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うるさ方も納得の“もうひとつの食卓”が赤坂に!
分店「なかむら食堂」
(東京・赤坂/居酒屋)
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第375回 2011年7月14日

料理教室?と見せかけて、実は和食居酒屋。

 しばらく訪れていないと街の風景がすっかり変貌してしまうエリアのひとつ、それが赤坂だ。今では駅前はすっかり整備され、昔の面影はない。しかし周りがどのように姿を変えようとも、住んでいる人が求めるものは今も昔も変わらない。ホッとくつろげる、食堂のような居酒屋。そんな街の声に応えるかのように2011年6月14日にオープンしたのが、「なかむら食堂 分店」だ。開店以来、口コミで人気を呼び、今では連日のように味にうるさい客さえも足繁く通う実力店として早くも注目を集めている。


料理人が調理をする工程をかいま見ることができる。


店内には3カ所に大型のテレビが設置されている。


黒板には「冷やしやかん酒」のメニューが。

 なんといっても特徴的なのは、店舗がもともと料理教室だった建物の“居抜き”物件だということ。手を加えたのは、照明だけ。その他はすべて料理教室だった時の内装を活用している。壁際にはメニューが書かれた黒板が設置され、キッチンに立つ料理人の上には大きな鏡があり、魚をさばく料理人の手元が客席から丸見え。また、その様子が店内3カ所に設置された大型テレビに映し出される。まさに料理教室だった店舗だからこその慣れない動線に、ワクワクとした気持ちになる。


日替わりのメニューはすべて手書き。


「どぶづけ瓶ビール(中瓶550円)」も人気。

 赤坂駅から赤坂通りを歩くこと約5分。全50席。居抜き物件だった上に、手を加える部分も最小限。そのため開業に必要だった金額は、保証金無しで約300万のみ。その分、客が求める料理に手間ひまをかけることに尽力したという。


赤坂はポテンシャルの高い街だと語る中村悌二氏。

 「ハレの日より、日常をサポートする店を作りたかった」と語るのは、同店を運営する株式会社カゲン代表取締役、中村悌二氏。1988年に「フェアグランド」というバーを下北沢に開店以降、高級和食店「なかむら」の直営店をはじめ、居酒屋やラーメン店まで、100軒以上の飲食店の立ち上げに携わる、言わずと知れた敏腕プロデューサーだ。

 そんな彼が50歳を迎えた今、店舗プロデュースの視点に変化を感じているという。「今までの業態ではターゲットを狭めたうえで、強い個性のある店舗を展開してきた」。例えば、子供はNGで隠れ家的な要素を押し出すなど、知る人ぞ知る名店として、どの店舗も人気を博してきた。だが、代々木上原の蕎麦和食「蕎麦屋山都」が街の人たちに愛されてきた近年の過程をみて、これからは街に愛される店が必要だと強く感じていったという。「特に震災後は強く思いました。今までは“オレの個性”という確固たるイメージがあり、それを提案してきましたが、これからは、こういうものがあったら喜ぶだろうという“客目線”へとシフト。そこで考えたのが、“食堂”と“居酒屋”をミックスした業態でした」。


一本入るだけで人通りは少ない住宅街に。


仕度中の店舗外観。店先のテーブル席も人気。

 赤坂は博報堂やTBSをはじめ、多くの一流企業のオフィスが集中するが、実はすぐ裏には住宅街があるという珍しい立地。中村氏は、ここに目をつけた。「オフィスと住宅が隣接している街は、本当の意味で生きている感じがして活気があり、面白い。だから赤坂を選んだ。そして、一流サラリーマンが仕事帰りに立ち寄る日もあれば、子連れの夫婦や年配の方が訪れることもできる。3世代で立ち寄れる場所を提供したかった」。大通りから一本入った路地裏の店舗を選んだのも、単なる安い食堂にしたくなかったからだ。


入口でスイカやビールが冷やしてある。


「昔ながらの中華そば(700円)」はシメに。


日替わりで旬の刺身が食べられる「刺身 中皿盛三人前(2,600円)」。

 「今までは“高級レストラン”vs.“カジュアルな居酒屋チェーン”と二極化していた。その中間がすっぽり抜けていた」と中村氏は指摘する。そこには、ニッチなターゲットを狙うのではなく、間口を広げた新しい経営戦略があった。そのため、スイカやトウモロコシは一切れ200円からと破格。メニューの振り幅も高級な鮮魚のお刺身から、昔ながらの中華そばやナポリタンまで幅広い。客のリクエストによっては、一品のポーションも自由に増減させる。融通が効き、客の好き嫌いもきちんと把握する店にするのが理想だという。


厨房の黒板には、その日の仕込みのメモが。


調理スタッフとの距離感も近く感じる。

 客の心を掴む上でさらに大切にしているのが、コミュニケーション。例えば、生産者側の食材へのメッセージは、メニューに“○○産の○○”としか触れることができなかった。だがここなら、テレビ画面に映像を映し、食材の情報をしっかりと客側に届けることができる。また、テーブルの並びも食堂のように隣との距離を狭めることをあえて意識。盛り上がれば、ふと隣の客とも会話が弾む。気を張る店ではなく、気を緩めてくれる店なのだ。


飲ん兵衛心をくすぐるメニューがずらり。


席同士が近く、オシャレながらも食堂らしさがある。


旬な野菜を提供することへのこだわりも。

 昔ながらの街に愛される食堂の姿がここにはあり、その居心地のよさを証明するかのように、客はリピート率が圧倒的に高い。気取った高級店や安さがウリの居酒屋ばかりが増え、“俺たち(私たち)はどこへ行ったらいいのか?”、そう思っている大人は多い。「家では食べられない味がありながらも、肩の力を抜ける場所であること。もうひとつの台所、食卓であることが大切」と中村氏。「人の会話には、必要な沈黙の“間”がある。その自然な“間”がこの店では生まれやすく、居心地のよさを決める」という。日常的に通いたくなる店とは、近所の“昔ながらの食堂”に多くのヒントが隠されているのかもしれない。
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【分店「なかむら食堂」】
住所 東京都港区赤坂6-15-1ミツワビル1階
電話番号 03-5575-0026
営業時間 17:30〜23:30(L.O.22:30)
定休日 日曜
客席数 50席
客単価
目標月商 非公開
開店日 2011年6月14日
HP http://ameblo.jp/fg-bunten/
経営母体 有限会社フェアグランド
※取材当時の情報です。変更されている可能性がありますので訪問される場合は、店舗にご確認下さい。
 桜生 マリコ(さき まりこ) 2011年7月11日取材
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