2001.4.7
今月の特集 多彩な「味噌・醤油」の特徴をつかみ、料理に使いこなそう (2/3)面
「味噌・醤油」をもう一度基礎から 勉強してみよう
今月の特集キーワード  
  卓事情を反映する加工調味料の普及と業務用の需要増 1面
  土地の気候風土によって育まれ洗練された味噌・醤油 2面
  製造工程や調合、熟成で個性を発揮「色の分類」がおすすめ 2面
  高級・減塩・安全志向へより細分化が進む醤油の商品群 3面
  セレクトの幅もメニューの広がりも可能性は無限大 3面

◇つゆが評判の名うどん店から醤油選びを学ぶ◇
   うどん処『硯家』

素材一つ一つに妥協しない姿勢が大切」と語るオーナーの
網野厚務さん
明るく落ち着き感のある店内。昼夜のメニューは同一で牛スジ煮こみ、コハダの天麺羅など肴も豊富。選りすぐりの吟醸酒を月替りで安価に提供しており、こちらも評価が高い


 
うどん処『硯家』
東京都豊島区南池袋2-12-10 豊ビル1F
電話:03-3980-1451
営業:11:00〜22:00
休日:日曜
 赤醤油を吟味すること数十種類以上妥協することのない姿勢で素材を追求
いずれの量も通常の1.5倍。ツルツル、モチモチとした独得の触感を堪能できる「ざるうどん・480円」
 東京・南池袋の「うどん処 硯家」さんは、昨年の9月にオープンしたばかり。オープン直後から加速度的に知名度が高まり、この短期間ですでにうどんの新名店の地位 を確立した感がある。その人気の所以は、何と言っても吟味し尽くした素材群が一体となって生み出す、つゆと挽きたての小麦粉で打つうどんの旨さにある。
 オーナーの網野厚務さんと、店長の三本松寛さんが、本格的に開店準備にとりかかったのは2年ほど前。以来、網野さんは素材の吟味と仕入れの段取りに奔走し、三本さんは1年間のうどん修行に赴いた。素材はうどんの素となる小麦は言うに及ばず、昆布、鰹節、煮干、そして醤油など、中心となるものは全て〝舌〟で確認。醤油に関して言えば、各地から数十種類以上の商品と成分表を取り寄せ、使用している水から大豆に至るまで調べ上げたというから、ほかも推して知るべし。素材をそろえるまでに1年、商品化に辿り着くまでにさらに1年の歳月を要している。
ときほぐした卵とうどんをからめて味わう「釜玉 うどん・700円」は、うどんのカルボナーラ版で、女性にいちばん人気
 使用している醤油は、つけ汁にヒゲタ醤油の濃口、かけ汁にはヒガシマルの薄口を使用。両者とも東西の横綱クラスのトップメーカーだが、当然、ブランドに甘んじてのことではない。 「世の風潮は高級志向にあるようですが、醤油は価格よりもほか素材との相性で判断すべきでしょう。特にうどんはシンプルな食べ物だけに、全体のバランスが非常に重要。素材への認識の甘さが命取りになりかねない」と網野さんは言う。
 同店の界隈は元磨り横町と呼ばれ、商売は失敗するというジンクスがあるという。妥協を許さない姿勢で、そのジンクスを跳ね返すことは間違いない。
 土地の気候風土によって育まれ洗練された味噌・醤油
 味噌を使った郷土料理といえば、北海道の鮭のちゃんちゃん焼き、青森のじゃっぱ汁、千葉のさんが焼き、山梨のほうとう、岐阜の朴葉みそ、愛知の味噌煮こみうどん、広島の牡蠣の土手鍋と枚挙にいとまがない。また醤油も東の濃口醤油に西の薄口、東海地方のたまり醤油・白醤油、九州の再仕込み醤油と、それぞれの土地の嗜好性に合わせて発展してきた。主原料はともに大豆(麦)でありながら、これほど多様な展開を成し遂げた調味料は世界でもまれ。肉醤・魚醤・草醤・穀醤と種類が豊富な中国の醤(ジャン)も有名だが、限定された主原料の利用となると、やはり味噌・醤油に軍配が上がりそうだ。
 味噌・醤油のルーツは諸説さまざまだが、中国の径山寺で醤(ひしお)の作り方を学んだ僧が、和歌山県の村々に伝来したというのが有力説。この醤は大豆に小麦と塩を加え、野菜を加えて米麹で発酵させた保存食で、俗に「径山寺・金山寺(きんざんじ)味噌」と呼ばれるもの。やがて、味噌を長く使っている間に出てくる上澄みの汁も利用するようになり、今の醤油の起源になったといわれている。
 16世紀の終わりになると、和歌山県の海岸近くに味噌醤油業が確立。その製造技術は、黒潮に乗って房総へ出稼ぎにきた漁民らによって関東地方にもたらされ、千葉県の銚子や野田が醤油の産地として栄えるきっかけとなる。当時、関東に広まった醤油は、大豆を原料とする「溜まり醤油」だったが、元禄に入り江戸の人口が増えるにつれ、関西から来る「下り醤油」に対抗して、庶民の嗜好に合わせて工夫を凝らし、大豆と小麦を併用する「地回り醤油」を開発。これが後の濃口醤油へと発展していくのである。
 関東地方で溜まり醤油から濃口醤油へと変遷を遂げたように、それぞれの地方の味噌・醤油にも、気候風土や嗜好に合わせた製造方法があり特徴がある。
 次章では、まず味噌の分類や製造法、特徴を学んでいこう。

