フードリンクレポート


ガールズ居酒屋「はなこ」は接客と料理が本気。
健全業態として100店を目指す。
横山 淳司氏
株式会社セクションエイト 代表取締役

2009.8.5
女性のセクシーなコスチュームで人気の居酒屋「はなこ」。接客と北海道料理をも柱とし、居酒屋としての完成度も高い。居抜き物件を使って急成長し、7/27の大阪出店を含めて10店を展開。スタッフが自信を持って働けるブランドに育て、100店体制を目指す。社長の横山淳司氏に聞いた。


JR神田駅前のオフィスにて、横山淳司氏。

居酒屋とキャバクラを合体させて誕生

 横山氏がこの業態を生み出した発想の源は、父親が札幌ススキノでナイト業態を展開し、その会社で、いわゆる“黒服”として働いたことに因る。北海道景気の衰退により、ナイト業態が厳しくなり、新業態が求められていた。

「女の子を扱う商売をやってきました。景気が悪くなり、札幌でもバーとキャバクラが合体したガールズバーも登場しました。そこで、居酒屋とキャバクラを足したもの、今の『はなこ』の原型となる『パッチワーク』という店を2004年に開店。居抜きの居酒屋を使って、女の子に席に付いて接客させました。1テーブルに女の子が1人付いて、客単価4〜5千円の店。女の子の時給も1千2百〜3百円と高くなく雇えるので安くできたんです」と横山氏。

 しかし、この「パッチワーク」の売上は期待した程ではなく、修正を加えて「はなこ」を完成させた。

「横に付くという前提でしたが、1時間いるとしても1時間びっちり付く訳ではなかった。店が忙しくなれば着かなくなる。お客様の認識の中では女の子が付く居酒屋。期待をもったお客さんが、何だ付かないじゃんと、離れていきました。」


「はなこ」の女性スタッフ。


気軽に見て、ちょこっと話すのが居心地がいい

「女の子が横には座らない今のスタイルを考え出しました。座らない方が当たったんです。客単価は変わらないんですが。キャバクラ慣れしていない方々には、女の子と話すより、見ている方が気楽。料理をもってきた時にちょこっとしゃべって、隣の席を片づけている時にチラッと見る。お客さんはその方が居心地がよい。見たい時に見て、しゃべりたい時にしゃべって、変な気を遣わなくていい。」

システムを変え、店名を「はなこ」に変えると、食事もできて、料金も高くない業態としてススキノで話題に。そして、東京に進出する。

 東京1号店は、歌舞伎町のイタリアンの居抜き。看板を変える程度の改装で、2006年4月にオープン。40坪で50席。17〜24時の営業で月商800万円。営業時間の短さを考慮すると、爆発的な数字ではないが、かなりの月・坪売上となっている。現在、最も売上が良いのは上野店。30坪で900〜1000万円。

「風営法にはひっかからない、普通の飲食業です。朝まで営業も可能ですが、今は24時で終わり。夜中の集客は難しいし、客層もよくないし、人材を集めるのも苦労するし、売上も上がらない」と、深夜営業は控えている。


コストを掛けない、究極の居抜き

「はなこ」は現在、札幌ススキノ、新宿店、五反田店、神田店、渋谷店、上野店、池袋西口店、新橋店、赤坂見附店の9店。経営するセクションエイトの年商は10億円に上る。

 全店、居酒屋などの居抜き物件。しかも、内装はほぼそのまま使用する究極の居抜き。2/2にオープンした新橋店は、築浅い居酒屋の居抜き。家賃は造作を含めてリースに組み換え、改装費用は看板代の約100万円で済んだという。




赤坂見附店




神田店




池袋西口店

 景気低迷の続く状況下では出店しやすい業態であるが、女性を使うということで風俗的に見られ、大家側から断られるケースが多い。通常は女性の写真を入れた外看板を使っているが、新橋店はホテルサンルートの2階にあるため出店の条件で、外看板から女性の写真を削除し、北海道居酒屋の看板を掲げている。

「知名度が上がって、ウチへの偏見が減ってきました。ビルの看板は控えめにする条件で貸してもらうことが増えています。2008年10月オープンの池袋店から始まり、外は控えめな看板にしています。控えめでも客数はぶれません。たまに間違ってカップルが入口まで来て帰っていきます。99%が男性客。会社の宴会でまれに女性客も来ますが、喜んでくれます。」


新橋店のおとなしい看板。


女性スタッフが前面に出た看板(渋谷店)。


本気の接客と、北海道料理

 客層は、30〜40代が6割。20代は1割程度、50代が3割。通常の居酒屋に比べて年齢層が高め。客単価は4000〜4500円とアッパー居酒屋の料金。年齢層が高いので、わざわざ安くする必要はない。

 店内で気付くのは、スタッフの多さ。フロアの女の子も厨房の男性も数が多い。人件費率は32〜33%とやや高め。FL値で65%くらいかかっているが、居抜きにほとんど手を加えないので初期費用が低く、回収は早い。

