フードリンクレポート
【酒類大手4社の2009年】
今年も「相談するなら、サッポロビール。」
サッポロビール株式会社
開業サポートセンター長を兼ねる別府修氏
・開業サポートセンターが電話で相談受付
「相談するならサッポロビール。」を外食向けのキャッチフレーズとする同社が、昨年3月、専用電話回線(03-6681-1616 “オーイサッポロハイイロイロ”)を引いて、無償で開業希望者からの相談を受けるサービスを始めている。
ドリンクメニューだけでなく店舗運営全般について外食経営者を支援するため、約10年前にサッポロビールが設けた専任部隊「フードビジネスサポートチーム」が蓄積したノウハウを活用して、新規開業希望者からの相談に乗っている。「新規開業の方は相談する方がいない。脱サラで独立する方々の受け皿になりたい」と、開業サポートセンター長を兼ねる別府修氏は言う。
相談件数は、3月〜12月末で約140件。内、実際に開業した方が約30件もあるという。電話をかけてくるのは、大半は初めて店を持つ方と、近い将来持とうと思っている個人の方々。質問は、「どうやって物件を見つけるか」、「お金の借り方は」から始まって、「どういうことを相談していいんですか」という謙虚な方々も多い。エリアは首都圏で4割、残りは近畿と東海という。
電話の後には、そのエリアの所属長が面談。まずは、出店希望立地の商圏を知っている者がアドバイスしてくれる。そこからは相談内容に応じて、専門の担当者に変わっていく。金融機関に資金を借りる際の事業計画書のチェックを求められることも多いという。サッポロビールの社員が応対する範囲では、このサービスでお金を取っていない。同社がネットワークを持つ内装や、仕入業者なども紹介するが、彼らに引き継ぐまでは無償。
この開業サポートが知られるようになり、電化厨房の普及を目指す東京電力と共同で3/18に交流セミナーを開催することが決まっている。また、スウェーデンの家具チェーン「イケア」では、家具を買いに来る方の中に飲食店開業希望者も多いようで、イケア来店客向け飲食店開業講座も共同で3/19に開催する予定だ。
・「サッポロ・ヒューマン・サポーターズ」が社内ベンチャーで独立
昨年9/12のフードリンクニュース記事「サッポロが他社に先駆け、人財育成ツールを発売。」http://archive.foodrink.co.jp/supporter/200809/080912.phpで取材した、荒井良彦氏が社内ベンチャーで独立することが内定している。
外食専任部隊「フードビジネスサポートグループ」のノウハウを集めて人財育成のための19種のプログラムを作り上げ、「サッポロ・ヒューマン・サポーターズ」と称して、昨年8月から発売している。「私たちが提供するのは、今働いているスタッフの定着率を上げるためのツールです」と荒井氏。MSQ(やる気分析システム)は既に約1100人が受けた人気プログラムだ。
「売上高15億円規模の外食企業様に特に興味を持っていただいています。まずは店舗ごとや店長ごとにスタッフの定着率を分析します。結果をもとにスタッフの定着率やヤル気をあげる秘訣を提案します。採用費は大きなコストです。ココを改善できるので、オーナーに大変喜んでいただいております。」と荒井氏は独立に自信を深める。さらには、飲食店だけでなく、本屋、花屋、美容室、コンビニなど接客を伴う業種にサービスを拡大することを視野に入れ、5年後には売上高1億4千万円が目標だ。
社長が現場を離れて間がない、5〜20店位の規模の外食企業では、様々なことが起き、情報も求めるようになる。ここで、同社の「相談するならサッポロビール」という姿勢や、荒井氏の「サッポロ・ヒューマン・サポーターズ」が生きてくる。
・食材紹介もサッポロビール
独立行政法人中小企業基盤整備機構が、中小企業地域資源活用プログラムの一環として、地域の中小企業による地域資源を活用した新商品開発や販路開拓等を支援する企業を「地域資源パートナー」として認定している。サッポロビールはこのパートナーとなり、地方の食材や食品を、各地で主催している「繁盛店への扉セミナー」時に、参加した外食企業に紹介する活動も行っている。
さらには、同社が10年前から飲食店向けに年4回、10万部を発行している情報誌『rise』で、2009年春号から「食材探検隊」というコーナーを新たに設け、毎号で各地の食材を記事としてだけでなく、生産者のチラシも添付して、実際に飲食店が購入できる試みも始めた。
『rise』2009年春号では、馬刺しを紹介。
また、地銀の主催する地域産品の展示会を積極的に飲食店に紹介したりしている。
・「男前ジョッキ」1000ml
商品周りでは、味にこだわる店向けにプレミアムの「ヱビスビール」に力を入れる。さらにワンランク上で、クリスタル麦芽を配合した深みのある味わいの「琥珀ヱビス」は業務用の人気商品だ。
また、銀河高原ビールから買収した那須工場にて小ロットで製造する「白穂乃香」。酵母が活きており、品質管理保持契約を結ばないと扱えない希少ビール。東京、横浜、川崎の約250店でしか扱われておらず、他店と差別化を図りたい店にはピッタリの商品。
「赤星」としてビール通の間で話題の日本最古のブランド「サッポロラガービール」。人気は根強く、僅かながらも前年実績を上回るペースで売れている。
そして、ユニークなのが「男前ジョッキ」。飲食店のビールの構成比が下がっている理由の一つに、「ビールを飲みたいが、他のドリンクより割高」と感じてためらうお客がいるという。そこで登場させたのが容量1000mlの「メガジョッキ」。これを、面白く「男前ジョッキ」と呼んでいる店が出始めた。お客は大きさにびっくりし、値段を気にせず面白がって注文してくれる。しかも、周りからも注目される。外食でしか楽しめない付加価値を提供してくれる。
「てっぺん」元副社長、内山正宏氏の経営する「ふたつめ」(東京・中目黒)では、1000mlのジョッキを使い「男前生ビール」1100円として販売。手前が通常の400mlジョッキ(500円)。
「ふたつめ」は串揚げ店。ビールとよく合う。
昨年、値上げのタイミングを遅らせたサントリーにビール系飲料シェア3位の座を明け渡したサッポロビール。家庭用の第3のビール市場で大差を開けられた。「業務用は負けていない。サッポロビールの業務用は元気一杯ですよ」と三上浩嗣氏は胸を張って答えてくれた。
開業サポートセンター長の別府修氏(左)と、、社内ベンチャーが内定した荒井良彦氏。
【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2009年2月2日取材