フードリンクレポート


ビールとカフェオレでの乾杯が許される場所。
それが、今のカフェスタイル。

2008.8.22
「お酒を飲まない若者が増えた」そんな話を聞くようになったのは、いつの頃からだろうか。とはいえ、下戸が増えたわけでもなさそうだ。「適量」しか飲まなくなった若者は、どこでお酒を楽しんでいるのか。答えは、居酒屋ではなく「カフェ」だった。


アルコールとソフトドリンクが共存できる業態、それがカフェ。

カフェブームから10年

 カフェ=喫茶の場。

 そんなスタイルが崩れたのは、「カフェめし」という言葉がキーワードになった、東京のカフェブーム最盛期の1999年頃だろう。女性誌はこぞってカフェ特集を組み、おしゃれな人は皆カフェで食事をする。そんな時代だった。

 カフェブームが落ち着くと同時に、カフェはそのスタイルもそれぞれへと変化していく。若者のアルコール離れとともに、居酒屋離れが進み、お酒を飲む人と飲まない人が共存できるカフェに移行する人々が増えているように思われる。


ここでしか飲めないものを。コーヒーにも酒にもこだわりをみせる

 2001年3月、青山・骨董通りの2階にオープンした「七面鳥カフェ」。大きなソファー席が3つも用意された、全23席の狭くも広くもない心地よい空間。


「七面鳥カフェ」店内

「昼間からビール1杯でも、コーヒーでも、それぞれが心地よい時間を過ごしてもらいたい」そんな想いで、オーナーの相馬靖広さんがオープンさせた店だ。


オーナー相馬靖広さん

 オーナー自身、「日に5杯以上は飲む」というほどのコーヒー好き。だから、カフェらしくコーヒーにもこだわる。豆はドイツ製の日本に3台ほどしかないミルで引き、手落としで入れる。コーヒーの注文が入ると店内にいい香りが。


ソファー席が充実する、店内


こだわりのミル

 こだわるのは、コーヒーだけではない。店のスペースから考えても、そう多くは置けないと言いながらも、ビール、ワイン、ラムなどの洋酒や泡盛までそろえる。合わせるつまみは、オリジナルのメニュー。酒のラインナップを見て、お客さんから「ハーパーないの?」と聞かれることも多いと言う。ハーパーはご存知の方も多いと思うが、バーボンの中でもメジャーな銘柄。

 決して悪い酒ではない、と前置きをしながらも「ハーパーは、言ってしまえばどこでも飲めてしまう酒。居酒屋でも、バーでも、それこそカラオケボックスでも。メジャーであるからこそ、置いてしまうことは簡単。だけど、そうはしたくない。」だから、あえて、ハーパーの姉妹ブランドではあるオールドチャーターを置き、そう説明してお勧めしている。「こういうコミュニケーションは大事だと思うし、七面鳥カフェで新しいものと出会えた、そう思ってもらえると嬉しい」と、相馬さんは語る。


こだわりの酒と壁一面のレコード

 そんなオーナーの思いが伝わるのか、利用者の比較的年齢層が高い七面鳥カフェでも、店内を流れる70年代の音楽と、酒をゆっくりと楽しむ若者が増えているという。ただただ、盛り上がるためだけに飲むのではない酒の魅力をこの店は伝えている。


元料亭の板前が腕を奮う、和食中心の「めしカフェ」

 チェーン店がひしめく渋谷の街に2002年にオープンし今年6周年を迎える「cafe amber(カフェ アンバー)」。


「カフェアンバー」看板


賑わう渋谷の雑居ビルの6・7階にある

 オーナーの伊藤ミナ子さんは、両親が銀座の料亭「銀座 朝川」を経営されており(現在は、ミナ子さんが社長を務める)、和食を知り尽くす女性。また、ご自身が20歳を過ぎて酒を飲むようになってから、自分の友人をはじめ同世代があまり酒を飲まないことを感じていた。


オーナー 伊藤ミナ子さん

「どうしても、美食の場はお酒を楽しめる、大人の空間のイメージが強い。でも、若い人こそ本物を味わって欲しい。また、自分の友人を見ていてもお酒を飲む人も飲まない人も楽しめる場が必要だと思ったんですね。若い人も気軽に使えて、飲む人飲まない人がどちらも気兼ねせず楽しめる場所、と考えてでた答えが“カフェ”だったんです」


かわいらしさを感じる6階店内

 本物、と言い切るだけあって、かわいらしいカフェの厨房でありながら50歳代の板前が料理長を、他の調理スタッフも他店では料理長クラスだという。メニューは本格的な出汁巻き卵から、刺身、丼ものまでそろう。数も豊富で迷うほど。


人気の「出汁巻玉子」


「イベリコ豚肩ロースのたたき」など珍しいメニューも

 6・7階の2フロアで営業しており、7階は18時からとまさに酒を楽しむ場となっている。通し営業をしている6階は女性が8割だが、7階は6割が男性と言うから驚きだ。「男性グループの方にもよく利用していただいています。結構飲まれます。また、お酒を飲まない女性と一緒に来るのにも、抵抗なく誘えると好評をいただいています」


シックな7階店内

 なぜ、居酒屋でなくカフェアンバーを選ぶのでしょう?

