぶガラスウォールに配された全席からリバービューが望めるという、文字通りの親水空間である。
「思わずスローステイしたくなる都会の中のスケールフルなレストラン」を目指している。
席数は120席あり、川に面して細長い店内は水の気配と風の流れを感じる南の島のリゾート気分を演出。中央部分で大きく2つに分かれており、インテリアのコンセプトも異なる。
手前側のテーマは“リゾートのダウンタウン”をイメージ。木枠で囲まれたバーカウンター、カラフルなチェアー、オープンキッチンなど賑やかで、活気あふれる空間づくりである。一方、奥は“リゾートの邸宅風ヴィラ”をイメージ。落ち着いたホワイト系の色合いの家具、床の石タイル、リビングスタイルのソファー席など、しっとりとした、涼しげな空間となっている。訪れるたびに異なる雰囲気を味わえるように工夫されている。
ガラス面に関しては、各空間ともに大きく開口があり、オープンテラスとして使用可能だ。
リゾートの邸宅風ヴィラをイメージしたシーン
リゾートのダウンタウンをイメージしたシーン
ワインは、20社以上のインポーターからフランス、イタリア、スペイン、チリ、オーストラリア、カリフォルニアなど世界各国のものを仕入れている。フルボトル3000円、キャラフェ(500ml)2000円、グラス650円の均一価格で、16種の赤・白ワインと2種のスパークリングワインを提供。リゾート気分を感じる、オリジナルカクテルも多数そろえている。
料理において特筆すべきは素材のこだわりで、甘みと柔らかさを併せ持つ群馬ポークやその日に獲れた漁港直送の鮮魚、アサリの大きさは自慢だ。太くてしっかりとした味を持つアスパラガスなど、「菜園野菜のヴァーニャカウダ」(1500円)はソースが無くても美味しく、野菜本来の旨みが味わえる。
顧客の年齢層は幅広く、20代前半より50代前半までの来店がある。
ランチタイムには男性客に支持される、ボリュームを重視した「ムーラン日替りランチ」(750円)など5種類のビジネスランチを提供。界隈のビジネスマン、OLに好評という。
ディナータイムはイタリアン・フレンチベースに少しリゾート感を加えたメニューをスタンバイ。気軽なタパス料理に、ピザ、パスタはもちろん、ビストロ料理の仔羊ロースト、牛ほほ肉の赤ワイン煮込みに加え、タヒチアンカレー、ムーランディナーハンバーガーなど、幅広いラインナップとなっている。
コーヒーもバリスタが高性能エスプレッソマシン「ダラコルテ」と、イタリアで業務用トップシェアーの「ラヴァッツァ」を使っていれる本格派だ。
「オープン後のムーランに関しては、既に1500名以上のパーティと一般予約を頂き、連日多くのお客様に来店いただいています」(バルニバービ・広報)とのことで、順調なスタートを切ったと言えよう。
なお、「キャナルテラス堀江」は住友倉庫の再開発物件で、もとはオペレーションファクトリーのアジアンダイニング&バー「ブルー」と、クリーン・ブラザーズの缶詰バー「kanso」という2つの繁盛店があった。今回の再開発にあたり、東棟の2階に、オペレーションファクトリーが「ブルー」を再オープン、クリーン・ブラザーズがアウトドア料理の「キャンプキャンプ」を新たにオープンさせている。
キャナルテラス堀江東棟・外観
西棟は同規模で隣に、やはり道頓堀川に面して今冬オープン予定。
川向いにある八角形の建物「湊川リバープレイス」と「キャナルテラス堀江」は今冬には歩道橋で結ばれる予定で工事が進んでおり、そうなればさらに賑わいが生まれるだろう。
「湊川リバープレイス」にはライブハウス「なんばHatch」などがあり、川沿いのウッドデッキはストリートミュージシャンや若手芸人がいつも歌やパフォーマンスを行っていて、活気のある場所である。すぐ裏は大阪シティエアターミナル、JR難波駅で、市営地下鉄なんば駅、近鉄難波駅も近い。来春には阪神なんば線が開業し、神戸方面からのアクセスも便利になる。
・野菜メニューを前面に打ち出した「体にいい海の家」登場
親水レストランと言えば、最近おしゃれ度が進み、飲食店化が顕著な海の家についても若干触れておきたい。
特に、最先端を走っているのは、関東の鵠沼、片瀬西浜、由比ヶ浜、逗子、森戸、一色など湘南一帯、関西の須磨、東海の三河大島といった場所で、従来にないフード、建築、サービスで、海岸リゾートが演出されている。音楽のライブを開催したり、新業態のテストマーケティングを行うようなケースも目立っている。そうした中で、2つのユニークな海の家をピックアップしてみた。
海水浴客330万人と日本最大の集客を誇る、藤沢市片瀬西浜にある「SOD海の家『農家の台所』」は、ソフト・オン・デマンドが国立ファームからメニューの提供を受けて運営している海の家で、「体にいい海の家」がコンセプト。
からだにいい海の家外観
農業改革を目指し全国の優良生産者にネットワークを広げる国立ファームが仕入れる、本物の野菜を食べられるのが魅力だ。今年が初の出店で、出店期間は7月10日〜8月31日。
両社は「マネーの虎」で知られる高橋がなり氏が、元社長と現社長という関係にある。AV大手のソフト・オン・デマンドでは以前から若者に対する宣伝の一環として海の家を運営したいという構想あったが、アダルトコンテンツを前面に出すのではなく、映画の制作や飲食プロデュースなども含めさまざまな事業を行っている企業イメージをアピールしたいと考えていた。
