2001.2.3
今月の特集 水にこだわる!天然水で繁盛する店から学ぶ(2/3)面
『天然水の魅力とは?』
今月の特集キーワード  
  水のうまさと安全性追求の表れ消費量 の増大が続く 1面
  水の特質を見極め用途に合わせたセレクトを 1面
  和風・洋風によってもふさわしい水は異なってくる 2面
  食材の力を引き出し、労力やコストを上回る歴然とした差が出る 2面
  採水地と処理法も検討材料の一つ天然そのままの水の味を追求 3面
  日本の水は風土や食文化に根ざした食材の一つ 3面

 
 和風・洋風によってもふさわしい水は異なってくる
 例えば、炊飯用の水。米の旨味や粘りを引き出すには、ミネラル分が少ない軟水がふさわしく、硬水ではカルシウムが植物組織を硬化させて、炊き上がりをパサパサにしてしまいかねない。米を炊くにはその産地の水が最適といわれるが、米どころは水どころであり、うまい軟水が湧出する土地柄となれば、このことわざもきちんと道理が通 る。
 また、ダシを取るときにも、やはり硬度50以下の軟水を使いたい。ダシの材料としてポピュラーな昆布のグルタミン酸やかつおぶしのアミノ酸などの旨味成分は、水に溶け出しやすい性質を持っているため、抽出力の高い軟水でこそ、おいしさが引き出せる。仮に硬水を使ってダシを取ったとすると、旨味成分の一要素であるタンパク質とカルシウムが結合して、アクとして出てしまう恐れがある。
「茶屋処 吉むら」
東京都世田谷区南烏山4-11-1
       稲門ビル3F
電話 03(3300)1881
営業 11:30〜22:00
   (21:20 LO)
休日 火曜日
使用天然水:山梨県奥道志村の七滝水源の水(中軟水の54度)水源は険しい足場のため、ホースで引水しているお宅に協力を依頼。
仕入れルート:1トンタンクを積み込み週1、2回採水。
使用用途:サービスウォーターから野菜類の洗浄まで、調理器具の洗い物以外のすべてに使用。
 一番人気のアラカルトは寿司、天ざる、季節の小鉢がついて1300円。天ざるはそば、うどんから選べる アラカルト・1300円
   
 千歳烏山駅東口より徒歩1分。線路側の店舗にも拘らず、店内はいたって和やかな雰囲気 千歳烏山駅東口徒歩1分
 ゆったりと落ち着いた店内には、テーブル席の他、座敷、鮨カウンターもある
 水は中硬水に近い軟水で硬度は54度。この1tタンクをトラックに積んで採水に行く
 料理同様の温かい心配りとおもてなしがモットー 三代目の奥さん
 しかし反対に、硬いスジ肉を柔らかく煮込みたいときには、硬度300程度の硬水が向いている。これは先のタンパク質とカルシウムが結合しやすい性質が、肉を硬くする硬タンパク質をアクとして遊離させる働きをするためで、骨つきの牛スジ肉などからスープストックを作る場合にも、硬度の高い水でじっくり煮込んだほうが、余分なアクが抜け、スッキリとした味わいに仕上がるはずだ。
 料理以外のお茶や紅茶、コーヒーに使う水にもまた、相性の良し悪しがある。繊細な味わいの玉 露や抹茶には、デリケートな芳香や旨味を邪魔しない軟水が最適。紅茶は緑茶ほどには水が関係しないといわれるが、硬度300以上の水では芳香が失われ、硬度500を超えるとアクが浮いて白濁を見せることから、やはり軟水から硬度100前後の中硬水がベストといわれている。また、豆の種類によって合う水が異なってくるのがコーヒー。苦みや香りを際立たせたいのであれば軟水が適しているが、豆によっては苦みや渋味が強くなり過ぎる。逆に硬水は苦みを緩和するが、香りも抑えてしまうことになる。そのため、微妙な味わいの高級豆には軟水を、力強いストレートな豆には硬水をと使い分けるのが、コーヒーを提供する側の心得の一つだろう