「カフェ、という居心地の良さではないでしょうか。ただ、お酒があればいいというわけではない。お客さまも、ご自身で居心地のよい場所を選ぶ、そんな時代になってきているからではないかと感じています。」

 大盛り上がりで飲む場が居酒屋、話をしたいときに選ぶのがカフェ。そんなすみわけがされているのだろうか。


カフェに無限の可能性を感じ、バーからカフェへ転向

 副都心線開通で賑わう、新宿3丁目。そこで、カフェの可能性を感じて、バーからカフェへ転向し賑わう店がある。それが「Lovers Rock Cafe Second(ラバーズロックカフェ セカンド)」だ。


バーの雰囲気が残る「ラバーズロックカフェセカンド」店内


スタッフが笑顔でむかえてくれる

 元々はZIONというバーとして10年前にスタートした店だが、5年ほど前からカフェへと営業形態を変えた。カフェブーム最盛期の頃から、ご自身もカフェという場所が好きで色々な店を巡っていたという、オーナーの今井勝美さん。ZIONの形態変更より少し前に、伊勢丹や丸井のある新宿3丁目で、カフェのニーズがあると考え「Lovers Rock Cafe」を、スターバックスコーヒーの2階という通常なら敬遠してしまいそうな場所でスタートさせた。当初は周りでは「厳しいのでは」という声が多かったのだそう。


オーナー今井勝美さん

 買い物客などの需要もあったが、リピーターとなったのは伊勢丹や丸井などのショップ店員。17時までランチタイムとしていた同店は、決まった時間にランチがとれない人々の憩いの場になったのだった。その頃から、若者のハードリカーをはじめとする“酒離れ”を感じており、売り上げもカフェが上回る日も少なくなくなり、形態変更を決めた。


ビールも豊富


お酒に合うメニューも

「お茶を楽しむだけでもいい。全く飲めない人と沢山飲みたい人が、同じテーブルで同じ時間を過ごすことができる。最後には、それぞれが、それぞれの希望を満たして帰ってもらえる。カフェは、そういう柔軟性と無限の可能性がある場所だと思っています。」


デザートもしっかり楽しめる

 ディナー時は、おしゃべりとお酒、食事、デザートとフルコースで楽しむ女性同士のお客さんが多いと言う。女性同士、2人で居酒屋はちょっと入りにくい。沢山飲みたいわけではないけど、乾杯ぐらいはお酒を楽しみたい。おしゃべりが盛り上がってきたら、場所を動きたくはないけど甘いものも食べたい。そんな、女性のわがままも叶えてしまうのが、カフェなのだ。


上海でも定着するか、日本のカフェスタイル

 お酒も食事もお茶も全力で取り組む、日本のカフェスタイル。今年6月にオープンした和カフェ「六花(りっか)」もそんな日本のカフェスタイルで、世界でも注目の高い都市・上海で評判になっている。古い集合住宅を改築したアートスポット「田子坊」にあり、京都の100年以上の歴史のある京都の老舗から良質なお茶を空輸し、桜餅やどら焼きなど本格的な和菓子が楽しめる。


「六花」のある田子坊


レンガ造りの「六花」外観

 お話を聞いたのは、共同経営のオーナーの一人・辰野元信さん。


オーナーの辰野元信さん


多くの観光客で賑わう

「六花は、日本文化の発信拠点にしたいという思いでオープンしました。客層のメインは、観光客です。お茶と和菓子を楽しんでもらえれば、と思っています」と喫茶の部分を今は強く打ち出している。


日本でも人気がでそうな、充実のスイーツ


抹茶ラテ

 しかし、実際には、うなぎチーズロールやサーモンマンゴーロールなど日本人以外にも受け入れられやすそうな和食や、ワイン、ビールのみならず日本酒や焼酎なども揃えている。

「喫茶だけにこだわらず、いろんな用途で使ってもらえればと思っています。オープンして3ヶ月、まだまだ改善の余地はあります。将来的には、六花で和食が食べたいと上海に駐在している日本人の方に選んでいただけるような、より本格的なものを提供していきたいですし、さらに今後は、食事6〜7品+飲み放題のようなセットメニューを作り、お酒を楽しむ場としてもこれから店を盛り上げることを考えています。」

 日本のカフェスタイルが、上海でも広まる日は近いのではないだろうか。


キーワードは「居心地」と「自由」

 以上、見てきたように、お酒の種類も充実し、料理も割烹の板前が作るなど、ある意味では居酒屋を超えている。従来のカフェの概念を超えたカフェが登場しているわけだ。

「お酒を飲まない女性と一緒に来るのにも、抵抗なく誘える」、「女性同士、2人で居酒屋はちょっと入りにくい。沢山飲みたいわけではないけど、乾杯ぐらいはお酒を楽しみたい。おしゃべりが盛り上がってきたら、場所を動きたくはないけど甘いものも食べたい」など、お酒を飲みたい人と飲まない人が、同じテーブルで同じ時間を過ごすことができる。

 カフェが選ばれる理由。それは、お酒を飲む人が減った、量を飲まないことだけが理由ではなく、オーナがー作り上げるカフェ特有の「居心地のよさ」であったり、冷たいビールと温かいカフェオレで乾杯することが違和感のない自分の使いたいスタイルで楽しめる、その「自由さ」かもしれない。


【取材・執筆】 鈴木 明日香(すずき あすか) 2008年8月19日執筆