2000.3.6 |
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今月の特集『再発見!
塩を考える』(3/3)面
--「塩」を見直し繁盛店の仲間入り、人気の自然塩の全貌に迫る--
--ヒートアップする自然塩ブーム多種多様な中から最適な塩を探し出そう--
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製法の背景には原料の性質や産地の気候風土がある
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天麩羅福島
東京都港区六本木4−10−12
狸ビルB1
03(3403)5507
11時〜14時
17時〜23時土曜日 |

↑天ぷらに供されるのは出汁とヨネマースからつくった特性塩
沖縄でつくられる天然塩ヨネマース→ |
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商品につく”完全天日塩“のネーミングからは、広大な塩田に降り注ぐ太陽、乾燥した爽やかな風というイメージが漂う。自然志向の強い昨今、いかにも消費者が好みそうな付加価値の一つだが、その製法は一律ではない。
たとえば、外国産の完全天日干しの商品は、文字どおり太陽熱と風力によって時間をかけて乾燥させたものがほとんど。一方、国内初の完全天日塩といわれる「海の精」(青ラベル)の製法を見てみると、かん水を温室内の結晶箱に入れ、太陽の力で蒸発濃縮し塩の結晶を析出する方法だ。この手法でやれば、確かに人工的な火力は加わっておらず、天日(太陽熱)だけで乾燥させたことになる。「小さな海」(青プリント)や「粟国の塩」(天日干し)なども、温室や結晶ハウス内でつくられた”天日塩“である。これら国産の天日塩は、多雨多湿という不利な条件下で人工的なエネルギーを使わずに、天日干しを実現するために開発されたものだ。
塩は商品の数だけ製法があり、味があり、その背景には原料の性質や産地の気候風土がある。このごろは、原料や製法を基準にしたオーガニックランキングも出ているが、機械化を否定した自然偏重の選択も考えものだ。プリミティブな製法で作られた塩が必ずしもベストとは言えず、手間や時間がかかる分だけ、価格も必然的に高くなっていく。肝心なのは塩の味であり、自店の料理にはどのような性質の塩が合うかを見極めることに尽きる。もし、原料・産地・製法にこだわるなら、直接メーカーに問い合わせてみることをおすすめする。現在出回っている中で一番多いマヤカシが、輸入原塩を溶解して煎ごうした塩を天日塩としている商品である。メーカー側の理屈としては、輸入した原塩が天日干しということなのだろうが、こちらは再製加工塩の部類に入る。
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調理は塩で始まり、塩で終わる微妙な差異を感じられるのは調理人の舌
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塩の旨味が塩化ナトリウムとニガリ分のバランスにあることは述べたが、「旨い塩」と感じるニガリの割合をたとえると、お汁粉やぜんざいに入れる一つまみの塩に相当するそうだ。旨い塩は成分の分析では測り切れず、そのわずかな差異を感じることができるのはやはり、鍛錬された調理人の舌である。興味のある塩に出会ったら、野菜スティックにつけるか白飯にまぶすなどのシンプルな方法で、その違いを試してみるといい。商品ごとの明らかな違いに驚くはずだ。
東京の六本木にある天麩羅「福島」さんでは、沖縄産の「ヨネマース」を使用。店主の福島伸典さんは、旅行好きの知人から勧められ、8年前からこの塩を愛用している。このヨネマースはオーストラリア産の天日塩を沖縄の水で再製加工したもので、県内のみの流通。生産量が限られているとの理由で、マスコミには登場しない幻の塩である。
同店で天麩羅とともに供されるのは、天つゆ、梅肉を出汁で割った梅汁、レモン、そして、ヨネマースで作る特製塩。中でも特製塩はお客様の反応が最もダイレクトだと、福島さんは語る。「場所柄、舌の肥えたお客様が多いのですが、ヨネマースを使うようになってから、『これはどこの塩?』『旨味のある塩ですね』とおっしゃるお客様が多いんです。お客様の舌の敏感なことにも驚きますが、それだけ塩に対する関心が高くなっているということでしょう」
同店の特製塩は、昆布出汁にヒタヒタのヨネマースを加え、弱火にかけて気長に水分を飛ばしたもの。そうすることによって、出汁と塩が再結晶した、細かな粒子に仕上がるのだという。「食塩に化学調味料を加えていたころに比べると、手間も経費もかかりますが、それだけの価値はありますね。塩辛さに透明感があり、まろやかな甘さが口に広がります。塩なれがいいので魚介類のヌルを取るときや、お澄ましの隠し味としても重宝しています」
ひとふりで味を左右する塩。たかが塩、されど塩であり、その世界は奥深い。外食チェーンでもファミリーレストランの「デニーズ」や「カーサ」、居酒屋「つぼ八」などでテーブル上の塩を「伯方の塩」、「赤穂の天塩」などに切り換えて、好評を博している実情がある。
調理場の隅に置かれている塩やお客様にお出しする塩を、今一度見直してはいかがだろうか。
(参考文献・「The SALT 塩の本」/柴田書店、「塩屋さんが書いた塩の本」/松本永光 三水社)
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