 食材の力を引き出し、労力やコストを上回る歴然とした差が出る
 「スープに使う肉の味、具に使う野菜の味がどんどん痩せて来ていますからね。それを補う意味でも天然水は欠かせません」と語るのは、東京西新宿にある「白龍」のオーナー・村井信吾さん。
 台湾系の中華料理を提供する同店は、豚バラ肉、豚ももひき肉、合鴨ガラでスープを取り、関西よりもさらに薄味で繊細な味つけの料理が特長。台湾大使館のコックを努めていた母親から受け継いだレシピが薄味だけに、早くから水にはこだわりを持ち、雑誌社主宰の天然水のテイスティング(51種類)に参加したり、奥秩父での3週間の湧水巡りをするなど、数年間に渡ってかなりの吟味を重ねている。現在使用している名栗川の源水は、ご夫妻で東京郊外の散策・レクリエーションをしている時に巡り合ったもの。飲んだ瞬間に「体が喜ぶ、優しい感じがした」と言う。水そのものを気に入ったことはもちろんだが、採水地の足場がよく、車で片道2時間というアクセスのよさも決め手になった。
いま注目の水 海洋深層水
 海洋深層水とは、太陽光がほとんど届くことのない深さ200メートル以上の海水を指す。最も早く研究に着手し商品化した高知県・室戸岬沖採取の深層水を例に上げると、この深層水は、グリーンランド周辺で垂直に沈んだ海流が、500〜4000メートルの深層を2000年以上の年月をかけて世界をめぐり、北太平洋までたどり着いたものだという。表層の海水と混じることがないため、汚染される心配が少なく、最近ではアトピー性皮膚炎の治療や美容によいなどの報告がある。飲み水として商品化するには、塩分除去などのさまざまな処理が行われているが、やはり人気の原因はミネラル分を豊富に含むことにあるようだ。
 「食の究極は味よりも”喉ごし“に行き着くのではないかと思います。どんなに食べても飲んでも嫌にならない喉ごし。水はその最たるもので、おいしい水に飽きることはない。喉ごしのいい上質な水は、ほかの食材の持ち味もダイレクトに映し出してくれるんです」。同じ源水でも、採水する場所によって植物の養分を含んだ「甘い水」に感じられたり、石の味を含んだ「辛い水」に変化すると村井さんは言うが、それだけミネラルバランスに優れたピュアな水質である証拠。同店は中華料理に多用しがちな化学調味料は一切使用せず、塩、醤油、油も水と同様に厳選したもののみを使っている。
 また、「白龍」さんと同じく、自然湧出する水を採水して利用しているのが、世田谷区千歳烏山にある「茶屋処 吉むら」さんだ。蕎麦とうどんに加え、鰻から寿司と幅広いメニューをそろえている同店では、調理器具などの洗い物以外はすべて山梨県奥道志の天然水を使用。蕎麦、うどんの水こねからダシ、炊飯、お茶と消費量 がとてつもなく多いだけに、最初は業務用浄水機と併用していたが、「どうやっても天然水にはかなわない」と、徐々に採水の頻度と量 を増やしてきた。現在は、1トンタンクをトラックの荷台に積み、週1、2回の割合で採水に出かけている。
 「この水を使うと、蕎麦打ちの時の香りや、うどんの伸びが断然違います。うちではサービスウォーターにも使っていますが、夏場は特におかわりを要望されるお客様が目立ちます。メニューにも”天然水使用“をうたっているし、マスコミにも再々取り上げてもらっているせいか、反響はものすごくいいですね」 と、三代目当主の奥さんの杉田眞知子さん。
 奥道志の水は、赤道を越えても腐敗しないといわれ、横浜港で外国船が積み込んだことで有名。同店では奥道志の水でもさらに原水に近い水を、親戚 同然の付き合いをしているお宅にお願いして特別に分けてもらっている。水源地は一般 の人の足では近づけない険しい場所にあるため、ホースで1200メートルにわたって引水している貴重な水だという。
 「採水に行くには往復4時間の半日仕事。経費も労力もかかりますが、水は料理の原点ですから、ないがしろにするわけにはいきません。近所には大手資本のFC店や低価格の飲食店が急増していますが、それらの店と差別 化を図る意味でも、天然水は一役買ってくれていると思います」
 同店では、「幼いうちから本格的な味に親しんで欲しい」との思いから、子供用に半量 の蕎麦・うどんを用意。水がおいしいからこそ、抵抗なく口にできるせいか、大人顔負けに子供が蕎麦つゆを飲み干す姿も珍しくないという。