  製造工程や調合、熟成で個性を発揮「色の分類」がおすすめ
 味噌は周知のとおり、大豆と麹、そして塩を発酵・熟成させることによってつくられる。材料はいたってシンプルながら、「手前味噌」の言葉が生まれるほど、味わいは多種多様で、全国各地にはさまざまな種類が存在している。
 味噌を原料によって大きく分類すると、米味噌・麦味噌・豆味噌に分けられる。米味噌や麦味噌といった呼び方は、その味噌に使われている麹を示すもの。米味噌の麹は米で作られ、麦味噌の麹は麦で作られるというわけだ。ただし、豆味噌は大豆から作った麹と塩を使用し、そのほかの材料は使っていない。
 またこれらのほかに、調合味噌と呼ばれるものがある。調合味噌は文字どおり、数種類の味噌を組み合せたものや、とうもろこしなどを加えた味噌がある。商品のパッケージには品名や原材料の表示があるが、品名にはこの4種類のいずれかが表示されている。商品を選ぶ際には香りや味を確かめてみることが一番だが、表示内容でおおよその見当をつけることができる。
 では、それぞれの特徴を知るために製造法を簡単に追ってみる。米味噌と麦味噌の製法はほぼ同様である。

1、麺をつくる   2、仕込みを行う   3、貯蔵・熟成させる
蒸した米(麦)に麹菌を植えつけて、米麹(麦麹)をつくる作業を製麹(せいきく)という。米麹の場合なら精米、洗浄、浸漬、蒸しの工程を経て種麹を接種。その後、酸素を補いながら40数時間管理して米麹が完成する。一方で大豆を柔らかく蒸し煮する。でき上がりの色が茶〜褐色の赤系の味噌は大豆を蒸したもの。淡い茶〜クリーム色の白系の味噌は大豆をゆでたと見てよい。 => 米麹(麦麹)を加熱後、麹と大豆を効率よく混ぜ合わせるために大豆をすりつぶす。麹と大豆、塩、水を混合する。 => 麹と塩を混ぜ、塩分調整された味噌を貯蔵用の容器に落す。落すことで味噌の空気が抜かれ、発酵作用が進む。20〜30日経ったころ、酸素を補給する「切り返し」を行うことがある。醸造期間が長いほど味噌の色は濃くなる。
     
