2001.4.7
今月の特集 多彩な「味噌・醤油」の特徴をつかみ、料理に使いこなそう (3/3)面
「味噌・醤油」をもう一度基礎から 勉強してみよう
今月の特集キーワード  
  卓事情を反映する加工調味料の普及と業務用の需要増 1面
  土地の気候風土によって育まれ洗練された味噌・醤油 2面
  製造工程や調合、熟成で個性を発揮「色の分類」がおすすめ 2面
  高級・減塩・安全志向へより細分化が進む醤油の商品群 3面
  セレクトの幅もメニューの広がりも可能性は無限大 3面

 高級・減塩・安全志向へより細分化が進む醤油の商品
 醤油は日本農林規格(JAS)によって、濃口醤油、薄口醤油、再仕込み醤油、たまり醤油、白醤油の5つに分類されている。品質に関する目安としての等級もあり、基本的には特級、高級、標準の3つだが、特級の中にはさらに特選、超特選などがある。この判定には、醤油の性状(光沢や香味)、全窒素分(アミノ酸の構成成分)、無塩可溶性固形分(醤油から水と塩分を引いたエキス分)などの項目があり、等級に応じて基準値をクリアしなければならない。現在は消費者の高級志向もあって、一般 の醤油のほとんどが高級以上である。
 これらの厳しい規制が設けられたのは1963年と意外に早い。当時出回り始めたアミノ酸混合方式の醤油と、昔ながらの本醸造との価格や風味の違いが問題となり、原料や製法に統一基準を求める声に応えて設定されている。また、この製造方式だけで分類すると、本醸造方式、新式醸造方式、アミノ酸混合方式があるが、全体の8割が本醸造方式に落ち着いているといわれる。ではここでも、代表的な本醸造方式に添って醤油の製法を解説していこう。
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まず、蒸した大豆と煎ってから挽いた小麦を混ぜ合わせる。これに種麹を植えつけて麹をつくる。 => 麹に食塩水を加えて「もろみ」をつくり、約半年間、時折攪拌しながら発酵・熟成させる。 => でき上がったのが「熟成もろみ」。これを圧搾して取り出したのが「生醤油」(生揚げ醤油)である。 => このままでは、残った酵素によって熟成が進むため、仕上げに加熱する。これが「火入れ」の作業。加熱によって酵素の働きを止めるとともに、色・味・香りを整えて完成する。
 
◇濃口醤油
 全消費量の8割を占める、もっともポピュラーな醤油。大豆と小麦をほぼ同割合で使用し、発酵・熟成を行う。香り・色・味をバランスよく保っているのが特徴。とくに香りが高く、魚や肉のくさみを消す効果 がある。主に関東地方を中心に発達してきた。

◇薄口醤油
 発酵・熟成を抑えて色づきを防いでいるため、色が薄い。素材の色を生かしてくれるのが利点だが、そのぶん香りや旨味は控えめである。また高濃度塩分で発酵を抑えているため、塩分が約18%と濃口醤油よりもやや高いので注意が必要。主に関西地方を中心に発達してきた。

◇再仕込み醤油
 麹を仕込む時に、食塩水ではなく生醤油(生揚げ醤油)を使うため、成分は濃口醤油の約2倍。濃度と旨味、風味が高いのが特徴で、価格もやや高め。刺身のつけ醤油やかくし味に使う。主な生産地は山陰から九州地方で、現地では、さしみ醤油や甘露醤油とも呼ばれる。

◇たまり醤油
 小麦はほとんど使わず、大豆だけでつくる。大豆のタンパク質によって、味・色ともに濃厚で、とろりとした濃度を持つ。照り焼きや蒲焼、佃煮などに向く。豆味噌から分離した液汁が始まりで、日本醤油の原型といわれている。主に東海地方で生産されている。

◇白醤油
 大豆をほとんど使わず、主に小麦のみでつくられる。その名のとおり、淡い透ける色が特徴。色づきを抑えるために、旨味やコクは少ないが、香りや甘みは強い。吸い物や茶碗蒸し、野菜の炊き合わせなど、素材の色を生かす料理に最適。ただし、色味とは裏腹に塩分は強いので要注意。発祥は東海地方だが、その他でも生産されている。

 最近の消費者の傾向を大きく分けると、高級化と細分化の2つがある。高級化路線としては、原料を贅沢に使う再仕込み醤油の普及。特選や超特選にランクされる商品の増加。また、健康的なイメージが功を成したのか、従来主流だった脱脂大豆ではなく、大豆をそのまま使う「丸大豆」商品の人気の高まりなどが挙げられる。これらは、単に価格的な高級志向というよりも、消費者の舌そのものが、よりまろやかな塩辛さとコクのある旨味を求める傾向にあると取るべきだろう。
 こういった傾向は、業務用の商品にも多く見られ、異なるニーズに細かく対応したものが数多くそろっている。たとえば、色は薄くても、風味は濃口醤油と同じ商品(一般 に「うすいろ」と呼ばれる)もそのひとつ。さらに、従来の醤油の半分以下を基準とする減塩醤油、有機栽培による大豆を原料とする有機丸大豆醤油など、健康や安全性への注目度が高くなっている。

 セレクトの幅もメニューの広がりも可能性は無限大
 一滴のしずくで味わいに深みをもたらす醤油は、かつて洋食が日本に入ってきたとき、かくし味として多いに活躍したといわれている。バターや牛肉など、当時親しみにくかった素材を、日本人好みの味に仕上げるためには欠かすことのできなかった調味料。逆に外国人にとっては、「テリヤキ」「スキヤキ」に代表されるごとく、日常的な食材を一気にエキゾチックな深みを醸し出す調味料として人気が高まった。今や醤油は、洋風・和風といったカテゴリーを越えて、各国で使用されている調味料であり、世界的な万能調味料として登りつめたと言っても過言ではないだろう。
  一方の味噌は、各種のなめ味噌のように、それだけで惣菜や酒の肴になる稀有な調味料。木の芽味噌やゆず味噌など、ひと手間を加えるだけで季節感を演出し、メニューの幅を広げる名脇役である。
 発酵・熟成の過程を経て完成する味噌・醤油は、文字どおりの生きた食品である。科学的には容易に解明できない〝蔵ぐせ〟なしには、上質の醸造物ができないといわれるように、土地の自然条件や気候、蔵に住みついた酵母や乳酸菌といった要素が複雑に絡み合い、先人の知恵と技によって受け継がれてきた。一口に味噌・醤油でもひとつとして同じ味わいのものはないのも道理で、それゆえに選択の幅も展開方法も無限に広がっている。
 ひと昔前、一家の台所を守る女性たちは、数少ない調味料を使いこなし、365日の3度の食卓を賄ってきた。個性的な商品が簡単に入手できる今こそ、料理人としての原点に立ち戻り、味噌・醤油の可能性を見直す好機ではないだろうか。