2000.3.6
 今月の特集『再発見! 塩を考える』(2/3)面
--「塩」を見直し繁盛店の仲間入り、人気の全貌に迫る--
--ヒートアップする塩ブーム多種多様な中から最適な塩を探し出そう--
今月の特集キーワード  
  規制緩和で始まった輸入塩・国産塩の競演潜在的な需要を掘り起こす 1面
  変遷をたどった塩の製造法海のミネラル分を凝縮させた日本古来の塩に 1面
  塩=Naclの誤解 塩の旨味は塩化ナトリウムとニガリ分のバランスが決め手 2面
  塩は産地・原料・製法で分けることができる 2面
  製法の背景には原料の性質や産地の気候風土がある 3面
  調理は塩で始まり、塩で終わる微妙な差異を感じられるのは調理人の舌 3面



 中世後半からは、潮の干満差を利用して海水を塩田に引き込む「入り浜式塩田」(イラスト2)が登場する。潮汲みの労働が軽減された入り浜式は、江戸時代から盛んに取り入れられるようになり、海岸に近い藩はこぞって製塩に力を入れた。塩は戦国時代の大切な兵糧であり、武具に使う毛皮をなめす材料としても不可欠。
  平釜の材質や煎ごう技術も発達し、赤穂流といわれる立体式の画期的なかまどが出現したのもこのころである。入り浜式で塩が作られていた時代は約300年と長く、昭和27年ごろまで続いている。
  昭和20年代に入ると、傾斜をつけた流下盤と粗朶や竹を吊るした枝条架で塩分を濃縮、乾燥させる「流下式枝条架式塩田」(イラスト3)に取って変わるようになる。この方法は太陽熱と風による蒸発が効果的に得られる上、24時間体制の操業が可能。従来の10分の1の労働力で3倍の生産量を上げることができた。流下式は主に瀬戸内地方で発達した。

塩=Naclの誤解 塩の旨味は塩化ナトリウムとニガリ分のバランスが決め手
 日本の製塩法は時代ごとに進歩してきたが、海水の水分を蒸発させて、ミネラルの結晶を得るという根本的な原理は少しも変わっていない。複雑な旨味を持つ海塩は、米、野菜、魚などの淡白な食物を主とする日本人にとって、今も昔も欠かせない調味料だったのである。しかし海水を煮詰めただけの塩は、必要以上のニガリ分を含んでいるのが難点である。
  豆腐の凝固材に使われるニガリは呼んで字のごとく非常に苦く健康にも悪い。そのため、ニガリ分を除くために塩を炒ったり、釜揚げ後に1、2年寝かせるなどの工夫がされてきた。特に重宝されたのが、2、3回梅雨を越した”枯れた塩“で、この塩は梅雨の湿気でニガリ分が溶け出し、残った若干のニガリ分と塩分とのバランスが取れ、ほどよい塩梅に仕上がる。この梅雨越しの塩に最も近い味が流下式による塩だったといわれている。古代から何度かの技術改革を経て、昭和の始めでようやく理想的な製塩法が完成したわけだ。しかし実際には、この流下式は昭和20年代後半から昭和46年までのわずかな期間しか使用されていない。
  日露戦争の収入源確保を目的に、塩の専売制度が実施されたのは明治38年。その後、塩の製造、流通、販売は大蔵省の管轄下に置かれるが、最も大きな転機となったのが昭和46年の「塩業近代化臨時措置法」である。この年、全国27カ所に残っていた塩田は全面廃止。国内の製塩は公社に委託された7カ所の工場のみで、製造も「イオン交換膜式」という化学的製塩法に切り替わったのである。
