フードリンクレポート


会員制バーのノウハウは任せろ!
渡辺 仁氏
東京レストランツファクトリー株式会社 代表取締役社長

2008.2.27
絵画ビジネスから外食に転向した渡辺社長。タレント店として会員制バーを開業。その会員達の人脈を活用し、「御曹司勘助邸」「銀熊茶寮」など高級和食店も展開。そして今、会員制バーの開業支援事業を始めた。さらには、その先の新業態も視野に入れている。アートバブルを切り抜けた慎重さが持ち味だ。


会員制バー「Home's Bar 48(よんぱち)」店内

会員制バー開業支援

 渡辺氏の外食スタートは、2003年に開業した六本木の会員制バー「Home's Bar 48(よんぱち)」。そして、高級和食店4店を経営。「御曹司きよやす亭」(現在移転のため休業中)、とらふぐ鍋や寒鰤しゃぶしゃぶも人気の炭火焼き「御曹司勘助邸」(六本木)、老舗旅館さながらの空間が人気の鉄板焼き「銀熊茶寮」(銀座)、あんこう鍋や蕎麦が人気の「御曹司松六屋」(六本木)。ユニークな店名と凝った和食を提供する本格店ばかりを作ってきた。

「ミュープランニング&オペレーターズのような店舗運営ができて、店舗プロデュースができる会社になりたい」と渡辺氏は語る。

 その店舗プロデュースの第1号が、会員制バー開業支援事業だ。2003年から運営している会員制バーのノウハウを提供しようとしている。成功のカギはバーのママの育成。コンサルティング料はおおよそ5百万円。その大半が育成費用に充てられる。

 デベロッパー、ビルオーナー、富裕層などバーを作りたい人が多いという。ディベロッパーは、ビルの最上階にバーを作り、下層階に飲食店を入居させ、お客が同一ビル内で回遊する環境を作りたいと考えている。


会員制バー「Home's Bar 48(よんぱち)」店内


タレント店から会員制バーに

 渡辺氏は美術品の貿易会社で働いていた。ヒロ・ヤマガタやラッセンなどのリトグラフの著作権を管理したり、海外で画家を発掘し日本人が好む絵を描かせたりしていた。当時は、アートバブル。

「米国では15万円の絵が日本では150万円で売れました。しかし、最後はバブル崩壊。絵を卸していた会社が次々に破たんしました。お金に苦しむ人たちを沢山見てきました。以来、何をやるにも慎重になりましたね。例えば、新店についても、もし成功しなくても売却できる店を作ることを心掛けています」と当時の教訓が渡辺氏の中で生き続けている。

 実は渡辺氏の奥さんは、1985年〜87年に男子中高生の間で一世風靡した「おニャン子クラブ」のメンバーだった。引退後のことを考えて作ったのが、2003年7月に六本木・飯倉片町に開店させた会員制バー「Home's Bar 48」。「48」は「おニャン子クラブ」の会員番号。

「タレントは一般企業には就職できません。引退後をサポートできる企業があるといいよね、と妻と話していました。タレント店だけでは長続きしないので、スタートはタレント目当てでも、将来はフェードアウトできるもの。そして会員制バーに行きついたんです」とユニークな契機で始まったのが会員制バーだと言う。

 入会金10万円、客単価5千円の設定。フジテレビなどマスコミ関係者が応援してくれて大繁盛。その後、リクルート社員やOBの方々を中心に大手企業の社員が多数会員となっている。現在は1500名の会員を抱え、33坪で年商8千万円を毎年キープしている。
 
 もくろみ通り、渡辺氏の奥さんは2006年にフェイドアウト。今の会員は開店当時を知らずタレント店だとは思っていない。「48」の意味を「末広がりだから名付けた」と会員に説明している。また、タレントがいない方がスタッフが一生懸命、会員集めをするようになったそうだ。今は完全に純粋な会員制バーとなった。

 銀座のクラブのように人脈を欲しがる人が多く、経営者と経営者を繋いであげる。「紹介ごっこ」のように人と人を繋ぐのが当たり前のようになり、人脈を求めてますます会員が増えていく。


