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フードリンクレポート


外食の現場で進む、“卵”由来の食中毒を回避する新手法

2008.7.31
3月19日付で掲載したフードリンクレポート「外食産業はサルモネラ食中毒を防ぐ、卵の殺菌を徹底せよ。」では、食中毒の主流がサルモネラ菌によるものであり、しかも発生場所は施設別で「飲食店」が最も多く、原因は「卵類及びその加工品」が増加していることを指摘。汚染した殻の混入による“ON EGG型”よりも、あらかじめ中味が汚染されている“IN EGG型”のリスクの高さに関心が集まった。そこで、今回は続編として、殻付き卵のリスクを回避する、「殺菌卵」を実際に活用する動きが、外食企業の中で広がりつつある現状を報告する。


サルモネラ食中毒は、“IN EGG型”でリスクが高い

食の安全、安心に対する消費者の意識はかつてないほど高い

 外食産業が恒常的に抱えている大きなリスクに、「食中毒」がある。

 今日のように顧客の選択眼が厳しくなり、かつガソリンや食品の価格高騰で財布の紐がかたくなっている状況では、いくら良いものを良いサービスで提供していても、世間を騒がすような食中毒が起こった場合、業績に直ちに響きかねない。そうした中で、以前フードリンクレポート:「外食産業はサルモネラ食中毒を防ぐ、卵の殺菌を徹底せよ。」では、食中毒の近年の主流は統計的にサルモネラ菌であり、施設別で最多の発生場所は「飲食店」で発生が見られると指摘した。

 そしてさらに取材を進めていく中で、注意すべきは、①サルモネラ菌に汚染された殻が混入する、②卵の長時間放置、③手洗い不履行や不衛生な食器を使用すること、によってサルモネラ菌が増殖するといった“ON EGG型”への対策は、飲食各店でほぼ徹底されているものの、あらかじめ卵の中味が汚染されている“IN EGG型”への対策が盲点になっているということが判明した。

 言い換えれば、外部からのサルモネラ汚染防止への対策は万全に近くても、内部の先天的なサルモネラ汚染に対しては、まだ十分に認識されていない。

 それはどういうことなのか、再度点検してみよう。


 サルモネラ菌


気づかない危険“IN EGG型”サルモネラ中毒

 卵には2000個〜3000個に1個の割合で、産み落とされた直後から内部が汚染された卵が存在する。これが“IN EGG型”のサルモネラ汚染である。

 サルモネラ菌は高熱に弱く、70℃で1分加熱すれば死滅してしまう為、加熱調理をすれば怖くないはずだが、ここに意外な落とし穴がある。たとえば冷蔵庫で冷やした殻付き卵を4分程度温めてゆで卵にした場合、黄身の奥までは十分に加熱されていない可能性がある。

 また、オムレツなどを半熟状態で提供した場合に、やはり半熟部分の加熱が不十分な場合が起こり得るのだ。

 これらは、皆が知らないうちに“IN EGG型”サルモネラ汚染の危険が、飲食店の現場で起こっているとは言えないだろうか。

 つまり、アルバイトを含めての衛生管理において万全を期しているにもかかわらず、通常の業務を行っていて起こってしまうのが、“IN EGG型”サルモネラ中毒の怖さなのである。




欧米で一般的な“IN EGG型”サルモネラ中毒の回避方法

 このリスクの回避方法として、あらかじめ卵を割って加熱殺菌した、「殺菌卵」という加工卵を使うのが、安全、安心を確保するには有効だが、殺菌卵は、まだ日本ではなじみがない。

 衛生観念の進んだ欧米では一般的な商品であり、アメリカのスーパーでは「凍結液卵」として冷凍食品コーナーで山積みにされていたり、牛乳パックのような容器に入ってチルドコーナーで並んでいたりと、消費者が普通に購入する商品である。

 日本でも、ホテル、給食、病院、外食大手チェーンでは殺菌卵の使用が、普及してきている。安全、安心を考慮して、商業施設では殻付き卵の使用を認めず、殺菌卵を使うように取り決めをしているところもあるほどだ。

 しかし、街場の飲食店では、まだまだ対策が不十分であり、IN EGG型”サルモネラ中毒の怖さの認識が低い。

 そこで、この課題に対してどのような取り組みがなされているのか、新しい外食を牽引する、株式会社ダイヤモンドダイニング、株式会社ゼットンの、両企業に話を聞いてみた。


外食を牽引する企業では、殺菌卵を使うトライアルが始まっている

 新店ラッシュで好調のダイヤモンドダイニングでは、銀座にある「竹取百物語」と、五反田にある「DON CONA CONERY (ドン・コナ・コネリー)」では、殻付き卵を排除し、殺菌卵のみを使用したメニューを試験的に提供しはじめている。