  この「イオン交換膜式」とは、海水を濃縮する従来の製塩法とは大きく異なり、海水に含まれる約3・5%の塩分のうち、主に塩化ナトリウムを電気的に取り出す方法である。具体的に説明すると、海水槽の中に陽と陰のイオン交換膜を設置し、両端から電流を流して、ナトリウムイオン(陽イオン)と塩素イオン(陰イオン)を濃縮して集める。この濃縮したイオン海水を真空蒸発缶で煮詰め結晶化する。この方法では、極めて純度の高い塩化ナトリウムが取れるが、本来の塩が持っていた天然のニガリ分(マグネシウム、カルシウム、カリウム)を排除することになる。当時すでに塩は工業の重要なアイテムとなり、安定した供給が必要になったこと。また、港湾の工業化が進み、海水の汚染が進んだというのが専売公社の言い分であった。
  先に述べたように、塩の旨味はニガリ分と塩化ナトリウムのバランスにある。NaClの結晶である旧専売公社の食塩に旨味を感じるはずはなく、トゲトゲしい塩辛さが残るのもそのためである。
  効率だけを追求した国の政策、画一的な味の製塩に対しては、法の施行以前から反対意見が多く、塩田の復活を求めた「自然塩運動」につながる。自然食愛好者の消費者や学者が中心となった自然塩運動は、署名活動をして関係各庁や政党に陳情を重ねる一方で、実用性の高い製塩装置の開発を重ねていくのである。
  昭和48年、消費者の声を無視できなくなった専売公社は「特殊用塩」というあいまいな形で「イオン膜式」以外の塩の製造販売を許可する。この特殊用塩とは、専売公社がメキシコやオーストラリアから輸入した原塩を購入して再製加工したもの。「赤穂の天塩」や「伯方の塩」が先駆的なものだが、諸外国の天日干し原塩は塩化ナトリウムの純度が高いため、ニガリを加えるなど、何らかの方法で純度を下げているのが特徴である。これらの塩は一般に「自然塩」と呼ばれてきたが、専売法が廃止され、国産の自然海塩が出回るようになった今では、厳密に区別して「準自然塩」や「再製自然塩」というべきだろう。またほかにも、小規模ながら試験研究目的の名目で、国内での製塩が許可されていた所もあり、その製塩ノウハウは高知、天草、沖縄など、清浄な海水を持つ地方へと広まった。そこで生産される塩は非売品の会員配布という形を取り、水面下では細々とながら純国産の自然塩が出回っていたのである。
塩は産地・原料・製法で分けることができる
 専売法が廃止されると、文字どおり潮が満ちるように各種の塩が出回るようになった。多くの商品や情報があり、それらをどう解釈し評価したらいいのか、迷う方もいるだろう。そこでここでは、産地・原料・製法の3つにポイントを置いて商品を分けてみよう。まず産地は、その塩の原産地と再製または加工した2次産地に分けてみる必要がある。たとえば「〇〇の塩」と商品名に日本の地名がついていても、輸入した原料塩を再製加工した場所を記している場合が多いので、国産塩にこだわる人には注意が必要だ。また、原料も海水のほか、岩塩鉱、塩湖水、塩井水、塩土などがあり、陸地で生産採取された塩の代表格が欧米に多い岩塩である。国内で岩塩が産出されないためか、岩塩こそ自然の塩というイメージが強いが、何万年という時間をかけて形成した岩塩には、各種の塩類が流出しているものが多いため、ニガリや各種塩類などの副原料、乾燥剤、固結防止剤、化学調味料などの添加物が加えられる場合があるのだ。次に製法だが、これは使用する原料と密接な関係がある。基本的にはかん水を作るプロセスと、天日や火力によってかん水から塩の結晶を得るプロセスとに分けられる。海水から製塩する場合は、2つのプロセスとも天日塩田で行うのが世界の主流だが、多雨多湿の日本では、塩田からかん水を取り、それを火力で煎ごうするのが伝統的な方法だ。そうすると、国内で製塩された商品には、俗に言う”完全天日塩“の塩はないのかという疑問が出てくる。その答えはNOともYESとも言えない。完全天日の定義をどうするかという問題にかかってくるからである。