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フードリンクレポート


月2千人の中国人観光客をもてなす「魚心 新宿総本店」。

2010.9.3
年々中国人観光客が増加しているなか、外食企業のインバウンド対策や現状を追う。中国人観光客を積極的に受け入れている「魚心」新宿総本店に対策方法や現状を聞いた。レポートは猪俣栄仁。


「魚心 新宿総本店」は新宿歌舞伎町で24時間営業。

月に2千人の中国人観光客が来店

「二年前から本格的に中国人観光客の集客に力を入れる方針を明確に決めました。結果、季節によってばらつきはあるにせよ、1ヶ月約2千人の中国人観光客が来店されます」と話すのは株式会社東京魚心 代表取締役村木秀俊氏。「魚心 新宿総本店」は24時間営業で歌舞伎町の旧コマ劇場の裏にある店舗だ。

 大阪を中心に日本料理、しゃぶしゃぶ、寿司、焼肉、和・洋・中居酒屋など46店舗を展開するあじびるグループ。新宿と町田の2店をグループ内で独立させた村木氏が代表を務める。

 中国人対策で団体客誘致は、中国の複数の旅行代理店と提携している。このノウハウの構築が非常に困難だったという。また、フリー中国人観光客に関しては、『日本慢遊』という中国人向けの旅行・観光・飲食のポータルサイトに掲載をしている。『日本漫遊』はフリーの観光客が、日本観光を考える際には貴重な情報源となっている、理由としては中国本土では未だ規制が厳しく観光書籍・ウェブに制限があるためだ。


店外に寿司サンプルと、中国人が知っている酒をディスプレイ。銀聯カードが利用できることもアピール。


旧正月で2月も売上確保

 日本の飲食店セオリーとして集客の弱い2月・8月の集客が見込める事があげられる。中国では2月の旧正月と、8月の夏休み時期の旅行が非常多い。これは実際やってみて分かった事であり、結果として非常に良い効果を生んでいるとの事。

 また、客単価については団体客が約1,000円に対して、個人客は日本人と同等かそれ以上の4,000円程度になるという。そして入店から退店までの滞在時間が非常に短く、約40分程度で一通り注文し退店して行くため、回転率も非常によい。

 中国語メニュー等の特別なものは用意していないのが現状。ただし、もともと寿司の写真は分かりやすいので見て指さし注文する。いざという時にキッチンに日本語を理解できる中国人スタッフが常駐しているが、今のとこ出番はないとの事。団体客向けには、ガイドに店舗から直接事前レクチャーをしているので、席につけば料理説明はガイドに任せてよい。もちろん、個人客用に銀聯カードをいち早く導入した。


個人客が今後増えていく

 現在は中国人観光客では、団体客9割で個人客1割。今後、個人客が増えていく事が客単価アップにもつながるので力を入れていきたいという。但し、個人客の比率が増えていくには、あと2〜3年はかかると予想している。

 団体客誘致において問題点も多い。他のお客を気にせず大きな声で話をしたり、トイレ等のマナーが一部悪い事も上げられる。特に問題なのは団体客がバス移動の為、予約時間が大幅にずれてしまう事が多々あり、その都度現場が振り回され店舗全体に過度なストレスがかかる場合もある。

 現場と本部が共通の認識をもって中国人観光客誘致に取組まなければフラストレーションが双方にかかるのことが最大の問題だと認識している。

 現状では日本人客と中国人観光客が隣通しで座るような共存はまれであり、中国人は個室に案内するのを定石としている。考えてみれば日本人も欧米文化を理解して旅行に行き始めたのはここ20年。ルールが分からないからこその不作法も当然と言える。

「魚心」は中国人対応のパイオニアだと自負しており、団体客は中国人ツアーガイドとの綿密な打ち合わせを店舗の人間が直接行える仕組みを持っているのでトラブルは少ない。また、個人客には特別個室へ案内することもあり、日本文化も伝えようとしている。

 今後、益々増えていく中国人観光客。避けるのではなく、巧く対応していく事が日本の外食企業にも求められ始めた今、「魚心」に学ぶべきことは多い。少子高齢化の進展で、日本人の人口は減っていく。しかし、日本にやってくる外国人、特に世界一海外旅行で消費する中国人観光客が増える見通しなのは、日本の外食業界にとって大きなチャンスとなる。そのチャンスを今から掴む準備が必要だ。


■「魚心」新宿総本店
東京都新宿区歌舞伎町2-36-3 新宿アシベ会館1F
電話:03-3232-6607

【取材・執筆】 猪俣 栄仁(いのまた えいじ) 2010年8月9日取材


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