新規出店は会員に聞け、店名は会員の名前

 2005年に「御曹司きよやす邸」を六本木に開店。会員から「ご飯を食べたい。自分の食べたい食事を出してくれる飲食店を作って」と言われたから。会員にリサーチして、メニュー、客単価、内装などを決めた。物件は会員の遊び場である六本木。それも会員である銀行員から紹介を受けた。六本木の再開発で3年後には立ち退きになることも聞かされていたので、お金を掛けずに作り、3年後には高額な立ち退き料をもらったそうだ。だから、今も無借金運営だという。


「御曹司きよやす邸」 外観(現在は休業中)


「御曹司きよやす邸」 石庭(現在は休業中)

 次に、会員からもっと隠れている店が良いと言われ「御曹司勘助邸」を開店。店名は、会員の方で本当に御曹司の方がいて、開店に尽力してくれたので、その方の名前を付けた。

 店名は店を作った時に最も貢献してくれた会員の名前になっている。銀座6丁目の「銀熊茶寮」は銀座の遊び人、熊沢さんから「銀座で店を作ってくれ」と言われて作ったもの。「自分の名前を付けてあげると、店の営業マンになってもらえる」というメリットがある。


「御曹司勘助邸」(六本木) カウンター


「御曹司勘助邸」(六本木) 個室


「銀熊茶寮」(銀座) 店内


「銀熊茶寮」(銀座) 個室


「御曹司松六屋」(六本木) 外観


「御曹司松六屋」(六本木) 個室


会員制バーは「スナック」だ

 会員制バーのキーは「スナック」になること。ママになれる人材を作ることが重要になる。人材コンサル会社と共同で教育プログラムを開発した。渡辺氏自身も会員制バーの会員のネットワークを活用している。

 また、独自にタレント教育の要素も付加。恥しさを取り払ったり、オーラを出させる教育だ。新人タレントは通常1年間この教育を受けて一人前になるそうだ。

 このママ役は男性でも可能。お客は教養を欲しがる。男性ママはビジネスの話ができ、お客が付きやすい。

 お客の隣には座るなという。場末のスナックになってしまい、特定のお客しか来なくなってしまう。

 会員制で大切なのはDM。メールは2週に1度、各会員の名前入りで配信する。返信率4〜5割もある。これが来店頻度を高めてくれる。

 そして、飲食店の予約などコンシェルジェをやってあげる。会員でも店にほとんど来ず、電話での店紹介ばかり依頼してくるお客もいるそうだ。そんなお客にも嫌がらず丁寧にコンシェルジェ役目を果たしてあげることが重要だ。

「お客は会員制バーという空気感を買ってくれる。この空気の仲間になりませんか?というのが会員の意味です」と渡辺氏は語り、3ヶ月で黒字にする仕掛人だ。

 しかし、渡辺氏は会員制バー開業支援事業は大きくなるビジネスとは考えていない。「調子の良い今の内に、次の手を打ちたい。普通の人が来られる普通の業態を作りたい。意見を言ってくれる方が会員として沢山いて、人脈も沢山あります。彼らの意見を集めて、東京レストランツファクトリーはジャッジする立場に徹すれば、良い業態が生まれると思います。」

 普通の業態は、4月までには1店舗、東京・大門あたりでの出店を目指している。「最低でも20店舗はできる業態を作りたい」と次のステップに向けて、慎重でありながらも、渡辺氏は夢を膨らませている。


■渡辺 仁(わたなべ ひとし)
東京レストランツファクトリー株式会社 代表取締役社長。1971年生まれ。福島県出身。美術品の貿易会社勤めを経て、2003年7月に会員制バー「Home's Bar 48」で外食業界に参入。現在、「御曹司勘助邸」(六本木)、「銀熊茶寮」(銀座)、「御曹司松六屋」(六本木)の高級和風店3店も直営。2007年12月に会員制バー開業支援事業をスタート。

東京レストランツファクトリー株式会社 http://www.tokyo-rf.com/

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2008年2月5日取材