 フロアを担当するのはセクシーな衣装の女性。客席を歩き回り、注文・提供・バッシングを行っているが、接客の丁寧さに驚かされる。最近、「はなこ」を真似た店も出始めているが、大きな相違は接客。腰を落としてお客に話しかけ、言葉使いも丁寧で、提供される料理の説明も怠らない。

 女の子の採用は、通常の求人媒体と既存スタッフからの紹介。時給1300円でスタートし、上限の1700円まで4段階に区分される。飛びぬけて高いわけではない。求人媒体ではコスチューム写真も掲載し、納得して働きたいという女の子が多いという。

 教育自体は店長が責任をもって行う。マニュアルはない。オペレーションより、挨拶やちゃんと声を出すという基本を教える。まずは、1人の模範者を作ることがミソで、周りは自然にそれに従うという。

 店長は、外食経験者もいれば未経験者もいる。9店の内2店は女性店長。アルバイトから始め、現在20歳、22歳と非常に若い。店長を指導するマネージャーは、2店に1人と濃い目の布陣。そのマネージャーにも女性が1人いる。

 メニュー開発は、大手外食企業で働いていた専門社員がいる。冷凍食品は使わず、店内調理に拘っている。北海道定番の海鮮の刺身や炙り焼き(480〜1980円)の他、「北海トロサーモンカツ」780円、「ラーメンサラダ」780円など人気メニューも取り入れる。120分の飲み放題宴会メニューは5800〜7800円(クーポンで1000円引き)。但し、別途サービス料10%がかかる。

「接客もしっかりやろう。料理もしっかり作ろう。接客と料理の2本の柱です。そこに女の子の要素が加わる。価格は難しいけど、普通の居酒屋に接客と料理で負けなければ、男性客をターゲットとするお店には絶対負けない。女の子ばかりになると、可愛い子だけ集めりゃいいんだ、接客も教えない、料理もたいして手を掛けなくてよいとなる。ウチを真似た店はそこが原因で潰れています。」

「仕事を楽しくやっていこう、がモットー。お客さんに喜ばれれは、モチベーションアップになります。皆、イキイキ仕事をしている。それが一番大切。」


2014年、「はなこ」100店

 10店目が大阪・キタのお初天神に、7/27オープンする。初の関西進出。和食居酒屋の居抜きで50坪で100席。大阪のお客の要望があり、女の子の人件費も安いと出店を決めた。

「今後は名古屋、福岡は出たい。2011年に30店、2012年に50店、2014年に100店を目指します。上場は考えていません。今、僕が100%オーナーで、外の資本をいれたくない。」

 多店舗展開の問題は、参入障壁が低いことと、ガールズ居酒屋の市場規模。

 今のところ、「はなこ」のように居酒屋としてきちんと運営されている競合はない。しかし、居酒屋企業が自社の不振店に女の子を入れれば、似たものは可能。それを防ぐためは、早急に店舗数を増やして不動の知名度に到達させること。

 市場規模を考えると、客層はキャバクラを敬遠するシャイなサラリーマンたち。世の中に数多い層。彼らに大義名分を与えて、大手を振って行ける「はなこ」にすることができれば、100店は可能だろう。

「リピーターは全体の5割。1日で、新宿店行って、渋谷店行って、と各店を回ってくれるお客様が増えています。メニューは同じでも働くスタッフが違う。女の子個人を追いかけるというより、いろんな女の子を見てみたいようです。トラブルもほぼありません。客層が良いので、たまに酔っ払って触る人はいるが、悪質なのはありません。紳士な方々ばかりです。」

「居抜きなので、店内は店により様々。女の子が見えづらい店もあります。どっかで1回 スケルトンで理想的な『はなこ』作ってみたい」と、100店に向けて業態に磨きをかけようとしている。

「若い女の子がしっかり仕事ができる環境を作りたい。今働いている子が卒業して、ウチの名前を履歴書にしっかり書けるように、自信を持って自分の店のことを言えるようなブランドにしたい。あそこで働いていたら基本的なサービス能力があると言われたい。それが健全な形です。接客に特化したい。」

「はなこ」は、ウェイトレスのセクシーなコスチュームで人気の米国パブ「フーターズ」の日本版と言える。「フーターズ」は、全米で400店以上を展開。「はなこ」も可能性がある。世の中に認められた健全な店であることをアピールするために、モデルとなる店が必要だ。東京・丸の内にできれば、時代が変わるだろう。


「HOOTERS(フーターズ)」のメニュー。


■横山 淳司(よこやま じゅんじ)
株式会社セクションエイト 代表取締役。1983年生まれ。北海道出身。家業のナイト業態を手伝う。2004年、セクションエイトを設立し、札幌で「はなこ」の原型を創業。2006年から東京で「はなこ」の積極出店。2009年7月、大阪に初出店。好きな数字「8」を社名に刻んでいる。

株式会社セクションエイト
「はなこ」

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年7月17日取材