そうした中で、国立ファームのおいしい野菜が食べられるレストラン「農家の台所」、総菜店「やおやのそうざいや」の特徴ある野菜やメニュー開発力に着目し、タッグを組むことになったのだという。
店内は清潔感ある白で統一され、女性は個室で着替えられてシャワーにボディソープが完備する設備が充実している。そのため、家族連れ、地元の奥さん、まじめそうなカップルや女性グループなど、25歳以下が6割を占める片瀬にしては落ち着いた感じの顧客が主流で、リピーターも多いという。
白を基調にした清潔感ある店内
席数は84席あり、客数の多い日曜は平日の約1.5倍の450人ほどの利用者がいる。なお、海側に配された緑は、国立ファームが生産する野菜のトロ箱だ。
大日本プロレスの興業、アントニオ猪木氏や専属の人気女優を迎えてのイベントも行われ、好評を博している。
断然人気のメニューは「4倍山盛りキャベツの塩やきそば」(900円)で、ボリュームが支持されているもよう。「ふろふき大根ドッグ」(1本300円、2本500円)は、アメリカンドッグに入っているソーセージを、ガーリックバター味の大根に換えたような独特の味わいだが、ジューシーでスパイスのきいた大根が渇いた喉をも潤してくれる。
ふろふき大根ドッグ、4倍山盛りキャベツの塩やきそば、体にいいかき氷やジュース
また、かき氷では、オリジナルの無添加無着色のシロップを使用。レモン、メロン、イチゴといった定番のほか、ジンジャー、トマト(ともに500円)といった普段お目にかかれないメニューもあるが、これが意外と大人が楽しめる良い仕上がりになっており、新しいかき氷の方向性を感じる。
ジュースもからだにいいことをアピールした「紫外線で痛んだ肌細胞を再生する肌修復ジュース」(りんご、大葉、ほうれんそう)、「無添加・無着色 レモンスカッシュ」(共に400円)など、他店では飲めない独自性にあふれた提案だ。
国立ファームでは自然に葉からにじみ出したミネラル分が結晶となって、葉に塩を振ったような状態になる「ソルトリーフ」の需要などが伸びており、レストランの新店も都内にオープンする計画があるそうだ。生産から販売まで一貫した農業の新しいスタイルを目指す同社の動きには、今後も注目したい。
・料理研究家レシピを採用して新しい“ビーチメシ”を提案
日本のビーチではおしゃれ度の高さで一番と言われる、鎌倉市由比ヶ浜にある「Paradise-AO(パラダイス・アオ)」は、「マイルドセブン」が協賛。最高の居心地を追求した大人のためのニュースタイルな海の家で、壁がなく風が吹き抜ける構造が大きな特徴だ。
今年が2年目で、出店期間は7月1日〜8月31日。飯田橋の居酒屋「おばんざい 料理人のとっておき」、神保町の串揚げ「幹」などを経営するベストランが運営。
パラダイス・アオ外観
パラダイス・アオ店内
「青い風を感じよう。」をテーマにした、この印象的な建築のデザインは、「愛・地球博 トヨタグループパビリオン」、「東京大学柏キャンパス新棟」などを手掛けた建築家集団・みかんぐみ。席数は160席あり、エントランスを入って階段より上は、利用を成人に限定している。
階上のテーブル席に座ったときに、ちょうどビーチにいる人影が見えなくなって、海と空と海岸の緑といった景色のみが見える設計になっており、由比ヶ浜本来の景観をゆったりと眺めながら、時間を忘れてリゾートの感覚を味わうことができる。
青い風を感じる空間
メニューは、日本独特の業態である海の家の敷居の低さを踏襲しながらも、カレーライス、焼きそばなどのいかにも海の家的な食事を“ビーチメシ”として進化させた。“ビーチメシ”は料理研究家で日本のフードコーディネーターの草分けである尾身奈美枝氏のオリジナルのレシピで、従来の海の家とは一味違った内容になっている。
人気メニューは「スパムとシャキシャキ・キャベツの太陽ヤキソバ〜スイートチリソース付き〜」(1000円)と、「カリッカリッ・チキンと4種の夏野菜ゴージャス・カレー」(1200円)。ドリンクでは「オーシャン・アクア」、「パラダイス・アクア」(共に1000円)という2種類のオリジナルカクテルの評判が良い。音楽ライブなどイベントも週末に行っており、顧客数は日曜で700人弱と好調だ。
スパムとシャキシャキ・キャベツの太陽ヤキソバ〜スイートチリソース付き〜(1000円)
オリジナルカクテルのオーシャンアクア
顧客層は20代、30代が中心で、レストラン利用と更衣室利用の割合は2:1、男女比は半々という。夜は10時まで営業しているので、団体のパーティーが入ることがあり、地元住民のレストラン需要も多い。客単価は約3000円(入場料無料、ロッカー・シャワーを使用の場合1500円)となっている。
晴天に恵まれ、定着もしてきた今年は、前年より売上倍増の勢いにあり、海の家、そして親水レストランの新しいあり方を示したと言えるのではないだろうか。
以上見てきたように、親水レストランは水辺に近いゆえに天候によって影響されがちではあるが、体にやさしいこだわったメニュー、心地よい自然と一体になった空間を提供するには最高の環境にある。
潤いのある生活を求める都会人にとって、リゾート気分をもたらしてくれる親水レストランは、今後ますます重要性を増してくると思われる。