 一方、特殊な製造方法をとるのが豆味噌である。流れはほぼ同じだが、前述したとおり、米も麦も使わず、大豆に直接麹菌を植えつける。

 まず、蒸した大豆をつぶして球状に丸め(味噌玉と呼ぶ)、麹菌をつける。菌が十分に繁殖したら、砕いて塩と水を混ぜ、容器に詰めて長期間にわたって発酵・熟成させる。

 以上のように味噌は材料ばかりか、製造工程もシンプルだが、多くの種類が生まれるのは、各プロセスにおける条件や調合の違いである。この差異から生まれる味の特徴をつかむためには、「色で見る分類」を身につけることをおすすめしたい。
 味噌は大豆のタンパク質が分解され、アミノ酸になり糖と結合して褐色化していく。つまり、糖が多いほど反応が大きくなり、褐色になっていくといえる。例えば、西京味噌などに代表される白味噌は、原料の大豆をゆでて仕込むため、その段階で糖分が流れ出し、白く仕上がる。逆に赤味噌などの褐色の強い味噌は、大豆を蒸して仕込むため、糖分が流れ出ることなくアミノ酸に反応し、しっかりとした褐色に仕上がるというわけだ。〝熟成期間が長い味噌は色が濃い〟ことは、経験的に備わっている知識だが、ここで体系的に整理しておこう。

◇白味噌

 米を大豆の倍以上の比率で使うことが大きな特徴。ゆで大豆を約2週間の短期熟成、空気に触れることによる着色を防ぐため、切り返しなしで仕上げている。きめ細かくなめらかな質感で、色調は淡いクリーム色で光沢がある。味はまろやかで上品な甘みと香りがある。

◇淡色味噌

 甘口味噌と辛口味噌がある。甘口は5〜20日の短期熟成。光沢のある淡黄色をした、さわやかな香りとさっぱりとした味が特徴。辛口味噌は熟成期間が2〜6カ月で、鮮やかな山吹色。白味噌と赤味噌の中間的な味わい。信州味噌や長崎味噌が代表的。

◇赤味噌

赤味を帯びた褐色の味噌。代表的なものに仙台味噌や江戸味噌がある。白味噌などに比べると、豆の味が全面 に押し出されたものといえる。甘口は発酵した香りと甘みのある旨味、辛口は濃厚な香りと調和した辛味がある。熟成期間が長く、通 常は甘口で3〜6カ月、辛口で3〜12カ月の時間をかけている。
 上質の味噌はいずれも鮮やかに冴えた、のびのある光沢を持つ。灰色がかったものや色ムラのあるもの、さらになめてみたときに、ストレートで強い酸味や苦味を感じるものは、避けたほうがよい。また、近頃一般 家庭向けに需要を伸ばしている加工調味料に「だし入り味噌」がある。これは一般 の味噌に、魚介類のエキスや旨味調味料などを配合したもの。だしがなくても味噌汁をつくれる手軽さが人気を呼んでいるが、製造過程で加熱処理している点に注意が必要だ。味噌汁には適していても、酵母が生きている一般 の味噌とは異なり、味噌本来の旨味を生かす料理には不向きである。

原料での味噌の分類
米味噌 麦味噌 豆味噌
材料=大豆、米麹、塩
全国の幅広い地域でつくられ、全生産量の約8割を占める最もポピュラーなタイプ。大豆と米麹の比率と熟成期間の違いによって、味と色に変化が生まれる。
材料=大豆、麦麹、塩
麦麹(裸麦や大麦を使用)を使う味噌で、別名「田舎味噌」。九州地方や沖縄でおなじみだが、四国や中国地方の西部でもつくられている。色は淡色から淡褐色で、おもに甘口が多い。
材料=豆麹、塩
麦や大豆を使わず、大豆に直接、麹菌を植えつけ、長期の醸造を経てつくる。愛知、岐阜、三重の東海3県が生産地。濃赤褐色で味は辛口、かすかな苦味や渋味のある独得の味わい。