「DON CONA CONERY (ドン・コナ・コネリー)」 店内


カルボナーラ


4種チーズと生ハムのクリームソース ストラッチ

「竹取百物語」は銀座界隈のサラリーマン、OLの 30代をコアに20代から60代まで幅広い年齢層を集客している。顧客単価は4000円で、180席を擁するかなりの大箱である。

 卵料理のメインとなるのは「出汁巻き卵」で、出数は10%弱ある人気商品の1つ。その他、人気の卵メニューでも「凍結全卵」をはじめとした、殻付卵から殺菌卵に切り替えるという試みを行っているようだ。


「竹取百物語」 店内


出汁巻き


さつま揚げ

「殺菌卵の使用に不安は感じていましたが、使用してみると味の面ではもちろん、殻付き卵同様に調理ができ、かつ簡単に使える事が良かったですね。デザートにも使ってみましたが、こちらもバリエーションが多く良好です。何しろ、安全であるという安心感がありますから。」

「ただ、パッケージが、もう少し小いさいと、使いやすいと感じてます。そうなれば、他の飲食店でも使用する店舗は多くなるんじゃないですかね。」と、ダイヤモンドダイニング銀座地区統括料理長・本松誠氏は取材に応じてくれた。

 かつての加工卵は味の面や物性で、殻付き卵より見劣りしていたので限定的な普及にとどまっていたが、かなり改善が進んでいることが本松氏の発言からうかがえる。


使い勝手はもちろん、安全を確保する事での安心感

「DON CONA CONERY」はチムニー(煙突)型の石窯で焼き上げる本格派のナポリピザと、「デュラム・セモリナ」という粗挽きの小麦を使用したもちもちの手打ちパスタがメインの、ピッツェリア&トラットリア。顧客層は五反田駅を利用する20代、30代の女性、カップルが中心。

 卵はパスタの練りこみに使うほか、カルボナーラに乗せる温泉卵など、なかなか重要な食材である。
「凍結全卵をパスタに使ってみましたが、殻を割る手間が省ける事はもとより、使用していての安心感があります。温泉卵もふんわりしていて、よく改良されていると感じました」と、ダイヤモンドダイニング洋食部門総料理長・佐藤孝昇氏はかなりの好感触である。

 一方で、「団体客から注文が入って急に出数が増えた場合に、ガチガチに凍っていると流水に浸して解凍するのに時間がかかってしまいます。事前の下準備が肝心ですね。お客さんを待たせてしまいますから。」と、デメリットについても語ってくれた。


殺菌卵を当たり前に使用する時代は、そこまで来ている

 ゼットンでも、渋谷界隈のサラリーマン、OLの 30代をコアターゲットとする「神南軒」で、凍結卵白をコンソメのアク取りに使うなど、殺菌卵の導入が進んでいる。


「神南軒」 店内


「神南軒」 店内

「こだわりの『卵料理』を提供する神南軒で、現在提供する料理と同じレベルの料理が殺菌卵で提供できるのか、今は試験段階。」

「弊社は食の安全、安心を重視している。コンセプトに合ったものであれば、テストを重ね、味の面のクオリティも含め、クリアしていく事ができれば殺菌卵の導入は検討に値すると考えている」と、ゼットン・ゼネラルシェフマネージャーの木島麻盛氏は強調した。

 木島氏は、「殺菌卵の使い勝手や、用途が外食市場にもっと広がれば、使用する飲食店は、今より増えてくるのではないか」とも、と付け加えてくれた。

 このように新しい外食を牽引するベンチャーでは、既に殺菌卵の活用は広まってきている。

 昨今、消費者からは安全で安心な食品の提供がかつてないほど求められている状況があるが、その声に応える事が、外食市場全体の安全、安心を底上げする事であると言えるだろう。

 殻付卵と変わらぬ料理、“安全、安心”を提供できる、殺菌卵は、その声に応えることができる、まさに時代に適した「卵」だと言える。

 日本でも欧米諸国のように、殺菌卵が当たり前に使用される時代は、もうそこまで来ているのではないだろうか。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2008年7月17日執筆


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