・経営者セミナーを毎月開催中
一瀬氏は無料経営者セミナーを2008年3月からスタートさせた。月に1度開催し、8/21で6回目を迎える。ペッパーフードを例にとり、売上を上げたい、上場したい、従業員を定着させたいなど経営に悩みを持つ方々に向かって、創業者の一瀬氏が語りかける。もちろん、これは自社のFC開発の手段でもある。
「他のFC本部を見ていると、有力な本部はFC募集をしていません。FC募集を表に出すと、自らが良くない本部です、と言っているような気がして経営者セミナーという内容で始めました。月1度の経営者セミナーでは、外食産業に興味のある人に来てもらい、ペッパーランチをどうやって思いつき、立ち上げ、企業にして、上場したのかを話しています。1年間は続けます。初回の参加者は20人でしたが口コミで徐々に増え、今は30人以上になりました」と一瀬氏。実際に加盟する方も、毎回1人くらいは現れるそうだ。
「今、厳しいです。2008年度上半期(1〜6月)にあえて厳しくしました。大嫌いな言葉ですが、膿を出しました。08年度通期も赤字の見込みで、2期連続赤字になりますが、会社はかつてない程、元気です」
「管理本部に優秀な人材が来てくれ、決算や4半期ごとの開示がきっちり出来るようになりました。上場直後は混乱していましたが、正に上場企業にふさわしい管理体制ができました」と言う。以前は一瀬氏が兼務していた営業本部長も、日本マクドナルドで本部長を務めていた河上成美氏が本年4月に就任し、営業本部が強化された。
フードコート型の「ペッパーランチ」
・上場時に、兜の緒を締めなきゃいけなかった
赤字の原因は、上場とともに増えた不採算店。同社がマザーズに上場したのが2006年9月。上場後の初決算である2007年12月期に3億8千万円の赤字を出してしまった。
「上場時に何店出すと目標を出し、それに到達するために頑張りました。すると、精査しないで出店してしまう。加盟店さんの代わりに物件を探す時、良い物件は早く押さえなければいけない。加盟店さんに相談する間に他社に獲られてしまうので、独自判断で直ぐに確保。後でシュミレーションすると売上がいかない。そんな店は加盟店さんに任せられず本部で運営することになり、直営が増えていきました。それらの店は実際にも不採算になりました」
「また、上場後に組んではいけない加盟店さんとも組みました。買い取ってくれと加盟店さんから言われ、本部が買い取った物件はみんなダメです。賑わっている、不特定多数の人が集まる、その延長線上にある店は家賃が高いが繁盛する。そうではないところは、人は店前を移動するだけです。中に入ってはくれません。いい立地に店を作ってオーナーに温かみがあって、お客様とのコミュニケーションがいいと繁盛する」
「上場してお金はある。そこで、ぐっと勝って兜の緒を締めなきゃいけなかった。出店数を押さえて、既存店を見直して、1店1店の利益をどう出すかという考え方に転換しなければいけなかった。しかし、今までの延長線上でやっちゃった。そして、2007年5月の心斎橋店の不祥事が起きました」
ペッパーライス 680円、大盛820円(税込)
・追い詰められた時、社長がどんな行動をするのか、皆見ている
心斎橋店で不祥事を起こした人間とは雇用関係がないが、「ペッパーランチ」の看板を守るため一瀬氏は責任を被った。
「看板がついてる店なので、僕の責任は絶対あるというスタンスを貫きました。リスク管理会社を雇わずに、自社で誠実に対応しました。記事になった当日、会社の電話鳴りっぱなし。記者会見を即日の夜に開いて、なるだけ大勢のマスコミを集めるよう指示しました」
「実際にテレビカメラだけでも7〜8台来ました。僕が犯罪者みたいでした。記者会見は2時間半にも及びました。記者からの質問が全て終わるまで答え続けました。1時間程度で秘書に来させて逃げるように終わらせたくなかった。何も手を打ちませんでしたが、素直に謝罪し真摯に対応しました。記事では事実と異なる内容は全くありませんでした。全て記者会見で話しましたから。最後には記者の方々と名刺交換までしました」
「既に広告枠を買っていたラジオCMがパーになり、ファミリーマートと提携し弁当を発売する話も無くなりました。しかし、被害者の方への慰謝料は全額本部で支払いました。そこまでやるの、と言われるくらいキチッと対応することが、後のイメージを良くすると思います」
「誠実な対応をしました。加盟店でもお客様が減らなかった。お客様は冷静に見ていました。休業もしませんでした。店を休むと売上が減り、人件費や家賃の補償などで会社がガタガタになってしまいます」
「あんな事があって会社が良くなりました。追い詰められた時に、社長がどんな行動をするのかを皆が見ていました。人事を尽くして天命を待つ、という言葉がぴったりです」
これを教訓に、コンプライアンスについて、加盟店アルバイトも含めて勉強会を開いたり、内部告発しやすい環境を築いた。
・オーナーを刺激するオーナー会をスタート
「良い加盟店は、本部から買い取ったノウハウを最大限活用して従業員を大事にします。だから従業員が定着し、次の出店を考えることができます。しかし、良くない加盟店は、このノウハウさえあれば繁盛できると勘違いして従業員に任せっぱなし。コミュニケーションが取れず、従業員は辞めていってしまう。辞めるとまた募集。しかし、募集した人を本部に研修に出さない。さらにレベルが落ち、ギブアップしてしまいます」
「本部にも、同じように良い本部と良くない本部があります。僕らは誠実な本部です。FC本部の一番重要なことは安心安全な食材を遅延なく納品すること。空気みたいに当たり前で感じなくなる存在です。しかし、外国の工場まで行って検査もしていますし、物流体制でもマクドナルドの物流を担っている安心できる企業に、コスト増になりましたが、変更しました。見えないところでコツコツ努力しています」
加盟店の不信感は、意見を担当スーパーバイザーがくみ取ってくれず、社長に上げてくれないこと。本部と加盟店の風通しを良くするため、オーナー会を始めた。
「良きオーナーの影響を売上があがらないオーナーが受け刺激されます。同じ看板を掲げてる者同士、良きオーナーから言われたことは気が引き締まります。本部から言われるよりも」
さらに、加盟店からの要望で、商品開発や販売促進も本部の直営店で実験した結果を基に、加盟店に落とし込むようになった。
鰻ペッパーライス 830円(税込)
「夏のキャンペーンメニュー『鰻ペッパーライス』。2007年に直営で出店したオーストラリア店で元々販売していた商品です。出数が全体の2割を超えるくらい売れていて、実際に日本人が食べても美味しい。日本でも導入することを決め、730円と830円の2つの価格で販売テストしてみました。すると、高い830円の方が売れたんです。そして、830円の価格に決めました。鰻だから高い方がいいという心理があるんでしょうか。実験していると、加盟店から何故と聞かれてもデータで応えられるんです」
直営は加盟店の実験場になることで、加盟店の信頼が得られる。
・ステーキ、とんかつもFC化し、500店に
ペッパーフードサービスのルーツである1970年に開店した「キッチンくに」の店名を引き継ぐ「炭焼きステーキくに」は、現在直営で9店。今年10月、埼玉県越谷市に開業するイオン・レークタウン内にFC1号店が誕生する。
「炭焼きステーキくに」武蔵村山店
くに特製100%ビーフハンバーグ 200g/980円(税込1029円)、 300g/1440円(税込1512円)、400g/1920円(税込2016円)
特選サーロイン 1g10円(税込10.5円)
「こだわりとんかつ かつき亭」は1997年に生まれ、現在直営2店。今年9月に東京・三宿に直営3店目が誕生する。大阪・なんばパークスで「かつ邦」の店名でFC1店がある。
「こだわりとんかつ かつき亭」吾妻橋店
特選ロースカツ 120g/930円(税込976円)、150g/1100円(税込1155円)
ジャンボ海老フライ 一本1,500円(税込1,575円)、二本2,800円(税込2,940円)
「ペッパーランチ」に加え、「炭焼きステーキくに」「こだわりとんかつ かつき亭」での出店を進め、7月末現在の直営・FC計227店を、3年で500店に増やす構想を進めている。
海外は順調で「ペッパーランチ」を7月末現在、シンガポール18店、インドネシア4店、台湾3店、香港2店、タイ2店、韓国2店、オーストラリア1店、フィリピン1店の計33店。2005年にサントリーがシンガポールでのエリアフランチャイジーになって以来、フードコートを中心にめきめきと店舗数が増えている。海外展開はFCに頼り、広く薄く出店する方針だ。ちなみに、オーストラリアのみ直営。
シンガポールの店舗
インドネシアの店舗
タイの店舗
韓国の店舗
直営のオーストラリア店
「今は大きな踊り場です。マクドナルドや日興証券から来てくれた方々がきちっと内部を固めています。営業本部や管理本部、社長室も作りました。ようやく組織ができ始めたんです」
既存の加盟店を中心に新業態の加盟を募っていくという。ペッパーフードサービスは、株式上場の浮つきや不祥事を乗り越え、新たな創業期を迎えている。